サクヒ sak-hi
2025-08-06 23:02:06
9141文字
Public オーレ
 

砂上の楼閣

【LOG再公開】
「もしレオがスナッチ団を抜けた理由が  だったら」
砂上の楼閣シリーズは他にもいくつかあるのですが、とりあえずこれだけ。

二次創作 ポケモンコロシアム オーレ地方 レオミレ




 フェナスシティの小さな一軒家に、元気な声が高らかに響く。
「レオー、ただいま!」
 広いベッドに身を横たえたまま、レオは「おかえり」とミレイを迎える。ミレイの足元に絡み付いていたブラッキーとエーフィは、レオの姿にはしゃぐ。「みてみて」とミレイはバッグからネストボールを取り出し、中のポケモンを出して見せる。
「最後のダークポケモン、トゲチック! リライブ完了しました!」
 ピースサインをしてみせるミレイに、レオは微笑む。トゲチックは明るく鳴き、レオに擦り寄った。
「お前だけリライブに立ち会えなくてごめんな」
 最後にスナッチしたダーク・トゲチックは、なかなか心を開かなかった。と言うのも、レオに変装したフェイクと名乗る男の手持ちだったからだ。よほどの扱いを受けていたのか、姿が似たレオにトゲチックは強く反発していた。
「レオ、体調はどう?」
 ミレイは側にあった椅子に腰掛け、覗き込むようにレオに問う。ブラッキーとエーフィもベッドに上り、レオの足元にお座りする。
「さっきよりはマシかな」
 じゃれるトゲチックに応えようと、布団から手を出すレオ。しかしそれは思うように動かず、震える。ミレイはその手をとり、トゲチックの頭へと優しく導く。トゲチックは機嫌よく鳴いた。
……ミレイ、ごめんな」
 ふいに、レオは言う。
「なにが?」
 ミレイは口角を上げ、首をかしげる。
「約束ひとつ……守れそうにない。オレの手でこいつらを……元のトレーナーに返してやれそうにない」
 天井のさらに先を見つめるレオの視線に、ミレイの胸はざわつく。それを跳ね除けるように笑ってみせた。
「何言ってるの、レオ! また体を動けるようにして、それからでいいじゃない! あたしだっているでしょ?」
 レオは力ない相槌を打った。トゲチックはレオの手を離れ、窓際の日向で丸くなる。ブラッキーとエーフィもそれに続き、三人で寄り添う。街中の水道が太陽を跳ね返し、窓に光のカーテンを作る。その光景に、レオは眉を寄せた。
……きれいだな」
 呟くレオの顔を見たミレイは、自分の目を疑う。レオが瞬く度に、水の雫が頬を伝っていた。思わず名を呼び、指でそれを拭う。ほんの少ししか触れていないのに、頬がひどくこけているのが分かる。
 しかし、その黄金の瞳は、濡れながらもやけに美しかった。ミレイはその瞳に、もう一度レオの名を語りかける。レオはゆっくり瞬いて、それに応えた。
「ダークポケモンはいなくなった。シャドーも壊滅した。トレーナーには届けてやれなかったけど……最後の約束は守れたか?」
 トゲチックが離れ遊んでいる手をミレイは握る。握った手に頬ずりをしながら、笑顔でこくこくと頷く。その様子にレオは満足そうに笑って、大きくぎこちない深呼吸をした。
……わがまま聞いてくれてありがとう。オレ、昔は地獄に落ちて暴れてやる気だったんだ。でも今は……天国がいい。いつかまた、ミレイと会えるから」
「えー、あたし天国に行けないかもしれないよ?」
 そうか、とレオは笑い、ミレイから視線を逸らした。
……ミレイ、愛してる」
「あたしも愛してるよ」
「オレが死んだら、オレのこと忘れて幸せになってくれ……なんてカッコイイ事言えない」
「レオは淋しがりやさんだもんね」
「ああ。だけど、ミレイには幸せになって欲しい。そのためにオレが邪魔なら、忘れてくれて構わない」
「そんなことしないよ…………できない」
 レオがミレイに視線を戻すと、その顔は曇っていた。レオはミレイの名を呼び、笑顔を作ってみせる。
「オレが一番好きなもの、知ってんだろ?」
 するとミレイはレオにならって、笑顔を作ってみせた。ミレイの下瞼は、フェナスの水の流れのようにキラキラと光る。
 窓際ではポケモンたちが寝息を立てている。その寝息に合わせるようにせせらぐフェナスの町。汗ばむほどの日差しに、その下を歩く人の気配が少しだけする。どこか遠くで、バトルをしているような声もした。
「キスして」
 唐突なレオの言葉に、ミレイは微笑んで返す。
「いいよ」
 ミレイは立ち上がり、ベッドに膝を乗せ、レオの胸に軽く手をつく。キラキラがこぼれないように瞼を伏せながら、同じく瞼が閉じられるレオに寄り、そっと唇に触れた。少しの静止の後、ミレイはゆっくりと目を開けながら離れる。ふ、と頬に熱いものが零れた。
 レオの目は、二度と開くことはなかった。