DRRV11037
2025-08-03 19:46:02
7329文字
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DRRV: Prolonged 後編




「殺し合いー?私たちでー?」

「わ、悪い冗談ならやめておくれ。どうして僕らが殺し合うんだい?」

あまりに突飛で荒唐無稽で残酷な命令に、それぞれの口からざわめきが広がると、モノクマは驚いたみたいな声を出した。

『えっ?もしかして嫌なの?』

「あ、当たり前ですよっ!誰も好き好んでそんな真似しません!クレイジーすぎます」

『でもさ、オマエラも才囚学園を見て回ったならもう分かってるでしょ?学園の周囲は巨大な檻に囲まれてて、外に逃げられないってことも……高機動人型殺人兵器エグイサルがいる限り、ボクらに逆らえないってこともさ。オマエラの生殺与奪の権利はこのボクが握ってるんだよ』

ゆっくりと根拠を挙げつらね、三日月のような口の端をいやらしく吊り上げる。モノクマーズが呑気に茶々を入れて、追い打ちをかける。

『つまり、殺されたくなかったらやれ、ってコト!?』

『ワイらは参加せーへんのやで?参加するのはこっちのキサマラや!』

「どうして?ここにいるみんなは味方なのに殺し合う?」

動揺した清忌さんがぎこちなく尋ねた。無茶苦茶な台詞がただの聞き間違いならばどれほどいいか。でもこの世界は非情だ。

『誰が味方なんて言ったの?オマエラは味方でも仲間でも何でもないよ。お互いの命を狙って殺し合う……敵同士なんだよ』

「て、敵同士?」

……私たちが?



『うーん、流石はお父ちゃん。勉強になる嫌味っぷりだなぁ』

『聞いてるミーまでイライラしてきたぜ!あとでストレス発散にモノダムを殴らねーとなッ!』

……

『でもアタイは嫌だわ。残酷なのとかグロイのとか可哀想なのは苦手だもの。ねぇ、お父ちゃんコロシアイじゃなくて、じゃんけん大会にしない?』

『誰も死なんゲームなんて誰が見んねん!』

また漫才を始めたモノクマーズ。ところどころ怖い言葉が混ざるのが、どうしても好きになれない。

『ま、色々多様でいいよね。うん、そういう優しさも個性だよ。その個性が可愛らしくて堪らないよ。ホント、食べたくなっちゃうほど可愛いよね!食べたくなっちゃうほどさぁ!』

え?』

『ねぇ、モノファニー。その可愛い個性は少し抑えたほうが良さそうだよ?』

……

モノファニーは青くなって震えている。親子といっても、ずいぶん凶悪な力関係があるみたいだ。


あの、話がよく分からないんだけど。殺し合うってどうやって?それぞれ武器を配布されるとか?」

夜深くんが慎重な態度で質問した。

「ッお前なにを聞いてるんだよ!?」

榊くんの制止に、彼は人差し指を口元に当てて素早く囁いた。

「しっ、まずは相手から情報を引き出すのが先。何も分からないままだと対処しようもないデショ」

『武器って、え?そんな野蛮な妄想してたの!?』

モノクマがわざとらしく素っ頓狂な声を上げ、やれやれとずんぐりした頭を振る。

『これだから素人は。そういうのじゃなくてこの才囚学園で行われるコロシアイは……もっと知的エンターテイメント性に溢れたコロシアイなのでーす!』

「はぁ?知的エンターテイメント?」

裁門さんが鼻を鳴らした。「殺人に知的もエンターテイメントもないわよ」と忌々しげに呟いたのがかろうじて私の耳に届いた。

『そう学級裁判によるコロシアイなんだよ』

「学級、裁判?」

不思議と嫌な感じのする響きだった。

『はーい!ここからはオイラたちが説明しまーす!』

モノクマーズがまたもや割り込んできた。また漫才が始まってしまうのかと思ったけど、彼らは珍しく真面目に、分担して説明を読み上げていく。

『あのね、キサマラの間で殺人が起きた場合、全メンバーが参加する学級裁判が行われるんだよ。』

『学級裁判では、殺人を犯したクロと、それ以外の他の生徒のシロが対決するんや』

『この学級裁判の場で“クロは誰か?”をキサマラに議論してもらうんだよッ!で、その後の投票タイムで、多数決によって導き出された答えが正解だった場合は……

『さ、殺人を犯したクロだけがおしおきされてううっ、やっぱり残酷だわ。想像しただけでグロくて吐きそう

『殺人を犯したクロだけがおしおきされて、残った他のメンバーで共同生活を続けるっちゅーわけや』

『ただし、もし学級裁判で間違った人物をクロに選んでしまった場合は……罪を逃れたクロだけが生き残って、残ったシロ全員がおしおきされてしまうんだよ』

……

『ヘルイェー!これが学級裁判のルールだぜッ!!』

聞き終えたモノクマがはぁはぁと舌を出して異常に興奮しだした。

『ああーっ!イ過ぎー!イ過ぎな説明だよー!我が子ながら性欲を覚えるほどにねっ!』

「低俗ね

冷たい反応を受けてこほんと空咳をし、ルールをさらりと簡単にまとめる。

『要はただ殺すだけじゃダメなんだ。殺した上で学級裁判を乗りきらないといけないんだよ』

「バレないように殺して、学級裁判を乗りきるなんて

「一周回って外の世界と同じじゃないか。」
三品くんが考察した。

言われてみればその通りだ。実際の世界で殺人を犯しても、あれこれ小細工をして 警察の捜査の手から逃れようとする。捕まってしまって裁判にかけられたときは、自分が無罪だと証明しようとするだろう。モノクマのいう学級裁判は現実のそれと少し形式が違うみたいだけど…………いや、考えるのはやめよう。こんなルールを知ったって仕方がない。だって私は人を殺さない。もちろんみんなも人を殺さない。

あ、それとね。想像はつくケド、念のため。さっきの説明に出たおしおきって何のこと?」

次の昼間くんの質問に対する返答は、恐ろしく明快だった。

『濁さずに言うと、処刑だね!』

「しょ、処刑っ!?」

息を呑む音。ひやりと背中が冷たくなる。まさかこんな単語を実際の生活で聞くと思わなかった。

『それも外の世界と一緒だよね。罪がバレたら、罰を受ける。もちろん命懸けの罰だよ。だってこれって、コロシアイだからね』

『あーっ、どんなおしおきがあるんだろうなーッ!?内臓グッチャグチャとか脳みそデロンデロンだと滾るよなッ!ビンビンだぜ!』

『内臓グッチャグチャ、脳みそデロンデロン!?うっ、アタイ、気持ち悪くなってき………でろでろでろでろでろでろでろ』

『あー!モノファニーが吐いてもうたでー!』

『ビンビンだぜッ!』

『ビンビンってどういうこと?』

『アッハッハッハ!まったく、ホントに可愛いなっ!』

自分の追いつけないところでとんとんとおぞましい会話が盛り上がり、進行していく。

「どこがですか!!」

改瀬さんの声は強い嫌悪を孕んでいた。平然と、悪趣味な笑いを繰り広げるモノクマたちが全く理解できない。

『さてと、かったるい説明タイムはこのくらいにして───ワックワクでドッキドキな、いつものアレ、いっちゃいましょうかー!』



モノクマの赤い目の奥で、私たちを監視するカメラのレンズが鈍く光った。



『今回も殺し方は問いませーん。

撲殺が好き?刺殺が確実?絞殺はコスパがいい?毒殺が楽チン?射殺でも殴殺でも焼殺でも溺殺でも轢殺爆殺斬殺感電殺落殺呪殺圧殺出血殺凍殺蹴殺笑殺涙殺薬殺鏖殺縊殺扼殺磔殺暗殺撃殺炙殺でも……



お好きな殺し方で、お好きな相手を、お好きに殺してくださーい!

才囚学園は、そのための学園なのです!

才能溢れる天才高校生を閉じ込め、コロシアイの1番を競い合わせる場。その舞台となるのが、この才囚学園なのでーす!』



ゲームみたいに言うネ」

「たかがゲームに命を賭けさせるなんて正気の沙汰とは思えないよ」

どこか冷静に呟いた昼間くんは双子の兄の手を、軽く貶してみせた楠木くんは青色のマフラーを握っていた。

「嘘よ嘘みゆは信じらんないよぉ」

、」

頭を抱えてしまった形代さんと、不安を抑えつけるように三つ編みを撫でた私。

……なんだか、フィクションの世界に放り出された気分だった。画面の向こう側で勝手に進んでいくお話みたい。私を置き去りにしてどんどん狂っていく、別次元の出来事にしかみえなくて。

「コロシアイなんて嫌だよ

震える唇が漏らした、私の声はひどく弱々しかった。それでもモノクマは──ささやかな拒否を丁寧に摘み上げて語る。

『うぷぷ嫌かどうかの問題じゃないんだよ。やる運命にあるんだよ。キミたちはそのために、ここに存在してるんだからさ』

……え?」

意味深な言葉に、楠木くんが顔を上げる。
モノクマはこのまま説明を打ち切る気だ。

『では、自分の才能をいかんなく発揮して愉快残酷面白おかしく殺し合ってくださいねー!』

おい、待てよッ!」

榊くんが鋭く叫んだ。

『ん?』

「テメーになんて言われようがコロシアイなんてしてたまるかッ。オレたちは絶対にやらねー!思いどおりになると思ったら、大間違いだからな」

真っ直ぐな視線と力強い言葉。私は一瞬の勇気を得た。しかしそうして抵抗の意思で紡がれた言葉をすら、モノクマは『うぷぷ』と愉快そうに笑った。

いいねぇ!反抗心のある子は大歓迎だよ。“コロシアイはしない”って精神は大事だよね。そうやって嫌がってる連中が、コロシアイに手を染めていくから面白いんだし

「何だよそれ

『みんな、それが大好きなんだ!そういう残酷なデスゲームが大好きなんだよ!どんなにうるさく吠えられようと、最高にハイで楽しくて面白くて堪らなくてやめられっこないんだよ!』

教壇の上で高らかに謳いあげる。どんなに抵抗しても無駄、勝てっこないんだよと告げるように。

『それに、嫌がってるオマエラをその気にさせるのが、学園長であるボクの仕事だしね。アーッハッハッハ!!』

『ギャハハハハハハハ!!』とモノクマーズの下卑た笑いが呼応した。体育館に響き渡る高笑い。私は立ちつくすしかなかった。モノクマの悪魔じみた言葉を邪魔できない。遮れるだけの力を私たちは持たない。頭蓋骨の内側から熱に侵され、うなされるように視界がぐにゃりと歪む。そのじっとりした熱さとは反対に、肌の表面を冷えた汗が伝っていた。

巨大な壁に囲まれた学園
閉じ込められた超高校級の16人
謎のヌイグルミと殺人兵器
仲間同士のコロシアイ

私たちは、狂った物語の登場人物になった。