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kr0mm333
2025-08-03 09:48:08
23036文字
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サンプル
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9/21 チヒ柴本サンプル
2025/9/21の剣戟懲悪で出る予定のチヒ柴本サンプルで1話から4話となります!!
1〜3話は、以前投稿した話のリメイクとなっております。
1
2
3
4
禁酒宣言(n回目)
遮光カーテンの隙間から差し込む白い光と、少しだけ開けた窓の外から聞こえる鳥の囀り。
時刻も午前六時。世の中の大多数が想像する朝の情景が広がっている。
そんな中、爽やかな空気をぶち壊すように柴は小さく呻いてから上半身を起こしてベッドに座ると、あまりの痛みに頭を抱えた。
「
……
クッソ、飲みすぎた」
声カッスカスやん
……
と口に出そうとするも、酒焼けなのかうまく声が出ず、自分でも聞き取り難くなっている。おまけに乾燥しているのか、痒みも感じるので水でも飲むかと床に足を降ろそうとすると、腰に鈍い痛みが走った。
「イッダ!?」
声は掠れたままなので響くようなことはないが、それよりも腰の中心から広がる痛みのほうが酷い。
え、なんで? ギックリ腰? そんなことある?
四十年ほど生きてきて未だ一度もギックリ腰というものを体験したことはないが、ついにその時が来てしまったのか。
どこかにぶつけてしまったのかもしれないが、それよりも老化という言葉が頭の中を過ったせいで妙な汗が噴き出てくる。
「
……
あれ?」
停止して冷や汗をかいていると、そのうちに腰の痛みが落ち着いてきた。すると今度は服を着ていないことに気づく。暑くて脱いでしまったのか、掛け布団の下はまさかの全裸。
腰の痛みに気を取られていて気づかなかったが、身体のあちこちにも皮膚が引きつるような小さな痛みがある。
その痛みに心当たりがなくて自分の体を見下ろすと、古傷とは別に痣のような鬱血と歯形のような痕がいくつも見えた。一瞬、山の中で虫に刺されたのかとも思ったのだがここは都内のど真ん中であり、歯形は人間の口の形をしているのだから虫ではないことなど一目瞭然だ。
「なんなん!?」
理解が追いつかなくて他の部分も見る。上半身はともかく、腕や手首などいつもの服装では隠すことのできない場所にも痕はついていて困惑は加速していく。この様子ならば触れてもわかりにくい首やうなじの辺りも酷いことになっているだろう。
ならば下半身はどうなっているのかと布団を捲ってみると、やはり腕や上半身と同じようになっていたがそれ以上に柴の目を引くものがあった。
「チッ!?」
柴の隣では千鉱が穏やかな顔で眠っている。ただ眠っているだけならまだ良かったのだが、素肌がむき出しになっているのが薄暗い室内でもわかってしまう。
あまりの驚愕に悲鳴を上げそうになったものの、声ではなく喉の奥からヒュッという音が出ただけだった。
「(待て待て待て待て落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!! 落ち着け柴登吾!! 俺もやけどなんでチヒロ君も服着てないん!? 隣で寝てるのもやけどさァ!? てか全裸で寝るシュミなかったやろ確か!?)」
脳内は大混乱で思考がまともに働いておらず、自分たちが全裸で同衾していたことしかわからない。
千鉱のことは彼が生まれる前から知っているが、時々顔を合わせていた幼い頃も共に行動するようになった今も全裸で眠るようなところはほぼ見ていないはずだ。
ほぼ、というのは千鉱が戦えるように鍛えていた頃のこと。
汗を流した千鉱がシャツを着る気力すらも尽きて寝落ちてしまったのを何度か起こしたことがあったのだが、それは疲れて寝落ちしただけなので例外だろう。
その時は不可抗力だったので、今のような状況とはまるで違う。
「(え、昨日何してたっけ!? 全裸になるようなことある!?)」
頭蓋骨の内側からガンガンと殴られるような痛みに邪魔をされながら昨晩の記憶を掘り返した。
昨晩は千鉱とともに飲みに行き、いつもより酒が進んだことだけは覚えている。
千鉱が二十歳の誕生日を迎えたのはまだ毘灼との戦いの最中だった。せっかく酒が飲めるようになり、柴も仲間達も人生の節目の一つとして盛大に祝いたかったがその時の千鉱は「今の俺では楽しめませんから」と固辞された。
『この戦いが終わったら飲みに連れて行ってください』
残念がる柴にそう言って微笑む千鉱に二つ返事で了承したが、後々話を聞いたヒナオやシャルからは死亡フラグだと騒がれるし最初はフォローしていたはずの伯理もスンマセン俺も死亡フラグだと思いましたァ! と威勢のいい懺悔を受け、よくよく考えてみると柴自身もそうかもしれないと思ってしまった。元から苛烈な戦いである上にそんな話をしてしまったせいで、もしかしたら死ぬかも
……
と当時は相当気を揉んだが今となってはいい思い出である。
そして毘灼との戦いが終わってから一年。
復興自体はまだこれからで、神奈備にいる薊は昼夜を問わず会議に出ずっぱりと聞いているが、フリーである自分達の方は一段落ついたといえるところまできたのでその時の約束を果たしたのが昨晩だった。
薊や他にも何人か飲みに行く約束をしているらしいが、トップバッターはやはり柴である。
千鉱と飲み屋街に繰り出して三軒目に入ったところまではちゃんと記憶はある。浮かれていつもよりペースが早かったのも自覚していたが、前後不覚になるような飲み方はしていなかった
……
と思いたい。
焼き鳥から漂ってくる香ばしい匂いやラーメン屋の前を通ると独特の臭いが鼻を突き、すれ違う酔っぱらい達は千鳥足で気分よく次はどの店に入ると叫んでいて少々
……
いや、だいぶ煩かった。
声、デカすぎん? と横を通り過ぎた千鳥足の集団を一瞥すれば千鉱が柴さんも似たようなものですよと笑っているので思わず一緒に笑ったりもした。
繁華街特有のごちゃついた喧騒の中、どこか秩序を保ちながら皆楽しそうに酒を飲み騒いでいる。隣を見ると、いつも落ち着いている千鉱が空気に当てられてどこか浮き足立っているのが微笑ましかったし、自分も飲む前から酔っ払っているような浮ついた気分だった自覚はある。
その結果が全裸で同衾というのはいかがなものか。
今すぐに千鉱の父、国重の墓前に頭を下げに行くべきか。親子共に長い付き合いではあるが、フランクに笑ってごめんの一言で済むような問題ではない。大事な親友の息子の、一生に一度の大事なモノを奪ってしまったわけである(多分)
自分のせいで性癖がひん曲がってしまったらどうすればいいのか。
ちゃんと身支度を整えて息子さんを傷物にしてすみませんと謝れば許してもらえそうな気もするが、今夜の夢で一発殴られれば後は千鉱との問題だと笑って許してくれるような気もする。むしろ殴ってほしい。毎晩一発ずつ殴りに来てほしい。今晩から一か月くらい。
そんなことを考えながら頭を抱えていると、下から小さく笑う声が聞こえた。
「!?」
慌てて視線を落とすと千鉱と目が合う。柴が動いたことで目が覚めたらしい。
「チチチッ、ヒロ、クン
……
おは、おはようさん」
「はい。柴さん、おはようございます」
ついいつものクセで挨拶をしてしまったがそれどころではない。
柴としては一夜の過ちを犯してしまった(と思っているので)さすがに顔を合わせにくいのである。
しかしながら千鉱は既に覚醒しているし、パニックで忘れていたが身体中
……
とりわけ腰と尻が痛い。加えて頭は二重の意味で痛くなってきた。
「あの、大丈夫ですか?」
千鉱が体を起こして手を伸ばしてくる。その手が頬に触れると、急速にそこが熱を持ち始めたような気がする。
「えーっと
……
ナニが?」
聞き返すなや。
自分の言葉に即ツッコミを入れてしまった。
聞き返すな。ナニがあったか聞かんかったら確定しやんのに何で聞き返したんや俺。
自分へのツッコミが止まらないが心の中で繰り広げられているので千鉱には何一つ聞こえていないし、聞こえていないのだから知られるはずもない。そして彼は一瞬だけ少し目を逸らしてから頬を赤らめて「昨日は無茶をさせてしまったので」と言った。
か、確定してもうた
――――
!?
いやまだそうと決まったわけちゃう。いやほら。酒飲んでたワケやし、飲ませすぎてナイアガラしたからそれかもしれんし!? な!?
誰に対する言い訳かわからないが柴はとにかく捲し立てた。心の中な出来事なので相変わらず一ミリたりとも千鉱に伝わることはないが、そんなことはどうでもいい。
「ごめん。実は三軒目入ったとこから記憶なくて
……
」
一軒目は千鉱の父、国重が生前千鉱が二十歳になったら連れて行きたいと言っていた店を選んだ。二軒目は柴自身が選んだ店で、三軒目の玄関を見たくらいから記憶はない。いつもよりテンションが上がっていたせいで酒が回りが早かったのだろう。
表面上はいつもの柴を装いつつ素直に謝ったところ、千鉱は瞠目してから覚えてないんですか? と呟いた。
「ホンマごめん」
「いえ。俺の方こそすみません
……
酔っている柴さんに付け入るようなことをしてしまいました」
「
……
付け入るって?」
千鉱がそんなことを言うのは珍しい。戦いや交渉においてはその限りではないにしても、仲間や近しい人間に対してそんな言葉で表すような卑怯な手を使うような人間ではないことを柴はよく知っている。だからこそ、千鉱に似合わない言葉に首を傾げた。
「その。俺は性的な経験がないという話になって
……
なら、そういう経験も必要だろうと言ってくれたんです」
千鉱は父親が死んでから、決して短くない時間を戦いに費やしてきた。
憎しみと父の信念を原動力に戦いに明け暮れながら毘灼の情報を求めて全国を回ってきたので、そういったことに時間を割くことができなかったのもある。そもそも千鉱はストイックというか、毎朝新鮮な憎しみを確認していたくらいなので毘灼への憎しみが彼の心の大部分を占めるのも当然だろう。
その結果、年頃ならば興味の尽きないはずの性に対する話をすることもなければ、冗談にするのも少々避けていたというのもある。
薊との雑談の中で心配して色々話し合っていたわけだが、まさか自分の記憶がない間にそんなことになっていたとは。
「それなら四軒目はそういった店にしようという流れになったんですが」
そこで口篭ってしまったことで急速に嫌な予感が膨らんでくる。そして、膨らむという言葉から始まった連想ゲームのように、続けて脳裏に浮かんできたのは千鉱がまだ小さい頃、一緒に遊ぼうと買って行ったカラフルな風船だった。
初めて見る風船に目を輝かせていた三歳の千鉱の反応が嬉しくて、調子に乗りすぎた末に推奨サイズの倍以上の大きさにまで膨らんでしまった記憶が目の前の現実と入れ替わる。
あのとき、膨らみすぎた風船に千鉱が油性マジックで落書きをしていたはずだ。これがとうさん、こっちがしばさん、これはあざみさん、と黒い丸とぐちゃぐちゃの口らしきものを指しながら舌足らずながら説明してくれて大層愛らしかった。後々風船が萎んでしまいベソをかいていたのも込みで最高に可愛かった。その記憶は今もしっかりと焼き付いている。
それが今では二十歳を過ぎて一緒に酒を飲めるのだから感動もひとしお
――
「柴さん、大丈夫ですか?」
「エッ、ごめん。もう一回言うてくれる?」
ショックのあまり意識が過去に飛んでいたらしい。ともあれ、千鉱もそういうことに目を向けられる精神状態になったのだと喜ぶべきだろう。初めての相手が(恐らく)柴であったということ以外は。
素肌に朝の空気は冷たく、また裸のままというのは互いの精神衛生上よろしくないので部屋の隅の方にまとめられていた服を拾い上げる。洗濯機は脱衣所にあるのだし、風呂にも入らなければならないのでもう一度その服に袖を通すと油とタバコの煙が混ざったような臭いがして少々臭い。
「知らない誰かとするのも警戒してしまいますし、知ってる人だとそれはそれで気まずくなると思うんです」
「まあ、そんなもんか?」
知ってる相手とするのが気まずくなるのならば柴などその筆頭だろう。しかし千鉱としては違うらしく、だから、と続く。
「そう話している内に、それなら柴さんが相手をしてくれると言ってくれて
……
」
「その一番大事そうな部分教えてもらってもええかな!?」
何で記憶ないんやこのポンコツ!? 柴の心中は荒れっぱなしだ。何せ柴は突っ込まれるなどもっての外ということでずっとタチ側として生きてきた。斉廷戦争の最中も前線では生存本能からそういった流れになる者も多くおり、柴も何度か名も知らぬ相手と数時間ばかりの休憩をしたことがあったが相手がいくら自分よりも屈強な男であってもポジションだけは譲らなかった。何ならゴネる相手を二度と前だけでイけないように躾けたまである。
嫌な予感がじわじわと湧き上がってくる。
「不安なら俺が相手したる、初めてやけどまあ何とかなるやろ
……
と言ってもらったので、それに甘えさせてもらって」
おかげで最高の童貞喪失でした。
そう締め括られ、返せたのは、ならよかったわ
……
の三点リーダーを除く七文字。
いつもの柴なら彼の話し方を真似た千鉱をかわいいと思うのだろうが、今は千鉱の大事なものを奪ってしまったショックと自分の男としての自尊心を失ったショックが大きかった。失ったというか結果的に捧げたわけなので千鉱に非はない。
「千鉱君の口から童貞って言葉出てくんの、なんかイヤらしいな
……
」
「いやらしい
……
ですか?」
しかし現実逃避か本心か、口から飛び出したデリカシー皆無な一言にも千鉱は首を傾げるだけ。これが薊なら軽蔑の目を向けられていたのだろうが今は千鉱の純粋さと優しさが勝ったし、その二つが柴には致命傷を負ったレベルで痛かった。金的された方がまだマシだったかもしれないと思うほどに。
「あ、ごめ、ちゃうねん! いやちゃうっていうか
……
ちゃうんやけど!」
『チャウチャウちゃうんちゃう?』って、んなワケあるか。早口言葉ちゃうんやぞ。
思っている以上に混乱しているらしい。
しかし、いつまでも混乱しているわけにはいかないので深呼吸して千鉱に向き直る。
「とりあえず、風呂入ってから朝ごはん食べよか」
「俺は風呂を済ませてるので柴さんが入ってください。昨日終わってから起こしたんですが、もうその時には眠ってたので体を拭くくらいしかできなくて
……
すみません」
「イヤ、エエヨ。アリガトォ」
思わず顔を覆ってカタコトで返した。
一体昨晩の自分は何度、恥の上塗りをしているのか。
千鉱も年齢相応に逞しく成長したが、それでもまだ柴の身長には当分届きそうにはない。例え同じくらいあったとしても四捨五入すると二メートルで筋肉量も多い柴を担いで風呂場と往復するのは難しくなるし、意識がない状態ならば難易度は更に跳ね上がるのだから体を拭いてもらえただけでもありがたい。
しかし酔っ払って千鉱の童貞を奪ったばかりでは飽き足らず諸々の後始末までさせてしまい、柴は千鉱に見られているのも忘れて頭を抱えた。
尊敬の株価下がりすぎて、暴落どころか断崖絶壁やないか
……
!
「もう二度と酒飲まん
……
」
情けなさから出た禁酒宣言に千鉱は言葉の代わりに着替え一式を差し出した。
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