250817 新刊②

スモロ♀「sugar&spice」※R18



02 can't love falsehoods


 帰宅してすぐに着替える部屋着は、カップ付きのタンクトップにショートパンツと、あまりにも軽装備。家でダラダラと過ごしている時の肌の露出は、見ているこちらが不安になるほど多かった。
 本人曰く「診察やオペで肩肘張って働いているのだから家でくらいだらけさせて欲しい」とのことだが、論点はそこではないのだ。しかし、そのことを説明しそびれてもう長くなってしまっている。今更、と言われることは目に見えていたので、口を閉ざしてもう長い。
 それに比べれば、チュール素材の長袖に膝が隠れるような丈の黒いドレスは、肌色の割合が幾分も少なかった。普段と違い、目に毒だな、などと思うはずもなかった。
 だがタイトなデザインのせいで、そのボディラインがくっきりと浮かび上がるのがいけなかった。特に、引き締まってくびれている腰つきが目立ち、それを思いきり掴み上げる瞬間を想像させられた。出しなから、帰宅後どのようにベッドにもつれ込めばいいだろうか、などという邪な発想が浮かぶ程度には彼女の姿にそそられていたのである。
 それでも、柄でもない大役を仰せつかっていたことで、スモーカーの意識は披露宴挨拶に引っ張られており、また同期や上司からのプレッシャー(という名のうざ絡みの予感)を感じ、一時はすっかり忘れていたのである。
 それがポンと脳裏に復活したのは、「ワンナイト」という密やかな揶揄が耳に付いたからだ。仕事柄、はたまた生来耳が良いことが災いした。
 ── いや、この場合は幸運だったかもしれない。何故なら聞こえたことをそのまま伝えたときの眼前の女は、少し色気付いたから。
自覚はなかっただろうが、ローは基本的に好奇心の塊で、それゆえに面白そうだと思えば分かりやすく目を光らせる節がある。
 スモーカーは目敏くも、女の瞳が細まり、キラッと輝いたのを見た。その様は「この様子なら、ホテルに誘えるのではないか?」という予感を抱かせるには十分すぎるものだった。
 だから、キリのいいところで会計を済ませて(何故か「そういうところだ」などと言われたが、意味がわからなかったので知らん顔をした)、上手いこと三次会をお開きにし、彼女のふいをついて耳元で囁いた。ギュッと手を握り返されたのが彼女の答えだと分かって、すこぶる面白くなったことは秘密にしておこうと思っている。
 そこからほど近いラブホテルに入ると、タッチパネルを適当に押して部屋を選んだ。出てきたカードキーをサッと取り、エレベーターに乗って部屋へと向かう。何故か無言の女に釣られ、スモーカーも黙っていた。いや、籍を入れて以来、こんなあからさまな場所に来ることもなかったものだから、何を話していたか思い出せなかったのだった。
 長くて短い時間、二人きりの箱。どうしてか距離が遠い。
 沈黙は突然止む。目的の階への到着を知らせる音が古めかしくも軽快にポンと鳴り、扉が開いた。瞬間、二人の足がスッと一歩を踏み出す。手前から数えて二つ目の部屋の扉を、カードキーをかざして開けた。ローのことを先に中へと押し入れ、その背を追うように入室したスモーカーは、戸が完全に閉まったことを確かめると、持っていた荷物を床に落とし、女の腰をギュッと抱き寄せた。
 女の中では比較的高身長でありながらも、規格外な男からすればすっぽりと収まるような華奢な身体。触れれば、酒のせいか何のせいか、互いに熱を持っているのが伝染し合う。
アルコールの匂いに混じって女の肌の匂いがした。比喩の仕方が分からない、男にはそれはローの匂いだとしか言えない。首筋に埋めた鼻をスンと鳴らすと、女は身じろいで嫌そうな声を上げた。
「おい、嗅ぐなッ。というか先にドレスを脱がせろ。流石に破かれちゃ困る」
 まるで己が過去に破いたことがあるように言うではないか、とスモーカーが思った瞬間に、そういえばあったな、とビリビリになったストッキングなどの記憶を思い起こして、言葉と腕を大人しく引っ込める。ここで機嫌を損ねるわけにはいかない、と冷静に判断した。
 それに、ドレスというものがストッキングのように手軽なものではないということくらい、ファッションに疎い男でも分かるというものだ。
 ローはクラッチバッグや紙袋をスモーカーに押し付けると、ヒールをポイと脱ぎ捨てて、部屋の奥へと消えて行った。捨て置かれたヒールと自分の靴を並べ直し、落とした自分の荷物を拾い、その背を追う。
 思ったよりも装飾がしっかりと施された部屋には、ベッドだけでなくテーブルやソファもあった。ガラス製のテーブルの上に二人分の荷物をまとめ、ソファにネクタイや上着を乱雑に放っていると、なぁと声をかけられた。一応見ないでおいた方を振り返ると、背中に手を回しているが、金具に指が触るかどうかというところで懸命にもがく女の姿が見える。
「チャック、下げられねェ。やって」
「自力で着れたんだろ。なんで届かねェんだ」
「上げるのと、下げるのだとやりやすさが違うんだよ。早く」
 そういうものなのだろうか。背中にチャックのある服なんぞ着ることのないスモーカーには分からない。
急かされるままに近付いて、男の指には小さい金具を掴み、ジリジリと下ろした。隠れていた肌色が布地の隙間から見え隠れしている。そこをスッと指先でなぞると、バッと女は振り返り、鋭く吠えた。
「まだ脱ぎ終わってない! それにおまえも脱げ! スーツやシャツにシワがついたらどうするんだ!」
「ハイハイ。分かった、分かった」
 いなし、諌めて、距離を取る。軽い口調が気に障ったのか数秒睨んできたが、こちらが手を出さないと分かると、黙ってドレスから袖を抜き始めた。そのまま床に落ちたものを見ながら、どの口が言うのだ、と呆れそうになったが、やはり口は閉ざしたまま淡々とシャツを、ズボンをと順に脱いでいった。
「オイ、ロー」
「なんだよ」
「下着は脱ぐなよ」
「むっつり」
 勝手を言わせておく分には害もないので、好きに言わせておく。
シャワーはどうすると聞けば、いらないと返された。思っているより、ローは切羽詰まっている。それだけで罵声もチャラにできるほど、気分がよかった。
 下着姿の男と女、色気はないが、欲はある。それだけで部屋の温度が湧き立っているように感じられる。何ヶ月ぶりだったろうか、とスモーカーは考えた。が、思い出せないくらい前だということしか分からない。
 いそいそと寝転んだローのことを追いかけるように、ベッドに乗り上げる。家のものとは違い、マットレスが深く沈み込む感覚が少しだけ気持ち悪かった。キリキリとコイルが鳴く音が聞こえるのもまた、落ち着かない。非日常がすぐ側にある、そう思うと浮ついた感覚は遂に天井に達する。ローの顔の横に手を付き、そのまま屈んだ。キスの一つでもして、いつもみたいに及びたかった。
「あ、ダメ」
 だと、いうのに。
 唇に触れたのは細い感触だった。女の白い指。目の前のローのものだという認識はすぐさまできたが、だからと言ってその意図を理解出できたわけではない。
スモーカーは思わず「あぁ?」と唸った。だって、こんなにもいいところで待ったをかけられるとは、思ってもいなかったからだ。
「キスは、ダメだ」
 細い指が、不満を申し立てる唇を摘んで、引っ張った。むにむにと揉まれ、眉間にシワが深く刻まれるのを自覚する。辛うじてある理性的な部分で「何故だ」と問うた。歪な声だった。
 スモーカーから指先を離したローは、その問いの答えをしっかりと用意していて、したり顔で言い放つ。
「だって今夜は『一夜の関係』だろう?」
 何言ってるんだ、と言いかけて思い出した。そういえば、そういう流れをマネしてここへ来たと言うことを。
 だがスモーカーにしてみればあれはただのキッカケでしかなく、体のいい誘い文句でしかなかったわけである。だからベッドまでもつれ込んだ今となっては、もはやどうでもいい設定だった。
しかし、妙にノリのいい目の前の女が、勝手に持ち合わせている悪ノリのスイッチを押していたようだ。
 めんどくさい、という感情が全身を駆け巡ったように感じる。けれどその感情を、溜め息と共に腹の底から押し出して、黙って顔を引いてやった。ローは薄く笑う。思う通りに男が動くので、気分がいいのだろう。スモーカーは何も言わない。言ったところで、だし、結末は予想できていた。
 何より、「キスは本気の相手としかしないものだ」なんて考え方が透けて見える発言は、少しばかり幼稚で可愛いと思えてしまったので。
 とは言え、出鼻を挫かれた感は拭えない。どうしたものかと視線を下ろす。自然と目をやったのは胸元で、その谷間に下がっている指輪は、自分の左指に嵌めているものと同じだった。一緒に頼んで作ったオーダーメイドの結婚指輪なのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
 そんな分かりやすい印を放ったらかしにして、ごっこ遊びを興じようとする辺り、悪ノリが中途半端だろう。この女、性根は真面目だから、そういう想像力が追いついていないように思えた。
 なんだかな、と思いながら男は自分の指輪を外して、ベッドサイドの小棚に置いた。やるならとことん、やってやろうではないかという意地だった。
 スモーカーの突然の小休止の意味を、少し遅れて察した女がけらけらと笑う。
「なんだ。そんな顔してても、存外乗り気だよなァ。ちゃんと形から入るタイプかよ」
……嫁に、申し訳ないって気持ちはあるんでな」
 大根役者の演技だ。白々しさの塊だった。何より、悪ノリに悪ノリで返しただけ、予定調和なセリフのつもりであった。
 けれどローはスモーカーの言葉にパチパチと瞬くと、静々と目を反らす。自分の置かれた状況を、妄想したのが分かった。何を今更恥ずかしがる、テメエが言い出したことだろう、とどやしてやりたい気持ちが湧いたが、グッと堪えた。
それでも湧き上がった衝動を発露させるべく、その胸元に浅く噛み付く。指輪とチェーンが刺激に揺れ、中途半端な冷たさが頬を撫でたのが邪魔でしかなかった。
「ん、
 薄く浮いた歯形を舐めると、くすぐったそうに身を捩った。行為を重ねてきた回数を思えば、彼女がダイレクトに快感を得るポイントはすぐ分かるのは自明の理だ。
 だが今のスモーカーとローは、彼女の言葉に倣うならば『所詮ワンナイトの間柄』らしいので、何も分からない方が正解なのである。
だから的のど真ん中を狙うことなど、してやらない。柔肌をかぷかぷと刺激して、痛いほど吸い付いて、を繰り返す。チラリと顔を見やれば当然、不服そうな顔をした女がこちらを睨んでいる。
「どうかしたか?」
「べつに」
 白々しい演技も、意地っ張りの前では役に立つ。
彼女が何を不満に思っているか分かっていながら尋ねれば、ローは憮然としたまま、そっぽを向いた。それを都合よく受け止め、白々しくも無視して、微温い愛撫を続けた。
 首筋を舌で舐める。薄い腹周りを手のひらでなぞる。内腿を柔く揉む。彼女に久しく触れていなかったスモーカーには、その戯れすら楽しく、そして戯れは腹の底に溜まった興奮を煽るスパイスになり得た。
 あえかな声を溢す薄い唇と、恨めしげに尖ったまなじりのコントラストが堪らない。男は、ローの気の強さを好んでいる。そしてそれが自分の前で氷解した瞬間が、一等昂ると知っていた。
「ぅ、も、ブラはずす」
 我慢の限界を迎えたらしく、女はもぞもぞと身じろぎながら胸元に指を伸ばす。フロントホックのそれは初めて見る、レースやリボンなどの飾りのない、シンプルなものだった。
「随分と地味だな」
 会話しながらも、ホックの外れたブラジャーを開くと、支えを失った胸がたゆんと形を変える。
 その様子がプリンに似ている、と思った。あの、プラスチックカップの底の突起を折れば皿に落ちるタイプの、よく知ったやつ。あくまでも脳裏に浮かんだインサートでしかないので、言葉になることはなかった。なっていたら情緒がない、なんて蹴りの一つでも飛んできただろう。
「ン、だってレース多いヤツとか、ドレスに響くからやなんだよ」
……そうか」
……レースの凹凸が浮いて見えると、みっともないからってことだ」
 ご丁寧な解説を右から左へと賜りながら、肋骨に沿うように這わせた手のひらで、胸を掬うように触る。そのてっぺんはツンと上を向いていて、早くしろと怒鳴っている幻聴が聞こえる気がした。いや実際、自ら開放したのだからそう捉えていいはずだ。
 何も言わずにキュッと片方を摘まむと、シーツをグッと掴む細指が視界に入った。そのままクリクリと指のすき間で転がすと、今度は膝が震えていく。唇から落ちている吐息が目に見えるとすれば、強烈な桃色に染まっているのだろう。
「気持ちいいか?」
「っいちいち、聞くな、ぁッ!」
「残念なことに察しが悪くてな。よく解らないんだ」
 そう言ってやれば、ローはグッと唇に力を込めたのが分かる。負けず嫌いは、自ら言い出したことを自ら終了させることができない。そんなこと、プライドが許さない。
 だからと言って、熱を持った身体はどうしようもないものだ、と同じ欲を抱えているスモーカーはよく分かっている。
「なぁ、痛いんだったら止めるぞ。どうなんだ」
「~~~いいよッ!」
「そうか、じゃあ続ける」
「ヒッ、ぁ、あ」
 グリィと強く捏ねると、喉を引き攣らせた音を出した。更にはもう片方の乳首に顔を近付け、間髪入れずに舌で転がし、軽く歯を立てる。小さく震えていた身体は、落下したかのようにがくりと跳ねた。その反応に、顔を上げて様子を伺うと深く深く息を吐いていた。
「軽くイったようだな」
 声をかけると、ローは静かに両腕で顔を隠す。何を言っても言わなくても、肯定にしかならない。
 本気で怒りを露わにしない辺り、続行は許されていると判断した男は、無言で内股になっている膝小僧を撫でた。当然ではあるが、男の骨張ったものとは違い、少しばかり柔らかい触り心地だ。
片足をクイと開かせるように押すと、ショーツのクロッチ部分の色が濃くなっている。上から触っただけで分かるほど濡れた感触がする。
「脱がせても?」
「いい。いちいち聞くなって、言った」
 腕の隙間から睨めつける視線を流し、淵に手をかけた。クンと引っ張ると、気怠げに腰を浮かせる。膝ほどまで引き下げてやると、あとは膝下を器用に動かして、ベッドの端に蹴飛ばしていた。
「指を入れるぞ」
 スモーカーの言葉に、女の柔肌にほんの少しの緊張が這った。それを落ち着かせるかのように入り口をスリスリと撫でると、それだけだというのに、くちゅと粘ついた水音が鳴る。ローの方もだいぶ溜まっていたらしい。
 さて、男としては自らも発散すべくナカを刺激してやりたいところなのだが、如何せん彼女の身体はまだ強ばっている。こういうときにキスの一つや二つできると、その快感に気を緩めるので便利だったのだが、などと思った。
だが今はまだ禁じ手扱いされている以上、その悪手は使えない。(使って憤慨されるのも面倒だし、条件を違えたと詰められるのも癪だった。)
 そうなると選択肢は数えるほどになる。スモーカーはローの股座に身体を割り入れ、グッと顔を近付けた。腕で視界を隠している女はその蛮行に気付いていなかった。
「ァッ! な、してッ」
 舐めてる、と返事をしてもよかったが、そんなこと気付いていて発せられた形式的な言葉だと分かっていたので、黙って舌先を陰核に押し付ける。視線だけ上げると腕を解いたローが、ギョッとした顔でこちらを見ていた。
「シャワ、あッびてない時はァ! 止めろって、! んひィ」
「ひらん」
 元々濡れそぼっていたところへ、更に唾液を塗してなぞると、指とは違う感触や熱に充てられているのか、首を激しく横に振る。
 しかし無視して舌を動かし続けていると、尖りの下で口が開き、くぽと空気が抜けるまぬけな音がした。そうしてやっと緩んだナカを押し込んだ中指でじっくりと侵略する。あっあっ、と甲高く呻く声に、苦痛や嫌悪感のニュアンスは一切感じ取れなかった。
 腹の裏側に当たる部分をやさしく擦りながら、同時に陰核を押し潰す。そうやって外と内の両方を丁寧に刺激し続けてやると、足の爪先が伸びたのが見えた。数回空気を蹴った後、膝下の力が急になくなる。指をギュウギュウと締め付ける感覚があるので、またイったらしかった。
「はーーー……ぁ、あ、ま、ぁて、イって
「悪いな。少し我慢しろ。これじゃまだ挿れられねェ」
「ンン、っは、ぁウッ」
 二本目の指を挿し込み、広げるような動きをする。開いて、閉じて、を繰り返した。割れ目は赤く充血し、そこから溢れる愛液がシーツに垂れている。グッと睨むようにそこを見た。そろそろ、いい気がする。
「ぃあ、……すも、か」
 最後、縁にわざと指を引っ掛けながら指を抜いた。小さな喘ぎを落としたローは、スモーカーのことを呼んだ。なんだ、と問い返しながら見やれば、唇をむぐむぐと動かしている。その挙動に、男は察した。だが察しの悪いふりを続けた。
「どうかしたか」
……キ、スしてもいい」
「そうは言うが……そいつはダメなんじゃ、なかったか?」
 やっぱりな、と思った。予想通りである。だがわざとらしく、抑揚を抑え込みながら聞いた。彼女の口から、ハッキリと言わせてやりたかった。
 それでも欲に正直になっているローは、そんな意地の悪い思惑に構うことなく、心のままに吠える。
「いー、から、! はやく、キスしろッ」
「ハイハイ、分かったわかった」
「っふ、ン、」
 スモーカーの当初の予想通り、限界になったローは怒るようにキスを強請ってきた。男とて彼女と唇を重ねることは好きだが、より強く熱望しやるのはローの方だ。普段から隙あらば顔を近付けてくるくせに、キスはなし、なんて。自分で自分の首を絞めるような馬鹿げたことを言い出した時点で、スモーカーにしてみれば、この結末は決まっていたも同然だったのだ。
 わざと、重ね合わせるだけの生温い口付けを送る。子どもでもできるような幼いものだ。
すると焦れたローは舌先を尖らせ、隙間からこじ開けようとしてきた。それに応えて迎え入れてやると、侵入してきた薄い舌は己の舌と絡み合おうとする。口の中の水音は、直接鼓膜を揺さ振った。ジュウ、と唾液を啜る音が頭の中で余韻を残し、響く。
「ん……ハ、ァ、」
「ふ……満足か?」
「ま、だぁ」
 唇をつなぐ銀糸がぷつりと切れたところを、また追うようにローは啄もうとした。腕が伸びてきて首に絡む。柔い、熱い身体がピタリとくっつく感触が心地よかった。だが未だ熱を解放しないスモーカーにとって、この状況は良すぎて、キツい。
「ロ、ぅむ」
 唇を塞がれ、問答無用で言葉を奪われる。上から覆い被さる体勢のまま引き寄せられると、どうしても女の身体を押し潰しかねない恐れが脳裏をよぎる。自然とベッドを押し返そうとする腕に力が入り、それ故に女の拘束から逃げることが難しくなった。
 こうなると、ローが満足するまで付き合わねばならない。何秒だか何分だか経って、やっと唇を遠ざけた女はぺろと舌をチラつかせ、緩慢に言った。その瞳は涙で潤み、どこかうつろだった。
……………つかれた」
 ぷっつん。
 それはもう、たやすく糸が切れた。男の中の何かが、切れた気がする。定かじゃないくらい、あっさりだった。の、かもしれない。
 スモーカーはサイドボードに置かれた小箱を引ったくると、中からスキンを取り、袋を破って、自らのペニスに被せた。とっくに限界ギリギリのそれはパンツにシミを残していたが、おあいこだ。そういうことにして、視界の外に投げやった。
 そしてローの太ももをガッと掴み、大きく開かせる。あまりの勢いに驚いたのか、呆けた顔をしたローは常なら予想できそうなその先の行動を制止することなく、そのまま一気に貫かれた。
「あッ、えっ?!」
「っ、くそ」
「ん、ァあ、っは、ゃ! あっ、んん」
 押し返すように腕を掴まれるが、ろくすっぽ力の入っていないそれは、縋っているようにしか感じられない。スモーカーは両手で細い腰を掴み、打ち震える身体を蹂躙する。完全に波に飲み込まれたローはまつ毛を生理的な涙で光らせ、唇をへにゃりと開けたまま喘いでいた。強情さは氷解していた。それを視認した男の頭は、ますますおかしくなりそうだ。
「そえっ、そごッ、あっ、あ〜〜〜ッ!」
 バツン、と腹の奥を叩くと、背中を反らして絶頂した。その際ナカが蠢き、つられて精を吐き出す。薄い隔たりがあると分かっていて尚、精子を全て彼女の腹底に押し込むようにぐりぐりと腰を揺らせば、達したばかりの膣はすぐさま反応を返した。
「ぁ、や、イってぅ、ァンっ」
 弛緩した四肢が思うように動かないのだろうローは、再び手足をシーツの上で躍らせる。それを眺めているだけで興奮が簡単にぶり返す。
 そのまま続けてもよかった。が、冷静な部分が精液でぬるついたスキンの不快感を主張し、ずるりと抜いた。甘ったるい声を上げてローは跳ねた。甘イキでもしたのだろう。スキンの中には重たい白濁が溜まっていた。我が事ながら引いた。
「ぁふぅ」
「起きてるか」
…………おきては、いる」
 暗に「もう無理だ」という主張も、今のスモーカーは知らないふりをした。まだ熱の冷めやらず、僅かに震えを残す太ももを撫で、続きを唆す。鼠径部をあからさまに触れば、溶けた瞳で睨んできた。残念ながら理性は復活してきたらしい。
「おい、スモーカー」
「なんだ、ロー」
………その顔やめろよ、もう」
「何言ってんだ」
 意味が分からない、と返すよりも女が身を起こす方が早かった。スモーカーに向き合い、頬に両手を添えたかと思えば、チュッとバードキスをする。
「ごっこ遊びはもういいのか」
「いい。もういい。おまえがねちっこくなることがよぉく分かった。二度と御免だ」
「じゃあ普通にヤるぞ」
……それは決定事項なんだな」
「今度は、慣れない大役で疲れた旦那を癒やす番だろ?」
 じとりと見られたが別段痛くもかゆくもないので、わざとらしく小首を傾げて返す。ローはそんな男に呆れたのか何なのか、はぁと大きなため息を零したあと、再びキスを一つしやった。茹る夜はもう少し続きそうである。