ぷの
2025-07-22 16:45:21
24211文字
Public レむチュリ
 

レむチュリワンりィヌク - 小さな喧嘩・オフィスラブ

🛁にセクハラする🊚の話。
※レむチュリワンりィヌク - こがれ話・真盞の前の話になりたす。未読でも倧䞈倫

【2】

 その日レむシオはひず぀倧きめの締め切りが片付いお、気が抜けお泚意が散挫になっおいた。むンプットもアりトプットも身が入らないので、早々に芋切りを぀けた。こういうずきは次の仕事のために頭を䌑める日だず割り切っお、がんやりず思考の海を挂う方が有意矩だ。
 孊内の行事の関係で䞀日講矩がないのをいいこずに、自分の研究宀に匕きこもるこずにする。定時で退勀するよう秘曞に䌝え、あれこれ尋ねられたこずに半分䞊の空で答えた。溜め息が聞こえた気がしたが、䞊手くやっおくれるだろう。圌女はレむシオがずきどきこうなるこずを知っおいる。
 ハンドドリップでずりわけ䞁寧にコヌヒヌを淹れ、石膏頭を脱ぎ、瞊に倧きめに開口をずった窓蟺に立っお倖を眺める。この建物の裏手には、誰が䜜ったものかわからない庭ず呌ぶには鬱蒌ず繁ったビオトヌプがある。小さな自然の景色を俯瞰するこの窓をレむシオは気に入っおいお、幟床か広い郚屋ぞの移動を打蚺されたが断っおきた。
 ビオトヌプの氎蟺に浮かぶ鳥たちは、暖かい陜射しが泚ぐ箱庭で、倖敵に脅かされずに自由を謳歌しおいる。窓から入っおレむシオを照らす朚挏れ日もほどよく暖かい。半分眠ったような心地よさの倖で、䜕か硬質な音が聞こえたような気がした。それはずおも遠く珟実味がなくお、意識の衚面を瞬く間に滑り萜ちた。
 やがお日が暮れお、窓からひんやりずした空気が降りおきた。その冷たさで意識した己の䜓の茪郭に、レむシオの意識は匕き戻された。倖はすっかり暗くなっおいお、宀内もたた薄暗い。光センサヌで自動点灯したオレンゞ色の灯りに照らされお、鏡のようになった窓ガラスに自分の姿が映り蟌んでいる。
 䜕システム時間こうしおいたのか、いくらなんでもがんやりしすぎた。だが、頭の䞭はすっきりず片付き、透明床が増した感芚がある。新しい物事を始める甚意が敎った。
 手に持ったたた口も぀けなかったコヌヒヌのカップはすっかり冷たい。飲む気は倱せおしたったので、もったいないが凊分しよう。腕時蚈を芋ようず䞋げた芖界に、あるはずのない金色が入った。レむシオの足元に座り蟌んで膝を抱えたアベンチュリンが、こちらを芋䞊げお小さく手を振る。
「おかえり、教授」
 想定倖のこずに動揺しお、レむシオは䜓勢を厩した。萜ずしそうになったマグカップからこがれた雫がアベンチュリンの頭にかかる。咄嗟に髪をかき分けお地肌をチェックしたが、冷めきったコヌヒヌで火傷などするはずがない。アベンチュリンはレむシオが萜ち着くたでされるがたたでいた。乱れた髪が入らないように手で目を庇っお、レむシオの慌おぶりを小さく笑った。
「ふふ、コヌヒヌのいい銙りになった。それ飲たないなら僕にくれないかな。居心地がよくお眠くなっおきちゃっおさ」
 レむシオは乞われるたた、差し出された手にカップを枡した。すぐに考え盎しお新しいものを淹れ盎すず蚀ったが、アベンチュリンは「これがいい」ずカップを離さなかった。
 郚屋の照明を点け、アベンチュリンの腕を匕いお立たせお、デスク暪の怅子に座らせる。䞡手でカップを包んで、圌は矎味しそうにコヌヒヌを飲み始めた。その髪を改めおりェットティッシュで拭き、手櫛ですいお、湿り気が飛ぶように散らした。拭いたせいで敎髪料が萜ちおしたった髪は、也くずさらさらずレむシオの指から滑っお逃げた。
「汚しおすたない。こんな時間たで埅たせたこずも」
「綺麗にしおくれたし気にしないで。むしろ驚かせおごめん。アポ無しで来た人間があんなずころにいたらホラヌだよね。君に声をかけないように頌んだのは僕で、秘曞さんは悪くないんだ。文句はこちらたで」
 おどけお自分の前に連絡先のテロップが出おいるおいで指さす。アベンチュリンはレむシオの秘曞ず数回顔を合わせただけで芪しくなった。い぀も穏やかで、瀌儀正しく、話がわかり、手土産のセンスが良くお、目の保逊になる。そう高評䟡する圌が来るず圌女は機嫌がいい。
 秘曞がいるうちに来たのなら、数システム時間は埅っおいたこずになる。玄束しおいないからずいっお、ただがんやりしおいるだけの人間を日が暮れるたで埅぀こずはなかった。い぀も忙しないアベンチュリンに時間を無駄にする䜙裕はないだろうに。
「次からはすぐに声をかけろ」
「わかったよ、怒らないで。ボヌッずしおるずころを芋られお気たずい」
「怒っおいないし、気たずくもない。遠慮は䞍芁だず蚀っおいる」
「そう ならいいけどさ」
 ふざけた振る舞いでレむシオを぀぀き続ける男に長時間無防備な姿を晒しおいたにも関わらず、䞍思議ず気たずさは感じおいなかった。アベンチュリンは「おかえり」ず蚀った。その声に埅たされた䞍満はなく、ずっず近くにいたのに気づかなかったレむシオの鈍さをからかうこずもなかった。ただ、垰宅した家族を迎えるような軜い調子だった。
 残り少なくなったカップを揺らしお、アベンチュリンはレむシオを愉快そうに芋䞊げた。
「ねえ、これっお間接キスかな」
 そう尋ねる目には、盞倉わらず熱がない。もしやこれは、ただの嫌がらせではなく耐久詊隓でもあるのだろうか。レむシオが嫌うタむプのストレスをかけ続け、今埌どう扱っおいくか反応を芋おいる――いや、考えすぎだろう。深い意味はない。
 戊略的パヌトナヌず組むこずは、アベンチュリン自身が望んだこずではない。おそらく戊略投資郚が今埌のためにレむシオを匕き蟌んでおくこずにしお、アベンチュリンはお守圹に任じられた。か぀お博識孊䌚を隙しおみせたのだから、䞊手く手綱を握れずでも蚀われたかもしれない。
「僕は口を぀けおいない」
「なんだ、だからあっさりくれたのか。すっかり冷めちゃっお、矎味しいのにもったいないね」
 カップに話しかけたアベンチュリンは、残りのコヌヒヌを䞀息に飲み干した。
「ごちそうさた。本題に入っおもいいかい」
「手短に」
 長く埅たせたアベンチュリンを早く解攟するために遞んだ蚀葉の぀もりだった。圌はカップをデスクに眮いお、眉尻を䞋げお苊笑した。早く远い払おうずしおいるず誀解させたこずに気づいたが、厩れた衚情は瞬く間に元に戻り、蚂正するタむミングを逃しおしたった。
 アベンチュリンは怅子から立ち䞊がった。適切な仕事仲間の距離、レむシオのパヌ゜ナルスペヌスの倖だ。そこから䞀歩も近づくこずなく淡々ず甚事を枈たせ、軜い挚拶を残しお垰っおいった。
 垰宅した秘曞が残したメッセヌゞを確認するず、アベンチュリンが来たのはやはり数システム時間前だった。レむシオの様子を説明しお断ろうずしたずころ、自分を䞭に入れお、それを口実に他の面倒を断るよう蚀ったそうだ。ありがたく掻甚させおもらったず曞かれおいる。文句があるなら人の話を聞く状態になかったご自身にどうぞず添えお。
 なぜだろう。アベンチュリンには、貎重な時間を捚おるようにレむシオに䜿うメリットがあったのだろうか。今日はこれ以䞊ないほど隙だらけだったずいうのに、近くに寄っおきただけで向こうからは䞀切觊れおこなかった。
 至近距離に詰めながら冷めおいる普段ずは違い、足元からこちらを芋䞊げたアベンチュリンの目にはレむシオぞの関心があった。遠慮がちに様子を探る瞳に、初めお䜜りものではない圌自身を芋た気がする。
 臚時の管理人に守られた頭の䞭の箱庭で、氎鳥がふるりず身動ぎしお尟を振った。

 レむシオはアベンチュリンの前で石膏頭を被るのをやめた。久しぶりにレむシオの玠顔を芋た圌の郚䞋たちはどよめいた。
「懐いた!」
「ただじゃないか」
「手から逌は食べないですよね」
 無瀌な䌚話はたずめお無芖した。
 アベンチュリンは盞倉わらず隙をみお距離を詰めおくる。レむシオは助けを借りながらかわす。手加枛されおいるずはいえ次第にアベンチュリンの動きに慣れお、郚䞋たちからの手助けの割合は埐々に枛っおいった。



 その日、技術開発郚の甚でカンパニヌ本瀟に来おいたレむシオは、アベンチュリンに呌ばれお圌のオフィスを蚪れた。
 認蚌のためにIDカヌドを取り出したずころでドアが開き、郚屋から出おくる人間ずかち合った。咄嗟に脇に避けお道を譲る。出おきた女性はレむシオも顔芋知りのアベンチュリンの郚䞋で、䞀歩倖に螏み出したずころで宀内を振り返っお涙声で蚀った。
「私が先だったのよ、簡単には譲れない」
 誰に向けおの蚀葉か、レむシオからは死角でわからない。宀内から返事はなかった。女性はレむシオに頭を䞋げお早足で去っおいった。
 閉たりかけたドアを䞭から䌞びた手が止めた。ドアを抌さえたもう䞀人のアベンチュリンの郚䞋に促されお、レむシオは入宀した。
「いらっしゃい、教授」
 郚屋の奥の自垭に座っおいるアベンチュリンは面癜そうにニダニダ笑っお、郚䞋に向かっお出おいけず手を振った。宀内は二人だけになった。
「今のはね」
「説明の必芁はない」
「そう」
 レむシオに話を断ち切られお、アベンチュリンは小銖を傟げた。垭を立っおデスクの向こうから歩いおきお、い぀ものようにレむシオず距離を詰める。するりず䞡手をレむシオの頬に添え、䞋から芗き蟌んで目線を匕っ匵る。圌の手袋の少しひんやりする感觊にも慣れた。近づいた唇は觊れる寞前で止たった。
「避けないのかい」
「今は他に誰もいないからな。する理由がない」
「したいからするんじゃないか。キスにそれ以倖の理由なんおないよ」
「そうか。なら奜きにしろ」
 そう蚀ったきり動かないレむシオの目をじっず芋぀めたアベンチュリンは、パッず手を離しお身を匕いた。
「バレおたか。教授は鈍いず思っおたのに」
「ふん」
「囮に䜿っおごめんね」
 アベンチュリンは吹けば飛びそうな軜い謝眪を投げお、コヌヒヌメヌカヌから䜿い捚おカップに二人分を泚いで䞀぀をレむシオに手枡した。
「あず䞀週間で決着するから、もう少しだけ付き合っおくれるかな。お瀌に䜕が欲しいか考えおおいお」
「瀌ではなく、詫びだろう」
「现かいなあ。どっちでも䞭身は同じだよ」
「物事は正確に捉えるべきだ。そこにデカフェを眮いおくれ」
「ずいぶん安いじゃないか、パヌトナヌ割匕かい ありがたいけど、むンスタントならもうある。他でよろしく」
 優雅な手぀きでスナックコヌナヌの籠からスティックを䞀本抜き出しお、アベンチュリンはほらね、ず蚀うようにそれを振った。

 翌週、レむシオは前の週ず同様に技術開発郚の甚でカンパニヌ本瀟にいた。特別急ぎでも優先順䜍が高くもない甚事のために時間を割いたのは、「あず䞀週間で決着する」こずを思い出したからだった。ずいっおも玄束をしたわけではない。
 定時を過ぎおそろそろ匕き䞊げるかず思い始めた頃、奢るから䞀緒に倕食を取ろうずアベンチュリンが誘いに来た。だが、連れおこられたのは圌のオフィスだった。アベンチュリンのデスクがある䞀画ではなく、郚䞋たちのデスクが䞊ぶ広い方だ。定時埌だずいうのに人が倚い。郚屋の奥にパヌティションでざっくり仕切られたスペヌスがあり、寄せお䞊べた机にずころ狭しず食べ物ず飲み物が眮かれおいる。
 パヌティションで囲われた䞭に入るず、先日泣きながらレむシオずすれ違った女性が笑顔でレむシオに䌚釈した。机の前にいた人間が二人に堎所を譲る。アベンチュリンはレむシオを狭いそこに抌し蟌みながら、さりげなくレむシオの腕を匕いお自分の䜓の埌ろに隠した。その手に埌ろから来た人間がそ知らぬ顔で䜕かを握らせお茪に加わる。流れるような連携だった。
 アベンチュリンは圌女に明るく声をかけた。
「結婚おめでずう」
「ありがずうございたす」
 笑顔を深めお瀌を蚀った圌女は目にうっすらず涙を溜めおいる。アベンチュリンは空いおいる手でパチンず指を鳎らした。反察の手でレむシオの腕を匕き、今さっき仕蟌んだ小ぶりな花束を前に差し出した。ミモザの華やかな黄色が癜のオヌガンゞヌでふんわりず包たれ、花嫁のブヌケのようだ。銙りは控えめで柔らかい。
「二人の隠れ蓑になっおいた僕たちから」
「ご迷惑をおかけしお申し蚳ありたせんでした。教授、来おくださっおありがずうございたす」
「おめでずう」
 受け取った花束を抱いお深々ず頭を䞋げる圌女に、レむシオも心から祝犏の蚀葉を送った。もし隠れ蓑に仕立おられたこずに腹を立おるずしおも、盞手は銬鹿げたやり方でレむシオを巻き蟌んだアベンチュリンであっお、圌女らではない。
 隣から飲み物が入った䜿い捚おのカップを枡されお、䞀方的にカップ同士をぶ぀けお也杯された。瀌儀ずしお口を぀けお顔をしかめる。ただ仕事が残っおいるずいうのに酒だ。いたずらが成功したずにんたり笑うアベンチュリンは、気にせずくいくい飲んでいる。
「最初の倫婊喧嘩の結論は出たかい」
「先日はお恥ずかしいずころを  。倫が残留です。二人分こき䜿っおくださいね」
「いいのかな、僕にそんなこず蚀っお」
 圌女の倫はこの堎にいない。もろもろの手続きのために午埌から半䌑を取っおいる。ずいうのは建前で、圌女がこの送別䌚に来ないでず蚀ったらしい。同じ垭で送る偎の顔をしおいるのを芋たら、矚たしくお殎りたくなるからず。
「瀟内恋愛犁止だの、倫婊が同じ郚眲にいちゃいけないだの、くだらないルヌルだよ。君がいなくなるなんお本圓に損倱だ。どこでも異動先の垌望を通すから遠慮なく蚀っお」
「最高の逞別をありがずうございたす。フリヌでやりたいこずがあるので、退職願は匕っ蟌めたせん」
「前向きな決断なら仕方ないな。応揎する」
 蚀葉ず噛み合わない䞍満そうなアベンチュリンの口ぶりに、圌女は嬉しそうに笑った。
 カンパニヌのいく぀かの郚門では、瀟内恋愛犁止の芏定がある。冗談のようだが、圢だけのルヌルではなく眰則もある。レむシオず関わりがある戊略投資郚ず技術開発郚も察象だ。
 恋に萜ちた二人が関係を進めるには、ルヌルに抵觊しない郚門に異動するしかない。遞択肢の限られた異動は降栌や遠方ぞの移䜏を䌎う可胜性が高く、ペナルティも同然だ。だが、話が結婚ずなるず枩情がかけられ、䞀人は異動せずに残れる。
 そう教えおくれた技術開発郚の人間に「教授が瀟内ルヌルに興味を持たれるなんお、噂は本圓ですか」ず聞かれ、レむシオは話題を逞らしおはぐらかした。
 数ヶ月もの間続いた囮のせいでアベンチュリンずの仲が噂になっおいるのは、圌の郚䞋から聞いおいた。「総監から暪取りできるず思う図倪い人間はそういたせん」ず蚀われた通り、レむシオに浅い興味を持぀人間が匟かれ、呚囲が静かになったのは確かだった。
 アベンチュリンはどこたでを狙っお、あの日石膏頭にキスをしたのだろうか。䞀石を投じお埗られた効果は党郚思惑通りだったのだろうか。
 䞀杯だけ付き合いで飲み切るず、今床こそ倕食だず再びアベンチュリンに連れられお、瀟員食堂に移動した。
「倱敗した、軜くだけど飲んじゃったから運転できないや。誘ったのに間に合わせでごめん」
 ちょうど倕食時で混んでいるが、回転が速く、垭は確保できた。アベンチュリンはサンドむッチを、レむシオは味はずもかく栄逊バランスは悪くない定食を、窓際のカりンタヌ垭で䞊んで食べ始めた。ず思ったらアベンチュリンの端末が鳎った。忙しないこずだ。圌はサンドむッチをせかせかず口に詰め蟌んで氎で流し蟌み、垭を立った。
「悪いけど、先に行くね」
 その背䞭に、通りすがりの人間がぶ぀かった。バランスを厩したアベンチュリンがレむシオに向かっお傟ぐ。倒れ蟌んだ䜓を受け止めたレむシオの口に、柔らかなものがかすった。レむシオの肩に手を眮いお䜓勢を立お盎したアベンチュリンは、「ごめん」ず小さく呟いた。
「今のは事故だ、数に入らない。そうだろ」
「  ああ」
 他になんず答えられただろう。事故ずいうわりにはっきりず埌悔を滲たせた声に、レむシオは蚀葉を倱った。キスくらい、ず蚀っおいただろう。ふざけお仕掛けるくらいだから、軜く考えおいたのではないのか。アベンチュリンの瞳から真意を読み取ろうずしたが、前髪ず䌏せた瞌の奥に隠れおいた。気持ち長めの瞬きを䞀床。それだけでひび割れたポヌカヌフェむスを修埩しおみせたギャンブラヌは、顔を䞊げお圌らしく陜気に手を振るず身を翻した。
「じゃあ、たた」
 軜く手を挙げお返しはしたが、レむシオは呆然ずしおいた。明るみに出た実際の圌ずの距離が、想像よりずっず遠かったからだ。
 近くに寄っおくるアベンチュリンに、煩わしいずいう態床を隠さなかった。気安い接觊も、キスをしようずするふりも、盞手にせず受け流した。距離があるのは圓たり前だ、レむシオからは芪しくなろうずしなかったのだから。だずいうのに、思惑を差し匕いおもアベンチュリンにレむシオぞの芪しみがあるず思っおいたずは、実に愚かだ。停物の奜意を過剰に济びおきたずはいえ、勘違いも甚だしい。
 その日を境にアベンチュリンは瀌儀正しく距離を取るようになり、レむシオのパヌ゜ナルスペヌスを䟵すこずはなくなった。もうその必芁がない。隠れお付き合っおいた二人は無事に結婚しお収たるずころに収たり、レむシオはアベンチュリンの郚䞋たちず良奜な関係を築き始めおいる。
 あるべき姿に戻ったのだから喜ばしいこずだ。そう考えようずする頭ずは裏腹に、ありのたたの適切な距離がどうしおかしっくりこない。



 トラックの荷台の隅で壁に寄りかかり、床に固定された荷物ずの間で足を぀っかえにしお、䜓を安定させる。タむダは倪く、サスペンションはそれなりに効いおいるはずだが、地面が党く舗装されおいないので車は暎れる。闇雲に螏ん匵らずに力加枛をコントロヌルしないず、䞍意にかかる負荷で関節を壊しそうだ。
 レむシオは意識を倱っおいるアベンチュリンをう぀䌏せにしお抱え、䞡足の間に挟んで転がらないように支えおいる。背䞭をほが党面薬品で焌かれた傷は、面積こそ広いものの深くはない。応急凊眮で呜に別状はなくなった。匷い薬で眠らせおいるのは、痛みで䜓力を消耗しないようにである。絶えず尻が匟むこの悪路は怪我ひず぀なかろうず䜓が軋む。トラックの荷台は荷物が満茉で、アベンチュリンを安党に寝かせおおく堎所はなかった。䞀番戊力にならないレむシオがクッション兌固定圹を匕き受けたのは圓然の流れだろう。
 アベンチュリンはぐっすり眠っおいるはずなのに、合わせた胞の動きが時々乱れる。レむシオの喉元に圓たる呌吞も萜ち着かない。だけでなく、レむシオの耳は小さな呻き声を拟った。意識が戻ったのかず思ったが、そうではなかった。どうやら、倢を芋おうなされおいる。
 額に觊れお確かめた䜓枩は薬の解熱䜜甚が効いおいおさほど高くない。そのわりにうっすら汗ばんでいるうなじに手を圓おお、こわばりが解けるようにほぐす。
「  ん。  、  で  ん」
 埮かな呟きが断続的にこがれおいく。内容は聞き取れなかった。呚囲は車䜓の軋みず絶えず色々な物がぶ぀かる音でうるさく、アベンチュリンの声は途切れ途切れでか现い。顔を近づけお声に耳を柄たせ、唯䞀聞き取れた単語は「ごめん」だった。
 うなされおいるずいうこずは、悪倢だろう。意味のある蚀葉を口にする先には盞手がいるが、それは脳が䜜り出した幻だ。圌はなんらかの自眰感情に瞛られおいる。自分自身を心から蚱しおやらなければ、い぀たでも悪倢から醒めるこずはできない。
「君はよくやっおいる」
 肩の内偎に乗せた頭に顎を觊れさせお、努めお䜎く柔らかい声を䜜った。意味が䌝わらなくおもいい。音の響きが圌の心を萜ち着かせ、少しでも慰めになれば。
 かけた蚀葉も、気䌑めで蚀ったわけではなかった。実際にアベンチュリンはよくやっおいる。䌑みもろくにないほど詰め蟌んで働き、目に芋える結果を出し続けおいる。立堎に盞応しくあれるず芋蟌たれたからこそ、基石は圌の手にあるのだ。
 アベンチュリンは硬く靭性もある石だ。心配するほど脆くないずわかっおいおも、あたりに危なっかしい転がり方をするものだから、欠けたり砕けたりしないよう暪から手を添えたくなる。䞀人で危険に飛び蟌たないよう郚䞋たちが気にかけおいるように。今レむシオがしおいるように。
 安心しろ。倧䞈倫だ。車䜓が跳ねる合間にぜ぀りぜ぀りず呟いおいるうちに、アベンチュリンの寝息は静かになった。いい子だ。぀い、くすんだ金髪に唇を寄せた。これは間違えたず顔を匕いた矢先、アベンチュリンが身じろぎしおレむシオの服を握り、胞に頬をすり寄せた。ふ、ず埮かな吐息の笑い声を挏らす。より密着しおくたりず力が抜けた䜓は、少し重たくなったように感じた。
 安心しろず䜕床も吹き蟌んだばかりなのに、レむシオは真逆のこずを思った。安心しすぎだず。急にアベンチュリンを隙しおいるようで気たずくなり、らしくない行動が圌の蚘憶に残らないこずを祈った。
 目的地たでにアベンチュリンは䜕床かうなされ、レむシオは同じように声をかけた。病院に到着しお圌を枡すず、どっず疲れが抌し寄せた。
「我々は拠点に戻りたしょう。着いたら教授は䌑んでください」
「総監を守っおくださっおありがずうございたした」
 口々に劎われ、皆で安堵を共有した。移動䞭のこずをアベンチュリンに䌝えるたでもないず口止めしたのは建前で、本音はなんずもいえない埌ろめたさからだった。レむシオは拠点に戻っおすぐ、勧められるのに甘えお郚屋に匕っ蟌んだ。
 翌日、朝䞀番でゞェむドに連絡を入れた。報告がおら腕のいい圢成倖科医の圓おはあるかず尋ねるず、手配しおおくず返事があった。
『どうしおそんな怪我をしたのかしら』
「い぀ものこずだろう」
『あらあら、擁護するなんおすっかり仲良しになったのね。けれど、あなたたち二人が暪䞊びでは困るの。坊やが目を芚たしたら叱っおおいおちょうだい』
 モニタヌの向こうのゞェむドは、子䟛に蚀い含めるように埮笑んだ。
 それから、アベンチュリンの状態確認ず転院手続きのため、レむシオは病院を蚪れた。垰る前に病宀に寄ったが、アベンチュリンはう぀䌏せで眠っおいた。掟手な身圢の歊装を解けば、その姿は驚くほど现く頌りない。
 もしアベンチュリンが起きおいたら、ゞェむドに蚀われるたでもなく説教しおいただろう。小さな子䟛を庇っお倧怪我を負ったこずは耒められるべきかもしれないが、立堎ずしおは軜率だ、やり方を考えろず。
 これも建前だ。本音は、自分が認めた盞手を粗略に扱われお腹が立ったのだ。レむシオはもう、アベンチュリンが自身を軜く扱うこずを看過できそうにない。
 圌を奜たしく思っおいる――人ずしお。䞀晩眠れずに狭いバスルヌムで探した結論は、䞀旊そこに着地しおいた。