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保科
2025-07-07 22:11:03
6106文字
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スタレ
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いつかどこかであいましょう
アグサフェ現パロ 中3サフェルと大学生アグライア 前(
https://privatter.me/page/686a4e0884fe3
)の出会い編
黄金裔全員HAPPYな未来だけ見せて
「セファリア」
彼女に名前を呼ばれても、つれない態度を取る必要も、皮肉を言う必要も、何より
――
距離を取る必要もない、というのは、何とも新鮮だった。
「セファリア、こちらに」
「
……
、うん
……
」
呆けて立ち尽くしていれば、催促のように名前を呼ばれて、あたしはのろのろと彼女の下へ歩み寄る。
あたしを今、その名前で呼ぶ女は、彼女が初めてだった。そのせいだろうか、金糸に操られているわけでもないのに、自由の利かないからだが、勝手に彼女の向かいに腰掛けた。お連れ様でしたか、とあたしを案内していた店員に、そうです、とアグライアはしれっと嘯いた。
前世、などというナンセンスなものを信じる気はさらさらなかった。でも、嘘と言い切るには、生まれながらにして脳裏に刻まれていた妄想の数々はあまりにも現実味がありすぎた。
1000年続く苦しくも鮮やかな黄金色の神話の中を駆け巡るは、風来坊のニャンコ怪盗
――
なんて。チビのあたしには毒が強すぎたので、それに散々振り回された過去は割愛するけれど。果たして、こうして折り合いをつけた頃合いに、まさか裏付けが目の前に転がりでてくるとは思わなかった。
退屈な午後の授業をサボって、突然の通り雨に駆け込んだ喫茶店。適当な席に腰掛けてやむまでの時間をつぶそうとして、
――
セファリア?
不意の、甘い蜜のような声に全身が震えた。反射的に振り向いた先に、彼女もまた、その双眸を見開きながら立ち上がっていた。焦点の合う瞳は酷く新鮮だ。
いつか、どうか、と願ってやまなかった人。心臓が煩い。目眩がする。
アグライア。即座に脳裏に浮かんだその名が意味するのは、妄想の中の浪漫の半神にして、架空の国オンパロスの統治者であり
――
今、現実、目の前にいる女性であると。そんな無茶苦茶について、理解せざるを得なかった。
「久しぶり、で良いのでしょうか」
「
……
どーなんだろ。分かんない。
まさか、あんたにも記憶があるなんてね
……
」
「それはまさしく、こちらの台詞です
――
あなたの顔を見かけた瞬間、比喩でなく、心臓が止まるかと」
「アハハ、まさかぁ」
注文したアイスコーヒーに口をつけ、頬に手を添えたアグライアが、あたしの混ぜっ返しに柔らかなため息をつく。そんな所作ですら驚くほど様になる
――
派手すぎない、けれど品のある紺のサテン地を身に纏う彼女は、地味な制服の上に適当なパーカーを着たあたしとは雲泥の品格を持っていた。
不相応だ。
オンパロスという名の幻想の記憶を思い返す度、幾度となく思ったその言葉は、今彼女を目の前にしてもするりと浮かぶ。夢を見るような心地の中、己の頬へ不意に添えられた手に、ビクリと肩が跳ねる。
「顔を」
「え?」
「顔を、よく見せてもらっても良いでしょうか」
「
――
そんなの、別に
……
いいけど」
いちいち許可を取らなくても、と思う辺り、かなり記憶に毒されている。ついうつむきがちな顔をおずおずと上げながら、視界の狭さに、雨よけにフードをかぶっていたままなことを思い出す。
何となく羞恥を覚えながら、フードもめくる。
あたしは
――
サフェルと名乗る女は、いたって平凡な、ごく普通の女子中学生を自称している
――
少なくとも、記憶の中で特徴的だった獣耳や尻尾は今はない。ただの人間だ。これでいいのか、と戸惑い気味にアグライアを伺えば、彼女の顔が緩やかにほころんでいく。その指先が、控えめにあたしの頬を、髪をなでる度、甘い痺れが全身を抜けていくようだった。
「ふふ。そうですか
――
癖のある髪も、涼やかな面立ちも、何も変わらないのですね」
「っ
……
そうかな。
なんか、そっちも全然変わんないね」
つい数分前まで妄想としていたことをベースに会話が進むのは、気味が悪いけれど、恐ろしいほど心地が良い。現実と記憶が混ざって曖昧になるような感覚に、小さく身震いする。
それにしたって、本当に彼女の美しさは変わらなかった
――
今も半神であると言われれば信じてしまいそうなその美貌。瞬けば、隣をラフトラが歩いているかも、と錯覚させるほどの威厳。
あたしの視線を受けて、髪から手を離したアグライアは薄く笑う。
「
……
そうでもありませんよ」
「またまた、そんなこと
――
」
呟くやいなや
――
ぽろ、と光る雫が彼女の目からひとつ、こぼれ落ちる。続けて、ふたつ、みっつ
……
その前触れのなさにぎょっとする。
「ちょ、ちょっと、どうしたの!?」
「あ
……
す、みません、突然、抑えが、利かず、」
ぽた、ぽた、と、浅く伏せられた眦からこぼれる美しい涙は止め処なく、どうすればいいか分からない。アグライアの涙なんて、そんなの記憶のどこにもない。
まるでそんな、
――
ヒトみたいな、と思って。
彼女はもう、半神でないのだということを思い知る。
「セファリア
――
よかった、貴女に、また
――
」
失われた人間性など一つもない。感情の乗った、彼女の慟哭のような言葉が耳朶を打つ。
その声に、どうしようもなく泣きそうになるから、ぎゅうと、顔をしかめて我慢した。
そんな資格は、
――
英雄として歩むため、彼女の元を去ったあたしには、ないのだから。
「すみません、見苦しいところを」
「いいって、別に
……
」
数分ほど経って。すん、と鼻を一つ鳴らすアグライアは、少し赤い目ではあるものの、落ち着きを取り戻した。気まずさからドギマギと答えるあたしに、アグライアは照れくさそうに微笑む。思えば、こんなに感情豊かに笑う彼女は、それこそ出会った頃くらいにしか覚えがなかった。あたしが知る、末日のアグライアとはかけ離れている。
「貴女を忘れたことは、一日たりともありません。
本当のことです、セファリア
――
また逢えればと、願って止みませんでした。こうして今世でも巡り逢えて、本当に嬉しい
……
」
「
……
あっそ。そりゃ、どうも
……
」
息をするような甘い囁きに、つっけんどんな言葉がのどをつく。違う。どうしてこんな無駄口しか叩けないのか。
素知らぬ顔を装いながら、内心は乱れに乱れていた。彼女の涙は、想像以上にあたしに動揺をもたらした。現実と記憶の境目はすっかり曖昧で、すぐにボロを出しそうな自分を諌めるので背一杯だ。
落ち着きなく視線を彷徨わせるあたしの前で、アグライアは一つ息を吐くと。
「貴女は、どうでしょうか。
――
私と顔を合わせることすらも、嫌になったままでしょうか」
「
―――
っ」
下がりかけていた視線が跳ね上がる。
そこには、寂しそうに、諦めたように目を伏せるアグライアがいて。
――
反射的に叫ばなかったのは、衝撃がそれほど強すぎたからだ。
あの、アグライアが、しょげている。
そんなの。
「そんなの、っ
――
」
会いたかった、寂しかった、忘れたことなんてない、ありがとう、ごめんなさい
――
どの言葉が適切かわからない。分かるはずもない。
何も言えず、口を開いたまま固まるあたしに、気落ちした様子で、アグライアが俯く。
「
……
、ああ、ごめんなさい。困らせるつもりはありませんでしたが
……
。
やはり、貴女を呼び止めるべきではなかったのですね」
「
―――
」
違う、違うんだよライア。あたし、本当にうれしくて。でもさ。いいのかな、こんな。惑う意志とは裏腹に、これ以上彼女を悲しませたくないと、心の内が強く叫ぶ。その気持ちに押されるように、口が動いた。
「
……
ライア」
掠れた声で呼んだ名前に、アグライアがハッとした様子で瞬く。
「今」
戸惑った様子のアグライアに、一度口を開けば、つらつらと、情けない言葉ばかり出てくる。
「あたしは、さ。
……
あんたに、そんな風に思ってもらえるようなこと、出来てないから。気遣ってもらう資格なんて、ないよ」
「
――
そのような筈ないでしょう」いつか、ピュエロスの高台で彼女が演説をしたときのような、力強い声。思わず面食らう。
「火追いは、決して貴女なくして成し遂げられたものではありません。にも関わらず、なぜそうも卑下するのですか」
「だって
……
」
苦しい胸を抑えながら、だって、と、繰り返した。
「今も、あんたに辛い顔させてる」
300年を永遠に
――
その嘘が、オンパロスに、彼女にどれだけ必要なことだったとしても。彼女の信頼を裏切り、彼女を悲しませたことは、変わらない。
「
……
ああ」
アグライアの眦が下がる。
「私が未熟なせいで、貴女を悲しませたのなら
……
申し訳なく思います。どうしても、この身では感情の制御が難しいのです。
それでも、私を、ライアと。
少なくとも、貴女がそう呼ぶだけの情は、今も持ち合わせてくれている
……
ということですね」
「
………
」
言いたいことの一つも言えず、気遣われ、格好がつかないまま押し黙るあたしに、アグライアは真摯な眼差しを向ける。
「セファリア。
お願いです。どのような糾弾でも、どのような非難でも構いません。
もし、貴女がほんの少しでも、私のことを想ってくれるのならば。どうか、貴女の本心を教えてはくれませんか」
生憎、金糸はもうないのですよ、と、アグライアは両の手を開いて苦笑する。
そうだ。あたしだってそう。もう、世界を騙すような、そんな壮大な嘘は付けない。
その必要もない世界に、あたしたちは生きている。
「
……………
好きだよ、ライア」
そのことが、やっと、胸のうちに染み入るように理解できたからか。するり、と、言葉がこぼれた。あたしの言葉に穏やかに頷いたアグライアが、数瞬遅れて、驚愕に目を見開いた。
「
―――
」
「今も、"昔"も。ずっと、同じ」
「
………
」
緊張に、今にもはち切れそうな心臓を抱えながら、ぐっと上を向く。正面、あたしの顔を見ながら、アグライアがパチパチと瞬いて
――
静かに額に手を添えた。悩ましい人が取るようなポーズだ。なんで、と態度を問いただそうとして、気づく
――
あたしの話に信ぴょう性がないのかも。それはそう。どれだけの嘘を付き続けてきたというのか。
「
……
そりゃ、信じられないと思うけど」
付け加えて。一息ついて。
――
我ながら、何とも小っ恥ずかしいことを口にしたもんだと、視線がそろそろ逸れていく。頰が羞恥に赤く染まるのがよく分かった。咄嗟にフードをかぶり直す。
言わなきゃ良かったと後悔が胸に満ちていく。詭術は今でも得意なのに、今、彼女にそれをすることがそれが酷く憚られた。正面、スゥ、とアグライアが息を吸う音がして。
「
――
セファリア、あまり、私を惑わせないでください」
「だから、嘘じゃないって。
……
分かってる、難しいってことは
――
」
「そうではなく。
……
そうでないのなら、余程問題です」
「はあ?」
遮るような言葉の意味を測りかねて、問いただそうと、視線を戻した先。
赤く、赤く染まった彼女の顔が目に入る。
――
思考が停止した。
「ぇ、っと?」
「いけません、どうか喋らないで。
また、泣いてしまいそうなので」
「あ、うん
……
うん?」
狼狽えながら、言われるがまま、口を閉じる。どういうことなのかサッパリだ。何か、あたしは間違えたのだろうか。
アグライアは何度か深呼吸を繰り返して。それでもまだ赤い頬を手で覆いながら、成程、と呟いた。
「貴女は。
かつて、私の元を去った際、何か詭術を弄しましたね。詳細は分かりかねますが
――
きっと、私や、オクヘイマ市民達のための」
「
………………
」
鋭い。顛末について、『二度も』白状する気はないため黙秘する。それでも、金糸が使えなくても、その洞察力はまるで衰えていない
――
あたしの些細な言葉や反応から、彼女はあっという間に大まかを紐解いて。
「
……
つまり。つまるところ、ですが。
私は、私が想像するより、貴女に嫌われてはいなかったと」
「そ
……
れは。そう、なんじゃないの?
……
分かんないけど
……
」
結論の気恥ずかしさに、言葉を詰まらせて返事をすれば。アグライアは、はぁぁ
……
、と深い深い溜息をつく。そのまま両手で顔を覆うと、項垂れたように顔を伏せた。
「
……
私は、本当に
……
もう、私の知らぬ所で、貴女との関係が、全て終わったのだとばかり
……
」
「やー
……
ご、ごめん
……
ね?」
「
……
。
……
許しません」
ぽつりと、アグライアの言葉が耳朶を打つ。聞き間違いを疑った。
「
……
ぅえ?」
「例え。どれほどの事情があったとしても、それがかつての世界の為でも
――
既に黄金裔としての身分を捨てた私は。
貴女を許しません、セファリア」
「え、あ」
――
さあっと顔が青くなる。糾弾される、ということを一欠片も想像していなかった自分に気づかされた。どんな呑気な思考だ、そんな筈ないのに
――
彼女が口を開く瞬間、たまらず目を瞑って。
「
まずは連絡先を交換しましょう
」
「
…………
、
……………
へ?」
「伝言の石版
――
ではなく、スマホを
……
もし持っていないのなら、ご自宅の番号でも構いませんよ。次に、今の貴女についてすべからく教えてください、それから
……
」
「ま、待った。待った待った
……
!」
「ええ、待ちましょう。駄目とは言わせませんが」
「
……
、えーと。アグライア、さ。
怒ってる
……
んだよね?」
「ええ」
にっこり。顔を上げたアグライアはそれはもう素敵な、まさに女神のような完璧な笑顔で
――
「だからこそ。もう、貴女の尻尾を取り逃すことはしないと、強く、誓いました」
「
…………
」
「貴女がどう思おうと、貴女がどう足掻こうと、もう、手放しはしません。
――
詭術
ザグレウス
の祝福無き今、貴女に私を出し抜けるかどうか。見物ですね」
ぶわり。途端、笑顔の奥から放たれる圧力に頰が震える。もしあたしに尻尾が残っていたら、きっとその毛は一本残らず逆立っていたことだろう。オンパロスの統治者、火追いのリーダー
……
すっかり記憶の彼方に追いやっていた、彼女の肩書を今更のように思い出す。
とはいえ、そんなのは些細なことだ。目下の問題は。
「
………
分かったよ、何でも教えるから
……
」
あたしには、彼女が危惧するような逃走の意志がこれっぽっちもないことで
――
どうか、そんな小っ恥ずかしい事実が、見抜かれないことを祈るばかりだった。
「ところで、セファリア。見たところ制服姿ですが、学生
……
高校生ですか?」
「え、違う違う。まだ中学生だって。中3。どっからどう見てもチビでしょ」
「
――――――
、
――
成る程」
「
……
えっと。何か気になるワケ?」
「いえ。少しばかり若さに驚いてしまった、といいますか
……
道理で、貴女の見た目が過去出会った頃に近しいわけです」
「あー、確かにそうかも。ま、年月自体は比べものにならないけどね。あんたの方は
……
んー、どうだろ、社会人ではなさそーだけ、ど
……
ねえ、なんで頭撫でるの?」
「駄目ですか?」
「そ、そりゃあ
……
駄目
……
ではない、けどさ
……
ちょ!抱きつくなって、離し、にゃ、くすぐった
……
っ!
ねえ、ライア!?離してって、聞いてんの!?」
「ふふ」
「笑ってないで離しっ
……
いや力強!?」
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