も茶
2025-07-01 22:29:11
11813文字
Public 父水
 

落ちた霹靂

懇切丁寧に父水になるまでのもだもだを書くシリーズの第2話です
今回、狐の窓という術が出てきますが本来とは少し違う使い方をしています。ご了承ください
また、水木の過去をちょっとだけ捏造しています

何が来ても気にしないもしくは逃げる事が出来る人向け


『いいですか、坊ちゃん。狐の窓を使ってはなりませんよ』

 いつものように子守りのばあちゃんが妖怪の話をした後、最後にそんな話をして来た。

『どーして?』
『妖怪が見えるようになってしまうからです』
『えっ!?やだ!』

 反射的にそう答えたぼくにばあちゃんはくすりと笑う。ばあちゃんは優しいけど妖怪の話になるとちょっと意地悪になる。

『そうでしょう?だから使ってはなりませんよ。それに条件が揃うともっと大変な事が起きます』
『たいへんなこと?』
『ええ、それはもう、大変な事です』

 だから、貴方は使ってはなりませんよ​─────……

 そんな昔の夢を久しぶりに見た。大変な事については教えてもらえなかったから詳細は解らないが目が覚めて心の中でばあちゃんには使った事を謝った。
 目玉が帰って来てからは組紐のお陰か妖怪は寄り付かなくなったので使う事は無くなったがそんな夢を見て一つ気になった事がある。目玉の事だ。

 以前、妖怪に乗っ取られた俺を助けるのに神の力を借りて元の姿に戻ったと聞いた。元の姿ってあの包帯男か?と訊いたら違うと言い、容姿について説明された。
 白銀の髪で鬼太郎のように前髪で片目を隠し、強く格好良くいい男だと妖怪達の間では評判だったと言われた。説明を受けても包帯男の印象が強くてあまり想像は出来なかったが鬼太郎に似ているという点は気になった。
 そこで思い付いた。狐の窓が妖怪の真の姿を見る事が出来るのなら目玉の姿ももしかしたら見れるのではないか、と。幽霊族は厳密には妖怪とは違うらしいが俺からしてみたら人間でない所は一緒だし物は試しというものだ。見られなかったらそれはそれで終いだ。
 勝手に見るのもなんだか悪い気がして水木は目玉おやじに相談してみる事にした。

「狐の窓?」
「そう。知ってるか?」
「そりゃあ昔からある術じゃし妖怪達の間でも有名なやつじゃからな」
「そうなのか」

 今日も今日とて鬼太郎を寝かし付けてからの二人の時間、水木は相談があると言い目玉おやじと一献交わしていた。
 恋心を自覚した目玉おやじはたまに挙動不審になりながらもなんとか平静を装い過ごしていた。そういう部分で水木が鈍感で良かったと心底思った。

「それで、狐の窓で儂を見たいと?」
「そうだ。ほら、お前の元の姿ってやつ、見れるかもしんねぇなって思ってな」
「嗚呼、なるほど」

 水木の言葉に納得したように目玉おやじは拳で手を叩いた。幽霊族の自分が使う訳もないので確かめようはないが理にかなっているとは思った。

「やってみてもいいか?」
「構わぬよ。儂の元の姿の格好良さを見て驚くでないぞ」

 ひひっと目玉おやじが笑うと水木は言っとけと笑い返し目を一度閉じて深く息を吐いた。ゆっくりと目を開け狐の窓の手順を行う。
 両手を向かい合わせの狐にし次にその耳になる人差し指と小指を合わせる。握っていた他の指を開きそして呪文を唱えながら手と手の間に出来た空間を覗き込む。

「​───っ!」

 水木は目を見開いた。そこには縹色の着物を着た鬼太郎そっくりの顔をした男が居たのだから。目玉おやじから聞いていた通りに白銀の髪に片目を隠し、そして包帯男の時にも見たように上背があった。
 水木は確かに見た。目玉おやじの、ゲゲ郎の顔を。その瞬間、何度か見た桜の光景が頭に浮かんだ。いつもは影になって見えないその男の顔が今見る男の顔になる。

「あ……ああっ!!」
「水木!?」

 パズルのピースがハマるような感覚と同時に頭を強く殴られたような衝撃に水木は悲鳴のような声を上げ頭を抱えて蹲った。
 水木の頭には走馬灯のようにあの村での出来事が駆け巡っていた。醜悪で凄惨で残酷な、そんな中でも確かに愛のある光景を目の当たりにした記憶だった。

「水木、大丈夫か!」

 蹲る水木に駆け寄ろうとしてハッとした。水木へと伸ばした手がいつもと違った。その手はいつもの小さな手ではなく人間と同じ大きさの手だった。

「な、なんじゃあ!?」

 驚いて自分の身体を見れば人の形になっていた。顔を触ってみるが目玉のような丸ではなく鼻も口も耳も目も二つあった。夢でも見ているのかと思ったが目玉おやじから戻ったせいか素っ裸だということが不思議と現実味を帯びていた。
 何故急に戻ったのか意味が解らなかったがとにかく今は水木が優先だと駆け寄らなくて済んだゲゲ郎は水木に近付き抱き起こした。

「水木!水木!しっかりせぇ!」
「ぅ、ぐっ……

 眉間に皺を寄せ呻く水木の額からは大量の汗が吹き出し鼻からはたらりと鼻血が垂れた。これは大変だと水木を姫抱きにすると居間へと引っ込む。
 水木を畳の上へ寝かせ台所へと行き桶に水を入れタオルを用意して戻る。塵紙で鼻血を拭いてやり汗を濡らしたタオルで拭いた。

「は、ぁ…………

 十分程そうして居ただろうか。やっと水木の状態が落ち着き眉間からも皺が和らいだ。ホッと一息ついてゲゲ郎は水木の頬へと手を添え優しく撫でた。

「ん……

 ゆっくりと水木が目を開ける。視界に入ったゲゲ郎の顔に水木は眉を八の字にした。

「げ、げろ……?」
「思い、出したのか?」

 思わずゲゲ郎の声が震えた。再会してからずっと願っていたその名を水木の口から聞く事が出来て泣きそうだった。

「ああ、ああ、思い出した。ごめん、ごめんなぁ……なんでこんな大事な事、忘れちまってたんだ。ゲゲ郎……ごめん……
「何を言う。狂骨にやられたのじゃ。記憶を失ったとて生きて居ただけ僥倖じゃ」
「でも、俺、俺は鬼太郎を……殺そうと……それにお前達を置いて逃げちまった……奥さん死なせちまった……あの時ならまだなんとか出来たかもしれないのに……

 両手で顔を覆い懺悔する水木は涙を堪えているようだった。自分に泣く資格などないとでも言うように。堪らなくなってゲゲ郎は水木を抱き締めた。

「大丈夫、大丈夫じゃ水木。お主はそれでも倅を助けてくれたし妻はお主のお陰で長く生きたよ。それに儂はまだここにおる」

 全てを思い出した時、きっと自責の念が水木を襲うとゲゲ郎は予測していた。決して水木のせいではないがそれを言ったとしても水木自身が許せるかはまた別の問題であるのも理解していた。

「儂の名を思い出してくれてありがとうな、水木」
「ゲゲ郎……。すまない、遅くなった」
「待って居ったよ」

 抱き締めていた身体を離しかつて交わした言葉を再度口にする。それは確かにあの日々を取り戻した証拠だった。

「それで……なんでお前は裸なんだ」
「あ……

 水木の事で頭がいっぱいいっぱいで自分の容姿の事を忘れていたゲゲ郎は今思い出したと言わんばかりに声を漏らした。そんなゲゲ郎を見て水木は締まらねぇなと苦笑いを浮かべるのだった。
 


 
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