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も茶
2025-07-01 22:29:11
11813文字
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父水
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落ちた霹靂
懇切丁寧に父水になるまでのもだもだを書くシリーズの第2話です
今回、狐の窓という術が出てきますが本来とは少し違う使い方をしています。ご了承ください
また、水木の過去をちょっとだけ捏造しています
何が来ても気にしないもしくは逃げる事が出来る人向け
1
2
3
「
……
意外と便利なもんだな、狐の窓」
砂かけ婆が訪れた日から更に数日が経っていた。ねずみ少年に教えてもらった狐の窓は案外活躍してくれて怪しいと思う存在に使えば
忽
たちま
ち正体が解り、かち合うのを回避する事が出来た。
ねずみ少年が危惧していた鬼太郎の危険に関しても砂かけ婆が結界を張ってくれたのでそれほど心配する必要も無くなった。砂かけ婆からはあまり過信するなと釘は刺されていたので出来るだけ妖怪を避けるようにした。
そして今日も定時に帰った水木は帰路に就く途中で妖怪に出会したが、狐の窓で正体を知る事が出来た為対処する事ができた。
「ただいまー」
カラカラと音を立てて玄関の引き戸を横へと押し開いて中へ入る。昔から挨拶だけはキッチリするよう言われていたからか誰も居ない時でもこの習慣だけは止められなかった。
「おかえり、水木」
「!」
本来は砂かけ婆の声がする筈のその言葉はずっと聞いていなかった声で水木の耳に届いた。扉を閉める為に屋内に背を向けていた水木は閉め切った引き戸の鍵に手を掛けたまま固まった。
不在にしていたのは二週間程だろうか。長かったような短かったような。それでもなんだかその甲高い声が懐かしい気がした。
水木はゆっくりと振り返った。そこには夢でも幻でもなく目玉に身体が生えた小さな妖怪が確かに居た。
「めだまの
……
」
「長く不在にしてすまんかったのう。砂かけにちゃんと説明してから行くよう少し説教されたわい」
照れ臭そうに笑いながら言った目玉おやじに水木は近寄ると鞄を傍に置いてしゃがみ込む。そして指をデコピンの形に作ると目玉おやじを弾いた。
「あいたっ!」
「ばーか。訊かなかった俺も悪いが、いつ帰って来るかぐらいは言って行けよな。目玉だけで生きてるお前がどうにかなるとは思わんが心配はするんだよ」
弾かれた拍子に尻餅をつき、両手で弾かれた所を押さえる目玉おやじに水木はふんっと不機嫌に言うと立ち上がり靴を脱いで上がる。そのまま鞄を持ってスタスタと歩いて行く水木に目玉おやじは慌てて立ち上がり後を駆けて付いて行く。
「す、すまなんだ!どのくらい掛かるのか儂にも検討が付かんかった故、暫しと言っておったのじゃが
……
!」
「暫しってこんな長く掛かるもんか?二週間だぞ。俺はてっきり長くても一週間くらいかと思って居たんだが
……
。嗚呼、もしかして幽霊族的時間感覚か?」
嫌味っぽく言いつつも実の所、水木は怒っても不機嫌でもなかった。目玉おやじが帰って来た事が嬉しかったがつい、天邪鬼が出てしまって照れ隠しをしている。けれど帰って来る時期が解らない事を心配していたのは事実だった。だから少し意地悪をする事にしたのだ。
「すまぬぅ、水木ぃ
……
」
どこか泣きそうな声で言うものだから水木はぷふっと吹き出して足を止め振り返った。そんな水木の足に駆けていた目玉おやじは「わっぷ!」とぶつかり再び尻餅をつく。水木はしゃがみ込んで目玉おやじを片手に乗せた。
「いいぜ。じゃあこれでお相子な」
「お、おあいこ?」
「不可抗力とは言えお前を心配させた俺と今回帰るのが遅くなって俺を心配させたお前、これでお相子だろ?」
「ぅ、うむぅ
……
」
それとこれとはまた別だと言いたげに唸った目玉おやじは腕を組み、目玉の紅色を閉じて天井を仰いだ。しかし、少し考えた末にそうじゃなと渋々頷き紅色を開いた。
「確かに心配させた事に関しては同じじゃ。そこはお相子じゃな」
「含みのある言い方だなぁ」
苦笑いを浮かべつつ目玉おやじを手に乗せたままくるりと後ろへ振り返りまた歩き出す。居間へと辿り着くと水木は辺りを見回した。騒がしいという程ではないがいつもならある物音や気配が今に至っては全くなく、卓袱台の上には猪口と酒壺だけが置かれていた。
「静かだが鬼太郎と砂かけさんは?」
「ゲゲゲの森じゃよ。砂かけが積もる話もあるじゃろうと気を利かせてな」
「そうか」
気の利く妖怪だと思いつつ水木が卓袱台へと近付き手を近付ければ目玉おやじはぴょんっと飛び移った。
「呑むじゃろ?」
「ああ、もちろん」
とてとてと酒壺へ近付き手を添えて水木を見上げ訊いた目玉おやじに水木はニッと笑みを浮かべてネクタイを緩めた。
◇◇◇
「んまい!」
手早く夕飯を済ませ寝る準備まで終わらせてから目玉おやじが貰ったという酒で二人は縁側で一献交えていた。猪口の中身を一口呑んだ後、直様一気に飲み干した水木は目を輝かせた。
「そうじゃろうそうじゃろう。これ
も
・
良い酒じゃからの」
水木の反応ににこにこと嬉しそうにする目玉おやじは盃を傾けて夜露を飲むように酒を呑む。
この盃は目玉おやじが酒を呑めると聞いた水木が小さい身体では猪口は飲みにくいだろうと小さめの盃を買い与えた物だった。
「水木よ、これを」
「ん?」
盃を置き、上機嫌に酒を呑んでいた水木に近寄ると目玉おやじがある物を差し出す。小首を傾げながらそれを受け取った。
見ればそれは紅色と藍色が綺麗に入り混じる組紐だった。水木は目をぱちくりと瞬かせて組紐と目玉おやじを交互に見遣る。
「どうしたんだ、これ」
「言うておった妖怪避けじゃ。儂の霊力を込めておるからよく効くぞ」
「お前が
……
編んだのか?」
「そうじゃよ。身に着けやすいものであまり目立たぬ物にしようと思うての」
頷いて見せてくるりと踵を返すと盃まで戻って一口呑む。その間も目を丸くして水木は手の中にある組紐を見詰めていた。
「なんじゃあ、そんな驚く事か」
「い、いや、確かに驚いたが
……
大変だったんじゃないかと思って」
「む?」
水木の反応に不服そうにしていたがその言葉で首を傾げる。水木はその組紐を左手首に着けると掲げて月に照らした。
「その小さな身体で編んでくれたんだろ。そりゃあこんだけ時間が掛かっても仕方ねぇよ。詰めて悪かったな」
「水木
……
」
「ありがとう、目玉。大切にするよ」
「ッ!!?」
組紐へ注がれていた視線が目玉おやじへ向けられ、照れ臭そうにしながら嬉しそうににへっと笑って水木は感謝を口にした。普段の凛々しい顔とは違うその可愛らしくどこか幼げな笑顔に目玉おやじの心臓はドクンッと跳ねた。
ドッドッと脈打つ心臓に胸を押さえる。この感覚には覚えがあった。妻と過ごした時間で何度もあった感覚だ。しかし、相手は相棒であり唯一無二の人間の友人である。こんな事があって良いものなのか。
「
……
っ」
水木への恋心を自覚した目玉おやじはしかしその気持ちをグッと抑えた。水木の事は大切で友愛は確かにあった。それが恋心に変わったとて今の自分では到底相手にはされないだろう。墓場で交わした話からして恋愛には殊更自信の無い男に言っても冗談だと思われるのが関の山だ。
そう考えるとやはり身体を取り戻したくなる。この間戻った時に水木を抱えられたのには感動したものだ。未来を見る為に身体を捨てたというのになんとも未練がましい話だろうか。だが、この男を説得するにはそうするしか
……
。
「目玉の?」
「へ
……
?」
「なんか怖い顔?目?してたぞ。俺、何か気に障る事言ったか?」
物思いにふけていた目玉おやじは水木の声にハッとして目線を上げた。いつの間にか険しい目をしていたらしい。水木が不安げに見下ろしていて目玉おやじは慌てて笑みを見せた。
「いやいや、とんでもない!心配せずともお主は何も害しておらんよ」
「そうか?なら良いが
……
」
「うむ。水木や、それは肌身離さず着けて置くんじゃぞ」
「ああ、解ったよ」
目玉おやじの言葉を信頼している水木はその言葉に安心した顔をして頷いて見せた。それにホッと安堵した目玉おやじは額を拭う仕草をした。
危なかった。危うく思考の波に飲まれて自分本位な考えへ行き着く所だった。好きであるならば大切にしたいと思うのが自然で一方的なものであってはいけない。水木が儂の事をどう思っているかも解らないのに早計過ぎた。
しかし、水木も儂と同じく友愛はある筈。鬼太郎にだって愛情はある。なれば儂に懸想してくれる事もあるのだろうか
……
。そもそも儂はずっと友人として見ていた水木をそういう目で見れるのか
……
?
悶々と考えてチラリと水木を盗み見る。再度酒を呑み始めた水木は頬を赤くし、酒を味わい、呑む度に美味いという顔をしている。正直可愛いと目玉おやじは思った。
村の時から反応が面白い奴だとは思っていたし関わる時間が長くなればなるほど好感度は上がった。出逢ってからの短い日数で自身に相棒と呼ばせるくらいなのだから恋愛感情云々は抜きにしても特別で無い訳がないのだ。
恋心を自覚してしまえば水木の一挙手一投足全てが可愛く見えて来る。思い出の中にある行動も全て。
ふと、水木の顔を見ていた目玉おやじの視界に浴衣の衿元が目に入った。仕事着をキッチリと着ているせいか寝巻の浴衣ははだけ過ぎるくらいにゆるゆるでいつも胸がそこから覗いている。そんな衿元の奥にチラリと見えた物に目玉おやじは盃を手から落とした。
「ん、おい、大丈夫か?」
幸い中身は飲み干していて入ってはいなかったので辺りが酒に濡れる事はなかったがコトッという落ちた音に水木が目玉おやじの方を向いて首を傾げる。その動きに合わせて浴衣の布が動いてソレが見え隠れする。目玉おやじは思わずその小さな両手で目を覆い蹲った。
「は!?なに、どうしたんだ本当に!?」
「なんでもない!ちょっと目にゴミが入っただけじゃ!」
入る所どこだよ!?というツッコミに目玉おやじは返事をするが出来なかった。それ所ではなかった。
目玉おやじは確かに抱いたのだ。水木に対して劣情を。
裸だって見た事があったのに今になって何故そう見えたのか心中は驚きと戸惑いでいっぱいだった。恋心はこうまでして見方を変えてしまうのかとかつて妻に恋した時の事を思い出した。しかし、岩子とは自然といつの間にかそうなった所があったのでやはり現状との乖離に混乱があった。
「水木!!」
「はい!?」
勢いよく目を上げて呼んだ目玉おやじに思わず水木は上擦りながらも元気よく返事をする。むんっと立ち上がり水木の方へ歩み寄る目玉おやじは目をぱちくりとさせて驚く水木を見上げた。
「お開きじゃ、儂は寝る。水木も浴衣の前はきっちり閉めて早う寝るんじゃぞ!」
「お、おう
……
?」
普段は言わない衣服の指摘を勢いのまま告げると目玉おやじは寝所へと向かって行く。そこには呆然とした顔で目玉おやじを見送る水木だけが取り残された。
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