氷紀
2025-07-01 15:41:59
11967文字
Public 迷い込んだ彼らの話
 

それでも愛と呼べるなら 02

『迷い込んだ彼らの話』第二部。
CPは高沢+ゲタ墓です。
相変わらずの特殊設定が山盛りです。あくまでこの話のみの設定ですので、ご注意ください。



 全てのパンフレットを『読み』終わって、あの符と同じ気配があったのは、民俗学講座とフラワーアレンジメントの二枚だった。あの破れた符と全く同じ符の映像が、僕の脳裏に確かに映った……と玄藤さんに伝えると、玄藤さんは部屋に眷属を数体呼び出して、また様子を探ってくるように指示を出した。

 眷属へ指示を出し終えると、玄藤さんは僕に向かって軽く一礼した。
「ありがとうございます、高山さん。あなたの業は、やはり優れたものだ……墓場殿の気持ちが、少し分かる気がしますね」
「墓のが、僕のこと何か言ってたんですか?」
「高山さんのこと、というよりは……『同じ鬼太郎でありながら』と、何度かこぼしていたんですよ。本来こんなことは、私の立場で言うべきではないんでしょうが……でも、墓場殿とは長い付き合いです。つい情が湧いてしまいまして」
「確かに、元の世界に帰れば、みんな『鬼太郎』ですが……
「その名に意味があるのですよ」
 そう言って、玄藤さんはゆったりと笑った。
 付き合いが長い、というのは墓のからも聞いたことがある。狐としては珍しい気がした。妖怪でも神使でも、狐は利害損得に聡くて、欲や力の価値観ははっきりしていても、『情け』とか『慕情』とかには疎いことが多い。
「『鬼太郎』という名は、あなた方五名がそれぞれの世界において、幽霊族最後の一人、という宿命の持ち主であることを示します。同じ名と同じ血の持ち主……である以上、本来の魂に秘める資質の大きさは、ほぼ同じなのです」
 その声を聞きながら冷めた湯呑みを空にしたら、玄藤さんはお茶を淹れ直してくれた。さっきより少し苦くて、深い味。集中力のいる作業をしたあとだったから、一際深く、染み込んでくる気がする。
「けれど、それぞれの世界での在り方、生き方が行く末を分け、その結果があなた方五名の差です。そのうち墓場殿と、残る四名の、最大の差は何か? ……私のみたところ、『何を求められてきたか』です」
「どういう……こと?」
「私は……我が主から『輪廻を支える』仕事を託された関係上、どうしても見えてしまうことがありましてね。……もっとあけすけに言えば、墓場殿は、『己の存在を求められること』が、ごく少なかったのです」
 全然ピンとこない。
 というか、あまり考えたことがなかった。疑問に思ったこともなかった――
「元の世界において、ゲタ吉さんは親しい者たちと父親を支えるため、沢城さんは養親の教えと己の夢のため、あのちいさい子は父と養親たちの愛のため、そしてあなたは――妖怪の仲間たちと、仲間たちが生きる世界のために、己の力をふるってきたはずです」
「まあ、そうなる……のかな」
 即座に呑み込める話ではない気がした。
 だから僕はただ、玄藤さんの言葉を聞くだけだ。
「けれど、墓場殿はずっと自由でした。人間や妖怪と対立したり、巨大な敵を滅ぼしたり、誰かの為に血を流すようなことも、求められないまま……ただ生きたいように生きる、まさに妖怪のように自由な幽霊族だったのです。父親が姿を消すまでは。……彼が『力』を求めはじめたのは、そこから」
 言葉はふつりと、そこで途絶えた。
 唐突に部屋の襖が開いて、一つ声が割り込んできたから。

「あンまり高山に、余計なこと吹き込まないでくれます?」

 僕がとっさに振り向くと、あきれ顔の墓のが立っていた。その手に、玄藤さんが掛けていった、膝掛けを持って。
 玄藤さんは柔らかな苦笑を墓のに向けて、全く動じていない声で答えた。
「お目覚めですか、墓守殿。出しゃばりすぎかとは思いましたけれどね、高山さんにならいいでしょう?」
 数秒の沈黙。
 意味ありげな玄藤さんの笑みに、渋面を崩さない墓ののため息が続いて――
「高山。なんだか随分前にも似たようなこと言いましたけど……今の話、ゲタのには絶対言わないでくださいヨ。あいつ、知れば知っただけ全部、背負い込んじまうから……
 無言で頷く僕をよそに、玄藤さんは机の上にあるパンフレットを二枚、墓のに向かって軽く掲げてみせた。
「そのゲタ吉さんを助けに行くんでしょう? 高山さんのお陰で、絞れましたよ」
 墓のの表情が変わる。
 端から見れば、何の変哲もないパンフレットにしか見えないけれど、それは僕が引いた『当たり』の二枚だ。
 その二枚を目にして、墓のは何か納得したようだった。