呪里
2025-06-25 19:25:14
9123文字
Public Code_Abyss 小話
 

〈貴方の前では 今でも〉

熱を出した呪里の小話

 ピピピ ピピピ

 右脇に挟んでいた体温計が鳴った。

 重たい体を動かして結果を確認すると、三十八度九分。

 見事に熱を出している。

 「うわ

 呪里は大きなため息をつきながらベッドの
上で仰向けの姿勢になった。

 ここ数日、家に帰らず休む間もなしに働きっぱなしだった事が仇となったのか、遂に限界がきたらしい。

 (熱をだすなんて何年ぶりだろう)

 自慢では無いが、呪里は無駄に健康なのが取り柄だ。

 過去に流行病はやりやまいが組織内でも発生した際、幹部四人が感染しても自分だけが無事だった事もある。

 「お姉ちゃーん、どうだったー?」

 先程体温計を持ってきてくれた憐が部屋に入ってきた。

 「これ」

 呪里は体温計を憐に手渡す。

 「どれどれ〜?」

 憐は受け取り液晶画面を確認すると、目を丸くして驚いた。

 「えっ!すごい高熱じゃん!大丈夫?!」

 「咳とか鼻水とかは無いから心配しないで」

 ワタワタと慌てる憐を横目に、呪里はベッドのそばに置いておいたスマホを手に取る。

 (今日休むってあの子らに伝えとこう……

 トークアプリを開き、自分を含む上官五人のグループチャットに書き込みだす。

 『熱出て起き上がれんから今日休む。ごめんね』

 すると

 ピコン

 送信して一分も経たずに誰かから返信が返ってきた。

 (……類から?)

 送られてきた内容を確認しようとすると

 ピコン ピコン ピコン ピコン

 確認する間もなく溢れんばかりにメッセージが送られてきている。

 (ちょっ、ちょっと待って……)

 急いで再びグループチャットを開くと、類から大量の心配するメッセージが送られてききていた。

 『熱でちゃったの?!大丈夫?!』

 『だるさとかはある?倒れたんじゃないよね?』

 『食欲は?何か食べられそう?』

 などといったメッセージが山のようにきている。

 間に他のメンバーからはもちろん心配の声は出ているが

 『類、ちょっと落ち着きなさい』

 『心配なのは分かるけど一気に送りすぎや』

 『今はそっとしてあげろ』

 などと類をなだめるメッセージがちょくちょく混ざっていた。

 周りからの冷静さを取り戻したのか、類からの怒涛のメッセージは一瞬だが止まった。

 ピコン

 五分程経つと、再び一件のメッセージが届いた。

 (……なんだ?)

 画面を見ると

 『今から行くから、横になって待ってて』
 
 そう類から送られてきた。

 (なるほど今から………

 数秒考えた後

 「えっ今から?」

 呪里は目を丸くした。

 類の家からでも、本部から直接来るとしても、呪里達の家までどれだけ早く来ようとしても二十分程かかる。

 「憐、私はいいから学校行きな。類が来てくれるみたいだから」

 呪里は、心配そうな顔をしてこちらを見つめる憐にそう声をかける。

 「そう?るいさんが来てくれるなら大丈夫だよね。お医者さんだもんね」

 「ん。あの子になら安心して診てもらえるから……………?」

 言い終わる直前、呪里と憐はベランダに気配を感じた。

 「…………お姉ちゃん」

 「いや……まさかね……

 互いに目配せをしつつ、憐はゆっくりと窓のカーテンを開いた。

 すると

 「うわっ?!」

 髪が乱れ、息切れを起こした類がベランダに立っていた。

 「る、るいさん!来るならせめて玄関からにしてください!」

 「え、気にするとこそこ?」

 憐に叱られしょぼんとする類。

 「憐、開けてあげて」

 「あっ、うん」

 憐が鍵を開けると、類は靴を脱ぎ、小さく会釈をしながら部屋に入ってきた。

 『ボス大丈夫?』

 「うん大丈夫っていえば大丈夫なんだけど、随分早かったね」

 『そりゃあボスの一大事だもん。ハーフとはいえ、エルフの身体能力を舐めないほうがいいよ?』

 類はニコニコしながら答えた。

 エルフの種族は、他の種族と比べても身体能力が高いのが特徴だ。

 純血ではないが類にもエルフの血は入っているので、脚力などは幹部の中でもトップクラスを誇る。

 『本気だしたら獣の姿の荊にも勝てちゃうかもね?』

 類はくすくすと笑った。

 「そうだね。……憐、類来たからもう大丈夫。学校行っといで」

 「うんわかった」

 憐は少し不安そうな表情のまま、カバンを取りに自室に戻っていった。

 「類」

 『ん?なぁに?』

 「私の代わりに憐を玄関で行ってらっしゃいって送ってあげてくれない?」

 類は一瞬キョトンとしたが、すぐに先程までの優しい表情になった。

 『もちろんいいよ。じゃあちょっと行ってくるね』

 乱れた髪を整えたのちに、類は呪里の部屋を後にした。

 (…………はぁ)

 類が来てくれてから数分も経っていないのに、体の内側にどっと疲れを感じた。

 (しばらくこのだるさ続くのかなしんど)

 呪里は天井を眺めながら、軽いため息をこぼした。