orikoriko1125
2025-06-18 10:23:54
7672文字
Public カキゼイ
 

〇〇の日まとめたの

キスの日 プロポーズの日 恋人の日のカキゼイ
1話目以外は未来設定の捏造しかないよ!!
書き下ろした3話目だけいきなり事後スタートなのでR15くらいです 
本当にすみません

※コアルヒーの背中に水=like water off a duck's back(アヒルの背中に水をかけるようなもの、何の効果もない)


未編集の心を渡る

「なんであの時見てたんだよ」
 そんなこと聞かなければわからないのか。あまりにも腹が立って、さぁねと答えたら拗ねたのには今でも納得していない。

 誕生日だから食事に行こうと言われた、多分。なんせ先ほどまでこの男の上に乗って下になって、好き放題されていたのでもう半分ほど意識は夢の中に来ていたから。
「わかった」
 カキツバタの指が髪の間を通っていくのが心地よくて、ますます夢へと道のりが近くなる。この男、惜しみなく愛を降らせ続ける癖に、こちらからの愛はいつも疑ってかかるのが未だに理解できない。こちらから何を言っても暖簾に腕押し、こういうのイッシュでは何と言っただろうか。
「コアルヒーの背中に水……
「は?」
 思い出せてよかった、何か聞かれた気もしたけれどもう半分も夢へ向かうことにした。

 誕生日のお祝いメッセージに紛れて、かつての恩師からの「今朝パルデアへ到着するよ」という目を疑う内容が、全てを打ち消す勢いで脳に流れてきた。母校のあるイッシュからパルデアの大穴への調査へと、彼女が来るたび案内役、護衛、そして研究の進捗まで聞かれるため必ず行かないといけない。スルーなんてできないのだ。カキツバタだってわかってるはずなのに。
「へーへー、先生によろしくな」
 約束までには帰ると言ったのに、いつも通り拗ねた空気は隠さない。誕生日に思ってもいなかった仕事に駆り出されたゼイユだって、拗ねて駄々をこねたいくらいには今日を楽しみにしていたから。

 意外にもスマホの電波の入る、ここパルデアの大穴。届いたメッセージには食事をする予定の店が壊れて、営業ができなくなったという信じがたい内容だった。
……そんなことある?」
「どうしたんだい?」
 見た目も探究心も変わらない恩師は、ゼイユのグラエナと共に成果物を大事そうに掲げ、戻って来る。まるでポチエナのような様子に思わず笑ってしまった。
「今日食事する店が壊れたみたい」
 客同士のポケモン勝負は、しおづけにされたカマスジョーがひんしで終わったところまではなんとか理解した。メインは魚にしようと決めていたから、美味しそうな結果に残念な気持ちがまた強まる。
……ゼイユくん、確か今日誕生日だったか」
 このテラスタルバカの恩師が、かつての助手の誕生日を覚えていた事に驚く。そして珍しく申し訳なさそうに頭を抱えた。
「そうですけど?」
「本当にすまなかった……もう帰宅したほうがいいと思う」
「はぁ!? さっきまでいつまでいられる? とか聞いてきたのに!?」
 ブツブツ言い始めたブライアを見ながら、先程相談した予定を振り返っても今すぐは無理だ。それに予定も無くなったならば、慌てて帰宅する必要もない。拗ねたカキツバタの背中なんて何十回も見ているんだから。
「可及的速やかに進めよう、カキツバタくんには申し訳ないことをしたね……
「いや、あたしにももっと謝ってよ!」

 本来の予定より早く帰宅すれば件の男は、モルペコと夢境の住人となっていた。
 寝ているときは随分と静かなので、いつも呼吸を確認している。薄い瞼の血管の色を眺めて、いつだかの夜のように今度はゼイユがふわふわの髪に指を通す。これは触る方も気持ちがいい。
 なぜか三年間も一緒に過ごして、恋人として一緒にいるのに何を疑うことがあるのか。本当になにを考えているのか、わからない。形の良い耳に「大好き」と残して立ち上がる。先程貰ったバラに早く水をやりたかったから。
 宝食堂で頼んだものを待つ間に、アオキのジム戦を見学しているとカウンターに大振りな花が生けてあることに気がついた。知っているバラより花弁が多く、華やかなそれはオールドローズというのを教えてもらい、おにぎりと共に一輪手渡されたのだ。妙な組み合わせではあるが、家に花があるなんて悪くはない。
 花瓶が家にある覚えは無かったのに、こうなることがわかっていたように洗面所にはクリアガラスの円柱が待っていた。一輪刺すには大き過ぎるがありがたく使わせて貰おう。

 退屈だった映画のエンドロール。数年ぶりに見ても、最後のシーンで出てきたドルチェは美味しそうだった。誕生日なのにケーキを買い損ねたのが、気絶しそうなくらい悔やまれる。せめてアイスくらい買いに行こうと、声を掛ける前にカキツバタが立ち上がった。何も言っていないのに、買いに行ってくれるとはさすが我が舎弟……いや恋人だと見送る。なのにあっという間に戻ってきた。
 左手に下げたものがアイスじゃないことは、ゼイユにもわかる。小さな頃に絵本で見た王子様のように、膝を着いて小さい箱を開いた。今日食事に誘われたのも、ブライアが今すぐ帰れと言った意味にも今更気がついて、もしかしたらこういう所がいけなかったのかもと今際に気がつくとは。
「ゼイユ、オイラと結婚して下さい」
 リングピローに鎮座する、四角い多面体の指輪。誰よりも綺麗で光輝いているものは見ていたはずだけれど、これが一等美しく見える。だけど遂に愛を形にしてきたカキツバタに、またしても先を越された気分になった。
……はい。お受けします、って言いたいけどちょっと聞いて」
「っ、先に確認するけど、そりゃ返事はオッケーってことでいいのか!?」
「いい! ……でもあんた、あたしの愛をもっと信じなさいよ」
……あい……
 部屋着の王子様が呆けた顔で見上げてくる。こういう顔はかわいいなと、こんな状況でも思ってしまう。
「このあたしが、カキツバタのこと大好きって言ってるんだから、いい加減わかって。あんたそこまでバカじゃないでしょ」
「わかってるって……
「この際言うけど、あのときカキツバタを見てたのは、ずっとあんたが好きだったからに決まってんでしょ」
 放課後の部室でタロと話したこと、成り行きで言わなくてもいいことを言ってしまった。けれども、少しでも意識してもらえるのかもしれないと思ったら、いつもは恥ずかしくて合わせられなかった目を見れたのだ。まさかつられてくるのは考えてもいなくて。
……信じてねえわけないって、ただ分量が違えだけだろぃ」
「まだそんなこと言うの? ……あたしがカキツバタを幸せにしてあげるんだから、素直に感謝しなさい」
 白熱していたら眼下まで迫っていた顔は、珍しく動揺している。けれど数度瞬きをすると、いつも通りのなにを考えてるのかわからない顔で諸手を上げた。
「は〜かなわねえな……。じゃあよろしくたのむぜ」
 箱の中で出番を待っていた指輪がやっと、ゼイユの薬指に収まる。サイズも好みにもピッタリなのがまた悔しい、それよりも苦しいくらいには嬉しくてしばし見惚れる。これにしてよかった、という呟きにありがとうの代わりに唇を重ねた。
 
 予定していたプロポーズの話を聞いて、分量が違うはあながち間違っていない気がしたけれど。