ろころころ
2025-06-17 00:12:12
6054文字
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リグテレオンの事件簿 その1



「借金取りに攫われた娘のイーブイ……ですか」
「母親のエーフィがお金を借りてたらしいぞ!返されないから子供のイーブイが攫われたちゃったんだな!」
「はぁ」

この鳥が窓からブレイズキックで突っ込んできたのは数分ほど前の話だ。リグはスウェットにノーメイクに眼鏡と、この世の終わりのような服装で毛布にくるまったまま大音量で愛しい恋人の奏でるロックを流していた。そんな安寧をぶち破ってくるのがこの破壊神で、もはやこうした彼のアメコミのような登場の仕方も慣れてきていた。ふざけるなど言いたいのはいつもの事だが。

入るやいなや彼が差し出してきたのは、一通の手紙。そこにはイーブイの少女の写真が同封されており、手紙そのものは依頼内容を表したものだった。

手紙の内容を要約すると、借金が残っていた母親のエーフィの元に痺れを切らした借金取りが押し寄せ、返済の代わりにと娘のイーブイが攫われてしまった──────


「自業自得じゃないですか?」
「うーん、そうか?そうかもしれないな!」
「貴方なんでコレ、貰ってきたんですか」
「ポケットティッシュかと思ったんだぞ!」

ポケットティッシュなら欲しいのか?とリグは思った。

こうした借金の話はリグとてよく耳にする。無知な人々は大抵に至って借金取り側の非道なやり口を悪く言うだろうが、実際はそんな簡単な話ではない。契約の際にこうした「返済方法」が記述されていたのであれば、あくまで借金取り側は契約通りの対応を行ったまでということになる。反対に記述されていないのであれば、それは警察に持ち込んでもらうのが一番なのだが大方対応されなかったというところだろうか。

「シャモ、貴方ならどうしますか?」
「えっ?俺が攫われたら?殴るぞ!!!」
「誰が貴方みたいな野蛮な焼き鳥を攫うんですか。貴方ならこの依頼を引き受けるか受けないかです」

シャモは丸い目をぱちくりとさせた。

「えー!めんどくさいぞ!」
「ちょっと、勝手に寝っ転がらないでください」
「へぶっ」

クッションを投げ飛ばしたリグは、空いた手で端末を触る。ふとチャットの通知に目がとまる。可愛い恋人の兄弟が隠し撮りした可愛い恋人の写真が送られてきていた。

「はいアルカさん天才〜」
「なんだ?」
「なんでも。私のアリルさんが可愛いって話です」
「んー?あ、そうだったぞ!さっきの手紙の写真あるだろ?あれさーネルとアリルのポスター写ってるんだよな!二人は有名人だな!」
「はい?」

アブソルのネルは、リグがこよなく愛するバンドグループ『Ljud』のボーカルだ。まさか依頼人も同じ界隈のポケモンだと言うのか。
リグは無造作に置いていた封筒を、もう一度手に取る。同封されていた写真を確認し

「えっ待ってください、コレあれじゃないですか!先着5名限定の全メンバーのサイン入りポスター!めちゃくちゃレアなヤツじゃないですか!?それを何故、反社から金借りないとやっていけないような底辺層が持ってるんですか!?」
「ん?」

シャモは首を傾げたが、リグはもう一度手紙の内容を読み漁った。


"娘を助けてくださったのなら、どんな方法であれど必ず報酬を支払います"



「──────わかりました。やりましょう、シャモ」
「うん?なんだ?」
「こんな泥沼にアリルさんのサイン入りポスターを残しておくだなんて心が痛みます貴方だってネルさんのポスター欲しいでしょう?」
「ポスター?紙じゃないか!俺はポケットティッシュの方がいいぞ!枚数が多いからな!」
「わかりました、ティッシュ一枚一枚にネルさんの顔を印刷したポケットティッシュを作ってあげますから来なさい」


こうしてリグは立ち上がった。
一匹の可哀想なイーブイを助けるために。