たかせ
2025-06-16 10:57:39
6427文字
Public ロウリン小話
 

海賊衣装小話まとめ


海賊衣装発表時にテンション上がって書いた小話3本

ページ1・・・面影(着替え中のロウとリンウェルの会話。漫画の元になった話)
ページ2・・・なってよねとは言ったけど(絵から派生。ネヴィーラ雪原に宝探しに来た話)
ページ3・・・熱源(外套着てるなら一度は、と思って書いた話)

ロウリンというかロウ+リンウェルというか両片思い一歩手前……?くらいの感じです






■熱源





目の前をごうごうと音を立てて風が通り過ぎていく。
洞窟の入り口でその光景を眺めていたロウは、思わず眉根を寄せて白い息を吐き出した。
「まいったな」
ロウの視界に広がるのは、地平線と空の境目すらわからない、真っ白な世界。
朝から降っていた雪が急速にその勢いを増したのは半刻ほど前のことだった。


フルルが拾った地図を頼りに、ロウとリンウェルは雪のちらつく中ネヴィーラ雪原にやってきていた。“お宝さがし”というちょっとした冒険のためだ。
歩き慣れた道に足取りも軽く、ズーグルの襲撃もまばらで、道中はいたって順調だった。
――この急な天候の変化がなければ。

まずい、と思った時には遅かった。あっという間に視界が悪くなる中、どうにかこうにか洞窟に逃げ込めたのは不幸中の幸いだったのだろう。
お天気大丈夫そうだったのに……と空を見上げたリンウェルが不安そうに唇を引き結ぶくらいには、ひどい吹雪だった。いくら雪国に慣れているとはいえ、さすがにこの猛吹雪の中突き進むほど無謀でも無知でもない。
とにかく吹雪が弱まるまでは待機しよう。そう判断した二人は、道中の疲れをとることも兼ねて洞窟で休むことに決めたのだった。


――それからおよそ半刻。残念ながら吹雪が止む気配はない。


目を凝らしてみても視線の先には白以外何も見えない。鼻の頭を赤くしたまま、ロウはもう一度小さく息を吐き出した。
その時。

「っくしゅん」
洞窟の奥から小さなくしゃみが聞こえてきて、ロウは振り返った。
転がり込んだこの洞窟は決して広くはなかったもののカーブを描いて奥へ細く続いており、風をしのぐには都合がよかった。ロウは振り返ったそのまま洞窟の奥へと戻ることにする。


少し曲がった先のくぼみでは、リンウェルが膝を抱えてうずくまっていた。
「やっぱ消えちまったか」
「うん……しょうがないけどね。ここ、燃えそうなものなんてないし」
足元に転がる石ころをつつきながら、リンウェルが外套をかき寄せて呟く。彼女の目の前には先ほどまで小さな火がついていた証拠に、少しだけ灰が残っていた。

慌てていたのだから仕方のないことだが、逃げ込んだここに草木の類はなく、石と土と雪があるだけだった。ロウも火種になるものは持ち合わせがあったが、普段はそこから現地調達で枝木を補充していたため、起こすことができたのは焚火と呼ぶのもはばかられるような小さな火だけだった。
それでも先ほどまではリンウェルが持っていた紙類を泣く泣く火に放り込んで繋いでいたはずなのだが、どうやらそれも尽きたらしい。他に燃やせるものも無くはなかったが、それには別の用途がある。これ以上はどうしようもない。

「まあ、仕方ねえよな」
どかりとリンウェルの隣に腰を下ろしてロウも思わずため息をつく。風は多少しのげても地面や岩壁から伝わってくる寒さがなくなるわけではないのだ。案の定吐き出した息はここでも白いもやをつくった。
「大将がいれば何かこう、レナの技術で何でも取り出せそうなのにな」
「何でもってわけじゃないと思うけど」
いつものように呆れて相槌をうちながら、リンウェルは足元から這い上がってきた寒さにふるりと体を震わせた。ふわふわの襟巻に鼻までうずめるようにして膝を抱え込むと、外套の合わせから顔だけのぞかせたフルルが心配そうに見上げてきた。
やわらかくてあたたかいその頭をそっと撫でながら、リンウェルはロウに気づかれないようにため息をこぼす。
(寒さには強い自信あったのになあ……
温暖なメナンシアの気候に慣れすぎてしまったのだろうか。


何とも言えない気分にひたっていると、ふと隣で動く気配があった。
それと同時にふわりとあたたかいものに包まれる。
驚いて顔を上げれば、自分の肩に藤色の外套がかかっていた。かわいい狼の襟巻付きだ。
え、と視線を向けた先で、ぱちりとロウと目が合う。
「多少はマシだろ」
言われてリンウェルは自分の外套の上からさらにかけられたロウの外套に視線を落とした。
確かに。一枚増えただけでもだいぶ温かく感じるような気がする。肩や背中から熱が伝わってくるのは、ロウの温度が残っているからかもしれないけれど。
「そ、それはそうだけど……!いくら何でもあんたが風邪ひいちゃうじゃない!」
そのあたたかさに一瞬ほっとしたリンウェルだったが、慌ててふるふると頭を振ると、藤色の外套に手をかけた。気持ちは嬉しいが、さすがに自分だけぬくぬくしていられるほど薄情ではないつもりだ。
だがロウはからりと笑って、そんなリンウェルの手を軽く押しとどめた。
「大丈夫だって。そんなにやわじゃねえし。それにいつもの胴着に比べりゃ外套なんてなくたって十分厚着だっての」
「それは……そうかもしれないけど……
「それにお前と違って鍛えてるからな。知ってるか?筋肉ってあったかいらしいぜ」
いつもと違ってシャツに覆われた腕をぺしりと叩いて得意げに見せつけてくるロウ。もちろん知識としては知っているし、ロウが言うように、研究にこもりがちな自分よりも彼の方が何倍もたくましいのも事実だ。
ロウの言うことは恐らく何も間違っていなくて、外套を掴みかけた手が止まる。
「フルルもその方があったかいだろ?」
とどめとばかりにフルルの名前を出されれば、リンウェルは口をつぐむしかなかった。
それでもやっぱり気になってしまって若干唇がとがってしまう。平気と言いつつやっぱり彼が吐き出す息は真っ白だし、鼻の頭だって赤いままなのに。


リンウェルが唇を閉じて黙り込むと、ロウはどこかほっとしたように息をついた。「早くやまねえかな」と姿勢を崩してすっかり待ちの体勢だ。
被っていた帽子のせいか、はたまた雪にぬれたせいか。珍しく前に降りた前髪から覗くその横顔をリンウェルは黙ったままじっと見つめて考える。

――ねえ、知ってる?」
「ん?」
「こうやって衣服を重ねると、布と布の間に空気の層ができて熱が逃げるのを妨げるんだって」
……お、おう?」
「体温で温められたあったかい空気が布の間に閉じ込められて逃げにくくなるの。だからあったかいんだよ」
「お、おお……?」
言葉を追いかけながら考えているのか、いささか困惑気味に頷くロウ。その翡翠色の目を正面から見返して、リンウェルは続きを口にした。

「だから、ほら、ロウも」

言いながら、外套の合わせを開く。突然冷気にさらされて驚いたのか、フルルがぴん、と羽を立てたのが視界の端に映った。目の前のロウも驚いたように目を見開いている。
「は?」
「筋肉いっぱいのロウはあったかいんでしょ?だったら、一緒にくるまった方がみんなあったかくなるんじゃないかなと思って。だから、入って」
「はあ!?」
「熱源は多い方がいいってこと!」
「熱源って俺かよ!?」
「そう言ってるじゃない」
「いや、そもそもそういうことじゃなくてだな!」
素っ頓狂な声を上げて狼狽えるロウを視線でとらえたまま、リンウェルは「ほら」と外套の端を握ったままもう一度腕を広げて見せた。膝の上ではフルルが二人の顔を忙しなく交互に見上げている。
ロウがリンウェルの顔を見て、その腕のつくる小さな空間を見て、もう一度リンウェルを見た。彼の耳のあたりがじわりと赤くなっていく。あれはきっと寒さのせいじゃない。
でも、リンウェルは気づかないふりをした。
これ以上待っていたら自分の頬にも熱が上がってきてしまいそうで、早口にロウを急き立てる。
「ねえ、早くしてよ、寒いんだから!」
――っ、わかったよ」
最終的に頷いたのはロウだった。純粋にこれ以上リンウェルとフルルを寒さにさらすのはよくないと判断したのかもしれない。

ロウは少しだけ距離を詰めて座り直すと、リンウェルの手から藤色の外套の片方を受け取った。そのまま手を返してぐるりと自分の肩に回し、何とかその中に納まろうと身じろぎする。服越しに二人の腕が触れ合った。
「お、確かにあったかいな」
思わず、といった様子で感想を呟いたロウの声が予想以上に近くから聞こえて、リンウェルは反射的にぴくりと肩を揺らした。当然ぴたりと寄り添っているロウにもそれは直接伝わってしまう。
「悪い、寒いか?」
それを震えと勘違いしたのか、ロウがリンウェルの顔をちらりと覗きこむ。逃げ場のない外套一枚の中で急激に体温が上昇するのを感じながら、リンウェルは慌ててふるふると小さく頭を振った。
「う、ううん。大丈夫。むしろ熱いくらい。ロウ、ちょっと熱すぎない?」
「え?そうか?つーかそれを言ったらお前も結構熱い気がするけど……
怪訝そうにそう呟いたロウと、唇を引き結んだリンウェルの目が至近距離で見つめ合う。あれほど寒かったはずなのに、もう寒さなんて感じない。二人分の体温のおかげか、それとも。

吐息すら聞こえそうなその距離の近さに、先に限界を迎えたのはリンウェルの方だった。

――ちっ、近い!!」
「フルッフー!」
「痛ってえ!!」

耐えられなくなったリンウェルの手がロウの顔を押しやり、大事な家族がいじめられたと思ったフルルの威勢のいい一撃がロウの髪をむしった。
「お前が入れって言ったんじゃねえか!」
「げ、限度ってものがあるでしょ!馬鹿!!」
「いやこの中で距離取るとか無理だろ!」
外套一枚の中、精一杯の距離をとって叫ぶリンウェルに、ロウはどうしろってんだよ!と悲鳴を上げつつ、どこかほっとしている自分がいることを自覚していた。




この距離はまだ、お互いに心臓に悪い。