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eclipsis
5456文字
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ローロビ
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染み込む薄荷
短編三つ。付き合ってたり付き合ってなかったりな二人
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【二人で踊る話】
ワノ国は今日も、そこら中で祭りをしている。デカい戦が終わったのがほんの数日前。長い間抑圧されていたのが解放され、それに加えて住人たち元来の祭り好きが合わさっているようだ。昼でも夜でも、何処かしらで人々が集まり騒がしくする。浮かれた喧騒は転じて、そこから抜け出すのに都合が良い。二人ぐらい姿が見えなくても、喜びと楽しさに酔う人々は気にかけないのだ。おれとロビンの二人が消えても。
おれ達は人里近くの小山の上にいた。日はとっくに暮れて暗い中、小山の裾野で祭りの篝火が灯っている。人々が篝火を中心にして踊っている様は小さな人形のようだった。おれ達のいる頂上からはその姿がよく見える。時々、夜風に乗って祭りの音楽が届く。それ以外は虫の鳴く音と二人の足音だけで、この小山は静かだ。
……
また夜風が吹いた。涼しい空気が滑っていくように、おれ達の間を無言で抜ける。ロビンの着物の袂が揺れた。そこから覗いている手の白さは月の光に似ている。おれはロビンの手を握りたくなった。
声もかけずにロビンの手を取り指を絡ませた。ロビンが一瞬目を丸くして、おれの事を見る。だがすぐに目元を綻ばせて口を微笑の形にする。視線は逸らされて裾野の祭りを見ているが、絡んだ指をゆっくり握り返していく。ロビンが照れているときの仕草だ。冷静な女の顔つきが仄かに変わるこの瞬間が好きで、おれはじっとロビンの横顔を見た。今夜のロビンはポニーテールをしている。すっきりした横顔の綺麗な線がより際立っていて、いくらでも見ていられる気がした。すると、祭りの方ばかり見ていたロビンが急におれと目を合わせた。
「あなたってこういう風に踊ったことある?」
ロビンは顔をこっちへ向けたときに、おれのもう片方の手を取っていた。問いかける声は何だか無邪気で、向き合って手を繋ぎ二人で輪を作っているような今の格好がお遊び染みてきた。
「
……
あんな感じか?」
少し出鼻をくじかれた気分で、おれは祭りの方を顎でしゃくり指し示した。人々が手を頭の上やら横でバタつかせて踊っている。酔っ払ってまともに立てない奴は手を取り合って踊っていた。
「あら、フフフッ! 変なタイミングで訊いちゃったわね、ごめんなさい。あの踊りも可愛いけど
……
ほら、似たのでキャンプファイヤーってあるでしょ? あれもこんな風に踊るのよ?」
ロビンが少し眉を下げた笑みをして喋る。擽《くすぐ》ったそうな表情は恥じらいと上機嫌が見て取れた。繋いでいる手をゆらゆらと振って踊りの真似事をする。まるで少女のようだ。ロビンのこういった一面もおれは好きで、手が揺れ動くまま踊ることにした。ゆっくりとターンをしたり、手を交差させてお互いの体を寄り添わせる。ちゃちな踊りで足元に生える草がカサカサと鳴るのがムズ痒かった。それ以上に音も無く、この場はやはり静かだ。すぐ傍のロビンと二人だけ。しかしおれの頭は、ふと遠い心地を感じ始めた。
「こんな風か
…………
そういえば子どもの頃にやった事がある」
遠い昔、妹のラミと一緒に教会のレクリエーションへ参加した。そこでは近所の子ども達も集まっていて、親睦を深めるための一環として踊りがあった。おれは正直踊りたくなかった。それよりも参加後に配られる菓子に目が眩んでいた。ラミは『お兄さまと踊りたい』と、おろしたてのワンピースを着て張り切っていた。
踊りは男女分かれて輪になり順番に相手をするものだった。おれは終始おざなりに済ませて、ラミはと云うと時間切れでおれと踊れなかった。その日の帰路は、むくれた顔のラミが『お兄さまと踊りたかったのに』と言っていた。おれは貰った菓子を全部ラミにやった。
おれは過去の出来事をかい摘んで喋った。ゆったり踊っていると口が自然に動いていた。一緒に踊るロビンは優しく笑っている。
「可愛い妹さん」
夜風に紛れるような声色でロビンが呟いた。肌をすり抜ける涼しい風とは違い、温かみのある声はおれの鼓膜にずっと残る。足元の草が、ふと無言になった。おれ達はどちらとも無く立ち止まり向き合っている。目の前の青い瞳を見つめると、ロビンは不意に顔を逸らし裾野の方を見始めた。
「
……
音楽が
…
」
ロビンがぽつりと声を出し、おれも裾野の方を見た。いつの間にか篝火が弱々しくなっている。どうやら祭りがお開きになり、後片付けを始めているようだった。あんなに集まっていた人々は点々と消えていき、音楽も演奏する者の影すら無い。
おれは視線をロビンへ戻した。見惚れた横顔が目の前にあり、繋いでいる手を思わず強く握った。ロビンは何かを呑み込んだように細い喉元を引き攣らせた。そして長いまつ毛を伏せて、空気を含ませる瞬きをする。
今さら、ラミの気持ちが解ったような気がした。祭りもお遊びも終わる。時間はあっという間に過ぎていき、気持ちばかりが焦がれる。だがこの気持ちはラミのものとはきっと違う、優しく繋いでいた手を強く掴む気持ち。感情が激しく明滅している。掴んだロビンをこのまま奪い去りたい。おれ達それぞれの船出はもうすぐだ。次はいつ会えるかなんて解らない。
「
……
もう少し、このまま踊ろう」
「
…………
お手柔らかにね」
自分の張り詰めた空気を抜くのと共に、ロビンの手を強く握った力を緩めた。おれの出した声は存外に湿っていて、紛らわすために他愛ない踊りを自分から誘った。ロビンはそんなおれに身を寄せて腕の中へ収まった。そして繋いだ手を外して、おれの胸元へ手を置く。そっと置かれたそれが服を強く掴む動作に変わった。
おれはロビンを抱きしめ、ゆっくりと踊り始めた。足元の草がカサカサと囁く。虫がリリ、リリと伴奏をしている。
おれはロビンと二人きりで、ずっと踊っていた。
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