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eclipsis
8629文字
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ミホペロ
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短編詰め合わせ
日常的な話の詰め合わせ
1
2
3
ペローナは好奇心旺盛な娘だ。
彼女が居候している城は広くて大きいが、意外とつまらない。主のミホークは好奇心とは真逆のような男だし、歴史ある立派な城はその実、過去の栄華が煤けてしまっている。
要するに、シッケアール城はペローナの好奇心を刺激するものが少ない。
じゃあ、それをどう呼び覚ますか。答えは自然に一つしか無くなるのだ。
*
何もコレに興味を持つことは無いだろうと、ミホークは思った。
ペローナは好奇心旺盛で割と多趣味な娘だ。この城に来てそうなったのかもしれない。
何せ娯楽の無い城だ。ミホークがペローナの趣味に付き合う事は無いから、ペローナのそれは自ずと一人で出来る事になる。
城の探索が、そうだろう。広い城内を飛び回って何か面白いもの、好奇心を擽るものは無いかと、時々彷徨っている。
それで見つけたのがコレか。とミホークは知らず溜息を吐いた。
「スリラーバークにも沢山あってさ、何か懐かしくなったんだよ!」
ペローナはオモチャを手に入れた子どものように説明する。ワクワクと楽しそうに、そのオモチャ
――
棺桶を見下ろしていた。
シッケアールは内乱で果てた地で、戦火の名残はこの城にも未だある。ペローナが見つけた棺桶もその一つで、今は静かに倉庫の床へ横になって眠っていた。
普段は行かない城の外れへ着いて来いと騒ぎ立てられ、今度は何を見つけたのかと思えば。この娘は変わっている。
ミホークは呆れたように腕組みをして、隣の娘を見咎めた。
「な、これって新品?もしかしてもう先客が居たり
…
?」
ミホークの少し非難めいた視線を全く気にせずにペローナが問う。すっかり"オモチャ"に夢中だ。
「
……
蓋が開いているだろう。誰も入ってないし、見たところ損傷もない。新品だな」
流石の観察眼でミホークが明確に答えてやる。それに安心したのかペローナが棺桶に近づいた。隣にしゃがみこんで、しげしげと中を覗く。
「
……
私、この中に入ってみたいなぁ」
棺桶を覗いたままで丸い桃色の頭がそう呟いた。ミホークは黙ってその小さな頭を見下ろしていると、不意に娘が振り返って視線がかち合う。丸い双眸が何やら煌めいている。ミホークは少し嫌な予感がした。
「鷹の目、一緒に入ってくれよ」
「断る」
間髪入れずに拒否をすればペローナがエェ~~?!と甲高い抗議の声を出した。ミホークの予感は的中した。勿論、娘が金切り声を出すことも込みの事なので、彼の耳は既に指で栓がされていた。
「一人で入んのは何か、その、怖いのに!ね?お願い!この棺桶、結構大きいから二人でも大丈夫だって!私一度入ってみたかったんだよっ」
「
……
お前は本当に趣味がおかしいな。今入らんでも、死ねば幾らでも入れるぞ」
「死んだら意味ねーじゃんっ。私は棺桶の内側とか寝心地とかに興味が湧いたの!今知りたいっ気になって仕方ない!」
ね゛~~~鷹の目~~~!!とペローナがダダをこねる。彼女の感情を読み取ったゴースト達も飛び出てきて、ミホークの周りを旋回し始めた。白いモヤが目の前を目まぐるしく飛び交うのは鬱陶しくて仕方ない。ミホークはそれらを吹き飛ばす勢いで溜息を吐くと、娘のお願いに折れた。ペローナがこうなるとテコでも動かないのを嫌でも知っている。
ミホークはペローナの隣へしゃがむと、中途半端に開いている棺桶の蓋を上半分まで開けた。その挙動の意味を汲み取ってペローナが嬉しそうにわぁっと小さく声を漏らす。
態度がコロリと変わった娘の事を差程気にせず、ミホークが棺桶の中へ体を滑り込ませた。さっさとこの奇妙な遊びを終わらせたい。そう思って外にいるペローナへ手を差し出す。
ペローナが己に向けられた大きな手を取ると、存外優しい手つきで招き入れられた。
ペローナの言っていた通り、棺桶の中は二人で入っても大丈夫だった。多少の狭苦しさはあるが、向かい合うように寝そべればお互いの収まりが丁度良くなる。
「蓋は閉めるのか?」
「あ、ちょっとだけ開けとこう。真っ暗はヤダし、万一開かなくなる
……
とかなったら怖ぇ」
ペローナの要望を受けて、ミホークが内側から蓋を閉じてほんの少し隙間を作った。
その切れ込みから部屋の明かりが入ってきて、弱々しい光で二人の頭上部分だけを仄暗く照らしている。ミホークはちらりと足元を見ようとしたが真っ暗で何も見えなかった。暗闇がすっぽりと二人を包んでいる。外の音も遮断されているようで、目の前のペローナが僅かに咳払いする音がやけに響いて聞こえる。
ペローナが身動ぎをして目の前にあるミホークの胸へ手を添わせた。より収まりの良い場所を探ってそうしたらしく、ミホークも真似をするように彼女の腰辺りへ手を置いた。
「
……
暗いな。それになんだろ、湿気た木の匂い?埃っぽいかも」
「まぁ、そうだろう」
静寂を破ってひっそり喋るペローナにミホークが答える。素っ気ない答え方に、普段ならば拗ねた声の一つでも出しそうなペローナが今は黙っていた。己の顎下辺りにある桃色を見て、ミホークはふむ。と独り頷いた。
これは云わば手軽な臨死体験か。娘はあんなに息巻いた割に、いざ棺桶へ入る事を怖がったり大人しくなっている。その様子を見ると、死に対する理解があまり深くないように感じる。
その要因は何だろう。ミホークが思考を飛ばすと、脳裏にモリアの姿が浮かんだので即刻消し去った。
まぁ今、考えるほどの事でもないか。ミホークはぼんやりと思い、少し目を閉じて深呼吸しようと鼻から空気を吸い込む。ペローナの髪の香りが鼻腔を擽った。甘いそれが抜けていくとミホークは知らず、娘の腰に置いていた手をやんわりと撫でるように動かしていた。
――
この感覚は何だか。目の下すぐの桃色が反応するようにもぞりと動く。
「あぁ、でも、うん。
……
なんか、落ち着くな」
今まさにミホークが感じていた事をペローナが呟いた。暗く狭い空間に溶けていく娘の小さなその声も、心地好くてミホークは口を噤むことしか出来なかった。
不思議な空間だった。簡易的に閉じられただけなのに、五感が研ぎ澄まされてお互いの心音や匂い、生命を感じる。棺桶の中で。
ミホークの脳裏にまた何かが浮かぶ。今度はモリアじゃなく、土の中に埋められる長方形の箱で、その中に、二人居て。
「ねぇ」
またペローナが心地好い声をだす。娘が頭をもたげる気配がしたので、下を見るとやはりミホークを見つめていた。
「
……
また棺桶に入る時が来たらさ、一緒に入ろうよ」
見上げるペローナの瞳はキラキラと光って、控えめに期待の色が滲んでいる。お願い事の内容に反して、幼過ぎるくらい丸い瞳は純粋さに溢れていた。
ミホークの目が見開き口の端が何かを我慢するように歪む。でも臨界点はすぐだった。
「
…
ックク、ハハハッ!それはプロポーズか?随分辛気臭いな」
「!!?そ!そそそ、そういう意味じゃ
―
」
耐え切れずにミホークが高らかに笑った。ペローナが瞬時に顔を赤くして反論しようとした最中、ガンッ!と蓋を思い切りぶつける音が鳴った。
思わず起き上がろうとした彼女が頭を蓋へ激突させたのだ。痛みでうずくまるペローナを尻目に、ミホークはまだ笑いを絶やさずに衝撃でズレた蓋を全開にした。
「~~~ッ!おい!!そんなに笑うなよ!あ゛~~もういい!絶ッ対一緒に入ってやんねー!お前が一人で棺桶に入った時に寂しくなっても遅いからな!?」
ペローナが涙目になりながら頭を抱えて起き上がる。ミホークもそれに倣って起き上がった。まだ笑みは消えそうに無くて、娘に睨まれっぱなしだ。
その時には寂しさすら感じないだろ。なんて言ったら、きっと娘の怒りの火に油を注ぐ事になる。
ただ、笑ってしまったのは色んな事が重なったからだ。
今際の際に自分と一緒に居る気なのか、とか。ミホークも同じような事を考えていただとか、馬鹿馬鹿しいのにそれが嬉しかっただとか。後は可愛いな、とか。とにかく色々。
未だ頭を痛そうに抱えるペローナを見て、笑うミホークは少し腫れ出している頭を撫でてやった。優しく、愛おしそうに。
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