eclipsis
8629文字
Public ミホペロ
 

短編詰め合わせ

日常的な話の詰め合わせ




 シッケアール王国跡地の古城。うらぶれたこの城の窓に、今は可愛い蝙蝠が連なった飾りが付けられていた。

 暖炉がささやかに灯された広間の床に、穏やかな火と似た色の南瓜が転がっている。そして長椅子に二人の男女が肩を並べ座っていた。

「あ、そこの目は丸くしろよ。それで三つ目にしてさ、可愛いヤツにするんだっ」
……

 ペローナが隣に座るミホークへ注文を付けた。彼は中身がくり抜かれた南瓜を手に持ち、丁度それにナイフで顔を刻もうとしていた。
 一方の彼女も同じく南瓜を持ち、中身をスプーンで掬い出している最中だった。

「お前は随分この行事が好きなようだが……そもそも何故コレを作るのか分かっているのか?」

 コレと言ってミホークが持っている南瓜を少し上へ掲げた。

……かわいいから?雰囲気作りみたいなもん?」

 ペローナがミホークの質問に目をパチパチと何度か瞬かせて答えた。
 その回答にミホークは毒気を抜かれたように少し目を細めた。ある程度予測していた事ではある。見つめる彼女は丸い目をくりくりさせて隣の男の様子を窺う。
 ミホークは手中の南瓜に視線を戻すと語り出した。

「コレは鬼火を閉じ込めたランタンだ。行き場の無くなった哀れな農夫の死霊が、彷徨いあぐね道を照らす為に手に入れた代物だ」

 ペローナはミホークの話に大人しく耳を傾けている。すると、のうふ。と一言呟いて、目を猫のように爛々と輝かせ彼に身を寄せてきた。
 眼下に迫ってきた悪戯な顔をミホークは片眉を上げて一蹴する。

「ハロウィンは死霊が蘇る日だ。元を辿れば小さな島国の土着信仰で、やがて冬が訪れる今の時期を終末の季節と捉えていた。この世と冥界との出入口が繋がり、様々な死者が生前の住処を目指して帰って来る」
「害の無い守護霊なら良いが、悪霊もやって来る訳だ。そいつらの悪行を防ぐ為にこのランタンを置き、人々は仮装をして仲間だと思わせ悪霊どもの目を欺こうとする。それがこの行事の意義だな」

 手中の南瓜を何とはなしに小さく動かしながらミホークは語った。ペローナは変わらず彼の身体に凭れかかっている。静かに話を聴いていると思ったら、突然ミホークの身にかかる重みが消えた。すぐ横を見るとペローナが引っ付いていた彼から距離を取っていた。着ているドレスの裾を手で払い直したり、やや畏まった姿勢をしている。

……急にどうした」
「いや、なんかこんなに古い城だったら帰ってくる奴多そうじゃん……。誰かに見られてるような気がしてきたから……

 そう言ってペローナは辺りをキョロキョロ見回した。その様子にミホークは持っている南瓜を落としそうになった。

「お前は阿呆か」
「あぁ?!そういうお前は情緒が無い!!」

 肩を小さくして挙動不審だったペローナがミホークの言葉で一気に活気付く。両手を振り上げてキィー!という効果音と共に怒ると、彼女の膝の上で存在を忘れ去られていた南瓜が床に落ちた。
 ミホークは悟られないように喉の奥で笑うと、彼女が掲げている両手を自分のそれで静止する。ついでにお互いが持っているスプーンとナイフが邪魔だったので、彼の膝上の未完成なランタンへ雑に収めた。
 掴んだ彼女の両手をさりげなく引いて、隙間が出来てしまったお互いの距離をまた縮める。

「む、ゴースト娘。背後を見てみろ。気づかないか?」
「は、はぁ?!やめろよ。この私を怖がらせるつもりか?」

 そう言いながらも何の虚勢なのか、続いてゴ、ゴーストプリンセスだぞ。と呟いた声は随分小さかった。ミホークに指摘されて後ろを振り返ろうとする。彼女の滑らかな横顔がミホークの眼前に晒されると、間髪入れずにその頬へキスをした。

「な!なッ~~?!やめろって!バカ!見られてる!!」

 勢い良く顔を正面へ戻すとペローナは喚いた。しかめっ面をしていた顔を、今度は赤くさせて慌てふためく。コロコロと変わるその表情にミホークは愈々いよいよ、口角を上げて笑った。

「ならば見せつけてやろう」

 彼女の両手を掴んでいた手を解き、次は目の前の胴体に回すとペローナの額や頬へデタラメに軽いキスを贈る。
 お前も悪霊と変わんねェぞバカバカ!とペローナは抗議の声を出す。しかしその態度とは裏腹に、顔は耳まで真っ赤で、調子の乗ったミホークが覆いかぶさってくるのを拒否はしない。

 長椅子で悪戯をし合い重なる二人に負けて、哀れな南瓜のランタンが床へ転げ落ちた。
 これが完成するのはずっと先だろう。もしかしたら未完のままで役目を果たすかもしれない。

 いつの間にかペローナのゴースト達が現われ、二人が笑う声と一緒にホロホロ、ホロホロと鳴き声を出す。

 その談笑に誘われるように、古城の片隅から違う笑い声も生まれたような気配がした。

 けれども二人は最後までそれに気づく事はなかった。