呪里
2025-05-18 23:13:29
6879文字
Public Code_Abyss 小話
 

〈君と秘密の約束を〉

呪里と荊が休日に買い物に出かけた時の小話


 「うーーーーーーん…………

 施設内をぐるぐる周りながら、呪里は目を細め、小さくうなり声をあげていた。

 「なかなか決まらんなぁ?」

 呪里の横で荊はクスクスと笑っている。

 「ね。これといって今欲しいものがないんだよなぁ

 物欲があまりない呪里は、〈なんでも買ってあげる〉に弱いのだ。

 「せめてめんだこの何かがあったら速攻それ買って貰ってたんだけどね」

 残念な事に、周辺の雑貨屋等にはめんだこモチーフの商品は扱っていなかった。

 「なんやったらここ出てどっか別の場所行くか?」

 「そう………だね。ちょっと場所を変え

 言いかけたところで、呪里はなにか気になるものを見つけたようだった。

 「あ、荊、あそこ。あそこ見に行く」

 呪里は小走りで動き出した。

 「えっ、ちょっと待ってやボス!置いて行かんといてー!」

 周囲の人々を避けながら、荊は急いで呪里の後を追っていった。



















――――――――――――――――――――
 「ボスぅ? いきなり離れたらアカンよ?」

 追いついた荊は、呪里の右手をぎゅっと握った。

 「俺の見てないところで悪い奴に絡まれでもしたらたまったもんじゃないわ」

 「そんときゃ返り討ちにするから大丈夫」

 「そういう問題やないて………

 左手で握り拳をつくり自信満々の顔をする呪里を見ながら荊はふぅと息をこぼす。

 「で、なにが気になったんや?」

 「これ」

 呪里が指さしたのは黒い長方形の物体。

 面の中央には百五十万と数字が書かれている。

 「なんだろうなって気になって。これなに?」

 荊は物体を手に取ってみると、底面に商品詳細が書かれていた。

 「これは……貯金箱やな」

 「貯金箱?なんか、私が知ってるような形じゃないね」

 呪里がイメージしているのはおそらく円柱型や豚の形をしたような貯金箱だろう。

 「そうやね。多分ボスが言うとるんは小銭を貯めるタイプの貯金箱やな」

 「これは違うの?」

 「あぁ。これはお札を貯めるタイプの貯金箱や」

 「お札?」

 二人が見つけたのはお札用貯金箱。

 百五十万の数字の意味は、貯めきるとこの位の金額になるという事。

 「なるほど最近はこんなのも売ってるんだね」

 荊から貯金箱を受け取ると、呪里はじっと見つめてなにかを考えているようだった。

 そして

 「決めた。荊、これ買って」

 〈なんでも一つ〉を決めたようだ。

 「え……これでええの?」

 「うん。これがいい」

 呪里がやっと決めることが出来たのだが、荊の表情は渋かった。

 「荊、なんでも買ってくれるって言ったじゃん。ダメなの?」

 「いやぁダメって訳やないけど

 荊が渋っている理由は一つ。

 欲しがっている商品が百円ショップの物だったから。

 「なぁボス、もっと高いものおねだりしてくれてもええんやで……?そもそも、ボス貯金箱買わんでもお金かなりの額持っとるやろ?」

 「まぁねあんまり欲しいものとか無いし、貯まる一方なんだけどね」

 貯金箱を左手に持ち、呪里は右手でしーっと内緒の話をするような動作をした。

 「ただ百円の物を買ってって言ってるんじゃないよ?」

 「?どういう意味や?」

 荊には呪里の言う内容の全貌ぜんぼうが把握出来ず、首を傾げながら問いかけた。

 「これでね、未来への投資をするんだよ」

 「投資?」

 呪里は口角をあげた。

 「これにさ、毎週決まった曜日に千円入れるの。それで、忘れない様にカレンダーとかにマークを付けたりする。最終的に貯金箱がいっぱいになったらさ」

 呪里は顔を上げ、荊を見つめる。


 

 「貯まったお金で旅行行こうよ、五人で」


 荊は目を丸くした。

 「旅行?」

 「そっ。お札ってペラペラだから、貯まったらそれこそ百五十万とかそれに近いぐらいの大金になると思うんだよね。それくらいあったら五人でどっか連泊とかできるんじゃないかな」

 呪里は小さく微笑みながらそう語った。

 「温泉とか良さそうだよね。あ、私大浴場とか行けない

 「ふっ。ほんなら、露天風呂付客室ろてんぶろつききゃくしつがある旅館とかどうや?」

 「それだ、それがいい。後は観光できるところが沢山ある場所がいいよね!」

 目を輝かせながら語る呪里を見ながら、荊は幸福な気持ちに包まれていた。

 (楽しそうやなぁ。自分の為だけやなくて、俺やあいつらの事まで考えてくれてるんか。改めて、ボスは俺らの事大事に思てくれてるんやな)

 「荊、聞いてる?」

 「ん?あぁ、ちゃあんと聞いとるよ」

 「よかった。ね?だからこれは投資みたいなものなんだよ。お願い荊、これ買って?」

 呪里は上目遣いで荊におねだりをした。

 「……分かった分かった。買ぉたるわ」

 「やった」

 「レジ混んどるみたいやから、ちょいと外で待っとってなぁ」

 「うん」


――――――――――――――――――――
 百円ショップの前で待つこと数分、荊が外に出てきた。

 「待たせたなぁボス」

 「ぜーんぜん。買ってくれてありがとね」

 呪里は荊から小さなエコバッグを受け取ると、開いて中を確認する。

 すると

 「あれ?」

 呪里は気の抜けた声をだした。

 エコバッグに手を入れ、貯金箱ではないなにかを取り出す。

 「……シール?」

 呪里が取り出したのは、小指の第一関節より少し短いサイズのお化けがたくさんついたシールだった。

 「どしたのこれ」

 「さっきボス、貯金した日のカレンダーになんや印付ける言うとったやろ?ただペンで丸するとかじゃ味気ないから、可愛ええシールでも貼ればええんやないかな思てなぁ」

 呪里はシールをじっと見つめ

 「流石だねぇ荊。ありがとう」

 「どういたしまして♪」

 呪里の笑顔に荊は思わず笑を零した。

 「ほんなら、そろそろ帰ろか」

 「えっもうそんな時間?」

 スマホの画面で確認すると、時刻は17時をまわっていた。

 「わぉ結構な時間になってる」

 「せやろ?おひいさんも心配するし、明日は揃って仕事やしな」

 荊はぎゅっと呪里の右手を握る。

 「人が多くなっとるし、離れんように手ぇ繋いどくからな」

 「うん」

――――――――――――――――――――
 駐車場に戻り車に乗り込むと、助手席に座った呪里が言った。

 「あ、そうだ荊」

 「なんやー?」

 「貯金の事なんだけどさ、他の三人達には内緒にしてて」

 「?なんでや?」

 「言っちゃったらみんな協力しだしてすぐに貯まっちゃいそうだし、こういうのってサプライズするのがいいと思うんだ」

 荊は少しの間考えて問いかける。

 「それって俺らだけの秘密っちゅう事か?」

 「そっ。荊と私だけの秘密」

 呪里は眉を下げて微笑んだ。

 「秘密か。そりゃあええな」

 車のエンジンをかけながら、荊は自分と呪里の二人だけの〈特別〉がある事に喜びを感じていた。

 「荊、はい」

 呪里は荊に右手の小指を向ける。

 「指切りげんまんしよ」

 荊は一瞬驚いたが、すぐに笑顔になり、呪里の小指に自分の小指を絡めた。

 「「指切りげんまん」」

 指を離し、お互いの視線が合わさると、二人はクスクスと笑いあった。