「その後は、ネモも知ってる通り。砲手さんは無事に仲間のもとに戻れて、めでたしめでたしってわけ」
楽園の島々の本島、滝の上の洞窟。
魔法で生じた焚火の席に座って、白イタチのガーベラは秘宝の環礁での冒険を語り終える。
ここに居るのは、かの子と、対面で座る友人
―蒼翼のネモフィラだけだ。他の星の子達は、汚染間欠泉で蝕む闇焼きに勤しんだり、クラゲ洞窟の浜辺や、その沖で発見された大きな海溝で遊んでいる。
何も知らぬまま滝の上の洞窟に近づく子も幾らか居たが、彼らはガーベラの『お願い』を聞いたマンタ達に戯れ付かれ、別の場所へ誘導されていた。
「なるほどねえ
……」
ネモフィラは立ち上がり、ガーベラに歩み寄る。「ちょっと、覗いてもいいか?」と右手を差し出した。
意図を察したガーベラも立ち上がって「どうぞ」と左手を伸ばし、二人は手を繋ぐ。
数秒間の“直結交信”でガーベラの記憶を閲覧した後、ネモフィラは手を放し、大きくため息をついて席に座った。
「あの遺跡の事といい、ディノの末路や闇のデカブツの事といい、多くの謎が残ったまま終わっちまったが
……お前の場合さらに謎が増えたわけか。例の“影”の夢と、お前が授かった獣の力」
「それと、流行りの伝承の事もね」
そう付け足しながら、ガーベラは焚火から少し距離を置く。
やがてかの子の身体は金色の火に包まれる。白イタチの仮面を付けた星の子は、イタチめいた大柄な獣人へと姿を変えた。
「(なんだか
……外つ国伝承の『人狼』みてえだな)」
ネモフィラは胸の内で呟き、その神秘的な美しさに暫し見惚れた。
「普段の私がどんな姿でいても、力を使えば必ずこの獣に変身する。光の翼が一定数ないと使えなかったり、暗黒竜には全く歯が立たなかったり、色々制限があるみたい」
そう言いながら、獣のガーベラは再び金色の火に包まれ、星の子の姿に戻る。
「今は獣の力を研究するより、『残り火』伝承に関する手持ちの文書の見直しと、新たな調査を優先したい。現状、この力は光の生き物と会話する以外、役に立たないからね」
その言葉に、ネモフィラは困惑する。
『残り火』
―別名『残り火の子』とは、旧き星の子らが広めた架空の存在。新たな王として迷える星の子たちを救う、特別な星の子の事だ。
「ちょっと待った、なんであのおとぎ話を本気で調べようって話になるんだよ。お前アレの事『信憑性が薄い』って言ってたじゃねえか?」
「困った事に、あの“影”に会って、キミのようにおとぎ話めいた力を授かっちゃったからねぇ
……考え方が変わったのさ」
席に座った白イタチのガーベラは、焚火を挟んでネモフィラを見据え、真剣に問う。
「ねえネモ
……あの“影”、最後に私になんて言ったっけ?」
問われたかの子は、覗いた記憶を振り返り、すぐに答えを見つけ出した。友と過ごす平穏を尊ぶ者にとって、俄かには信じがたい答えを。
「
……『神秘を愛する不屈の残り火』!」
「正解。私を『残り火』と呼んだ“影”は、キミにも力を授けてる。私たちとあの“影”には何らかの繋がりがある」
「おいおいおい、オレもお前も『残り火』だって言いてえのか?!」
「そう仮定してる。それにあの伝承には、この王国に居たとされる『王』の話が絡んでるだろう。あの“影”は、『王』の正体と秘密に迫る手がかりになる。まだまだ根拠は薄いけれど、そんな予感がしてる」
「
……『王』が星の子の始祖的存在であり、その欠片或いは後継的存在が現在の星の子たちではないか」
ネモフィラは、以前聞かされたガーベラの仮説を諳んじた。
「星の子の秘密を、『王』と星の子の関係を、解き明かせるかもしれないって事だな。オレが、あの夢で“交信”の力を授かった理由も含めて」
「ああ。だからこそ、今後の調査は慎重に進めるべきだと思ってる」
ガーベラは一呼吸置いて、声を落とす。
「これは星の子同士だけでなく、大精霊様や精霊たちとの友好関係にも関わる話だ。私はこの謎を解き明かしたくて仕方がないけれど
……大っぴらにしたら、その影響力は計り知れない」
「確かに。確実に各方面で危ねえ事になりそうだ」
「そうだね。それに、どうしても心に留めておいて欲しい事がある」
ガーベラは立ち上がり、ネモフィラに歩み寄ると、かの子の両手を優しく掴んで立ち上がらせた。そして、優しくハグしながら語り掛ける。
「私もネモも、お互いに違う部分を持ってる。他の子とも違う部分を持ってる。好きなものや嫌いなもの、得意な事や苦手な事、“影”から授かった力、何もかもが違う。それでも、私たちや他の子は全部まとめて、同じ星の子
―同じ使命の子であるはずだ」
「ふふ、そうだな。多少の違いはあっても、根っこは一緒だと
……そう思ってるし思いてえよ」
そう言って、ネモフィラもそっと抱きしめ返す。
「『違い』は『個性』であって、『優れている事の証』でも、『劣っている事の証』でもない。かけがえのない友達は居ても、『特別な星の子』なんて居やしないのさ。そこを、勘違いしてはいけないよ」
「おう!その言葉、絶対に忘れねえよ!」
「うふふふ、ネモは頼もしいなあ」
「テメーも、自分の言った事忘れるんじゃねえぞ!」
「あははは、当然だって!」
ハグを終えて、師弟は笑い合った。
「さてと。私はこの後草原神殿へ行って、大精霊様に獣の力の件を報告しに行ってくる。隠したままだと色々と面倒だから」
「その後はどうすんだ? 峡谷とか、書庫の探索だったらオレも付き合うけど」
「
……いや、大樹のツリーハウスでぐっすり寝ようかな。もう、ディノや大精霊様たちが出てくる悪夢は見なくなったからね」
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