「はっ?!」
鏡状の地面が広がる暗い空間で、リトル・ガーベラは飛び起きた。
そこは、闇の嵐の中心
―『原罪』で全ての光を捧げた後に訪れる場所と酷似していた。
だが、ガーベラの服もケープも、背中のランタンも、集めてきた光の翼も全て無事である。今のところは。
近くで気絶している精霊
―豪快に笑う砲手の姿を見て、かの子は思い出した。
「
……ここ、あの怪物の腹の中?」
砲手と共に、深海の巨大な闇の怪物に食われ、奇っ怪な“影”の夢を見ていたことを。
「ギリギリ生きてるか、死にかけてるってところかしら
……ええと、『貴公の火を待ち望む者が、暗闇を切り開く』」
空間の最奥には、枝分かれした中くらいの蝕む闇が生えている。ガーベラは、夢で聞いた“影”の言葉を反芻しながら、蝕む闇へと駆け寄った。
ランタンで照らしてみると、黒く石化した1匹のマンタから、1本ずつ枝が生えていることが解かった。
「これ、嵐の石っ子みたいに死んでる、よね?」と言いながらマンタに触れた瞬間。
『たすけて』
「ヒェッ?!」
ガーベラは思わず飛び退く。幻聴かと疑う間もなく、再び、助けを乞う声をハッキリと聴きとった。
『おねがい、たすけて、これ、もやして
……光を
……あなたの光を
……』
「わ、わかった」
ガーベラは慌てて赤蝋燭を出し、マンタの亡骸に生えた蝕む闇を焼き始めた。
マンタの、しかも死んでいる個体の言葉を理解できている。かの子にとって非常に興味深い異常事態であったが、今はもっと危機的な状況の只中にいることを自覚していた。
「探究してる場合じゃない。まずはこの子を助けなくっちゃ!」
左端の1本目、右端の2本目を燃やし、真ん中の3本目の枝を焼き融かし、最後はマンタの頭部に蝋燭の炎を当てた。
真っ黒だったマンタの亡骸は次第に青白い光を帯び
……そして炸裂した。
「いてててて
……」
後方へ吹き飛ばされたガーベラは、頭をさすりながら立ち上がる。
砕け散った亡骸から小さい火の球が現れ、それはやがて、青白く輝くマンタの霊体となってガーベラに近づいた。
「キミは
……あの時、潜水能力を授けてくれた
……!!!」
見間違えようがない。蝕む闇から助け出した相手は、かの子が初めて秘宝の環礁を訪れ、マンタ像の前で祈った時に力を授けた存在だったのだ。
『ありがとう、星の子にして獣の子。私たちは、過ちを犯した彼らに祀られ、この姿を得た。それから永い間、ここで救済を待っていました』
獣の子。夢の中で授かった祝福
―獣の姿に変身する力を指しているのだと、ガーベラは理解した。今こうしてマンタの霊の言葉を理解し、会話できているのも、祝福の影響によるものらしい。
『あなたは私たちの加護と願いをもって、黄昏に沈む彼らの秘密を覗いてくれた。私たちの声を聞いて、生き残りたちと、私たちを喰らった深淵の主を解放してくれました。あれも、故郷の暗闇から引き離され、傷付けられ、閉じ込められていたのです』
ここでガーベラは、環礁の遺跡の最深部で起きた出来事を思い出した。
「そっか
……あそこで大きなダイヤ石を取り外す前に、あの怪物の中から微かな呼び声が聞こえた気がしたけど
……あれはキミが出してたものだったんだね。全ては、この時のための
……」
青白いマンタの霊は嬉しそうに鳴き、その輝きを増していく。そして。
『あなたの灯火のお蔭で、あなたの勇気のお蔭で、私たちは還れる』
『光と闇の揺り籠たる、あの海に!』
小さな星の子と、意識を取り戻した精霊は、光輝く生命の群れと共に怪物の口から飛び出した。
「すげえ
……こんなに美しい群れ、見たことねえや。暗い海で、天の星みたいにキラキラ光ってやがる。俺、このまま天空に昇っちまいそうだよ」
「確かに天空の銀河みたいに煌めいてるけど、私たちはみんなのところに帰るんだよ、砲手さん!」
「へへ、そうだな
……手間かけさせて悪ぃな、チビ助」
蘇った光の魚群とマンタ達に導かれ、二人はひたすら、上へ上へと泳ぎ続けた。
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