【#深淵覗きの断章】いざなわれしもの

これは、秘宝の環礁への航路が見出される直前のお話。
深淵覗きガーベラが見た、不気味な悪夢のお話。

⚠原作の諸要素に対する独自解釈・捏造・オリジナル設定あり⚠

Fanmade by チーバオ(QiBao)
#sky創作 #sky二次創作


 強制的にディノの手を掴まされた直後。リトル・ガーベラは、捨てられた地の神殿の大広間に立っていた。

「どうなってるの、これ……
 お馴染みの黒い水と砂と瓦礫も、薄闇と静寂も、ここにはない。
 綺麗に清掃され整えられ、あちこちで火が灯されている明るい大広間には、見渡す限り幾つもの丸テーブルが置かれていた。各々のテーブルに7、8人の精霊が居て、椅子に座りガヤガヤと歓談している。
 余りの賑やかさで話の仔細は聞き取れないが、何らかの祝賀会が開かれているらしい。
 大広間の最奥書庫行きの大扉の前には、大精霊像の代わりに、大精霊用と思しい大きなテーブルと椅子が用意されていた。
 戦士たちも、賢者たちも、一般市民と思しい者たちも、飛び回って状況を調べている小さな星の子の存在に全く気づいていないようだった。
 どのテーブルにも置かれている物を見て、ガーベラはその異様さに息を呑む。

 ひたひた、ぴちゃぴちゃ、ごぼごぼ。
 金色に輝く液体に浸かり、時折水音を立てて蠢く、燻んで縮れた灰色の『何か』の集合体。そうとしか形容できないモノが、大皿や小皿、盃を満たしている。
 テーブルのひとつに降り立ち、盃の中を覗き込んだ時。馴染み深い生き物たちの声を聞き取ったかの子は、即座に『何か』の正体に気付き、愕然とした。
 風の街道の闇を祓う時に聞いた、蝕む闇に囚われ苦しむ鳴き声と全く同じものだったからだ。
「これ……光のマンタの……成体と幼体?」

 直後、精霊たちは最奥の大扉を見ながら、一斉に拍手を始めた。
 開け放たれた大扉から、大精霊たち捨てられた地の長たる巨躯の勇者と、書庫の長たる小柄な大賢者が入ってきて、席に着く。
 二人は、遠くからリトル・ガーベラを凝視している。

「我らの民たちよ。そして、我らの裔たる小さき星の子よ」
 大賢者の鈴を転がすような声が、勇者の重みのある声が、同時にビリビリと大広間を揺らす。
「ようこそ、この宴へ……黄昏に沈む我らの秘密へ」
 大精霊たちの声は影と妖気を帯び、警戒するガーベラの耳に届く。
 そして、羽ばたこうとしたかの子の頭上に、大量の水が轟音を立てて降り注いだ。
「ぎゃっ……ガハッ、ゴボッ」
 ガーベラと大精霊たちを除いた全てが煙のように消え失せて、瞬く間に大広間が水で満たされる。
 体内の空気が、光が尽き、意識を失いかけながらも、ガーベラは必死に泳いで逃げようとした。
「おいで。おいで。我らの秘密『罪の跡』を訪れる子よ」
 しかし、大精霊たちは手招きし、無理矢理ガーベラを引き寄せようとする。

「(苦しい……嫌だ……やめて……誰か助けて……)」
「安心しな。言われなくてもやってやるぜ!」

 飄々とした声が、そう告げた瞬間。
 もがき苦しむガーベラの眼前に、頼もしい助っ人が現れた。
 左右に三枚羽の飾りをつけた白い長髪、光の鳥を模した薄青色のケープ、旅役者の鳥仮面。
「(……ネモ!!!)」
 その星の子は紛れもなく、蒼翼のネモフィラ『深淵覗き』の友にして弟子である『交信者』ネモフィラであった。
「酷く魘されてると思って、“直結交信”で潜行ダイヴしてみりゃ……テメー、またあの悪夢を見てやがったな?」
 そう言って、ネモフィラはリトル・ガーベラを力強く抱き締める。
 白銀の輝きが、全てを塗り潰した。