ろころころ
2025-06-02 17:46:28
12413文字
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pk擬/小話詰め②

自宅単品もうちよそ要素も混じってます



家族の記憶


「カーニャ、これからよろしくね!大人になってもずぅーっと一緒だよ!」


あの鈴の鳴るような声を、最後に聞いたのは何時だっただろう。








──────ガタン、ゴトン。

穏やかな揺れに、カーニャは薄らと目を開く。
光が差し込む窓の外を見れば、辺り一面に広がる豊かな緑。久しい光景が目に飛び込んで来た。

くあぁ、と欠伸をひとつ。
ぐっと背伸びをして、寝ぼけた身体を起こす。


カーニャは久しぶりに帰郷していた。エオス島はパルデアとは離れた場所にあるから、戻るのも一苦労だ。まずは島から本島行きの船に乗らなければならない。そして、カーニャの実家に辿り着くには電車を二本、乗り換えねばならない。

昨日の昼頃にキャリーケースを引いて寮を出発したカーニャは、かれこれ一日ほど何らかの乗り物に揺られている状況になる。こうなると、そろそろエオスの試合が恋しくなるものだ。少し前までのアサシン環境で散々指名された時は嫌気が差していた試合も、今となっては進んで参加したい気分だ。なんとも不思議なものだ。


そんな長旅も、あと30分ほどで終わりを告げる。


カーニャの実家つまり、"アオちゃん"の家は森の奥まったところにある。アオちゃんの家は先祖代々引き継がれたものだったから、人目の無い場所にある大きくて拾い御屋敷に住んでいた。アオちゃんの両親も優しい人間で、カーニャのことを家族のように迎え入れてくれた。カーニャはそんな家庭に引き取られたものだから、美味しいものを食べて可愛い服を着せてもらってそれはもう存分に可愛がられたし愛された。

だから、カーニャもアオちゃんが大好きだし、彼女のためになることならどんなことだってしたかった。

ある日、アオちゃんは旅に出ると言った。ポケモンが大好きなアオちゃんは、もっとたくさんのポケモンに出会って、もっと色んなトレーナーとバトルをしたいと言った。
カーニャはもちろん着いて行った。アオちゃんを守りたかったし、アオちゃんと共に強くなりたかったから。

アオちゃんは、いつもピクニックセットを運んでいて、お昼時には美味しいサンドイッチを作ってくれた。旅立ったばかりの頃は不格好だったそれも、カーニャが進化してマスカーニャになる頃には半分の時間でより綺麗なものが出来上がるようになっていた。カーニャは、アオちゃんも一緒に成長していると実感して嬉しくなった。

しかし、ある雨の日。アオちゃんは体調を崩した。しかも、体調の変化に気がついたのはとある町の入り組んだ場所で、ポケモンセンターやホテルに向かうには少し歩かねばならぬ場所だった。カーニャがアオちゃんを抱え、一番近くの休める場所へ向かおうとした時一人の女に出会った。

「あら、トレーナーさんは怪我をしているのかしら?もし良ければこれをどうぞ」

女はカーニャに錠剤を手渡した。

「私は身体が弱くて、常備しているの」

カーニャはそれを、特に疑うことも無くアオちゃんに飲ませた。

飲ませてしまった。



それを飲んだ日から、アオちゃんはおかしくなった。


『そんな薬を持ち歩いている方が悪い』
『カーニャは優しい人間の元でしか育ってこなかった。疑うことをしなくても仕方ない』


周りの人間は、みんなカーニャを責めなかった。アオちゃんの両親でさえ責めなかった。

それにきっとアオちゃんだって、カーニャのことを責めないだろう。


誰も責めない。カーニャは誰にも責められない。

この世界でただ一人、カーニャを責める奴がいるのだとしたら──────
それはカーニャ自身だ。


その後、カーニャは何度も調べた。
アオちゃんに飲ませてしまった薬の正体と効果、治療方法、女の正体──────

調べるに調べ上げ、何一つ成果がなかった。

アオちゃんの容態は日に日に悪くなり、彼女の周囲の人々の顔からも日に日に笑顔が失われていく。


そんなある日、アオちゃんの両親がカーニャにこんなことを伝えた。

『あの子を治せるお医者様が見つかったの!』
『この家と全ての財産をあの子の治療費に使おうと思うんだ』

しかし、それでも治療代には届かない。
だからカーニャは名乗り出た。


「カーニャにもオレにも協力させてください」


カーニャは思い出した。例の薬について調べている時に街角で配られたビラの存在を。


"パルデアの戦士よ、エオス島へ集え!"


(エオス島のゲーム……)

自分の力が各地から集う選手たちにどれほど通用するかはわからない。けれども、


(アオちゃんの治療費を稼ぐにはこれしかない!)

だからカーニャはエオス島に向かったのだ。



………これがカーニャがエオス島の選手になった経緯だ。カーニャは報酬の大半をこの実家に送っている。アオちゃんの両親は住居は手放してはいないものの、多くの財産を売り払ってしまっていた。治療費が足りたとしても、それらを取り返すためのお金だって稼ぎたいとカーニャは思っていたのだ。

全ては、あの幸せな時の家族に戻すために。



………………久しぶりだにゃあ、ここ」

遠い記憶では手入れされていた庭。それも今では伸びきった草木が絡み合い、まるでジャングルのようなシルエットを描き出す。

しんと静まり返った庭を通り抜け、そっとノッカーに手をかける。


──────コンコンコン


中からパタパタと足音が聞こえる。


アオちゃんに合ったら、なんて言えば良いのかなんてわからない。

エオス島で上手くやってる話?
先輩がパルデアのサンドイッチを馬鹿にしてくる話?
新しい衣装を作って貰えた話?

それとも──────



ガチャリ、と開いた扉の中。
カーニャは拳を強く握りしめて、その闇にゆっくりと吸い込まれて行った。