揃いの恋紐は密やかに

MHRウ教×ハ♀。
両片想い。

紐は恋と想いの象徴。



カムラの里特有の、たたら場を象徴する煙と、桜の香りが混じった風が、意気揚々と歩を進める娘と、娘のオトモたちを出迎える。

オトモアイルーとガルクの気配を後ろに感じながら、彼女は口角が上がったままの笑顔で、雲の少ない清々しい朝の碧天の下を歩いて行く。

里の人々の、朝を忘れさせるような溌剌はつらつとした声に包まれながら、桜並木の道中を進む中。

歩きながら、娘は改めて片手でさり気なく、装備品の組紐と下緒に触れながら、里の集会所へと向かって行った。

ハンターならば立ち寄らぬ訳がない、狩猟依頼を受ける集会所。

軽やかに中に入りながら、娘は建物に入ってすぐの受付カウンターに「おはよう!」と軽く手を振った。

集会所の華、受付嬢をしている美しき竜人族であるミノトが、そして彼女の隣で雑貨屋を営むアイルーのマイドが、娘に向けて会釈をして応え、彼女はそのままオトモたちと進んでいく。

(よしよし、ミノトさんたちも気付いてない……)

歩きつつ、指先で再度下緒に触れながら、娘はどこかしたり顔だった──が、すぐに胸の奥で(気付くわけないか)と、自嘲気味に独りごちる。

そのまま受付カウンター脇、各狩猟依頼が貼り付けられたクエストボードを一瞥いちべつし、今日の自分の行う狩猟のことを思い出しながら、娘の歩みと視線ははやるように、集会所の更に奥に向かった。

集会所の茶屋の更に奥にある、空と桜を仰げる露台席に立つ人物。

それは娘が幼い頃から想いを寄せる人であり、彼女の師であり、この里の教官。

「おはようございます、ウツシ教官!」 
「やあ、おはよう愛弟子! 今日も良い天気で、狩猟日和だね!」
「はい! 今日も頑張って来ます!」

澄空と花によく映えるまばゆいウツシの笑顔と挨拶に、娘も幸せそうに笑顔で答えながら頭を下げる。

彼女の様子と共に、彼女が身に纏う装備品を確かめるように素早く目視したウツシは、すぐに目を細めた。
そのまま、笑いしわが愛くるしい朗らな、満足そうな笑顔で「うんうん!」と大きく頷く。

「今日の狩猟はどこなんだい? 帰りは遅くなりそう?」
「大社跡で、ジンオウガとタマミツネの狩猟です! 古龍じゃありませんし、戦い慣れてる場所なので……今から向かえば多分、そこまで遅くはならないかなーと思います」
「ふふふ、そっか。愛弟子……ふふ、本当に強くなったねえ……

懐古と慈愛の光を丸く瞳に揺らし、ウツシが優しく微笑みながら、ゆっくりと娘に手を伸ばす。

「とっても綺麗に、上手に装備品も着けられるようになったね? ふふふ、組紐と……下緒もかな? 新しくするくらいになって……
「!」

驚喜きょうきから目を小さく見開いた娘に、気付かぬふりをしたウツシの指はそのまま伸びて、指先で転がしでるように、娘の肩や首元、装備品に結ばれた真朱色の組紐に触れる。

幸せそのものの、春日はるひの光に満ちたウツシの瞳が、とろりと蜜のように蕩けた。

「──この色、俺のと同じだ。ふふふ、嬉しいなあ」
「! き、気付い……ッ!?」

気付いたんですか、などと思わず口からこぼれ落ちそうになった言の葉を、慌てて飲み込んだ娘の頬が、耳が、花よりも赤く染まる。

彼女の後ろで、彼女のオトモアイルーとオトモガルクが、今朝の水車小屋での一幕を思い出しながら驚きに顔を見合わせる中。

娘の装備品の組紐から手を離しながら、ウツシは「んふふ」と愛おしげに吐息を溢れさせ、その頬をほんのりと桜色にしながら目を細めた。

「俺は──キミの力を、誰よりも信じているよ。でも、油断は禁物だ!怪我をしないように、くれぐれも気を付けてね!」
「ありがとうございます! えへへ、私なんてまだまだですよ! 頑張ります!」
「ふふ、偉いなあ、謙虚だね。キミらしく元気いっぱいに頑張っておいで、愛弟子! 俺はいつでもキミを応援しているし、見守っているよ!」
……はいっ! い、ってきます、ウツシ教官!」

笑顔で再び頭を下げた娘の本心としては、もう少しだけウツシの傍で、彼と言葉を交わしたいのだが、叶うはずもなく。

むしろ、今はまだ叶わなくて良いのだと思考を切り替えつつも、後ろ髪引かれる心地で彼女は手を振り、オトモたちとともに元気に集会所を走り去った。

行き先はもちろん、モンスターたちの待つ過酷な狩場。

最愛の愛弟子の気配が、その方向に遠のいていく感覚に切なく胸をうずかせながら、ウツシが「ふふっ」と小さく息を漏らし、不意に自分の装備の組紐を一瞥した。


──ねえ、愛弟子……

──実はね、俺も……


雷狼竜ジンオウガの素材を用いた、白群色びゃくぐんいろの肩当てに映える、真朱色の組紐。

「まさか──同じタイミングだなんて、ねえ……

思わず声に出して呟いた刹那、また、吐息混じりに、今度は不思議と期待感に満ちた笑声しょうせいが漏れる。

同じ時期に、自分自身の身を包む装備品に『赤い紐』を結んだこと。それは偶然か、それとも、運命か。

ウツシの口角が、また、密やかに綻ぶ。

紐がくたびれて再度交換する時期も、きっと、キミと同じだろうと、期待混じりの幸福感が、彼の心を熱く包み込む。
またキミと一緒に、同じ『赤い紐』を『結ぶ』ことができるのではないかと。

……愛弟子」

自身の肩当ての組紐に触れたまま、ぽつりと呟いたウツシの頬が、先ほど以上に、組紐と同じ真朱色に上気する。

愛弟子と呼ぶ大切な人への、長く、密かな想いの色。

想い人の姿が見えるはずもないのに、ウツシがふと、露台席から見える景色に視線を移す。

桜の花色が、今だけは、ほんの少し霞んで見えた。



@acadine