揃いの恋紐は密やかに

MHRウ教×ハ♀。
両片想い。

紐は恋と想いの象徴。



がこん、がこん、と規則的な重低音が、朝の澄空に響き渡る。
カムラの里特有の和風建築が美しい水車小屋からの、慣れた者には心地い音。

朝の時間というものは、基本的には分秒を争い、果てしなくせわしない時間のはず。

それを知っているからこそ、小屋の主のオトモアイルーとガルクは、とっくに準備を整えて、水車小屋の土間で待機していた。

彼らの主人は、新進気鋭のハンターである娘。
師より『猛き炎』と呼ばれる彼女が、全身を映す大きな鏡の前に立っていた。

やっと馴染み始めてきた得物を背負い、装備品も身に着け、準備万端の姿──の、はずだが。

鏡の前で、彼女はどこか緊張したような面持ちで、武器の下緒さげおと装備品の組紐くみひもをしきりに確認していた。

鮮やかな真朱色の、丁寧に結ばれた下緒と組紐。

その様子を土間からずっと見ていたオトモアイルーが、しびれを切らしたように大きく首を傾げる。

「ご主人ー? どうしたんニャ? そろそろ出ないと遅くなるニャー」
「あっ……ご、ごめん! もう出るよ!」

夢から醒めたように、娘がばたばたとかまちに駆けて来る。

そのまま土間に降りるかと思いきや、彼女は框に立ち止まると、オトモたちに向けて装備を披露するように、両手を広げて見せた。

「じゃーん! ……どう? 何か気付く?」
「ん、ニャア……?」

何に、と繋げようとしたオトモアイルーだったが、野暮やぼな気がして言の葉を飲み込む。

いつも通りの装備に身を包んだ、昨日も見た娘のハンターとしての姿。

かと言って、他に気の利いた言葉も見つからず、主人であり狩猟の相棒である娘を見上げながら首を傾げ続けていると、当の娘本人が「よしっ!」と満足そうに頷いた。

「分かんないなら完璧っ! よーし! みんな、今日もよろしく!頑張ろうねっ!」
「二、ニャ? ニャア! こちらこそニャ!」

分からないのに完璧なのか、と疑問符を更に大きくしたままだが、尋ねることも首を傾げることもやめたオトモアイルーが、とりあえず威勢良く片手を振り上げる。

その動きに呼応して、かたわらで待機していた娘のオトモガルクも「ワウッ!」と吠えた。

框から土間に降りた娘は、幸せそうに口角を上げながら、颯爽と先陣をきって玄関引戸げんかんひきどを滑らせ、水車小屋を発つ。

慌てて後を追ったオトモたちが、すぱん、と勢い良く閉めた引戸の衝撃。

それは、数分前まで娘が立っていた鏡に引っかかっていた、くたびれた紺色の組紐を、しゅるりと畳の上に落とすほどのものであった。

@acadine