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kanaco
2025-05-25 11:18:34
10852文字
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【四信】意表をつく男
《四信》能天気鈍感ボーイ信一くんと、彼を溺愛している四仔さんのただただ平和なはなし。(P1~P3)
1
2
3
「っていうことがあってさぁ~」
信一は頬杖をついて、三時の休憩
…
自分へのご褒美デザートを突いた。
ここは阿七冰室。テーブルの正面左には燕芬姐、その右には十二少。2か月に1回程度のペースで開かれる、幼馴染同士の定例会である。
3人は九龍城砦にて子供の頃に出会い、年も近く同じ時間を共有することが少なくなかった。信一と十二はそれこそずっと一緒にいたが、砦で色々な意味で“わんぱく”であった2人に負けない勝気さを持っていた少女が燕芬姐だ。あからさまに事情を持っていそうな、少し雰囲気の違う信一と十二を他の子供たちが遠巻きに見る中で、なんの隔てもなく接してきた女の子・燕芬姐は、当時から信一と十二にとっては気の置けない貴重な友人だった。
定例会といっても無論、燕芬姐がいる前では黒社会ワードどころか物騒な話もNGである。するのは最近の砦のことや自分や周りの人たちの他愛もない近況など、柔らかい世間話に留まる。普段は荒々しい場所に身を置く信一と十二も、意外とこういう小さい頃から馴染んだ“まったり”とした時間が心地よく、なんとなく集まる機会はコンスタントに作るようにしていた。
だから信一は「四仔って意外なとこあるよな」という近頃の感触について同意を求めるのに、この会はピッタリだろうと思って話題に出したのだ。
「へぇ、先生優しいわね」
アイスレモンティーを飲みながら感心したように燕芬姐が言う。
「俺、そんなことしてもらったことねぇけど
……
」
烏龍茶を飲みながら怪訝な顔をして十二が言う。
「お前は髪型崩すとブチギレるからじゃん?でもやっぱ意外性ある男だと思わない?」
信一がそう言うと「そういう問題か?」と十二は首を傾げる。
「まぁ、たしかに最初はちょっと怖く見えるけど、話したら穏やかな人よね、先生って。懐いている子供たちも多いじゃない。子供って正直だから優しい人が分かるんだわ」
「ひひっ。そりゃあ、子供や燕芬姐の前だからあいつネコをかぶってるじゃんか」
四仔を先生と呼んで朗らかに笑う燕芬姐に十二がニンマリと笑いながら応える。どちらも真実だろう、と考えながらも信一は納得しない顔をした。
「俺的には四仔が子供に好かれる感じは意外じゃないんだよなぁ。うーん、例えばさぁ」
信一は腕を組むと最近に意表を突かれたエピソードを思い出そうと、眉間に皺を寄せてゆっくりと視線を宙に漂わせた。
「この前買い物に行ったらさ、不機嫌そーな顔したクマのヌイグルミがあってさ。なんか四仔に似ているなって思って買って診療所に勝手に置いたわけ。嫌がらせがてら」
「診療所に不似合いなあのクマはお前かよ」
「どうして嫌がらするのよ。お世話になりっぱなしなのに」
「そしたら数日経って診療所に行ったら、そのクマが白衣を着ててさ。どうしたのコレ、って言ったら自分で縫ったって」
「あら、可愛いじゃない」
「あいつ裁縫もできんの?っていうか何なの、ノリノリなの?」
「ほら、意外だろう?だからなんか楽しくなっちゃって」
「あなた、それで楽しくなるの?」
「どうしてノリに拍車かかってんだ」
「同じシリーズのドヤ顔した俺みたいなオオカミのヌイグルミがあったから買ってきて並べたんだよ」
「診療所に不似合いなあのオオカミはお前かよ。っていうかそこに自分の分身を並べる神経どうなってんの?」
「そしたらお洋服を作ってくれたのね」
「いや、サングラスがかけられてた」
そこまで会話が続いて「うーん」と十二と燕芬姐が首を傾げる。
「先生が意外というか、あなたたちがまとめて意外ね」
「俺?」
「だってお前、それで喜んでんだろ?」
「喜ぶってかオモシロって思って。え、十二もオオカミのヌイグルミいる?トラも買ってくるか?」
「あるのかよ。それにいらん」
3人が示し合せたように飲み物を飲む。一息ついてから、信一がまだ話足りないと続ける。
「一昨日もさぁ」
「まだあんのかよ」
「いやもうこのレベルならいっぱいある。兄貴の用事を四仔が手伝ってくれて、そのお礼に兄貴がお弁当を作ってくれて四仔に届けたんだけど」
「兄貴の手作り弁当だと!うらやま」
「ええ~、懐かしい。いつだったか子供の頃すぎて忘れたけど、3人お揃いのお弁当作ってもらったことあったわね」
「あったあった。懐かし~。んでその弁当箱をだよ、次の日に回収したんだけどさ。ちゃんとキレイに洗ってあって、中に最中が2個入ってたんだよ」
「お礼ね。先生、律儀で好感度上がるわ」
「あいつ、マメだな」
「でもそこまでは想定内じゃん、四仔なら」
「そうね」
「だな」
「でもその最中の紙にさぁ、見てこれ」
信一がチェーンウォレットからいそいそと綺麗に2つ折りにされた白紙を2枚取り出した。それを開くと黒いペンで描かれたゆるいイヌとゆるいネコの顔が描かれていた。
「こっちのイヌが俺が好きな黒餡で、こっちのネコが兄貴の好きな白餡が入ってたわけ」
「なにこれ可愛い」
「あいつ、どんな顔してこんなゆるキャラを描いたんだろ」
「ほら、意外だろ?四仔ってなんか、すげぇ意表をついてくんの。それで兄貴と俺はご機嫌になって次の日の夕食に招待したんだけど」
「何そのほっこりエピソード
……
っていうか、お前この紙を財布にいれて持ち歩いてんの?」
「なんか可愛いから捨てるの忍びなくて」
「あらまぁ」
そう燕芬姐が目をパチクリとさせて信一を見たところで、4人席の残りの一枠におかれた椅子がズッと音を立てて引かれた。3人がそちらに目をやると、幼い魚蛋小妹がちょこんと椅子に座ろうとしているところだった。
「あら魚蛋小妹。あなた洛軍と一緒にいたんじゃなかったの?」
燕芬姐が養い子に柔らかく声をかける。魚蛋小妹は頷き、そうして気落ちしたように肩を落とす仕草をした。
「そうなんだけど、洛軍を男の子たちに取られちゃったの」
「なにやってんだアイツ、お姫さまを放っておいて」
「いいの。だってチャンバラを始めちゃって面白くないんだもん。洛軍には疲れたから燕芬姐たちのところでジュース飲んでくるって言っておいたし」
「へぇ、気を使えるイイ女じゃねーか魚蛋小妹。さすが洛軍の先輩だな」
信一が隣にある小さな頭を撫でると、魚蛋小妹は嬉しそうにはにかんだ。しかしその表情は一瞬で、すぐに眉を寄せて不満そうに唇を尖らす。
「それに最近男の子が妙につっかってきて、めんどうなの」
「嫌がらせを受けてるの?」
「それってほどでもないから心配しなくて大丈夫よ燕芬姐」
「ふぅん。じゃあ、あなたの気をひきたいのね」
「うんざりしたら俺がおっぱらってやるから遠慮なく言えよ魚蛋小妹」
「やぁよ、十二が出てきたらあの子たち“おおごと”よ」
「めんどくさい気の引き方だな。まるで特別みたいに優しくした方が気になるじゃんなぁ。好きになるかもしれないのに」
信一がそう同意を求めると、魚蛋小妹が顔を向けてきて「まぁ、そうかもしれない」と頷いた。別の2つの視線を感じて信一が顔を戻すと、豆鉄砲を食らったような顔をした燕芬姐と十二が信一を穴が空くほど凝視していた。「え、なに」と信一が問おうとしたと同時に、魚蛋小妹が机に広げられたイラストを見つけて元気な声を上げた。
「あ!これ先生の絵ね」
前に膝を擦りむいた時に貼ってもらった絆創膏にオサカナを描いてもらったことがある!と言い、再び信一に瞳を向けた。
「これ信一が描いてもらったの?」
「そう」
「先生が信一にプレゼントしたんだって」
「サプライズされたから、ご機嫌になっちゃったんだとよ」
えー、かわいいね、と少女はネコとイヌの紙を指でなぞった。
そうして興味深そうに尋ねる。
「じゃぁ、信一は先生が好きになっちゃったの?」
「は
……
?」
「だって特別みたいに優しくされてご機嫌になったんでしょ?」
好き?
今度は自分が豆でっぽうを食らったかのような顔をした信一は、魚蛋小妹のキラキラとした笑顔を数秒並べると、そのまま2人の幼馴染みに目を向けた。目の間の2人の態度は対照的だった。
燕芬姐は両肘を机につき、その手のひらに顎を乗せてじっとこちらを眺めながら、面白がるような瞳と口元にはいたずらっぽい笑みを浮かべていた。その目は「あのアンタが、恋なの?」とニマニマ語っている。一方の十二は、どこか面白くなさそうに拗ねた表情をして、腕を組んで椅子の背もたれへとふんぞり返っている。不満そうに細められたその目が「は?俺、どちらからも何も聞いてないですけど。どうなってるわけ?」と雄弁に語っている。
「え?好き?誰が誰を?」
燕芬姐が「コホン」と咳払いをして、信一を見る。
「何で私たちにそれを聞くのよ。っていうか信一。さっきから話を聞いていれば、あなたたちもうバカップルみたいよ」
「え?」と信一。
それに「え?」と十二。
さらに「え?」と燕芬姐。
うふふ、と魚蛋小妹。
信一は深く息を吐いた。それから考え事をするように首ごと宙を見やる。
(ええ?そういうこと?)
自分が四仔と体を繋いでから、その“謎”と“惰性”が気にかかっているのは。
寂しい夜を消化するだけなら、別のヤツでもいいのに通ってしまうのは。
自分の意表を突き続ける男への純然たる興味ってのは。
小さな女の子に指摘された瞬間、どこか納得するような感覚は確かにあった。それにハッとしたけど、息をのむほどの衝撃ではない。ただゆっくりと、確かに心の奥に落ちていく実感があった。しかし同時に胸の内にじわじわと困惑が広がっていく。
うん。いやだが、しかしだ。
「どうしよっかな」
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