kanaco
2025-05-25 11:18:34
10852文字
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【四信】意表をつく男

《四信》能天気鈍感ボーイ信一くんと、彼を溺愛している四仔さんのただただ平和なはなし。(P1~P3)

四仔は時折に意表をついてくる、と信一は思う。

最初に意表を突かれたのは、その無口で不愛想な見た目から冷たいヤツなのかと思ったら、実は他人を気遣いがちな、優しい男なのだと分かった時。そのうえ、医者なだけでなくオールマイティにこなす器用さだ。気がつけば信一も龍捲風もあっという間に信頼をおいて「困った時の四仔だ」と、事あるごとに呼びつけるようになっていた。

次に意表を突かれたのは、誰かと一緒にいる姿を見ないから“独り”が好きな孤独癖なのかと思ったら、何だかんだ文句を言いながら、意外と付きあいが良い男だと分かった時。気がつけば信一も十二も構いたくなってちょっかいを出し、一緒に過ごすことが増えていった。洛軍が来てからはすんなりと4人組になり、砦でも“4人”と言えば信一、洛軍、十二そして四仔のことを指す“お決まりのメンバー”になっていた。

つい最近に大きく意表を突かれたのは、信一が抱かれにいったら抱いてくれたことだった。

恋愛をしたわけではない。ある夜にふと訪れた寂しさと相手への興味によって、セックスフレンドとしての誘いに到った。自分で誘ったくせになんて言い様だと思われるかもしれないが、信一は誘って本当に抱かれるとは思っていなかったのだ。半ばだけ本気なそれを「何をバカなことを」と冗談へ倒して一蹴し、お決まりの「仆街」と共に診療所から放り出されると思っていた。一途で真面目な四仔と“セフレ”というフレーズの合わなさに信一は首を傾げてしまう。

そしてこの体だけの関係が何を生んだかと言えば、固くて誠実なはずの男が自分をすんなり抱くという“謎”と、それからダラダラと今の今まで続く行為の“惰性”だった。信一自身、これまで恋人は女だけだったし、幅広い選択肢の中からわざわざ男同士でのセックスしかも身近すぎる友人とのそれを選ぶ必要はないと考えている。それにもかかわらず診療所に足を運んでしまうのは気楽だからなのか、体の相性の良さが起因しているのか分からずじまいだ。

いや、純然たる興味かもしれない。
四仔は信一の意表をつく。
だからなんだか気になってしまうのだ。

(今はそんなことを考えているヒマはねぇんだけど
開いた帳簿と領収書の束をめいいっぱい錯乱させて机の上を荒らしたまま、目の前に座っている四仔を眺める。注目の男は、帳簿の記入で頭を悩ませる信一のことなど気にも留めず、何が書かれているのか分からぬ日本雑誌を黙々と読んでいた。

そう、今は四仔のことなどどうでも良いのだ。何しろ帳簿の計算が合わない。丁寧に領収書を分けて確認しているがズレが生じる。しかも先ほど龍捲風がおずおずと愁傷な様子で追加分を出してきたものだから、いくら龍兄貴に甘い信一でもたまったものではなかった。数日前にクリアしていた計算からまず狂っている。信一が肩をガックリと落としたところかのスタートだったのだ。

(もう嫌だ。四仔に手伝ってもらおう)
そう、目を据わらせて勝手に決断する。

しかし四仔は基本的に自分の領分ではない面倒ごとは嫌う男だ。だから手伝わせるには順序がいる。

信一は帳簿と睨めっこすると、大袈裟に「ギャー」と声を上げて机に突っ伏した。机に組んだ腕に顔をうずめ、そうして明らかに“俺は今しょんぼりしています”という声を出して名前を呼ぶ。

「四仔……

雑誌がパラリと捲られる音が聞こえた。気持ちのいい程の無視。しかしこれは想定内である。自分の腕から顔を少しだけずらして目をのぞかせて相手をジッと見つめる。四仔がこっちを見ていなくてもいい。ポイントは甘えたような上目遣いで気配を気づかせることだ。

「たすけて……

雑誌から目を外さず、しかしこちらの視線は確かに感じている四仔が、

「なぜ俺がお前を助けなければならない」

素っ気ない返事をする。だが反応見せればこちらのペースである。なんたって四仔は“無口で不愛想な見た目から冷たいヤツなのかと思ったら、実は他人を気遣いがちな、優しい男”なのである。

今度こそ顔を上げて四仔を真っすぐに見つめる。自由自在に動かせる形の良い眉を八の字にセット。これもまた自由に出せる涙をたっぷりと目に溜めてキュルっと潤う、強化版の上目遣い。水膜が揺蕩うその瞳に蛍光灯の明かりを集めてキラキラと煌かせるのがコツだ。そして。

(何故って)

「俺が困っているから??」

少し首を傾けて悲し気な声音で協力を請えば、四仔が(ぐぐぐ)とでもいう声が聞こえてきそうなほど不本意そうな顔をしながらも、それでも帳簿に手を伸ばす。

「へへっ」
そんな顔をしながらも四仔はやはり助けてくれるのだと分かり、信一が顔を一変させて嬉しそうに笑う。それを見て四仔が呆れたような目をしながらも素直に赤ペンにも手を伸ばし、勝手知ったるで金額を読み上げろと無言で顎をしゃくる。やっぱりイイヤツだなぁ~、と信一は思った。人が困っていればこの男は親切にも手を差し伸べてくれるのだ。

結局のところWチェックにて計算間違い箇所が1点だけ発覚して帳簿が合うと、2人して安堵混じりの溜息をつく。信一がお礼を言おうと顔を向けると、四仔は無言のまま素早く席を立った。

「あ、おい」
と声をかける間もなく、そのままフラッといなくなってしまう。

(あれ。もしかして見た目より怒ってた?)

そんな風には見えなかったけどとキョトンとした顔をして、信一はドアに消える四仔の背中を目だけで追いかけた。ポツンと1人で取り残されてしまった部屋の雰囲気が寂しい。怒っているなら今追っても“触らぬ神に祟りなし”かもしれない。あとで診療所にいって綠寶と甘味でも持参してご機嫌を覗おう、そう考えると信一は再び帳簿に視線を落とした。四仔のおかげで問題点は解消した。あともう少しまとめれば今月の分は晴れて終わりだ。

そこへ、フラッと四仔が戻ってきた。
(ん?)
顔を上げてから首を四仔の方に向けようとすると、それを制するように頬にヒンヤリと冷たいものが当たる。

(あ、茹った頭には気持ちがいいかも)

そう、口元を緩ませて目を閉じ、何かは分からぬ無機物に対して顔をスリっと自分でも寄せていく。それから四仔が自分に押し当ててきたものを手に取った。見ればそれは綠寶であった。

もう一度首を四仔の方に向けようとすると、またもそれを制するように男の大きな手のひらが信一の頭を掴んだ。

「!?」

何事かと信一が思っているうちに、四仔がそのまま髪をぐしゃぐしゃにするほどに頭を撫でまわした。まるで大型犬を可愛がるかのような勢いの撫でように信一が固まる。しかしその力加減と四仔の手のひらの大きさがクセになるかのように心地が良く、だんだんと肩の力が抜けていく。指先が髪を掻き分ける。まるで頭皮を揉みほぐしていくように触られる度に、頭も思考も心もじんわりと緩んでいく。

ひとしきり撫でまわして満足したのか、四仔は信一のご自慢のパーマを整えながら優しく髪を指で梳いた。そうして、最後にサラリと手を頬まで滑らせると、

「あともうちょっと頑張れ」

そう言って再びフラッとした風にドアを出て行った。

「えあ、ありがと」
四仔の思ってもみなかった行動と癒しを受けて頭をボヤっとさせた信一は、やや放心状態のままに反応を鈍らせ、遅れて礼の声をかける。だがその後ろ姿に聞こえたかどうかは怪しかった。

またも寂しそうに部屋にポツンと取り残された信一は呆気にとられる。そして本当に俺の意表をつく男だなと信一は思いながら、言葉を外にこぼす。

「ええ?あいつイケメンかよ」