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ななき
2025-05-21 19:34:25
15305文字
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吸死
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竜のおまじないは夢の中【Web再録】
(ドラロナ)微ホラー表現あり。
2024.5発行のドラロナアンソロジー、「人外さまのお気に入り」寄稿作。
人でない何かに好かれるロナルドくんと人外枠で圧倒的強者である竜の一族としてのドラルクさんがテーマでした。
.
主催様、本当にありがとうございました。
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◇◇◇
俺は小さく息をついた。
どうにも落ち着かず、何度もしたようにリボルバーとオートマチックの弾を確かめ、愛用の下等吸血鬼叩きを握りなおす。
シンとした見覚えのない街を歩き続けて、もう一時間ほどだろうか。危険な気配もないが、人の気配もない。不気味な静けさだ。
「ぜんっぜん出られねぇ。
……
裏新横浜の親戚なら名乗り出ろよ、おい!」
後半は空に向かって声を張ってみたが、何も返ってはこない。期待はしていなかったけどさ。
裏新横浜はとんでもない規模の空間を作り出していたヘンテコ吸血鬼だ。今の状況に似ているのでもしかしてと思ったが、反応がないのではどうにもならない。
そういえば裏新横浜に迷い込んだ後、相棒には色々と言われたのだった。一番責められたのは売店のモノを食べようとしたこと。自分の能力内で物を食わせるというのは何か意味のあることらしく、契約がなされるところだったとか二度と帰ってこられなくなるところだったとか
……
怖。あれは、今回も有効だろうか。
「どうすっかな
……
」
自分を落ち着かせるためにわざと声をだす。いつも余計な茶々を入れてくる相方の声が今だけ欲しかった。
この見覚えのない住宅街に来た、その瞬間の記憶はない。
ギルドでのパトロール当番を終えるまでは、いつも通りだった。その帰り道、人通りの少ない道に入ったところで、チスイヒルに似た、人の肩までもありそうな大型の下等吸血鬼が向こうの路地を横切った。放置はできないと追いかけて退治。最初の違和感は、その手ごたえ。妙に軽くてすかすかして、紙風船を割ったときのように中身の重さが感じられなかった。
訝しんで仲間とVRCへ連絡をとるか考えたが、迷う間もなく、また道の向こうに今退治したのとそっくりな下等吸血鬼が見えた。こんな大型が群れでもないのに何体も、というのはあまりない。この時もおかしいと思いはしたが俺は退治人だ。無視できるはずがない。追って退治して、また少し先に、を何度か繰り返した。
それでいつのまにか、この町の中。人影のひとつもなく、スマホは圏外。ダメもとでギルドに電話をしたが当然通じないし、ドラ公にもメッセージと写真を送ったけれど、既読は今もついていない。
いつもの性癖開示変態吸血鬼共の騒ぎとは様相が異なってはいるが、ここは吸血鬼の能力の範囲内だろう。
チスイヒルを追いかけて不思議の国。シンヨコでも最悪の部類のアリスだ。珍しくロナ戦向きのシリアスかも。でもそれだって俺以外に被害者が居なければの話だ。今のところ何の痕跡もみていないし、この後も目にしないことを祈るけれど。
すこしだけ休憩しようと、道路横の柵に寄りかかって空を見上げる。雨でも降りだしそうな暗さだ。ここの天気に意味があるのかわからないが、空気もひやりとしている。
……
この温度は、イヤだな。
退治人として独り立ちしたてのころのことだ。冷たくてドロドロした気配を、常に感じるようになった。それを放っておいたら、幻覚や幻聴がはじまった。手足に絡む蜘蛛の糸、部屋を埋める灰色の霧。天井からぶら下がる黒い縄、視界の端に佇む人影や、絶対に人が立てない隙間からする俺を呼ぶ声。不気味で、気色が悪い何か。
この空間の空気は、あの幻覚が出るときの空気によく似ている。
幻覚について、誰かに話したことはない。俺が、俺の未熟と不安と寂しさを形にしてしまったのだろうと思うから。
とはいえ、最近は見なくなっていた。単純な自分は、成り行きで増えた事務所の住人達が傍にいると不安を忘れるらしいのだ。特に、ドラルクが傍にいると。
ドラルク。その名前でまた小さくため息をついてしまう。
コンビの相方で同居人。非常に、ものすごく、本当に不本意だが、何もかもを押さえられてしまっている自覚のある相手。キッチンも、仕事の一部も、胃袋も。
……
唯一の、恋心でさえも。
笑われそうだが、押し掛けられて、騒がしく構われて、好き勝手迷惑かけられて、「おかえり!」が当たり前になったころにはもう駄目だったのだ。あまりにも単純で馬鹿だと自分でも思うのだけど、どうしようもない。
指の甲で唇に触れる。『おまじない』が掛けられる場所。俺が寝入り、あいつが棺桶に入る夜明け、ジョンを隣に置いて「これはおまじないだから」とつぶやいては繰り返される儀式。あの砂は、退治人の気配察知能力を甘く見すぎている。起きないわけがないっつの。いくら経験がないとはいえ、その仕草のときに息を吹き込むのが一般的でないのはわかる。吸血鬼の文化かも知れないし、自信はないけど。
タチの悪い揶揄いかと、初めは警戒した。そうであれば、俺の反応がなければつまらなくてすぐに飽きるはずだ。しかし『おまじない』は俺に気づかせないように続けられている。つまり、悪戯や揶揄いではないらしい。
それに、あの一回目。なにか我慢の限界だったんだろうな、という感じでいきなり舌まで突っ込まれた、あれ。あのあと、日に何度もバシバシされていた蜘蛛の巣払いが、ぱったり止んだ。
好き勝手自分本位で生きているが、案外にあの砂は情が深い。目の前の人間が害されるのを放っておけるヤツでもない。なにか俺の身にかかる、そして恐らく間接的にはあいつにとっての問題を防ぐための蜘蛛の巣払いだったしその代替手段としての『おまじない』だ
……
たぶん、という理解でいる。
それなのに。
俺ときたら、忘れたふりして反応を観察してみたり、毎夜寝たふりで心待ちにしたり。
いわゆる脈はないことはわかっているからというのもある。忘れたふりには、ほっとした顔をしていたし、毎夜のおまじないにも恋を思わせる甘さは感じられない。それはわかっている。でも、何かしら気にかけてくれてるってことなんだよなぁ、という情けなくもいじましい俺の恋心による狸寝入りだ。大目にみてもらえないだろうか。
何度目かの、ため息をつく。なんの動きもない道端で、空を見上げていても全く気持ちは休まらなかった。
もう一度、スマホを取り出してみる。もしかして電波が入ってギルドかドラルクから連絡が来ていないかと思ったのだが、やはりなにも反応はない。
……
このままじっとしていても事態は動かない。考えるより動く方が俺の流儀でもあるし。最近は考える部分を相棒に任せがちだというのも、まあ、すこしあるけど。
動くアテは、実はあった。すこし先に見える、大きな洋館。
ここに来てから、右にいったり左にいったりどんなに滅茶苦茶な道順をとっても、気づけばかならずあの洋館が見えるところに戻ってきてしまうのだ。怪しいなんてものではない。元凶がそこにいるのか、それとも罠か。
「どっちにしても、来いってことだよなぁ」
腹を括るしかなさそうだった。
◇
洋館の大きな玄関ドアは、軋みもせずに開いた。呼び鈴はなかったので直接声を掛ける。
「こんにちはー。どなたかいませんかー」
埼玉のドラ公の城に少しだけ似た、広い玄関ホールに俺の声が響く。返事はない。
壁には古めかしい燭台型の明かり。そのオレンジ色の光で、重たそうなドアがいくつか見て取れた。これは片端から開けていくしかないか、と思った時、右手の一番近いドアからガチャリと音がした。
反射的に玄関ドアで身を隠す。しかし誰かが、あるいは何かが出てくる気配はない。また、しんとした静寂がホールに戻ってくる。
「わーかったって
……
」
行くしかない。リボルバーを片手に、ホールを横切り、件のドア横に張り付く。重厚感のある金色のドアノブをそっと回せば、音もせずにドアが開いていく。ドアの向こうが、ホールと違い白い照明で満たされているのが見えた。
俺は、音を立てないように深呼吸をし、銃を構えて一気に部屋に飛び込んだ。
「うわ、いきなりそんなもの向けるんじゃない!」
「へ
……
? は? ドラ公?」
「おかえり。夜食できてるよ」
そこは俺の家、だった。
銃口の先、ホールドアップしているのは、見慣れすぎたほど見慣れた吸血鬼。いつものエプロンでダイニングテーブルの横に立っている。テーブルには、ドンブリと箸。ドンブリからはフワフワと湯気が立ち上っていた。
「どうかした? はやく食べなよ」
不思議そうに首を傾げている。振り返れば、さっき開けた重たいドア。
……
そんな馬鹿な。
「ほら、冷めちゃうよ」
折れそうな痩身のそれが笑った。まだ銃を構えたままの俺の、ほんの一歩先で。
……
ああ。
俺のコンビの相方は、銃なんかあたらなくったって、向けられるだけで死ぬ最弱の吸血鬼だ。
刺激しないよう、ゆっくりと重心を変えて距離をとる。
「ジョンは?」
「おでかけだよ。夜食できてるよ」
「キンデメと死のゲームもか」
「そうだよ。はやくたべなよ」
「
……
お前、誰だ」
「
……
」
真祖にして無敵のドラルク様だが? とは、返ってこなかった。
迷わず銃弾を叩きこむ。至近距離で放った麻酔弾は全弾命中した。が。
「ひどいな」
麻酔弾が当たった痕跡を残したまま、三日月型の目と口が笑う。
六発あればA級でも昏倒する麻酔だぞ⁉ 効かない? いや、本体じゃないパターンか!
思考に使ったその一瞬が失敗だった。ゾワッと突然足元に湧いた、大量の白い糸の束に巻き付かれて身動きを封じられる。糸は、俺をテーブルにつかせようと足を引っ張り、体を押してくる。
テーブルの上、ドンブリの中身が見えた。絡みつかれているのとおなじ、白い糸。ヌラヌラととぐろを巻いていてゾッとする。まさかあれを食わせようとしている?
「すわッテ」
「タべて」
それはギシギシと糸が軋む音の集まりのような、神経をざわつかせる声だった。もう、ドラ公の声には聞こえない。
抵抗すればするだけ、糸はますます増えていく。足先から喉まで音が出るほど締められて、呼吸ができない。とうとう徐々にダイニングテーブルの方へ体が引きずられ始めた。
ドラ公モドキの頭に開いた、真っ暗な洞が吊り上がる。
「サぁ」
俺を救ったのは、バァン! という勢いよくドアが開く音。間髪容れず、バレーボール大の丸いものが突進してモドキに体当たりした。低く鈍い音がして、形を崩したモドキはしかし、糸の塊を捏ねるように気味悪くうねってまた痩身を模す。
一方、バウンドしたボールは俺の足元に降り立って、威嚇の声を上げた。曲線を描くキャラメル色の背中。ジョン⁉
ジョンのアタックにも俺を締め上げる糸はビクともしていない。酸素が足りず、意識は霞みかけている。それでも残る力で何とか振りほどこうとしたとき、突然、糸が怯えたように退き始めた。身体は解放されたが、情けないことに力が入らない。床にへたりこみ咳き込む俺の耳に入ってきたのは、革靴が床を叩く足音だった。
「やあやあ失礼いたしますよ、事前のご連絡もせず申し訳ない」
お前じゃどうにもならねぇ、と思うのに。その声に、背中に、不思議と安心した。
ジョンの隣へ並んだドラルクは、こちらを一瞥だけして、また糸の塊へと向き直る。
「この男は我が城のものでして。返していただきましょう。
……
もともと、招待は私からお断り差し上げていたはずですがね」
糸の塊は部屋の中で場所を変えながら、まとまっては解けてを繰り返している。辛うじて輪郭は人の形をとっているが、もうどうみてもよく知る同居人にはみえない。白い糸の化け物だ。ざざ、ざざ、と波打つソレは、痩身の吸血鬼から逃げようとしているようにもみえた。この雑魚から逃げる必要のあるモノなんて、いるはずないのに。
「大規模な空間の生成、その維持、実在の高等吸血鬼を模した人形の作成。まったく、これだけの力を持つ存在にどこで魅入られてきたのかね、魅力的すぎる退治人殿は」
ぼやくように呟いたドラ公が、トン、と踵を床に打ち付ける。途端、その足元から炎が走った。炎は一瞬で糸も部屋も丸ごと燃え上がらせ、館全体から耳をつんざく絶叫が響く。なるほど建物自体(こっち)が本体か!
これっぽっちもいつも通りではないことをした、バカみたいにいつも通りの顔の同居人が音もなく振り返る。しゃがみこんだかと思うと両手で俺の顔を包み、目を覗き込んできた。
……
こんな状況でドキッとした俺の大馬鹿。
「寝てろ。大丈夫だから」
冗談じゃねぇ寝てる場合かよ、と怒鳴ろうとしたのに、意識がかすみ始める。催眠? こいつが? まさか、嘘だろ。
体を支えられなくなって床に転がる。
見慣れたようで見たことのない背中ふたつ。その向こうに、赤い炎に身を捩るように歪む部屋。
目を開けていられたのはそこまでで、俺の意識は暗闇に落ちた。
…………
……………………
………………………………
ガクン! という揺れで目を開く。まず見えたのは、並ぶ家の明かりと小さな滑り台。事務所近くの公園だ。
その隅のベンチに、俺は座っていて
……
あれ。洋館は。糸の化け物は。
「ヌー?」
お膝には、ジョン。起きた? 大丈夫? と心配の言葉をくれる。状況がわからないが、最高の目覚めなのは確定したので、とりあえずジョンを撫でてみる。ジョンの甲羅は、ドラ公が念入りに手入れしていることもあり、なめらかで優しい手触りだ。
呆然と優しさを堪能していれば、同居人の声がした。まぁ隣にいることは、ほっそい足が視界にも入ってたしスマホゲームの音でもわかってたけど。
「起きたかね。帰り道の途中で眠り込むとか米花町の探偵かお前は」
「うるせえ殺す。
……
俺、寝てた
……
?」
「暴言挟まんと会話もできんのか、寝落ちゴリラ。通りすがりの親切な人がわざわざ教えてくれたんだぞ、ベンチで寝てましたけど大丈夫ですかって」
そんなはずはない。あれが夢なんて。
そう言おうとしたとき、ふわ、と風が通り過ぎた。その風の中、かすかだが確かに煤の香りが混ざっている。
……
思いついて、ジャケットの下のホルスターごと、愛銃の重さを確かめる。予想通り、弾が入っていない重さだった。もちろん、仕事に出るときに装填は必ずしているのに、だ。
隣の吸血鬼は、まだピシュンピシュンとゲーム音をさせている。情報を引き出すには、アプローチを変える必要がありそうだった。
「本日の変態ラインナップは」
「ギルドに顔出したけどショットさんが暇そうにしてたぞ」
……
へぇ。ギルドでショットと話すアリバイ作りまでして、それでも夢だということにしたい、とそういうことらしい。この感じだと、スマホのメッセージも消されていそうだ。
推定・夢の最後の景色を思い出す。
赤と金に猛る炎が、部屋を、おそらくは館全体を焼いていた。床に転がる俺と、その前に立つドラルクとジョンの回りだけは、炎はむしろ守るように避けていく。
その炎に混ざる断末魔に向かって、終わりを宣告する痩躯の背中。
――
そも、我等と貴殿らは根源を同じくする兄弟でもある。形持ち声持ち、人と隣り合わせに生きることを選んだのが我等というだけ。
――
だから、私がわかるな? 『これ』に私が、私達がどれだけ執着しているか、わかっていたな? にもかかわらず手を出したらどうなるかも、無論、わかっていたはずだろう?
――
ああ、火が回ってきたな。竜の劫火だ。味わいたまえ。
炎の生み出す風で翻るマントはどこまでも優雅に、その足元、間近く侍る使い魔は何よりも頼もしく。まるで古く強大な高等吸血鬼とその忠実な従者のように。
ロナ戦でだって、あれだけ強そうにドラルクを書いたことはない。
つまり今回、俺はこいつに守られた、ということだろう。
守られたことが嬉しいわけではない。むしろあっさり拘束されたのが悔しくて情けなくてそれだけで泣きそうだ。トレーニング増やすこと決定。久しぶりに師匠(ヴァモネさん)にお願いしてしごいてもらうのも考えたい。
でも、だ。あんなのズルい、とも思ってしまう。子供心というか少年心はがっつり掴まれてしまった。ましてや、こっそりの片思い相手だ。すこーし、小指の先くらい、トキメイタのも、本音。
ふあ、とあくびをしてみせる。わざとらしくみえないように。
「
……
夢みてたかも」
「へぇ」
「誰もいない町、歩く夢。吸血鬼かもわからん変な怪物が出てきて」
「ほう」
「で、まさかのお前が迎えにくる」
「さすが私。畏怖して感謝しろ?」
「夢だろ。
……
お前かっこよかった」
ひゅ、と妙な呼吸音がしてドラルクが固まった。お、死なねぇで耐えやがった。耳と指、崩れてるけど。
「化け物相手に一丁前の啖呵きってたけど、夢だもんな。お前、あんな状況で死なねぇわけないもん」
「
……
」
「ヌンヌ?」
「ジョンもいたよ! すげーかっこよかったぜー!」
「ヌヒャー!」
ジョンのおなかをわしゃわしゃさせてもらいながら窺う横顔は、じわじわと血色がよくなっていく。
「なに。照れてんの」
「ち、ちがうわ! これは、スマホが熱くて」
「夢ではかっこよかったのに」
「
…………
っ‼」
なー、ジョン。たまーにかっこいいよな、こいつ。ヌャン。たまにな、たまーに。
……
そうだ。
「夢といえばさ、最近お前、俺が寝てるときになんかしてねぇ?」
ドラ公は、あからさまにギクリとした。発汗、小さく揺れる身体、瞳孔の収縮、視線の定まらなさ。白状しているようなものだ。それでも平静を装う努力はすることにしたらしく、スマホを見たままの姿勢は動かさない。
「ゴリラの寝顔を観察する趣味はないが?」
「ふーん。じゃあ、あれも夢か。
……
残念」
「え」
わざと独り言として付け加えた一言に、吸血鬼は大きく反応した。弾かれたようにこちらへ向き直る。まぁ今度は、なんとなく恥ずかしくなった俺がジョンを見ているんだけど。
「ま、まて。あれってなに。残念ってなにが」
「なんでもねぇよ。夢だし」
ドラルクは滅茶苦茶にうろたえた。もう耳の先なんかほとんどピンクだし、無意味に手を組んだり上げたり下げたりし始めた。
……
これ。この反応、さぁ。『おまじない』以外の意味を期待しても、もしかして、いい?
俺をわざわざ迎えに来たことが、どういう意味かは、まだわからない。靴下に執着するように、うっかり人間に執着してしまっただけかもしれないし、コンビとしての情からかもしれないし、あるいは、もしかしたら、俺のように。
……
都合のいいようにとってしまいたいけれどまだ保留にしよう。
『おまじない』の件も保留。ただしたかったからしたこともあったりしねぇ? とは、まだ言わないでやる。退治人ロナルド様を五歳児と侮ったこと後悔させてやるぜ、吸血鬼ドラルク。
主人の挙動不審を見かねたジョンが、ドラ公のところに戻ってしまった。その腹に顔を埋められながら、生暖かい目で黒髪の頭を撫でている。
吸血鬼の、尖った耳の先はまだ赤い。その赤さに煽られるように、『おまじない』がしたいな、と思った。
なあ、こっち向けよ。
もし向いてくれたら『おまじない』してやってもいい、なんて言ってしまおうか。
言ったかどうかは、秘密だ。
◇◇◇
我がドラルク城マークⅡ、またの名をロナルド吸血鬼退治事務所には、相変わらず妙な客が多い。
いまや、銀の退治人には強力な『呪い(おまじない)』が掛かっている。それでも惹かれてやってくる。
渡すものか。
月と街灯りに映えるプラチナと、銃口の先を見据えるアイスブルーを思う。唐揚げを頬張る柔らかな頬の色と、使い魔と戯れる笑い声を思う。
強く、柔く、美しい人の男。どんなものよりも私を惹きつける昼の子。
あれは、私のものだ。
◇◇◇
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