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kanaco
2025-05-16 21:43:43
25199文字
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信一くんは幽霊が見えるシリーズ まとめ
1P 九龍城砦福祉委員会副会長は幽霊が見える
2P 九龍城砦福祉委員会副会長は懐かしい夢を見る
3P 九龍城砦福祉委員会副会長にも甘えたい日はある
4P 九龍城砦福祉委員会副会長はお人よしがすぎる
5P キャラクターまとめ
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第二話【九龍城砦福祉委員会副会長は懐かしい夢を見る】
信一は物心ついた時から不思議なモノが見えた。
そうしてそれは自分の養い親となった男、龍捲風に引き取られてから加速した。それはもう、現実と夢と怪奇の境目がつかなくなるほどに。
声にならない悲鳴が子供部屋から聞こえ、龍捲風は飛び起きた。九龍城砦の猫たち数匹がカリカリと龍捲風の養い子・信一が眠っている部屋の扉を引っ掻く。急いで扉を開けて部屋の電気をつけるとベッドから上半身だけを起こし、その小さな両手で必死に目を隠し震えている少年が目に入った。
「信仔」
「祖哥哥ー!」
養父の声と部屋の明るさによって、手を離して涙目を露わにした信一が緊張を解いたような声で呼ぶ。
「どうした」
ベッドに腰をかけて頭を撫でてやり、顔を覗き込む。懸命に涙をこらえる姿がいじらしいその少年は、よほど恐怖していたのか言葉を出そうとしてハクハクと喘ぐ。龍捲風と一緒に部屋に入ってきた5匹の猫たちが彼の周りを囲って暖めるように身を寄せ合う。
「ゆっくりでいい。信仔、大丈夫だ」
「か、髪の長い女の人が」
信一が出窓の方を見たので、龍捲風も一緒に視線を出窓に移す。そこには何もいない。しかし龍捲風が信頼する猫たちが一斉に一鳴きするとバタバタと扉の方へ駆けて出ていく。なるほど、ソレは外に現れて移動しているらしい。ただしその臭いを必ず嗅ぎつける”空腹な異形の猫”たちの腹の中におさまるのは、時間の問題だろう。
「今日、廊下で男の人とすれ違ったんだ。砦で見たことがない人だったから誰だろうと思って見ていたら目が合っちゃって、そうしたら僕の方に向かって歩いてきて。でも様子がおかしくて、それなのに誰もその人のことを気に留めていないし、これってダメなのかもって逃げたの。そうしたらその人はもう現れなかったんだけど、色んな人が...」
「うん」
「気がついたら、僕の方に向かって色んな人が歩いてくるの。男の人も、女の人も、子供も。でもみんな歩き方がおかしくて、顔も虚ろだし、僕だけに向かって、ゆっくりだけど真っすぐに歩いてくるの」
「それは怖いな」
「哥哥と一緒にいたら誰も出てこなくて、だからもう大丈夫だって思ったんだけど。今、窓のところに」
閉まっている窓から入れるわけないのに、窓は開けようとせず、そのガラスに額と体も押しつけて、顔をゆがめて窓をガタガタと揺らしながら、ただただこちらに歩いてこようとする髪の長い女の人が。
「いたの......」
その光景がぶり返したらしく、また小さく震え出した子供の背中を龍捲風は優しくもしっかりと撫でる。
「もう大丈夫だ。頑張ったな。.........ふむ。お前は【引き連れるもの】なのかもしれないな」
「ひきつれるもの?」
「お前が見てくれるから、縋って、ついてこようとするんだな」
信一がショックを受けたような顔をした。その頬を両手で包み込む。そうすれば可愛い子はすぐに表情を和らげる。
「それならば、きちんと対処できるようにならなくてはな。怖がる必要がないものは怖がってはいけないし、何であっても恐怖心を表に出してはいけない。ふふ。でもそんなに表情を固くしなくてもいいぞ、信仔。怖いものは”怖い”でいいからな。それはお前を守る大事な機能だ」
「そうなの?」
「そうさ、俺にだって”怖い”ものはある」
「嘘だぁ」
信一は目を丸くしてのけぞるような仕草をした。自分が話す言葉を一生懸命に聞いて、さらに全身で返事をする子供が愛らしい。
「哥哥は強いもの」
「嘘ではないさ。俺にも怖いものがたくさんある。あの世にも...この世にもな」
「ふぅん」
あまり納得のいっていない様子ではあったが、好奇心が湧いたようだった。先ほどまで怖がっていた様子はもう微塵もなく、龍捲風は子供の心の移り変わりの早さを面白く思う。
「大人も怖いの?秋兄貴も虎兄貴も幽霊怖い?」
「うーん、秋はあれで内からも外からも守りが堅い男だからな。そういう類の影響を全く受け付けないだろう。だから存在を信じていないかもな。どちらかというと虎の方が色々なものをわんさか連れて歩いていたか。まぁ、あれは好き好んでやっているところがあるだろう」
「ええ?」
それって大丈夫なの?と信一が心配そうに問うと「お前も虎の強さは知っているだろう」と微笑むので、子供は「それもそうだね」と納得して安心する。
「アレに関する事象について人間の耐性は様々だ。人によって反応する五感も違うし、お互いに影響しあう範疇も違う。信仔は俺に似て影響を受けやすいんだな」
「哥哥と一緒?」
「そうだな。どこでも人気者だ」
「哥哥と一緒は嬉しいけど、こんな人気は俺いらないよ」
お前の言うことはもっともだ、と龍捲風は頷いた。
「本当に恐れるべきものは何か、きちんと見定められるようにならなくてはな。それに見なくて良いものを見ないためのコントロールも身につけよう。手っ取り早いのは、そういうモノを寄せ付けない人間を見つけてその傍にいることだが
…
.......俺の傍にいてはそれは叶わないだろうから」
「僕はずっと哥哥の傍にいるよ」
信一が龍捲風へギュウと抱きついた。信一の柔らかい髪が龍捲風の顔に触れる。シャンプーのほのかな香り。子供の体温が伝わってくる。龍捲風は一瞬だけ躊躇い、しかし結局はたまらずに無邪気に身を寄せる小さな体を腕の中に大事そうに抱きしめた。
「.........まぁ、将来な。お前にも仲間や伴侶ができるだろう。ただし幽霊の影響を受けない者にもタイプは様々だから、見極めは重要だ」
「うぅん
…
」
「つまり陽の気が強すぎるような者もいるんだな。生の気と言ってもいいが。その溢れるエネルギーに引き寄せられて色々なモノたちが寄ってくるが、本人が強すぎて近づいたとたんにソレらを跳ね返してしまう」
「そうしたらどうなるの?」
「その有象無象が周りの人間にばら撒かれる」
「すごい迷惑なヤツじゃん!」
信一が驚愕した顔をして素っ頓狂な声を出すので、龍捲風が声を出して笑った。
「そうなんだ。非常に迷惑なヤツなんだ」
まるで、そういう人物が身近にいたような言いぶりだった。
「だがしかし、魅力的なのだろうな」
龍兄貴の瞳が誰かを想うように遠くなる。信一はこの大好きな養父が、時折、今この場にいる人間ではなく、遠く昔の人を瞳に映して過去に飛んで行ってしまうことに気がついていた。信一はそれがいつだって面白くなくて不満げな声を出す。
「でもそれで兄貴が大変な思いをするなんてひどい」
龍兄貴に視線が、信一に戻ってきた。優しい顔がふふ、と笑うから信一もつられてニッコリと笑う。
「名前に釣られて俺に寄ってくるのかもしれないな。龍というのは昇るからな。地と天を繋ぐ。アレらは昇りたがって俺に縋ってくるのさ」
だからな、信仔。
「もし、お前がまた怖い思いをしたならば」
俺の名前を呼びなさい。
「.........龍捲風」
自室のベッドで目を覚ました信一は、ぼんやりとする。懐かしい夢を見た。愛しい夢だ。色褪せない。切なさもあるが、自分はあの人に注がれた愛情を胸に抱いて、頑張れる。
そして。
「あ.......もしかして...俺、寝言で兄貴の名前読んだ?」
「みゃぁ」
信一の頭の周りを、覗くようにとり囲んでいる5匹の猫が返事をする。本当に猫なのかなんなのか信一が疑わしく思っている龍捲風の忘れ形見たちは、信一が幼い頃からずっと変わらない。龍捲風がいなくなってもこの九龍城砦に住みついたまま自由に暮らし、気がついたら様子を覗うように信一の傍に寄ってくることがある。特に、あの人の名前を唱えた時には。そんな猫たちが一斉にグルンと首を回し、一点に視点を集中させた。
その先にいるのは、三つ編みをした6歳くらいの可愛らしい女の子だ。
「ああ~、たんま。あの子はおれが【引き連れてきたもの】なの」
お前たちのメシじゃない。
呼びつけておいてそれかよ、とでも言うように億劫そうに5匹のうちのボスである灰色猫が鳴く。
「悪かったって小龍猫」
お前らは解散して~とお願いしてから、その猫たちの輪とは離れており、信一の部屋に異質に立っている幼女を守るように隣に寄り添っている、首に青い紐と鈴をつけた黒猫にも一声かける。
「藍鈴、もうちょっとその子の面倒をみてて」
「にゃぉ」
信一のほぼ飼い猫になっている、これまた本当に猫か疑わしい利発な黒猫が了承したとでもいうように鳴く。
子供とはいえ、さすがに女の前で堂々と着替えるのは憚られると洗面に向かう。顔を洗って歯を磨いて薄い髭を剃り、お気に入りのシャツに着替える。デニムにウォレットチェーン。龍捲風が無くなってから切っていない伸びた髪は、サラリと整えてからゆるやかに後ろで結ぶ。顔に一線、いまだ残っている傷跡をそっと触りながら鏡を見て1人頷く。
よし。さすが俺。今日もイケメンでキマってる。
洗面所から景気よく飛び出すと、女の子の元へと歩み寄る。女の子の前にしゃがみ込み、目線を合わせた。怖くはない。怖いものとそうではないものの判別はすでにつくようになっている。そうして大袈裟な仕草で、左手を差し出し、柔らかな声で言う。
「じゃ、行きましょうかお嬢さん」
九龍城砦副会長は砦の善良な住人が困っていれば、須らく手を差し伸べる所存だ。
目指すは仏頂面の医者がいる診療所。
女の子が自分にピタリとくっついて来たことを確認し、信一は軽い足取りで部屋を後にした。
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