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kanaco
2025-05-16 21:43:43
25199文字
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信一くんは幽霊が見えるシリーズ まとめ
1P 九龍城砦福祉委員会副会長は幽霊が見える
2P 九龍城砦福祉委員会副会長は懐かしい夢を見る
3P 九龍城砦福祉委員会副会長にも甘えたい日はある
4P 九龍城砦福祉委員会副会長はお人よしがすぎる
5P キャラクターまとめ
1
2
3
4
5
第一話【九龍城砦福祉委員会副会長は幽霊が見える】
「え。信一は幽霊が見えるのか」
九龍城砦。食堂にて洛軍と一緒に夕食を取っていた信一は、問われて不思議そうな表情を返した。
「なんで?意外?」
「いや、どちらかというと信じていないタイプかと思っていたから」
「そう?」
確かにそういう話題は出さないし、誰かのその手の雑談に乗っかるようなこともしないかもしれない、と信一は思考を巡らす。
「まぁ...。幽霊が見えるって言ってもそんな万能なもんじゃないけど」
「そうなのか?」
「何でもかんでも見えるわけじゃない。俺はまず見ようと思わんし。目を逸らしてるのにソイツと波長が合ってしまえば、勝手に見えたりすることはあるけど...」
信一の霊感は子供の頃が一番強かった。物心ついたときから不思議なモノが見えたし、自分の養い親となった男、龍捲風に引き取られてから一気に加速した。それはもう、現実と夢と怪奇の境目がつかなくなるほどに。
その自分を矯正したのはやはり龍捲風だった。信一と同じく影響をされやすい性質を持っていたらしい龍捲風は「何を恐怖の対象と捉えるべきか」や「見なくてもいいモノへの目の閉じ方」を教えてくれた。正直なところ信一はこのうっとおしい体質を嫌っていたが、龍捲風が困ったように優しく「血は繋がっていなくてもやはり親子は似るのかな」と言ったことがあるので、その点では悪くないと思っている。
「九龍城砦ではさぁ、まぁ色々なことが起きすぎてあっちもそっちも騒々しいわけよ」
「俺は観たことがないな」
そう言う洛軍に信一は心中で(そりゃそうだろうよ)と返す。
龍捲風によれば怪奇現象に対する人間の耐性や互いに影響しあう範疇は様々だという。龍捲風のように少しは相手に接触できる者もいれば、信一のように見る聞くはできるがそれだけの人間もいるし、何も影響を受けない所謂ゼロ感という者もいる。
信一の見立てによれば、洛軍は信一が今まで出会った人間の中で最も強力な【弾き返す者】だ。弾き返すというよりは、そこら辺にいる霊体であれば一気に浄化させてしまう。それは結界にも似た攻撃性さえ感じる強い加護だった。
とんでもなく強い先祖でもついてんのか?
ついてたわ。そういえば。この空気清浄男め。おかげさまでお前が来てから俺の周りがスッキリしてとても過ごしやすいよ。お前は知らんだろうけど、アリガトウだよ。
能天気なヤツめ!と信一が心中でブツブツと言っていると「でもお前が幽霊が見えるというなら、そうなんだろうな」と、洛軍が至極当然というようにそう同意を示したので、信一が片眉を上げる。
「幽霊見たことないし、幽霊信じてないのに?」
「幽霊は信じていなかったが、お前のことは信じているから」
「お前........俺を信用しすぎじゃね?俺が揶揄ってるだけだったらどうすんの?」
「揶揄ってるのか?」
「揶揄ってねぇけど」
「だろう?お前は信じられるヤツだから」
なんかどこかで聞いたようなセリフだな
…
、と思いながら叉焼飯を頬張る洛軍を見つめつつ2本になった手で煙草を一服。こいつ、本当に食べっぷりが気持ちーなぁ
…
と思いながら眺めていると、少しモノ言いたそうな瞳とかち合う。
「んー?兄貴が見えるかって?」
「あ、いやそういうわけじゃ」
「兄貴はとっくに昇ったと思うぞ。知らんけど」
あの事件は九龍城砦にて敵も味方も多くの死者を出した。実際、戦場だった。信一も不思議に思っているのだが、こういう幽霊沙汰の話において、少なくとも彼が知るような抗争におけるソレらを見たことが無かった。それに限らず、生前に怨み、恨まれ、嘆き、執着あるように思う人間の全てがこの世に留まるわけではない。
その理論は分からない。なぜなら信一は受動的な態度を取るしかできないからだ。信一はあの事件で失った大切な人たちの姿を、その後どこでも見たことはなかった。そのことは少しだけ彼の気持ちを楽にさせる。この世に残っていて健全なはずはないからだ。
「ただなぁ」
「ん?」
「俺、幽霊以外にも見えるものがあってさ」
「幽霊以外?」
「まぁ、同じようなものなんだけど。そこに染みついた記憶が見えるんだよなぁ」
「記憶?」
「例えばさ
…
」
オウム返しばかりして頭にクエッションを飛ばしている洛軍に「あそこ」と信一は右手の人差し指で差す。それは厨房だった。
「阿七が叉焼飯をカウンターに出してる」
「は!?」
ギョッとしたような顔で洛軍がそちらに目を凝らす。
「という映像が見える」
何も見えなかった洛軍が信一に視線を戻すと、特に気にした様子もない信一が言葉を続けた。
「幽霊じゃない。ただあいつがあそこで叉焼飯作ってみんなに振る舞っているのが幸せだったんだろう、だからその幸福で大切な記憶が、あのカウンターにただ、残ってる」
信一がカウンターの向こうをとても優しい瞳をしてみる。その様子から洛軍は自分は見えなくとも納得したようだった。
「そういう風に、場所やモノには誰かの大切な記憶が残っていて、それは時々まるで残像みたいに俺の目に映るわけ。まぁ、数秒動く写真みたいなもんだな。声が聞こえることもあるけど聞き取れたり、聞き取れなかったり。突然出現して見えたと思ったらパッと消えちまう。それは亡くなった人が残した大切な思い出ってだけだから、そこにあるだけでそれ以上でもそれ以下でもないんだ」
洛軍が頷く。
「それでさぁ」
大兄貴と王九が乗り込んできてさ、砦を乗っ取ってグチャグチャにしちゃったじゃん。でも俺らで取り返した。その直後は砦も酷い有り様で本当にキツかっただろ。それでも九龍城砦のみんなとさ、立て直したじゃん。またここで生活するために。壊されたとこ修理して、きれいに掃除して、できる限り元に戻そうとしてさ。そうしたらさ
…
。
「記憶がな、至る所に残ってるんだよ。あの人の」
最初は全然見えなかったんだけど、砦が元の姿を取り戻すのと一緒にどんどん増えていったわけ。
事件直後の俺は全然立ち直れていなかったし、正直それが本当にこう
…
辛くてさ。
「お前も知っている通りさ、俺、一時本当にダメになっていたと思うんだけど
…
」
その言葉に洛軍は同意も否定もしなかった。ただ、真剣に信一の言葉に耳を傾けて静観する。その真面目さや誠実さに心を和らげながら、信一は続ける。
「でも途中で気がついたんだよなぁ」
兄貴がこの砦に遺した記憶にさ、ほとんど全部に俺が一緒にいるってこと。
幼い俺にお菓子を作るあの人とキラキラした目で見上げている俺。
簿記の勉強の途中で寝落ちした俺に毛布をかけてくれるあの人。
バイクを買ってもらってはしゃいでいる俺を見て少し呆れているあの人。
帳簿のつけ方の杜撰さを発見して叫ぶ俺とちょっと慌ててるあの人。
一緒にお茶休憩をしている何気ないあの瞬間。
理髪店で髪を切ってもらっている時。
黒社会寄りの仕事で三日三晩帰れずやっと兄貴に元に戻った時に迎え入れてくれた時の瞳。
もうさ、九龍城砦歩いてると色んなとこに残ってるわけ。
しかも小さい頃だけとか最近のだけ、とかじゃなくて色々な年頃の俺たちでさ。
あの人はずっと過去の方ばかり向いて生きていた人だからさ、自分の幸せをどこにも刻んでたんだろうな。
もともと兄貴に愛されてるっていう自覚はちゃんとあったんだけど。
それをこう客観視した形で見てみたら、俺を見る兄貴があまりにも楽しそうで、嬉しそうで、優しそうだからさ。基本的にポーカーフェイスなあの人がどんな時だって、すごい優しい感情を乗せて俺を見ていたらさぁ。
すごいじゃん、兄貴、俺のことめちゃくちゃ愛してたじゃん。俺って本当にめちゃくちゃ兄貴に大切にされてきたじゃん、って思い知らされたって言うか。
なんかそういう風に自覚したらさ、兄貴を失って悲しくて苦しいのは変わらないんだけど、なんかそれ以上に言葉では表現できないクるものがあって。
だからさ。
正直、もうダメだって思っていたんだけど。
こんなにも兄貴に愛されていた「俺」が、その「俺」を愛してあげなんてダメかなって、大切にせずに自暴自棄なことしているのはダメかなぁ、って
「なんか、そう思ったんだよなぁ」
そこまでひとしきり喋って、信一はハッとした。
「悪い、ペラペラと1人で喋り過ぎた」
やらかした!というバツの悪い顔をする。
「めちゃくちゃ自分語りしたじゃん、恥ずかし」
「そんなことはない」
少々焦って気まずそうな信一とは反対に、洛軍は穏やな表情と優しい目で目の前の男をみた。
「お前のことが、とても愛しいと思ったよ」
思っていた返事が斜め急角度で信一の思考がしばし停止する。
(ん?)
何をどうしてそうなる?
「何それ。お前、俺を口説いてんの?」
「いや。本当に思ったことを、ただお前に伝えただけだ」
「そ?」
「俺はお前と龍兄貴の関係性をずっと眩しく感じていたが、その気持ちがもっと優しいものへと昇華された気分だ」
「そうなの?」
「俺もお前を大事にしてやりたい、そう思った」
「ん?.....ありがとう??」
「ああ」
ふわふわと機嫌が良さそうな様子で、洛軍は「次の仕事が入っているから、また」と言って席を立った。
相変わらずよう分からん男だ、と心中で呟きながら信一は手を振って見送る。洛軍が食堂を出て行って、1人テーブルに取り残された信一は残り少なくなった煙草を再度咥える。
……
1か所だけ、この砦に兄貴の記憶が一切残っていない場所がある。
俺と兄貴を最後に隔てたあの裏門を恐る恐る訪れた時、その通路から扉まで誰かの手によって不自然なほどに清浄されていたと同時に、その場所の空気も不自然なほどに浄化されていた。そこにはまるで事件も記憶も何もかもなかったように。そこにあるのは静けさのみであった。
ああ、心配性な兄貴。
まぁ、そりゃそうだよなぁとも思う。
でもごめんだけど、いくらあの場所を浄化したって、あの記憶を失くすことはできないよ。
自分の無力さによって、大切なあなたを亡くしたことを。
そうして最後に刻み付けたあなたの顔を。あなたの言葉を。
それも大切な俺とあなたの記憶なのだから。
あなたが残したたくさんの愛溢れる記憶と。
一生塞ぐことのないこの大きな哀しみと喪失を。
一緒に抱いていくことを決めたのだから。
信一の頬を優しい風が撫でる。
この砦は人の優しさや思いやりが人の居場所をつくる城。
住人たちの様々な思いを色々なところに記憶へと宿して、九龍城砦をそうたらしめる。その記憶たちに抱かれ後押しされて、九龍城砦副会長は今日も砦を駆け巡る。
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