kanaco
2025-05-15 23:10:56
12580文字
Public
 

【洛信】洛信SS(単作)まとめ(フセッター時代)

1P【つきあってない】悪酔いしキス魔になる信一くんと、1人スルーされる陳洛軍さん
2P【罰ゲーム】己の女装の仕上がりにテンション上げ信一くんと、結局YESな洛軍さん。
3P【暗】(R18)信一が好きすぎてちょっと病んできた洛軍さんと、満更ではない信一くん



【暗】

「信一」

洛軍はいつでも何度だって愛しそうに恋人の名前を呼んだ。そうして呼ばれた信一が、時と場所によって色々な表情を見せながらも、やはり愛しそうに自分だけに向けて「洛軍」と名前を返してくれるのが嬉しいからだ。その響きはどんな時でも洛軍へ喜びを与えたが、こと情事の最中においては格別な余韻をもたらせた。

「ろぐわ、ん」

服を脱がされて、好きなように体を弄られ、息を乱して絶え絶えになりながらも、舌足らずに自分の名前を呼ぶ信一は愛らしい。真っ白なシーツにしどけなく四肢を投げだして、あられもない姿で横たわっている、それだけでも絵になる美しい男なのだ。その体に覆いかぶさって顔を覗き込めば、水分が豊富に溜まって潤む目がトロリと欲と期待に満ち、甘えるように洛軍を見つめた。情欲に浸る恋人は淫靡であるのに今だ“あどけなさ”さえ残して、洛軍の心の“深いところ”を刺激する。

「信一」
「うん」
「信一」

だからなんだよ、と言うように信一がふはっ、とふやけた笑顔を見せた。眉を八の字にさせて呆れを滲ませ「困ったヤツ」とでも言うような顔をする。

「洛軍」

それでもちゃんと名前を呼び返す。信一がベッドに投げ出していた2本の腕が伸びてきて、洛軍の顔を手のひらで包むように触った。優しい手つきに誘われるように顔を降ろして信一の額に1回だけキスを落とすと、そのまま左耳へ顔を寄せて息を吹きかけた。信一は耳が非常に弱い。それだけでも首を逸らせて逃げるようなそぶりを見せるが、構わずに耳たぶを食み、舌や歯でやわやわと刺激しながら熱い息をわざとらしく吐く。一緒に指先を左胸の突起へ触れさせて刺激を与えてやった。信一は無意識に声を抑えようとして口元へ右手を伸ばしたが、洛軍はそれを掴んでベッドに縫い付け、そのまま2本しかない指を優しく擦った。

「んはぁあ、ンやぁ」
与えられる耳と乳首への刺激の波に合わせて、信一の艶っぽい声と洛軍の右手を握る力の強弱が面白いように揺らぐ。反応を楽しみながらそのまま耳へのキスを首筋へとスライドさせて、鎖骨を辿り、先ほどからの指先に弄ばれて既に素直にしこり立った乳首へと吸いついた。舌で転がしてからそっと歯をたててカリッと甘く噛むと
「アっ」
一際に高い声が上がって細い腰が跳ね背が弓のようにしなった。慌てるように信一が洛軍の右手を振り払い、左手さえ登場して口元を7本の指でバッテンするように抑える。洛軍は顔を上げた。
「信一、口元を抑えないでくれ」
「うぅ……、だってさぁ」
「俺はお前の声が聞きたい」
……俺は恥ずかしいんだよ」
「触るなら俺を触ってくれ」
信一の意見を無視し彼の手首を取って自分の肩へ導いて置かせる。いまだ「うう」と淀む信一に「ありがとう」と微笑むと、彼の羞恥心の葛藤を丸っきり無視している行動にも関わらず、信一はすぐに許すように目じりを下げて口元に笑みを浮かべた。


この恋人の、なんと優しくて愛らしいことか。


洛軍は思わずにはいられない。もう何度も体を重ねているというのに初心に恥じらい、毎晩洛軍のために羞恥心を捨てる努力をしてくれる。そしてそれがまた、洛軍が信一に対して見せないようにひた隠している心の“深いところ”を刺激する。信一から溢れ出るものは全て自分のものにしたい。全てだ。信一は洛軍の願いをひたすらに受け入れてくれるというのに、自分はなんと浅ましいことか、と自嘲気味に笑いたくなる。

それは洛軍が今まで感じたことのない強烈な独占欲だった。信一が嫌だと思うことを強要したくはないが、彼から零れる切ない声は耳を通して直接的に洛軍のあらゆる感情を揺さぶる。愛情、庇護欲、献身、いたわりなど恋人を大切にしたいという想い。しかし自分の感情がそれに止まらないことを、信一と濃密な時間を過ごすうちに知ったのだ。

瞬時、物思いにふけっていたためか、感情が表に本の少しだけ滲んだのを目ざとく感じ取った信一が目を潤ませたまま首を傾げた。

「どうした?」
「あ、いや」
「最近、なんだか戸惑ったような顔をするよな、お前」
隠せていたと思っていた感情を実は悟られていたことに驚いてしどろもどろになる洛軍に、信一が追い打ちをかけるように問う。
「お兄さんに言ってごらん」
……お前、俺より年下だろう」
「魚蛋小妹はお前の姉じゃん」
「うぅん、それとこれとは」
「いいから。ずっと気になっていたんだ。正直、お前に抱かれているっていうのに時々苦しそうなカオされるの、心配になる」
「信一」
「ふふ。……俺に飽きでもした?」
冗談交じりの言葉ながら、その底には確かな哀しさを滲ませた声音。


「違うっ!!!」


反射的に大きな声が出た。信一が驚いて大きく肩を跳ねさせ目を白黒させる。先ほどまでの艶っぽい雰囲気が一瞬で消え去り、気まずい沈黙が数秒流れた。

「ふぅん」

静寂を裂いたのは信一だ。

「それだったら、なんだよ」

信一に大きな声を出してしまったことにショックを受けて固まっている洛軍を安心させるように、しかし自分に怒鳴った罰として黙秘は許さないというように、信一が洛軍の唇を指でゆっくりとした仕草でなぞった。

「す、すまない。ただお前が滅多なこと言うから」
「全部、言え」

声低めの命令口調とはうらはらに表情はうっすら笑みを浮かべているほど柔らかい。しかし結局は目の奥底には剣呑な光が宿っていた。しばし躊躇った洛軍は観念したように口を開く。信一が自分の心変わりを不安に思う程心配になっている、ということも棘のように刺さったからだ。

「俺は今まで一つの場所に定住したこともなく、ずっと転々としていて、誰かと長く過ごすこともなく、1人で過ごしてきたことは知っているよな。ここに来た経緯も密入国だった」
「ああ」
......初めてなんだ」

ここにずっといたい、そんな風に思った場所は。
龍捲風がそれは“場所”ではない、“人”がそう思わせるのだと言っていた。

「こんなにも失いたくないと思う大切な友達ができたのも、もっと力になりたいと思う仕事仲間を持てたのも、できる限り親切にしてやりたいと思う周りの人たちに出会えたのも」

一度、言葉を区切った。信一の顔に手を添える。

「こんなに好きだと、愛おしいと思った恋人も」

母が亡くなってからずっと1人だったから、そうして1人でも問題なくずっとやっていけると思い込んでいたから知らなかった。

「お前が大切で、優しくしてやりたいのに。自分の中にこんなに恐ろしい感情が眠っていて、支配されそうになるなんて」
「恐ろしい感情?」

じっと聞いていた信一が聞き返す。目を逸らすことを許さない真剣さに、洛軍も真っすぐ視線を返した。

「お前に惚れていく度に、どうしようもない執着心と独占欲に潰されそうになる」

貪欲になってしまった、と洛軍は思った。しかもそれは確実に劣情を伴っていることを自覚していた。

「いつかお前が俺から逃げようとしても、もう離してやれる自信はない。そんな時、一体どういう行動をとってしまうのか自分でも分からない。

でもこの衝動は良くない。良くないものなんだ。お前を壊してしまうかもしれない。それどころか、今こんなにも俺を受け入れて気持ちを返してくれるお前すら、誰にも触れさせたくない、見せたくないだなんて」

あの戦いの時、あの恐ろしい男につけられて残ったしまった頬の傷跡に触れる。信一の右手をとって残された2本の指もそっと口に含んだ。信一の口から、ふっぅ、と吐息が漏れたのが聞こえる。こんな傷をつけられるくらいなら。こんな風に奪われてしまうくらいなら。

「どこかに閉じ込めておきたい。誰も知らないどこかへ。俺しか見ることができないように。それとも……

いつも穏やかで優しい光に満ちる洛軍の瞳の奥が、クルリ、と仄暗さを纏う。さらにその目の中心にじんわりと現れた小さな常闇を見て、信一が残された指の方で洛軍の目元をそっと触れる。


「閉じ込めるってどこへ?」
信一は甘く穏やかな声音で問う。
「なぁ、どこなの?洛軍」


ねぇ、俺をお前の手で殺して俺の永遠を手に入れたいの?


洛軍がビクリと体を強張らせた。しかし信一はずっと穏やかに笑っている。
(あ)
と洛軍が思った時、信一の瞳の奥が、クルリ、と仄暗さを纏った。中心に燻る小さな常闇は洛軍の同じそれと溶け合うようにしてネットリと視線を絡ませる。


「最高じゃん」
つまり、俺より先にお前が死ぬことはない、ってことだろ。


うっとりとした声色で万遍の笑みを浮かべる信一を眺め、洛軍は頭を抱える。この男、どこまでも自分を受け入れてしまう。ああ、もうこんなのは沼だ。頭までしっかり浸かってしまって、もう二度と這い上がることはできない。


……お前は優しくされるのが好きだろう」
「優しくされるのが好きだけど、愛されるのはもっと好き」


信一の手が洛軍の両手を掴んで自分の首元へと持って行く。洛軍はその滑らかな肌を感じる。男にしては細い首だ。信一の手のひらが洛軍の手ごと己の首を上から押しつけるので、洛軍が逆にその首を守るように抵抗する。

「いいよ、俺。お前の腕の中で死ねるなら。俺をお前の永遠にしてくれるなら、全然かまわない」
いっそ今でも。

……兄貴の“信一に生きて欲しい”という願いを無下にはできない」

「そうさ。無下にはできない。だけど、俺の本心ではある」
だってあの人も勝手ではあったよ。俺の気持ちなんて全部知っているだろうに有無を言わさないでさぁ、と信一は笑った。養い親のそんなところも愛しかったのだ。だから彼の願いを叶えてやりたいというのは本心だ。しかしお前に言ったことも本心だ、と信一は言う。

「っていうか、そんな目をしているのにまだ理性をキッチリ働かせているの、ホントお前って感じだよな。優しい男だよ。そして俺のことが大スキ」
もっと堕ちてきてくれてもいいのにさ、とケタケタと笑う信一が思い出したように言葉を続ける。

「ああ、でもさぁ。そういや俺、ロマンスグレーっていうのに憧れてるんだよな」
「ロマンスグレー?」
「そ。髪を染めたりしないで自然なままに白髪を活かす髪型ってやつ。兄貴がそうだったろう」
龍兄貴が亡くなり、九龍城砦を奪還してからもう幾月が流れた。その間に信一の髪はパーマがほとんど取れたし、髪は切らずにのばしたままだ。ただし洛軍が理髪師の修行を始めてからは整えるくらいの手は加えていた。

「なぁ、お前って俺の全てが欲しいんだろう。俺の髪は今やお前のモノだし、他も全部お前のモノ。お前が俺を仕立てるんだぜ。見たくねぇの?俺が龍捲風みたいな美しい中年になってロマンスグレーの姿でお前に微笑えみかける姿」

それはさぞ美しいだろうな、と洛軍は思った。

「それだって全部お前のものなんだよ」
「全部、俺のもの?」
「そ。だからそれまで俺と一緒に生きてさ、俺が死ぬときは俺を腕の中に抱きしめて俺たちが最後まで満たされたら」


「そうしたら、お前も死んでね」
どう?


「お前には敵いそうにない、一生」

洛軍は信一に嚙みつくようにキスをした。いつもよりも少々乱暴な行為に信一が嬉しそうに肩を震わせる。口の中は濡れて柔らかく温かい。誘うような口内に抗わず舌を差し込んで絡めると、酔いしれたような吐息を信一が漏らした。粘膜を楽しんで熱と舌ざわりを楽しみながら吸う。トロトロになった口元と、トロトロになった表情。

「可愛いな」

そうして愛撫を再開すれば、なめらかな肌が汗で湿り“しっとり”としていく。薄っすらと桃色に色づいていく体の色もたまらなく欲情をそそった。信一がイヤイヤと首を振るほどにたっぷりほぐしてから細い腰を掴んで己の肉欲を突き刺せば、信一が眉間に皺を作って感じ入ったように強く目をつむる。名前とありったけの愛しているという想いを言葉にしながら律動を繰り返せば、信一の目じりからは澄んだ涙が滲み、閉じることができない唇からひっきりなしに嬌声が上がる。その艶めかしい姿はどこまでも洛軍を煽っていく。


ああ、こんな、黒社会に属して恐れられ、砦ではボスとして率いて慕われ、辛い境遇を乗り越えようと健気に邁進する、この強く気高く若く美しい青年が、自分に組み敷かれて体をくねらせ、顔をぐしゃぐしゃにしながら成す術もなく、ひたすらに快楽をねだって自分だけに縋ってくるなんて。


めまいがするほど加虐性を刺激して、なんと甘美な。


「信一」
名前を呼ぶ。
「あっ、ああ、ろっぐわぁ、あぁ...あ」


やはりこの感情はいけない、と洛軍はクルリ、と濁りそうな瞳を自重する。それでもきっと信一は笑ってくれるのだろう。嬉しいと囁いてきっと洛軍をどこまでも甘やかすのだ。その幸福を思って笑みをこぼしながら、洛軍は一際奥へと愛しい人を突き上げるのだった。