kanaco
2025-05-15 23:10:56
12580文字
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【洛信】洛信SS(単作)まとめ(フセッター時代)

1P【つきあってない】悪酔いしキス魔になる信一くんと、1人スルーされる陳洛軍さん
2P【罰ゲーム】己の女装の仕上がりにテンション上げ信一くんと、結局YESな洛軍さん。
3P【暗】(R18)信一が好きすぎてちょっと病んできた洛軍さんと、満更ではない信一くん

【つきあってない】

信一は酒癖が悪い。
というのを洛軍は前に十二少から聞いた。それも酔い方がマチマチであると。

「度合いがランダムなんだよな~。絡み酒になる場合はマジで地獄なのだけど、深酒してところかまわず突進することもあれば、そんなに飲んでないくせにテンションに引っ張られて悪ノリで暴れることもあるし。そうかと思えば泣き上戸にネガティブ発動して言うこと聞かなくなったり、逆に1人で一生ケタケタ笑っていることもある」

なんだそれ、大変だな。

その時は他人事と思ったのだが、その現場に居合わせるとなると事情が違ってくる。


「これは今どういう状況なんだ


九龍城砦の内輪な小さい飲み会に誘われた。メンバーは信一と十二少、洛軍も知っている信一の若い部下たちが数名、そして珍しく四仔も参加するという。ただし洛軍は砦の住人から頼まれ事があり「遅れる」と伝えてあった。

30分程度の遅刻のつもりだったが、意外と骨が折れる頼まれごとで、気がつけば約束の時刻より2時間近く超えていた。もう大分と盛り上がってしまっただろうな、最悪お開きかもと思いながら集合場所に足を踏み入れた洛軍は、その部屋の光景に動揺することになった。

空いたビンやカンが机に並んでいる。飲み会は陽気に進んでいたようだった。ただ問題は朱を帯びた顔をして明らかにご機嫌で笑っている信一が、自分の部下にベッタリと絡みつき相手の頬やら首筋やらに何度もキスを繰り返していることだ。

抱き着いているというよりは拘束しているかのように見える腕の強さで、可哀想な部下は身動きもとれずに悲鳴を上げている。その周りで泣きそうな顔で震えているのは既に犠牲になった部下たちなのだろうか。とんだウザ絡みである。

「まぁ、このパターンもあるのよな」
信一の毒牙を彼の部下たちへと作為的に仕向けたのだろう、自分はいかにも安全圏にいるといったような落ち着きで酒を飲む十二少が言った。テーブルの奥側で繰り広げられる惨劇の一方、入口側の列に座る十二少と四仔はのんびりと酒を楽しんでいる。

「え
「絡み酒、キス魔のパターンな」
「キス魔
「いやでもお前がやっと来て助かったわー。もうあいつ相当酔っててさ~」

屈強な犠牲者がきたからアイツらを救えるな、と屍と化している信一の部下たちを指さして悪い顔で笑った十二少が大声を出す。

「おーい、信一。遅れた主役の登場だ。お前の大好きな陳洛軍がきたぜ!」

(屈強な犠牲者

それは反応に困るな、と洛軍は思った。

実を言えば、洛軍は信一のことを恋愛の対象として既に好いていた。自覚をした瞬間から墓場まで持って行くと決めていたその想いは、信一本人はもちろん誰にも告げるつもりはない。誰にも知られていないはずだ。ただ信一の傍にいて支えていくという本懐を遂げるため、彼の大切なものを守りたいと真摯に考えている。

とはいえ、自分も男であり好きな相手に触れられることは、本音を言えばやぶさかではない。酔っ払いからの絡みといううっとうしさと、自然に相手から触れられるという期待の天秤は洛軍の中でユラユラと揺れる。

十二少に呼ばれた信一が洛軍の方を見た。そしてやはりご機嫌にフワフワと笑って「おー!」と片手をあげて挨拶する。彼が洛軍を見てとても嬉しそうに笑うので、洛軍も同じように彼に笑い返した。

ところがそのまま洛軍の方にすぐさま寄ってくるだろうと思っていた十二少と洛軍の予想に反し、新顔を数秒見つめた信一はフイっと目線をそらして今捕まえている部下の可愛がりに戻った。

「あれ?」と洛軍と十二少、そして静かに酒を飲んでいた四仔の視線が信一に集中する。
「おーい、信一。どうした?そろそろ放してやれ。っていうか、そいつ首締まってないか?こっちで洛軍が寂しそうな顔しているぞ。こっち来いよ」
再び十二少が声をかけるが、こちらを見はするものの来る気配が一向にない。

ずっと静観していた四仔が一瞬考えたような素振りをすると、普段の彼からは想像できない行動に出た。

パッと両手を広げて自分の胸を空けると、優しくもハッキリと通る声音で

「信一」

と名を呼んだのだ。

耳をピクリとさせた信一がキョロっと四仔の方を見やり、機敏に体を動かすと嬉しそうにその胸の中に飛び込んでいく。成人男性が無遠慮に勢いよく飛びついたにも関わらず、四仔は何事もないというようにその弾丸を受け止め、キス魔の回避のためか信一の形の良い頭を両手でガッチリとホールドした。そのままワシャワシャと顔と頭を撫でまわす。信一はなすがまま何がおかしいのかケラケラと笑っている。

(大型犬か)と、陳洛軍が思っていると。

「信一」

という声がする。目を動かすと今度はニコニコした十二少が両手を広げて胸を空けていた。四仔の時と同じように信一は自分よりもやや小柄な十二少へと無遠慮に飛び込んでいく。やはり何事もないようにその勢いを受け止めた十二少がゲラゲラ笑いながら、四仔と同じように信一の頭をしっかりと掴んでグシャグシャに撫でまわす。信一もまたケラケラと笑う。


((で))


と強制するような十二少と四仔の視線を受け止めて、洛軍は2人のマネをしておずおずと両手を広げた。


「信一」


名前を呼ばれて信一がピクリと反応する。まだ十二少に抱き着いたままの体勢から顔だけを動かし、洛軍の顔を見つめて数秒。

消え入りそうなほど小さな声で「い、いい」とだけ言って顔を下に向けた。


いい。

いい?


断られた。ということが、自分が思っていたよりずっとダメージが強いことを自覚して洛軍はバレぬように小さく息を吐く。信一を攻める箇所など何一つない。酒の場での酔っ払いの言動をどれほど真に受けるべきかも分からないし、確かに自分はここにいる誰よりも付き合いが短いのだ。こちら側からの特別な好意は密かに閉まっているものだから、何かを期待しているわけでもない。そうか。でも。

(好いている相手に誰よりも距離を置かれるのはさすがに堪えるな

「は?洛軍はお前の相棒だろ?仲がいいだろ。あんなにいつも一緒にいるじゃん。なんで?ケンカ中か何か?悪いものでも食った?」
信一の言動にビックリしたらしい十二少が自分に引っ付いている男にグイグイと話しかける中、四仔の落ち着いた声が挟まる。

「信一」

名を呼ばれて信一がゆるゆると顔を上げた。四仔が言葉を続ける。

「何が“嫌”なんだ?」

四仔を見て、もう一度洛軍に視線を戻すと、再び小さい声で答える。


「は

「「「は?」」」


恥ずかしい…………




「「「…………………………」」」




妙な沈黙が落ちた。

言った瞬間に信一が顔を隠すように十二少の右肩へ額をうずめ、グリグリと擦りつける。それに合わせて無抵抗の十二少の体がグラグラと小さく揺れた。長めのパーマの隙間から見える耳が真っ赤なのは酔いのせいだけではないのかと四仔が変なところに感心していると、洛軍が静かに動き出した。

十二少に引っ付く信一をベリベリと引きはがすと、やっと自分にその真っ赤な顔を見せた信一としばし見つめ合う。酔いでポヤっとした表情の中でも熱心に自分を見つめる視線に「友人とは違う熱」を期待してもいいのだろうかと自問自動する。

酒のせいか状況のせいか、豊かに水膜をはった潤う瞳から視線をいっさい逸らさぬまま、洛軍は左腕を信一の両膝の下に差し込み、右腕は彼の背に回すと、大の男を一気に持ち上げた。突然の体の浮遊に驚き「わわっ」と声を上げた信一はとっさに出た反射神経なのか、落ちるのを恐れるように洛軍の首に両腕を回す。

(おおあれだけ嫌がっていたのに、そこは腕を回すのか)とこれまた変な感心をした四仔は次に洛軍を見やる。「おい、洛軍」と十二少の方が先に咎めるような声を出した。


「お前、目が据わってるぞ」


しかし十二少からの声掛けに信一からやっと視線を外し、真っすぐに十二少と四仔の方を見た陳洛軍の表情は、いつもの彼らしい優しいものへと戻っていた。困ったような顔で穏やかな声音で言う。


飲み過ぎだと思う」
だから
「信一の部屋に寝かしてくる」


目を点にしている部下たちはもちろん友人2人の返事も待たず、洛軍はクルリと振り返り部屋を出て行った。陳洛軍が後ろを向いたことで首に腕を絡ます信一の顔が半分見えたが、まるで思考が定まっていないようなトロンとした瞳が覗き((ん~、ありゃすぐ寝るな))と友人2人は推測する。

「まぁ、いいか」と十二少と四仔は考えることを放棄した。

あの陳洛軍だぞ。何が起きるわけでもないだろう。
起きたとしても2人にとって惨事になることはないはずと。

有事の際はいつも信一の一歩後ろに控える忠実な部下が、恐る恐る上司の友人たちに訪ねる。

「あの2人って………もしかしてつきあっているんですか?」

十二少と四仔は顔を見合わせる。
そして口をそろえて言った。


「「つきあってない」」