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クレハ🍎
2025-05-08 08:12:34
3460文字
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ifのいふ
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親孝行
『ifのいふ』から父と子どもの話。
子どもの性別は未定だけど気持ちは息子。
ナチュラルに微死ネタ有り。
閲覧自己責任、読了後の苦情は受け付けません。
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「行ってきなよ」
「は」
あっさりとた口調で伝えれば、父は驚いたような顔をする。
「何驚いているのさ、行ってきなよ新婚旅行」
「しんこんりょこう」
おうむ返しをする父に子どもは頷いて続けた。
「そっ、母さんと行ってないんでしょ? ならふたりでゆっくりどこかに
…………
行ってたの? あの母さんと?」
「
……………………
行った」
「行ったんだ
……
。因みにどこに行ったの?」
意外なことに父は母と新婚旅行に行ってた。思わず食い気味で行き先を聞けば、子どもは不満気な顔になった。
もしかしてと思っていたら案の定そうだった。両親が行った新婚旅行は二つ先の街の温泉宿。しかもたったの二泊。近すぎるうえに短すぎる。新婚旅行にしては味気が無さ過ぎる。
確かに母の躰を考えれば遠出はできないし長期の外泊も難しい。母の体調と行き先を考慮すれば妥当な判断だ。選んだ宿も質が良く、接客も料理も温泉も良い。今でも年単位の予約待ちになる程の有名所だから申し分ない。
だがそれはそれ、これはこれ。
「不満か」
思いきり顔に出ていたので父の声に棘がある。ちょっと怖い。
「そうじゃない、そうじゃないから。いや確かにちょっと味気ないかなとは思ったけどさ」
「それは思っていても口にするものではないだろう」
不機嫌そうに口にし、父はようやく冷めた湯呑みを手にした。
母のことになると相変わらず過敏になるひとだ。だが互いに納得したうえで選んだ新婚旅行先にとやかく云うのは良くなかった。
「ごめん、今の言い方は悪かった。でもそれなら、尚更行ってきなよ」
子どもの言葉に父の手が止まる。
「今度は近場じゃなくて遠いところ。他国でもいいかもね。ああ、自然が多いところでもいいな。そういうところ、母さん好きだったしね」
ぽんぽんと子どもが旅先を提案する。父はじっと子どもを見据えてから低く細く息を吐いた。
「お前は、いいのか」
「何が? 夫婦水入らずの旅行を邪魔しちゃ悪いでしょ」
「そうじゃない。俺はお前より個人の
……
俺自身のことを優先すると云っているんだ」
冷めた茶を一口飲んで父は視線落とした。
「俺のことでお前に迷惑をかけようとしているんだ。我が子に迷惑をかける親がどこにいる?」
やはりそうだ。父はこのことで気を揉んでいたのだ。子を残して母の形見とともに家に空ける。そのことが父を後ろめたくさせていたのだ。
──一応、成人したんだけどなぁ。家事もできるし仕事もしてるから気にせず行ってくればいいのに
……
。
子どもはとうに成人している。けれどもそれは人間の年齢で成人を迎えたというだけ。父の反応を見る限り『鬼』としての成人はまだ成していないのかもしれない。きっと父からすれば二十そこらの子どもは大人にすら達していない若造同然なのだろう。
異種族による価値観の違いというやつか。こればかりはどうしようもない。
「あのさ、一応成人してるからね? 人間年齢での成人だけど」
「だがな」
「だがも何もない。はぁぁ、父さんって父親意識が強いというか、ちょっと頑固だよねぇ。母さんも似たようなとこあったけど」
じとりと父を直視して盛大なため息をつきながら頬杖をする。
「大体、迷惑すらかかってないのになんで申し訳なさそうにしてるんだよ。父さんが父さんのことを優先するのはおかしなことではないでしょ」
子どもの知る限り、子どもの父は今まで一度たりとも自分のことを優先しなかった。いつだって優先していたのは妻と子だ。その妻を亡くし残された子を優先するのは結構だが生真面目も程々にするべきだ。
「親が子を優先するのは当たり前、とは云い切らないけど、父さんと母さんが俺を優先してきたのは知ってるよ。ふたりに愛されて育ってきたからね」
愛されて育った、己で口に出しておきながら中々気恥ずかしいことを云ったものだ。しかし事実なのだから嘘偽りを述べても仕様がない。だって愛されたんだもの。
「今まで子育てを優先してたんだから、これからは父さん自身のことを優先しなよ」
にっと笑って見せる。父は眉を寄せて気難しい顔つきをしながら何か云いたげな雰囲気を纏っている。が、暫くして諦めたかように父の空気が軽くなった。
「青二才が
……
口が良く回るようになったな」
「事実を云ったまでだけど?」
「まったく、一体誰に似たのやら」
「さぁ? 誰だろうね?」
ああ云えばこう云い返す。自分でも驚く程父によく似たものだ。母がこの場にいればころころ笑っていだろう。
「はあ、お前にそこまで云わせてしまうと親として立つ瀬がない
……
折れるしかないな」
「そうそう。愛する我が子からの贈りものだと思っておきなよ。親孝行したい、っていう気持ちのさ」
「
……
苦労をかけるな」
「だーかーらー、気にしなくていいんだって! 旅行、楽しんできなよ」
「あぁ、そうさせてもらう」
手を広げて大袈裟だなぁと溢せば父が微かに笑う。父の微笑にぱちりと目をまたたかせ、子どもも笑った。晴れやかに、喜ばしげに。
父と、亡き母と想って。
どうか、良き旅であるように──。
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