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留守田
2025-05-06 15:33:23
10307文字
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戯れの悪意
アス卿とその配偶者(自Tav)が、再び燃える拳に協力してあげるおはなし。脳内設定とか独自解釈とか捏造とかがモリモリです。
過去の作品に目を通しておくといいかも。
英雄は腐っても英雄。
※20250510 没にしかけたモブ同士の会話追加。別に読まなくても問題はないですたぶん。
1
2
「ふむ
……
」
金、金、金、一つ飛ばして金、また金
……
ヴァリスは視線を左右に動かし、そのあまりにも豪奢で目に眩しい調度品の数々を眺める。
飾り皿、彫像、燭台
……
それらの装飾一つ取っても猥雑で、今まで通された客室の中でも屈指に趣味が悪く、居心地も悪い。
「ヴァリス様、今日は素敵な演奏をありがとうございました」
そう言って正面で頭を下げた男は、この家の当主であるヒューマンだ。
ヴァリスは今日、この男が主催する定例の演奏会に客演として招かれていた。
「満足して頂けたのなら何より。こちらこそ御招き頂きありがとうございます」
ああ帰りたい。胸元に隠し持った白い蝙蝠が僅かに身動ぐのを手で軽く抑え、ヴァリスは返礼を返す。
こういう場で交わされる称賛ほど薄っぺらい物はない。お高く留まる貴族達に褒めそやされるより、路上で弾いて投げられる金貨一枚の方がよほど価値がある
……
路上の観客達は純粋に、芸そのものを称賛するために身銭を切るのだから。
当然、破滅するほど注ぎ込んで欲しいとは思わないが。
「今晩はもう遅いですから、このままお泊りください。明日の朝にご自宅までお送りさせて頂きます」
この申し出は想定内だ。そのために家で一番の
盗賊
ローグ
と共に訪れている。
もちろん彼は招かれなくても立ち入れるが、招かれた方が非常に都合が良いのは言うまでもない。
「ありがとうございます。御言葉に甘えさせて頂き、今晩はお世話になります」
明日のバルダーの声は賑わうかもしれないなと、ヴァリスは密かにほくそ笑んだ。
空を飛びたがる白い蝙蝠を闇に放った後、ヴァリスは客室で本を読んでいた。
一時間ほど前に使用人に頼んだ紅茶はすっかり冷めているが、時折思い出したように口を付けつつページを捲る。
調度品の趣味さえ気にしなければベッドもソファーも中々ふかふかで柔らかく、静かで、こうして何かに没頭して過ごすのには適しているなと感じつつあった。
……
いや、静か過ぎる。離れにある事を差し引いても、風の音も使用人達の足音も何も聞こえてこない。
どういう事だと耳をすましていると、見計らったかのようなタイミングで控えめなノックの音が響いた。
「どうぞ」
やはり、外からするはずの足音が聞こえない。開いたドアからは薄着の
同胞
エルフ
達が静々と入ってきた。
入ってきたのは三人の薄着の男達。そのうちハイエルフが二人と、どこから連れてきたのかドラウが一人。
エルフの中でも一際整っていると言っていいほど美形な顔立ちの三人は全員若く見え、どれだけ多目に見積もっても百歳かそこらだろうとヴァリスは思った。
「失礼します」
とはいえ先に出した薄着
……
というのはかなり分厚い紙に包んだ表現だ。歯に衣着せぬ言い方で表すなら
……
男娼のような淫らな服、と言うべきか。
「そんな薄着に身を包んで、寒くないのか?」
彼等は爪先を引っ掛ければそれだけで裂けてしまいそうな、素肌を透かす薄い布地を一枚だけ身に纏っている。が、局部だけは際どいものの何枚も布地を重ねてそのシルエットを少し大袈裟なまでに隠していた。
だが
……
もちろん、欲望の兆しが見えなくなるほど分厚い訳ではない。見る者の欲望と情欲を掻き立てるのなら、敢えて隠す方が都合がいいのだろう。
「いや、お前達は一体何だ? 何故私の部屋に来た?」
眉間に皺を寄せ、ヴァリスはエルフ達の顔を見る。
そのうちの一人、生きている人間の範囲で色白な肌のハイエルフが淫蕩な笑みを浮かべ、ヴァリスの隣に座って寄りかかる。
「貴方様に手厚いもてなしをと、我が主の御命令ですので」
前で襟を留めている首元のホックに白い指を伸ばし、そのエルフは残り二人に目配せをした。
すると一人はヴァリスの揃った両膝の前で膝立ちになり、もう一人はソファーに座るヴァリスへ既にいる一人とは反対側から寄りかかって意地悪い微笑みを浮かべる。
なるほど、だからこの部屋には猥雑な装飾品ばかり並べ立てているのか。
「ほう
……
」
彼等の指先や足先に視線をさり気なく走らせ、ヴァリスはさも好色な貴族として振る舞う。
ホックに伸びる悪戯な指を優しく咎め、目の前の膝立ちになったドラウの頭を撫で、それから固く閉じたままの襟を自ら外して残り一人に笑いかけた。
彼らの指先や足先に鍛錬や研鑽の痕は見つからない。暗殺者ではないだろう。
魔術師
ウィザード
である可能性もまだ残っているが、少なくとも身体を飾り立てる宝飾品に魔法的な気配は無かった。足首に着けられた、緑色の小さな宝石が光る細い鎖のアンクレットを除けば。
『アスタリオン』
ヴァリスは伴侶に
念話
テレパシー
を飛ばす。彼は今、この屋敷でここの当主が失脚するために相応しい証拠を探して
盗賊
ローグ
としての仕事をしている最中だ。
『どうした』
『部屋に男娼が来ている。三人ともエルフだ』
『
……
まさか抱きたいとか言わないだろうな?』
チクチクした触感がヴァリスの胸の中に現れる。これは
……
疑念だ。
そんな、浮気なんて考えたこともないのに!
『違う、彼らは物的証拠だ。三人とも足元にアンクレットを着けているが、これは以前見たことがある
……
奴隷の自我を奪い操るタイプの物で、作るのが簡単だからと一時期流行った奴だ。近頃下層で
燃える拳
フィスト
を悩ませていた人身売買のディーラーというのは、ここの当主なんじゃないか?』
下層地区で謎の行方不明者が多発している事を受け、別に手当が出るでもないのに熱心に調査している
燃える拳
フィスト
が居た。
連続殺人事件の捜査協力者だった私達に、その
燃える拳
フィスト
はヴァレリアの推薦状を持って捜査協力の依頼をしてきて
……
私は二つ返事で引き受け、アスタリオンは盛大に文句を言って、最終的には善良な市民として引き受けることにした。
ライバルを蹴落とす好機だと、後からそれらしくほくそ笑んで。
『なるほどな、俺の手元にある書類とも辻褄が合う。異常なほど膨れ上がった犬小屋の建築費に、犬の餌代、“トレーナー”への報酬
……
愛犬家とはありきたりな隠れ蓑だな、ダーリン』
『同感だハニー。で、男娼達はどうする?』
『部屋から追い出せばいいだろう』
しかしさっきから反応が淡白というか、少し怒っている気がする。
『折角の夜食なのに、味は見なくていいのか? 念のため付け足しておくが、血の話だ』
『
……
お前、自分で物的証拠だと言っていただろう、ダーリン』
『冗談だハニー。作るのが簡単なら、破壊するのも簡単なはずだ。少し試してみよう』
クスリとも笑ってくれなかった。どうやら今晩は我が主人の機嫌が悪いらしい。
「一人に三人がかりで? 贅沢過ぎるな」
色を含む歓待を受けたことはないが、これが常識なのだろうか。
「ワオ
……
俺達三人をまとめて愉しむつもり?」
頭を撫でられたドラウが意外そうに片眉を上げて言う。
……
なるほど。普通は交代して相手をするものらしい。それはそうか。
「ああ、メンゾベランザンでの法的な定義では、四人でも乱交にはならないと聞いたからな。嫌なら一人ずつ相手してもいいが
……
」
「いいが?」
「多い方が愉しいだろう」
ニタリとした伴侶の笑みをヴァリスが真似れば、まだ口を開いていなかったハイエルフが口笛を吹く。
「ヒュウ! お客さん、言うねえ」
「なら、私達三人で御奉仕させて頂き──」
口を開いた色白のエルフを手で制して、ヴァリスは首を横に振った。
「待った。私は奉仕を“してもらう”より“する”方が好きでな
……
言っている意味が分かるか?」
不意に飛び出した倒錯的な嗜好に三人は互いに顔を見合わせ、それから今度は媚びるような微笑みではなく、嗜虐を含んだ嘲笑に変えて客を見下ろす。
あの小さな宝石が自動的に操っているだけとは言え、その冷ややかな視線は中々だ。
「ハハッ
……
あぁ、堪らないな」
主人と化した男娼達にソファーから引き下ろされたヴァリスの瞳は、煌々と赤く光っていた。
その後、盗賊仕事を終え部屋を出て行く時と同じ白い蝙蝠の姿で客室に戻ったアスタリオンは、目の前の惨状に目を細めていた。
伴侶が淫らな装いの三人のエルフ達に
……
袋叩きに遭っている。
「この変態!」
「よくも俺達にこんな事を!」
残りの一人は顔を耳まで真っ赤にして無言で足蹴にし続け、助けてくれ! という伴侶の必死な思念がアスタリオンの元まで届いていた。
何と恩知らずな! アスタリオンは軽く部屋の中を旋回すると、袋叩きに遭っている伴侶目掛けて急降下する。
「ミーッ!」
「うわっ!?」
「一体どこから!?」
驚いて殴る蹴るを止めたエルフ達の前に躍り出ると、アスタリオンは元の姿に戻って這い蹲っている伴侶を庇うように片腕を伸ばした。
男達の暴行を上手くいなすか受けるかしていたようで、姿勢の割には派手な怪我もない。少々汚れているぐらいだろうか。
「ああ、ありがとうハニー。いつまで続ければいいのかと」
「呑気に殴られていないで誤解を解けば良かっただろう、ダーリン」
急に自分達以外は誰も居ないかのように話し始めた二人に、三人は呆気に取られて動けなくなる。
この二人は、一体
……
?
「あっ」
色白のエルフが変態を庇うエルフの方を指差し、震える声で言う。
「もしかして
……
アスタリオン卿
……
? 高城の英雄の!?」
その名を聞いて、ドラウの目の色も変わる。地上エルフが地下エルフ、即ちドラウを養子に取ったとバルダーの声でセンセーショナルに騒がれていた事を彼は知っていたのだ。
義父の名はアスタリオン・アンクニン。ザール家の遺産を継いだ、元摂政にして後継者だというハイエルフ!
「アスタリオン
……
あのアスタリオンか! イーリストレイーの白い宣教者!」
「ああ
……
まさか、俺の名と神の名が並べて語られる日がこうも早く来るとはな」
己を指差したドラウに、アスタリオンは肩を竦めて答える。
最終的な決定権は自分にあったとは言え、自分のスポーンであるドラウを養子に取って実の親らしく振る舞っただけでこうなるとは。
定命の者の考える善なる行いとは、酷く曖昧なものだ。
「英雄が、どうしてこんな変態を庇うんだ!?」
一際真っ赤な顔をして黙っていたハイエルフが叫ぶと、他の二人も首が折れんばかりに頷く。
「変態? 命の恩人を変態扱いして足蹴にしていいのか?」
「変態は変態だろ!!」
……
一体俺の恋人は何をしでかしたんだ?
アスタリオンは溜息を吐くと、まだ痛みに若干悶えている
……
フリを続ける伴侶の顔が分かるように、脇へと退く。
「いいか? マジックアイテムで操られていたお前達を解放したのはこの変態だ。俺に見覚えがあるなら、この顔にも見覚えがあるんじゃないか?」
青白い指先が指した客室のテーブルには、まるで噛み砕かれたように無惨な姿となったアンクレットが三つ置かれていた。
三人の視線がヴァリスに集まる。
「きゃあ恥ずかしい」
「ダーリン
……
! お前が名乗っていたら済んだ話だろう」
戯けて恥ずかしがるその顔は、確かに三人には見覚えがあった。
いや、今やこの顔に見覚えのない
ゲート市民
バルダリアン
は居ないだろう。高城の英雄達の像、その中央を陣取る優雅な
鋲付きの革鎧
スタデッド・レザーアーマー
を身に着けた、顔に派手な傷痕が残るハイエルフの名を。
「じゃ、じゃあアンタが
……
タヴ? 高城の英雄達のリーダーだった、芸人のギュスターヴ?」
無口なハイエルフが、どこを指しているか分からないほど震える指先でヴァリスを指差す。
貴族の配偶者としていつまでも芸名で通している訳には行かないと、本名を使っているだけでこうも認識が違ってしまう物だろうか? アスタリオンにとっては不思議でならなかったが、彼はある事を忘れていた。
人は他人の振る舞いを見て認識したいように認識する生き物。
ヴァリスはかつて芸人として一度舞台に上がればその認識を操り、観客へ己を見せたいように魅せることを生業にしていた。未だ衰えを知らぬ技術でもって彼が好色な貴族のように振る舞えば、平素の姿を知らぬ者からはそうとしか見えないのだ。
「口先だけでデヴィルを、こ、殺したって言う
……
あの?」
「ハーピーに歌で打ち勝ち、邪悪なゴブリン達を優美な剣術で踊る様に切り伏せ、アブソリュートの忠実な信徒の怪演でムーン・ライズタワーに入り込んでは、マークール神の化身を討ち取って」
「ね
……
ネザー・ブレインを言い負かした、鋭い舌鋒
……
」
三人は口々に聞いたことのある英雄の冒険譚を述べ、畏怖の表情で一歩下がる。
「やれやれ、ヴォーロも随分と誇張したな
……
ネザー・ブレインは言い負かせなかったし、口先だけでデヴィルは殺していない、当然刃物も使ったさ。なぁアスタリオン?」
「この調子だと、俺は拳一つで鍵という鍵をこじ開けた事になってそうだな」
「いや、顔一つかもしれない。“英雄アスタリオンは、その美貌で触れる事なく錠前を誑かした”
……
なんてな。私ならそう書く」
笑いながら言う伴侶に、そう書かれなくて良かったとアスタリオンは胸の内で思った。
今でさえ主催する宴では既婚者だと言うのに寵愛を求めて寄ってくる連中が後を絶たないのだから、これ以上悋気に駆られた伴侶の作る死体が増えてもスケルトンやゾンビなどの下僕にする時間が足りなくなってしまう。
誇張された冒険譚を愉快そうに笑う英雄二人の姿に、色白のエルフがハッと気付いた様に口を開いた。
「い、いや、騙されないぞ。私の知るギュスターヴはその、あ、足を
……
あんっ
……
あんな風に舐めたりはしないし! きっと!」
アスタリオンが振り返り、ヴァリスの顔を覗き込んだ途端に部屋の空気が変わる。
「
……
あんな風に
……
?」
何故か急に部屋が寒くなった気がして、薄着のままの三人は互いの身を寄せ合った。
「あー、いや、不可抗力だ。ストレートに取ろうとすると操られている彼らに止められるから
……
ほら、ゴブリンの足の指から指輪を掠め取った事があるだろう?」
三人のエルフ達からはその怒りに満ちているであろう表情は見えないが、一流の口先で知られる
吟遊詩人
バード
が冷や汗をかいて必死に弁明する所から、その恐ろしさは窺い知れる。
「それと一緒で
……
わ、わぁ
……
こっ、子供が泣くぞアスタリオン
……
」
なんだか黒いオーラの幻視も見えている気がする。詰められている側も、半ば自業自得とは言え泣きそうだ。
こうなると段々と哀れに見えてきて、色白のエルフは言いかけていた言葉を続けた。
「そ、それにギュスターヴの瞳は噂じゃ青いらしいじゃないか! お前の瞳は赤いぞ、偽物め! 変装呪文は上手い様だが、エルフの牙はそんなに尖って
……
待て、何故そんなに
……
」
……
エルフが言葉に詰まり、アスタリオンは英雄の顔から感情が削ぎ落ちたのを見た。
他の二人もどうやら見てしまったようで、チリチリと燃え広がっていくような恐怖の感情を三人分感じた。
「
……
ああ、やってしまったか。夜だから油断していた」
伴侶は目を閉じる。普段から目の色を変える簡単な魔法を使っているが、効果が切れた後にかけ直すのを忘れていたらしい。
「どうだろうな、見間違いかも知れないぞ? 誰にでもある勘違いだ」
緩慢な動作で振り返り、そうだろう? とアスタリオンはエルフ達に訊ねるが、彼等はもう一歩下がってしまう。
これは完全に気付かれたか。
「あ
……
い、いや
……
み、見間違いです。申し訳ございません、アスタリオン卿
……
!」
顔に恐怖を貼り付け、より一層白くなった顔で色白のエルフが両膝を突き、額を床に擦り付ける。
「そうだろうな。だが、俺の伴侶に言い掛かりを付けるとは。随分と偉くなったな?」
家畜の癖に、とは言わないでおいてやる。彼等は身に付けていたアンクレットも含めて、立件するに必要な証拠だ。下層地区で多発する失踪事件に、俺にとって邪魔な貴族が関わっていたのを証明する。
権力闘争に邪魔という程ではない──そうだとしたら名前ぐらいちゃんと覚えている──が、いつか愛するバルダーズ・ゲートを手にする時、事実上の人身売買が合法化されていて欲しいとは思わない。
アスタリオンは旅を終えた老ドルイドと共に新しい村へと行ったイエナの顔を思い浮かべた。彼女が大木のような頼り甲斐のある腕と手を繋ぎ、去り際に笑顔で手を振っていたのを覚えている。
ああいう笑顔が失われるのは惜しい。それに例え俺が許したとて、我が伴侶は断固として首を横に振るだろう。
自分と共に夜の怪物と振る舞うようになっても、英雄らしい所はいっそ清々しいほど何も変わらない。
「まあまあまあ
……
いいじゃないかハニー、夜も深いんだ」
宥めるような声色で言葉を吐きながら、伴侶が立ち上がる。不安気な目を揺らす家畜の元へ寄り添おうともしない所を見るに、ヴァンパイアであると露呈した件は今更取り繕う気も無いようだ。
「
私達
エルフ
の暗視は色を見分けられない。目の前に人の目があったとして、それが何色かは分からないじゃないか?」
少し背の伸びた子に道理を説く時のような、柔らかく理知的な声で彼は囀る。
アスタリオンから見ても客室の燭台で燃えている蝋燭の炎は明るく部屋を照らしているが、エルフ達は恐怖に頷かされた。
「
…………
わ、わかりません」
「だろう? 私達が下まで逃してやる。まっすぐ
燃える拳
フィスト
の詰所まで走り、ガントレット・レナードの友人に助けられたと伝えるといい。彼らが保護してくれる」
「は、はい。分かりました」
「くれぐれも私達の名は出さないように。無事に帰してやるんだ、御礼としては些細なものだろう? ちゃんと黙っておかないと
……
ああ、ネタバレになるから言わない方がいいか」
怯える三人の恐怖を更に煽るような物言いをするだけして、アスタリオンの伴侶はニヤニヤと笑う。
趣味が悪い。一体誰のせいだ?
そして最後に話は終わりだと言わんばかりに彼が手を叩くと、燃えていたはずの蝋燭の炎は全て消えた。
「ハァ
……
俺が先導役だろう、ダーリン」
「もちろん。
殿
しんがり
は任せてくれ、ハニー」
英雄が憎たらしくウィンクまでしている所を暗視の視界で見たアスタリオンは盛大に溜息を吐くと、すっかり怯えきった三人に黒色のローブを羽織らせる。
そして暗闇の中テーブルに置かれたアンクレットの残骸を懐に収め、三人に自分の後を付いてくるようにと視線をやった。
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