舐めニキのSS

クソボケタイトルやめろ
なんか唐突に生えました。続きません。訳が分かりません。本当に訳が分かりません。

本当に事後報告で申し訳ないのですが、早蕨さん宅のローマン・ヴィドラさん(お名前だけ)ご登場いただいてます。
いつも大変お世話になっております。遊んで頂いてありがとうございます。



──数日前
ベイカー・ストリート221B



珍しく開けられた窓からは少々肌寒い春の風が吹き込んでいた。本来は極圏の生命体であるエマ=ジェームズ・ワトソン──即ちそれは原生神秘・原初の泡だが──には一切問題ない、むしろ快適な気温なのだろう。
シャルルマーニュ・ハイドノーブルは肘まで捲っていた袖を元に戻し、ずいぶん愉快な柄の薄手のセーターの上にドレッシングガウンを着込んだ。ドレッシングガウンの隙間でフラミンゴが踊っている。

「誰か来るのか?」
……ええ。神秘秘匿執行官が来るわ」
「事件の依頼が来る、にカステラを一切れ賭ける」
……残念ながら賭けは不成立よ。ここに手紙があるもの」

ワトソンはひらひらと白い便箋を振った。そこにはタイプライターで出力された規則正しい宛名の文字列が並ぶ。封をしていたシーリングワックスは深海のように深い青だ。

「チェチーリア・ストロンスカヤ……って、どちら様?」
「神秘秘匿執行官。私が名付けた、私の使徒」
「ふーん……

シャルルマーニュは興味深々な表情で便箋を眺めた。

「アルブレヒトみたいな、几帳面な性格なの? わざわざタイプライターで手紙書くなんてさぁ」
「いいえ。生まれつき盲目なの」
「そっ……か、俺、今マジでデリカシー無かったな」
「それを気にするような子ではないわ」

その声の直後、ドアノッカーを叩く音が軽やかに響く。221Bの表玄関を開け、二階の居間へ繋がる階段を登ってくる足音の他に──何か四足動物がその後ろをついてくるような音が聞こえた。シャルルマーニュは己の黒い耳をくるくると動かし、音の方へ注意を傾ける。程なくして居間へ通じる白い扉が開けられた。
そこに立っていたのは小柄な牝馬子である。全身が黒色で固められ、パンツスーツスタイルと呼ぶべき服装だ。セミロングの髪は高い位置でまとめ上げられている。
驚くべきはその瞳だ。まるで星月夜である。眼窩に嵌め込まれたその瞳には美しい夜が宿り、一見するととても盲目とは思えない。
そしてもうひとりの客人が顔を出す。シャルルマーニュが犬かと思っていたそれは、彼女の腰ほどの体高を持つエッグプラントだった。足がスラリと長く、けれど首は原種より短く、ツルツルした奇妙な生き物感がさらに強調されている。

「我が師、レディ・ステュクス。お久しぶりです」
……久しいわね、チェチーリア。もうアルブレヒトには会ったかしら」
「はい。お変わりなくお元気そうで」

チェチーリアは均整のとれた顔を綻ばせた。そしてくるりと左耳だけが突如シャルルマーニュの方向を向く。

「馬子。恐らく青毛。身長183センチメートル以上、靴の大きさに1.5センチメートルの左右差あり。金属製の耳飾りと、左手の薬指に二つの指輪。私が存じ上げているレディのご友人にはない特徴です」
「えっ、いや……すまん。失礼を承知で聞くんだが……見えてない、んだよな?」
「ええ、見えていないわ。けれど私の耳には全てが届いているの」
「なるほど、反響推定か」

シャルルマーニュの予想にチェチーリアは「その通りよ、ミスター」と簡潔な返事を返した。

「名乗りもせず悪かった、ミス・ストロンスカヤ。俺はシャルルマーニュ。シャルルマーニュ・ハイドノーブルだ」
「合点がいったわ。管理局内でレディに対して諮問探偵開業許可証が交付されたという話を耳にした……貴方が助手ということね」
「いやいや、俺は助手じゃないよ。ただ221Bの一階を間借りしてるただの住人」
……それと私はその一件について納得していないわ。お前の力でこの許可証、帳消しにできないの?」
「申し訳ありませんが、流石に無理です」

チェチーリアは眉を八の字に、困ったように目を瞬かせた。

「そうだ……今日はお土産をお持ちしました。これはフランスのマカロン、こちらは中国のお茶で、あとこれがスウェーデンのお菓子で、お茶請けにも最適かと思います」
……ありがとう。頂くわ。その様子だとこのまま他の国へ向かうのでしょう?」
「はい。イタリアへ向かいます」
……妙な神秘案件が?」
「そういう訳ではないのですが……、いえ、すみません。そういう訳かもしれません」

彼女は表情を険しくしてワトソンへ向き直った。シャルルマーニュは準備してあったティーポットから三人分のティーカップへ紅茶を注ぎ入れる。中身はまだ湯気が立っていた──何か柑橘と林檎、蜂蜜が混ざったような香りが立ちこめる。ワトソンが最近好んでいるフレーバーティーだった。

「つかさ、そもそも神秘秘匿執行官ってそんな地球儀みてえに飛び回んなきゃならねえ仕事なの?」
「私が特殊なだけよ。私は秘匿執行官の中でも『聖剣使い』の称号を戴いているから。各国の重要神秘案件に介入して秘匿する──それが私の役目なの。私以外だと……最近は顔を合わせていないけれど、ミスター・ヴィドラとか」
「ふーん……えっ、ローマンってそんなすげえやつだったの!? すげえ気のいい奴なもんだから全然そんな感じしねえよ」
「でしょうね。それが彼の良いところなのよ」

チェチーリアはティーカップをそっと持ち上げ、紅茶を一口飲み込む。美味しい、と息をつく淑女にシャルルマーニュはほっと安堵の息を吐き出した。

「我が師。その、少し相談しても宜しいでしょうか」
……構わないわ。話しなさい」
「えっジェームズ~~、何か俺らん時と態度違くない?」

シャルルマーニュはむくれた様子でワトソンをじっとりと見つめる。

「喧しい。ちょっと口を閉じなさい。……それで、チェーリャ」
「二週間前の事です。ヴァチカン神秘管理局付の神秘秘匿執行官が、何者かに殺害されました。しかもその状況がかなり不可解で、初動捜査には丁度ヴァチカンに駐在していたミスター・ヴィドラが呼ばれました」

ローマン・ヴィドラは英国神秘管理局に所属する神秘秘匿執行官である。普段はピアニストとして表の世界でも活躍しているが、チェチーリアと同様に『聖剣使い』という最高位の称号を持っている魔術師でもあった。
ヴァチカン神秘管理局には定期的に他国の神秘管理局から数人が駐在する慣例がある。ローマンもその慣例により英国から派遣されていたのだろう、とワトソンは推察した。

「遺体に外傷はなく、まるで何かに生気を吸い取られて干からびたかのような状態だったそうです。幻想種がこの一件に関与している可能性が高い事からこの件は厳重に秘匿されています。その、問題はその遺体の発見者で……
「発見者? 一般人が見つけたのか?」
「違うわ。発見者が神秘生命体なのよ」

チェチーリアは静かに言った。そこには焦燥が滲み、

「それ──発見者が犯人かもしれねえってことか……
「そう、しかも寄りにもよって原生神秘」
……最悪ね。本当にろくでもない予感しかしないわ」