舐めニキのSS

クソボケタイトルやめろ
なんか唐突に生えました。続きません。訳が分かりません。本当に訳が分かりません。

本当に事後報告で申し訳ないのですが、早蕨さん宅のローマン・ヴィドラさん(お名前だけ)ご登場いただいてます。
いつも大変お世話になっております。遊んで頂いてありがとうございます。




チェチーリア・ストロンスカヤはその一節を思い返す。濃いグレーの芦毛、頭から突き出た馬の耳が周囲の音を拾い──人間の耳であれば静寂そのものであったが、彼女の耳には拾い切れないような小さな音でさえ届いている。
原種の馬と遜色ないほどの耳は最早ソナーである。潜水艦には程遠い、少女のような馬子はその芦毛耳で来訪者を気取る。
教会の内部を僅かに揺らす空気の振動で、チェチーリアは推定する。其が何であるのかを。来訪者が何者であるのかを。
降り注ぐ陽光はベールのように彼女を覆う。壁に、天井に描かれたルネサンス式の絵画に飲まれることのない強烈な気配を湛えた牝馬は、来訪者が唇を引いて笑ったことさえ、彼女には振り返らずとも十分理解できた。


「どこで油を売っていたの?」
「たった二分の遅刻で油を売っている判定になるのかい? 君は本当に、ビターなレディだ……ワトソンが君を可愛がるわけだよ」
「別に我が師は関係ないわ。あんたは数秒でも放置しとくと何をしでかすかわかったもんじゃないもの」
「ふふ。ずっと僕を見ていたいだなんて……罪な男だ、僕は」
「耳に泥水が詰まってるみたいね」

チェチーリアは呆れて言い返す気力も失った表情を浮かべ、ミカエルには振り返らず言葉を返した。
その眼はミカエルを写してはいない。ただ彼女の耳が彼の姿形を細波のように象る。
彼女の瞳には夜だけがある。しかし常に届くしっちゃかめっちゃかな波の音、もういいと言いたくなるほどの煙るような花の香り、その喧しさときたら。ミカエル=クロー・マクシミリアンの気配であれば、一キロ先からでもわかる。チェチーリアは本気でそう思った。

「ところで、私は貴方に自己紹介をした覚えはないのだけど。どうして私のことを知っているのかしら」
「植物は何処にでも生えるということさ。君だって見たことがあるだろう? 石畳の隙間から芽吹く花を」
「答えになっていないわ。我が師から何か聞いたわけでもないのでしょう。どう考えてもあり得ない。彼の方はヴァチカン神秘管理局と不可侵条約を結んでいる。そもそも好んでイタリアへ行く事自体あり得ない」
「せっかちだね。チョコレート作りには忍耐と繊細さ、そして度胸が必要だ」

ミカエルは革靴の音を響かせ、チェチーリアへ一歩、また一歩と近づいてくる。
靴音の間隔から判断して、彼は背が高いのだろう。また鷹揚に──どこか傲慢な節がある。胸を張って歩いていることが容易に想像がつく。

「何の話?」

チェチーリアは一つ、声を発する。ミカエルは彼女の四歩手前ほどで止まった。

「美学の話さ。チェチーリア・ヴァレンタイン・ストロンスカヤ。君は蝶が羽化する瞬間の音を聞いたことがあるかい?」
「少し見直したわ。貴方、単なる愚か者ではないのね」
「愚か? それは僕に言っているのかい?」

チェチーリアのヒールブーツが軽やかな音を立てた。ミカエルを満月の夜を宿した双眸が覗き込んでいる。水晶体が白濁しているわけではない。
故にミカエルは気づいた。これは何かを得るために何かを捧げた痕跡なのだということに。

「芸術家というのは、俗世を真っ当に生きている存在からすれば愚かに見えるのだろうね。でも真っ当に生きるだけなんて、実につまらない……そう思わないかい? せっかく人の身を得たんだ、この世の全てを舐め尽くさないと勿体無いだろう?」
「それが使徒を無闇に増やす理由かしら」
「なんだ、君もその話をするのかい? 別に僕は人類へ敵対する意志はない。ただ『見たい』だけさ」
「見たい、って……何を」
「僕が選んだ使徒が紡ぐ物語を、さ」