山城まつり
2025-04-07 21:59:15
18354文字
Public シャルラッハロートの診療録
 

シャルラッハロートの診療録|Ep.2

第一章:ジェイド・アクター(後編)

うわあああああ!!一応、一応書けました第一章後半!!
もう……文章力がないよ……と唸りながら執筆したため、また推敲して大幅に変わる可能性がありますが一応公開します。

前回:シャルラッハロートの診療録|Ep.1 https://privatter.me/page/67ee784a46c0c

シリーズ:https://privatter.me/user/YamashiroMatsuri?category=70961

本シリーズには医療の描写を含みますが、作者は医療従事者ではありません。論文、医学書、ホームページなどを参考に執筆しておりますが、現実の医療と異なる可能性があります。ご了承ください。

それでは、皆様にとって良い時間になりますように。


────風は、いつしか凪いでいた。
鼻腔を突く潮の匂いにも慣れ、窓の隙間から冷気が肌を撫でる。
時刻は、あれから二十五分が経過していた。

……メディと契約して、もう十五年が経つ。
はじめは、彼女を恐れていた。妹の命を奪った宿敵だと、恨んでいた。
けれど、彼女はただ「召喚されて宿り、肉体のもとの持ち主を追い出した」だけで、呼び出したのは翠なのだ。人間など、悪魔からすれば皆同じに見えよう。その中の一人を殺めて……それはメディにとってはただの食事だ。喰べる対象なんて、誰でも良かった筈だ。その対象を、翠がわざわざ指定したのだ。妹を喰べてくれと、言ったようなものなのだ。だから、喰べた。彼女には、何の罪もない。分かっている。
メディも、この十五年で自身が奪った命がどれほど翠にとって大きな存在であったか学んでいる。自分が殺したのだと。命の灯火を掻き消したのだと、とんでもない事をしてしまったのだと、苦悩していた。翠はそれをよく知っている。十字架に灼かれ、葛藤して揺らぐ紅の瞳を、幾夜も見てきた。

……ボクも、意地悪がしたい訳じゃないんだ」

彼女がぽつりと零した言葉は、小さく震えていた。
ルビーのような深紅の双眸が、葛藤を刻み込んで潤んでいる。

「知ってる。全部、俺がやった事だから」

そう、静かに返す。
そんな風に慰めたところで、目の前の少女が救われる筈もないのに。
けれど、それしか言いようがなかった。自分が殺した、それは事実だ。だから、お前は悪くない、俺のせいだからとしか言えない。他に適切な言葉など、想像する余裕がなかった。

……ちがう。おにーさんが、ヒイロを殺した訳じゃ、ないのに」

翠の胸が締め付けられる。違う?そんな訳ないだろ。あの魔法が失敗したから、緋は────。言葉に出来ない想いが喉に詰まり、彼は目を逸らした。窓の外では、五月の夜が更けて至極色の万華鏡が夜空を彩っていた。虫の声が僅かに響き始め、街灯の光が淡く道路を照らしている。
……その光が、翠の心に届く事はない。彼の心には、闇が深く巣食っていた。

……お前、もう寝ろ。俺も寝る」

翠は立ち上がり、ふらふらとした足取りでリビングのドアへ向かうと明かりを消した。メディが何か言いかけて、息を吸う音が聞こえる。彼は聞こえないふりをして部屋を出た。階段を上がる音が、たちばな診療所の静寂に緩やかに響く。夜が深まり、翠の影が廊下に長く伸びていた。



────────Ep.3に続く