河童の皿箱
2025-04-02 08:54:45
9909文字
Public 遊戯王:短め(2024年度)
 

お題2024

2024年にいろんな方がからお題を頂いて書いたお話4つ


魔を刻むデモンスミスとスナイプストーカー

 「ようよう、そこ行くあんちゃんよ」。悪魔独特の癇に障る高音のガラガラ声に、悪魔狩りの男は顔をしかめた。随分と逃げ回られ手こずり、ようやっと一仕事終えて帰れるかと思って居たのに、まだ何かをしなければならない可能性に、はぁとため息をついて振り返る。寂然とした廃神殿、もはや神々の加護すら残っていない瓦礫の山。像の台座に、その悪魔はちょこんと座り込んでいた。
 嬰児のような体型に、ぴっちりと着込んだラバースーツ。そこから覗くは紫色の素肌。おもちゃのような光線銃と、赤や青のサイコロを持ったその悪魔は、にやにやと笑いながら悪魔狩りを見ていた。「その腕と得物を見込んで、一勝負といかないかい?」。悪魔の誘いに乗るべきではない、とはわかっていたが、悪魔狩りの男はその悪魔が手にする光線銃に視線を向けていた。
 丸みを帯びた形状はおもちゃを彷彿とさせるが、あくまでも悪魔の持ち物だ。殺傷能力があるか定かではない。だが、その銃のスコープを取り付ける部位にあるのは、これまたおもちゃのようなルーレット。ポップなカラフルに書かれているのは、1から6までの数字。悪魔狩りの男は、もう一面でもある鍛冶師としての目を持って、それを眺めていた。
 「ルールは簡単。オイラと射的をするのさ」。サイコロ悪魔が指をさす高き先にあったのは、神殿の尖塔の先に取り付けられたルーレット型の的であった。デザインは、悪魔の銃のそれと同じだろう。「そら、こうやって」。悪魔が銃を構えれば、ふたつのルーレットは回りだす。「1か6以外に当てられたら成功だ」。そう言って、パァンと。

 男は首を傾げた。的には当たった。それ自体は大した腕だ。だが、悪魔が宣言したルールには反している。当たったのは、6番だった。悪魔は「あれっ……」と首を傾げ、男に振り向いた。「い、いや、今のは練習だっ! もう一回……」。そうして狙いを澄まして、さらに一発。「……今度は1だな」。ぐぬぬと歯を食いしばる悪魔、もう一回、もう一回と、何発も、何発も撃つ。確かに的には当たる。だが、なぜか1と6にしか当たらない。「おかしいなぁ」、そうして光線銃を覗き込もうとするのだけは、悪魔狩りは止めた。
 「仕方ねぇ」。悪魔狩りはようやく重い腰を上げて、背負っていた鎮魂棺を、レクイエムを、銃に変形させた。魔力の光線銃、それ自体の重さと速度は違えども、おおよその弾道は同じはず。ガチャリ、構えて。ドォン、と。的のルーレットが止まる。命中箇所は、3だ。

 「あ」。悪魔狩りが銃を下ろしてみれば、勝負を挑んできた悪魔は涙目であった。……なんだ、今度は泣き落としか? 男はあくまでも冷徹に、警戒を緩めなかった。だが、悪魔はうわーんと泣き出して、台座から飛び降りて逃げ出した。「お、おい!」。男の引き止める声にも構わず悪魔は神殿を出ていこうとしたが、出入り口の段差でつまずいてズベリ。皮膚が地面に引き連れて、若干スーツが破けた。続いて、パキン、と嫌な音が鳴った。
 男は怪訝な顔のまま、転んだ悪魔に近づいてみれば、初めに持っていたサイコロがふたつ、割れていた。ようやく顔を上げた悪魔がそれに気づけば、涙目はさらに涙目に。
 その体型の通りの大泣きに、悪魔狩りは肩を落とした。まずい、さらに面倒なことになった。こんなことなら、さっさと立ち去っておくべきだった。過去の自分を恨みながら、さてどうしたものかと頭を悩ませていると、神殿の影が伸びてきた。まさか、新手かと身構えて悪魔と距離を取れば、「おい」と低い声がした。空気のヒリつきに悪魔狩りは銃を構えた。
 姿を現したのは、嬰児よりも圧倒的に巨大な骨、筋肉の皮膚をすべてはぎ取ったかのような筋の塊が、王冠をかぶっている。まさか、何らかの悪魔の王族か、と警戒するもつかの間。低い声は男に尋ねた。「お前は、こいつと勝負をしたようだな。こいつはまだ未熟者でな。面倒をかけてすまなかった。勝負は間違いなく、お前の勝ちだ。負けたからと言って、何かを取るわけでもないがな。こいつはただ、力試しをしたかったようだ。……ほら、帰るぞ」。砕けた赤と青のダイスを拾い上げた大悪魔は、泣きじゃくる嬰児を抱きかかえて、また影の中へと沈んでいく。
 「次は! 次こそは! 絶対勝つからなー!」。ひっく。引きつった声が遠くなるにつれて、男は胸の内で思った。

 もう二度と来るな。

 ――それからというもの、男の行く先々で、嬰児は王の見守りの下、勝負を挑むようになったとさ。