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河童の皿箱
2025-04-02 08:54:45
9909文字
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遊戯王:短め(2024年度)
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お題2024
2024年にいろんな方がからお題を頂いて書いたお話4つ
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4
P.U.N.K.×海
「ねえ、娑楽斎」。ぼんやり顔の能楽師は、その広い膝の上から振り向いて尋ねた。「釣りって、行ったことある?」と。
年の瀬も近く、すっかり冷え込んだこの頃は、いくら多忙な芸術家達といえども、若干の暇を得ていた。引っ張り出してきた炬燵にはぁやれやれと浮世絵師が胡坐をかけば、小さな能楽師たちはこぞってその膝の上に自らの体をねじ込む。本日の勝者はぼんやりで、しっかり者と勇まし者の能楽師はほんのわずかな不機嫌顔の後、そのわきを固めるように引っ付いては、みかんの皮を剥きながら、年末ムードのテレビをぼうっと眺めていた。そんなテレビが煌々と映し出していたのは、大波小波を掻きわけていく昔ながらの高速漁船がランタンを揺らしながら、大物の一本釣り漁に出る特番。そんなこんなで飛び出した能楽師の問いかけに、浮世絵師はしばらく考え込んだ。
「近頃はない
……
が、売れなかった頃は
…
あー。どーしてもその日に食う飯に困ったってのが何回かあって
……
うん、行ったな」。浮世絵師の口に、右隣からみかんがねじ込まれる。勇ましはしてやったりとにやり笑えば、ひとつ欠けたみかんを今度は左隣のぼんやりに。それをまねっこしたしっかりが、みかんを味わった右隣の口に再び、ポンと投げ入れては、自分でもパクパクと食べ始めた。テレビでは、狙う大物の難度やいかに高級で美味なのかのプレゼンテーションを終えて、漁師たちの真剣な戦いを映していた。
「どんなの釣ったの?」。また膝の上の能楽師が尋ねた。「んー
……
ちっちぇえやつ。お俺の指ぐらい
……
だからこんなんの」。「種類は?」。「それがなぁ、わかんねぇんだよなあ
……
さっき言ったみたいに食う飯に困って行った釣りだからさ、釣れて食えればなんでもよかったんだ。
……
あぁ、ワゴン」。ふとテレビから視線を逸らせば、厨房から出てきた雅楽師が居た。浮世絵師がおーいと声をかけて引き止めれば、どうかしたのかと彼もまた、炬燵に入り込んだ。
「大昔、金がなかったころさ。俺とお前で海釣り行っただろ? あんときに釣ったのをこいつが知りてぇっていうから
……
何釣ったか覚えてないか?」。問われた雅楽師がふとテレビを見れば、「あぁ、そういうことか」と首を縦に振る。「しかし、言ってもいいもんかのう?」。ためらいを見せる雅楽師に、浮世絵師が「どうしてだ?」と尋ねれば、雅楽師は大口を開けて笑った。「だって、お前はなーんにも釣っておらんからなぁ。お前がようやく釣ったのが、たしか指ぐらいの
……
うむ、ちっせえ魚じゃ」
その一言で、居間はテレビの音だけに支配された。どうどうと波ばかりで、アタリが来ない。ぽかんと口を開いた浮世絵師は突如頭を抱えてうめいた。「
……
うーわ、うーわ! くっそ、嫌なこと思い出しちまった!」。「だぁから言ったんじゃろうが。言ってもいいものかと」。悶絶する絵師とケラケラ笑う雅楽師、能楽師たちは目をキラキラとさせながら、話の続きを促した。
「冬は燃料に衣服に年の瀬に、何かと金がかかってな。ふと残金を計算したらものの素寒貧、飯も食えん。こりゃあまずいと、ジャンクの安い釣り竿と
…
こいつが虫に触れんから、疑似餌で釣りに挑んだんじゃ。いやぁ、身を切るように寒かった。毎日毎日風がびゅうびゅう吹いとって、吹き飛ばされそうな日も少なくなかった。バケツと、ちょっとした椅子に陣取って、そうじゃな、ちょうど今のお前たちみたいに固まって、アタリを待った。そう、先にアタリが来たのはこいつじゃった。んだが、一瞬で竿を持っていかれるデカいアタリでな。反応はできたが、竿が耐え切れなくてあっという間にポキッと
…
」。「いや、いや! あれは竿が負けただけだ! 俺のせいじゃないって!」。「くっくっく、わしゃあ愉快で愉快でな。そりゃもうゲラゲラ笑ったもんだ。『まだ店空いてるから!』って言って、もう一本竿を買ってきたんじゃが、その頃にはわしが4匹ぐらい釣って居ったか」。「で、でもお前の獲物だってそんなでかくなかったろ
……
」。「誘いが下手なんじゃお前は。日が沈んでもボウズだったろうが。大体、お前は大物狙いすぎる。保証もないボロ竿でそんなの狙うわけなかろ」。「ぐっ
……
」。「そういうことじゃ。だが、1日だけ本当に何にも釣れない日があってのう。腹はぐうぐう、正直眠気もあったが、夜釣りを強行したんじゃ。釣れない間はそりゃもうつまらんかったが、日が変わる頃あたりで釣ったアジをその場で串刺して焼いて食ったときゃあ
…
そりゃあもう、言葉にできんほど旨かった」。「
…
あぁ、あったなソレ。あれはマジで旨かった
…
生き返るかのようだった」。「それっから、アジがよく釣れてな。ほれほれ釣っても釣っても、いくらでもアタリが来る。まさに入れ食いじゃった」。「それは俺釣ってたよな?」。「小物をな。卵抱えておった奴ばかりじゃったから、リリースしたんじゃろ?」。「ちくしょう、そうだった
……
」。「はっはっは。んで、そんな入れ食いに夢中になって釣り続けて、バケツは満杯。たっぷりの釣果にわしらは満足してな、しばらく困らんだろうってぐらい釣れて。ふと、海の彼方からおてんとさんが顔を覗かせたんじゃ」。「
……
思い出した。あれは
……
そう」。
ふと、浮世絵師は炬燵の上に放置されていたタブレットを手にとっては、膝の上の質問者の両脇から腕を伸ばし、何かをザクザクと描き始めた。薄紫の上に重ねられた透明な光の反射を塗広げ、堤防の上に厚着をした二人の男、バケツ一杯の魚、折れて放置された竿と、水平線の太陽と。それは鮮明ではない、印象画のような油絵風のスケッチだったが、能楽師たちはこぞって覗き込んだ。「
……
そうだ、こんな景色だった」。「そう、こういう景色を見た。なんでかのう、涙が出るくらい綺麗じゃったなぁ」。
さ、思い出話はこのぐらいにして。雅楽師はすっかり暖まった足で、また厨房に歩いて行った。煮物に味付けをしないとな、と。テレビでは大物が連れて、ワイプからの歓声と拍手に溢れかえっている。
「ねえ、娑楽斎」。膝の上の能楽師は、即席のスケッチを手に取りながら、ふと呟いた。「夜釣り、行ってみたい」、と。絵師はふっと微笑んで、「しばらく休みが続くし、行ってみるか?」と尋ねれば、3人の能楽師たちは顔を見合わせて、笑った。
「行きたい」。
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