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河童の皿箱
2025-04-02 08:54:45
9909文字
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遊戯王:短め(2024年度)
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お題2024
2024年にいろんな方がからお題を頂いて書いたお話4つ
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P.U.N.K.×幻影騎士団
霧深き森、奥の奥。閉じた道を往く、ふたつの影。陽の届かざる湖畔の縁を、ゆるりゆるりと歩き往き、灯をともしては、ここはどこかと、問えど問えどと返事はない。小さな影、木々を見上げて、息を吸う。見慣れし霧とは違う霧。しかし、自然に起きたものでもなかろう。隣の黒衣が呟けば、小さな影は頷いた。
小さな影は、黄金色の薔薇の羽織をひらひら揺らし、鬱蒼と茂る森に咲く花をひとつ見つければ、泉にひゅうと風が吹き抜ける。ふわりと大きな花弁が揺れても、霧は晴れない。手を繋ごう。黒衣は踊子の手を取っては看板を指さし、また湖畔の縁を進んでいく。
踊子、名をセアミンと云う。幼いながらも能楽師として芸を磨き、それで飯を喰っている。その手を引く黒衣、名をスパイダーと云う。浄瑠璃人形師として共に舞台に立ち、今はある者を追ってこの森を歩いている。
ふたりが追うは、地の底にて住まう、黒き天使。人と獅子と牛と鷲、4つの頭を持ち、2対の翼で羽搏く者。或いは、罪を量り裁く者の場所まで、魂を運ぶ者。それが飛び去って行ったのが、この森だ。曰く、森の奥にて眠る魂たちが、近頃目覚め、活動しているのだと。その魂を運ぶ予定はないが、現状は把握せねばならぬ。見物に来るなら勝手だが、自分の身は自分で守れ。くれぐれも迷うなよ、と。早々に、黒天使は飛び去って行ってしまったのだった。
智天使の仕事ぶりを見れるだなんて、面白そうな話じゃないか。ふたりは意見を一致させた。黒天使を追って、古びた看板の指す先に、ふたりは進んでいく。先の見えない霧の中を、怯むこともなく。
ボウと灯る火は頼りなく、風に揺られる。ふたりはふと、立ち止まる。提灯をふらりと向ければ、そこにあったのは古びた墓石であった。刻まれていただろう名も、最早読み取れぬほどに風化した墓石。よくよく目を凝らせば、あたり一帯に、ひとつやふたつどころではない。どうやら、墓地のようだ。なら、静かに歩かなくちゃ。踊子はしぃと人差し指を唇に当て、黒衣に見せれば、黒衣も同じ仕草で返す。眠る者たちを目覚めさせぬよう、ふたりは静かに、静かに進む。
ふと、黒衣が足を止めた。それにつられて、踊子も足を止める。黒衣は踊子を背に隠し、踊子はその背から前をちらりと覗き込む。ふたりの眼前に、何かが居る。墓石に灯る紫焔は、まるで鬼火のよう。背を丸めて座り込むは、解れ破れてぼろぼろの外套。ゆらり、振り向く。突如、ふたりの身が、何かに包まれた。咄嗟に黒衣が踊子を抱き寄せるが、その上から2人の体よりも大きな手がふたりをグワッと掴んでは、その身の自由を奪われ、かつんと提灯が石畳の上に転がる。しかし、苦しくはない。あくまで拘束しているだけのよう。
そして、樹上から音もなく降りてくる者が居た。古木の色をしたブーツ、こちらもまた古びたズボン。しかし、上半身がない。黒衣は抵抗するでもなく、ただ静かにじっと見つめていれば、樹上からまた何かが降りてきた。フードを被った青白いなにかが、ひとりでに動く下半身の上に浮かぶ。虚ろな黒が穴のように開き、手袋に掴まれたふたりをじっと覗き込んだ。踊子は怖気づくこともなく、淡々と言う。こっちに友達が来たの。黒い翼で飛んでいった。知らない?
首をかしげる踊子と、同じく首をかしげる青白い光。じゃらりと繋がれた鎖が音を鳴らすと、掴む手袋の力が緩んだ。木々の隙間に隠れていた手袋の持ち主も、ふらりと姿を現す。少し離れた場所に居たぼろ外套も、ゆらりゆらりと浮かび上がっては、静かな靴と並び立ち、見つめ合った。そしてすぐに、靴と手袋は踵を返し、墓場の奥へと駆け出していった。残った外套が虚ろな瞳をふたりに向け、一礼する。それは何も言葉を発しなかったが、黒衣と踊子は、その仕草を真似て一礼した。
すると、浮かび上がる外套はゆるりと振りかえり、ふたりに背を向けては墓地を進み始める。少し進んだところでまた振り返り、手はないが浮かび上がる杖を振って、紫色の灯火を揺らめかす。ふたりは落としていた提灯を拾い上げ、その灯火に導かれるまま、歩みを進めることにした。
墓地を抜ければ、音の鳴らぬ靴と、巨大な手袋が待っていた。ふたつは厳かな、けれど錆びついた門扉の前に立ち、待っていた。黒衣と踊子が外套に招かれるままに近づけば、手袋ががらがらと門扉を押し開けた。その先には、拙いながらも手入れのされた小さな庭園と、かつては立派だったのだろう城が埃をかぶり、曇り空にその尖塔を向けていた。
破れた窓辺から、青白い光を纏う騎士が庭を見下ろす。黒衣がそれを見上げるが、特段、警戒されている様子もない。外套が、靴が、手袋が、ふたりを城へと招き入れようとするが、踊子はふと、尖塔を指さした。黒衣がそれにつられて見上げれば、あぁ、あの黒い翼は。異形の天使が尖塔から舞い降りては、ふたりの前に降り立つ。
お前たち、来たのか。黒天使は4つの顔でふたりを見下ろす。踊子が頷き、だって面白そうだったから、とぼんやり言えば、全く、と腕を組んだ。そして、天使は続ける。仲介者として責任を果たさねばならぬ。聞け。ここは反逆の末、無念に倒れた騎士どもの、成れの果てが集う場だ。罪はとうに雪がれ、今はここを根城にしている。お前たちが出会ったあれらは哨戒である。
……
しかし、上手くやったものだな。黒天使は亡霊たちの様子をチラリと見て、そう呟いた。踊子は頷く。みんな、優しいよ。無断で来て、驚かせてしまったのは、こちらの方。それでも、招いてくれた、と。
城の扉が内側より開かれる。鱗を連ねたような鎧は青白い光を纏って浮遊し、足はないものの、隣の重々しい足具と共に足並みを揃え、ピンと背筋を伸ばせば、招かれた客人も同じく背筋を伸ばしては、膝を折って頭を下げ、名乗る。スパイダーと申します。遥か東の国より訪れた浄瑠璃人形師であり、友にして智天使、ケルビーニ様の導きのもと、ここへ参上致しました。突然の訪問、非礼をどうかお許しください。続いて、踊子も名乗る。セアミンと申します。隣の者と共に、能楽師をしております、と。背筋を伸ばす騎士たちは満足げに頷き、黒天使に目をやった。黒天使は言う。仲介者としての責任を果たそう。これは戦いの意志も、お前たちを侵す意図もない。ただの物好き、好奇心に駆られて来ただけだ。浄瑠璃、能楽、お前たちには馴染みがなかろうが、いわば芸人。せっかくだ。非礼の詫びに、芸をひとつやふたつほど見せてみないか。
芸人、と聞いた途端、靴は飛び上がって、城の中へと駆け込んでいった。すると、みるみるうちに城は賑やかに、わあと幾多の魂があちこちの窓から飛び出しては、次々に庭先に集う。彼らは言葉を持たなかったが、芸人ふたりには、どうも浮き足立っているように見えた。手袋がずいとふたりの背を押して円陣の中心へと押し進めると、いつの間にかいくつかの道具をかき集めていた外套が、杖を操ってはふたりを見て首を傾げた。踊子は頷く。大丈夫、使うものは持っているよ。ひとつ聞かせて。笑える演目と、泣ける演目、みんなはどっちが好きかな。踊子が問い掛ければ、外套は目を細め、杖を腹に当て、身を震わせた。踊子は頷き、じゃあ、そっちにしよう、と。外套は集めた品々を横へ避け、自らもまた、靴や手袋の側の席に座った。
騎士たちも席に着いていく中、次に踊子は黒衣に屈んでもらい、その耳元で演目を伝えた。その上で、わかりやすいように少し変えよう、と。ふたりはヒソヒソと相談を続け、最後に互いに頷く。それじゃあ、始めよう。
馬を連れた騎士が最後に席に着けば、ひとつ開けられた通路を、踊子はゆく。その後ろを、古びたローブを纏った黒衣が追いかけ、円陣の中心へと辿り着く。踊子は名乗る。我こそは領地より遠き地にて罪を被せられし、ある地の領主である。しかし神のお導きか罪はあらずと裁かれ、領地、すなわち故郷に帰る前、神に感謝を捧げたもうと。続けて、黒衣は名乗る。我こそは罪を被せられし領主の従者である。あれ領主様、聖堂はこちらにございます。ローブを纏った従者が案内すれば、領主は無事に聖堂へ辿り着き、神に祈りを捧げた。
いやはやしかし、これなる聖堂は一体何方が建てられたのか。領主が感嘆の声をあげ、ほれ、例えばあの彫刻
……
天使様のお姿を見事に表現されておる。領主は次々に聖堂の繊細な装飾を褒めちぎる中、おや、とあるものに目を留めた。のう、従者よ。あれなる恐ろしき面は一体なんぞや、と。領主が扇子で指した先には、黒天使の獅子の顔があった。黒天使は唐突に演目に巻き込まれ目を見張るが、数多の視線がズッと向いてはじっと続きを待ち、そして従者は答える。あれは獅子の彫刻にござりまする。威厳と恐ろしさから悪きものを追い払おうとつくられたのでしょうなぁ。いやはやしかし、良き作りにございます。従者もまたその彫刻を褒めちぎると、突如領主は顔を覆い、おーんおんと涙を流す。おや、如何なさいましたか。領主は答える。いやな、あれに似た顔がどこかにあると思っていたが、思い出したのだ。あれは、我が妹の顔によぉく似ておる。従者ははて、と首を傾げては、いやいや領主様、あれほどの面構え、人にはおりまするまい。ましてや、妹などと。従者はご冗談をと笑い飛ばすが、領主はまだまだ涙を流す。身のすくむような思いを、何度させられたことか。あのキッと吊り上がった目などそっくりだ。しかし、会いたい、会いたいのう。ともなれば早く、故郷に帰らねばならん。
聖堂を出て帰路につくふたり。さあてさて、妹に叱られる日々もまだまだ続くのじゃろうなぁ。領主がワハハと笑えば、従者もまた、ワハハハハと大口を開けて笑う。観客たちもまた、その笑い声につられてか、それとも領主の主張の頓珍漢にか、声は上げずとも、手があるものは手を叩き、杖があるものは杖を打ち、靴があるものは靴を鳴らし。それぞれが思い思いの方法で、芸人たちが一礼をする中、その磨かれた一芸を讃えた。
領主を演じた踊子と、従者を演じた黒衣が頭をあげれば、亡霊たちの黒い瞳は細まって、どこか楽し気な雰囲気を纏っていた。互いに顔を見合わせて、劇の仕草を真似てみたり、また笑うようなそぶりを見せたり。鎧で出来た馬が大きな剣を携えて歩き出せば、その主たる揺らめく大鎧がかつりと歩き、ふたりの前に立つ。黒天使がその隣に立ち、言った。満足いったようだ、と。ふたりの芸人はまた膝をつき、光栄にございます、と頭を下げれば、大鎧はまた天使を見た。天使は言う。お前の言葉を伝えよう。人よ、そう畏まらずとも良い、頭を上げよ。我らが同胞を待つ間に、良いものを見た。天使よ、人よ、感謝する。
その言葉に、客人は顔をあげる。すると、空の果てから、ゴウと強い風が吹き荒れた。びゅうびゅうと吹く風に、ざわめく木々に、皆が皆顔を上げると、そこには鳥が、数多の黒い鳥が飛んでいた。その身は鉄のように艶めき、まるで機械のよう。飛行機のような鳥の群れは瞬く間に、ここから離れた泉の方へと飛んでいき、亡霊たちはやんややんやと追いかけていっては、初めに出会った外套と、靴と、手袋と、客人の前に居る騎士が残った。
騎士は天使を見つめる。そして天使に、次に客人たちへと頭を下げ、それもまた、泉の方へと向かっていった。黒天使は言う。待ち人が来たようだ、と。静まり返った庭園、けれど残っていた亡霊たちは、客人の前に立ち、手袋が踊子の手を握って、靴が黒衣の顔を覗き込んだ。踊子は言う。次は、もっとたくさんの道具を持ってくるね。他にも、仲間が居るの。その人たちも、連れてくるね。友達との時間、楽しんで、と。その言葉に、3つの魂は跳ねて喜び、そしてまたぴょんと飛び出しては、泉の方へ向かっていった。最後に外套が振り返り、杖に炎を灯して、手を振るかのようにゆらーりゆらり。その炎が木々の奥へ消え、それを見送った後に、天使はふたりに言った。逢瀬を邪魔する程、無粋なものはない。あの様子であれば、暴れることもなかろう。さあ、この仕事は終わりだ。帰るぞ。
逞しき両腕を広げ、黒衣が手を繋いで踊子と共に腕に抱かれると、天使は黒き翼を広げ、霧の空へと飛び立った。
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