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racmon
2025-03-31 21:50:47
6638文字
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モブ視点ささろまとめ
だいぶ前に書いたモブ視点ささろのまとめです
それぞれタイトルは忘れました…
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デュぺにしなやかに横たわる今夜の彼女。とても魅力的で今すぐにでも触れたいけれど、僕は敢えてソファに腰掛けた。焦れた彼女はきっとすぐに僕を求めるだろう。
ーージリリリリリリ
……
「ちょっとなにぃ?」
程よい緊張感を割り裂くけたたましい警告音に、彼女は不機嫌そうにスマートフォンを置いた。ムードが壊れてしまったことに相当がっかりしてしまったのかもしれない。
「僕が様子を見てくるよ」
ガウンを翻す僕の姿に、彼女は見惚れてくれただろうか。それにしても、なにかの誤作動だといいけれど。そうでなければ僕と彼女の特別な夜が台無しになってしまう。
廊下に出ると、すぐに放送がかかった。やはり先程の警報は間違いだったようだ。まだアナウンスの途中ではあったけれど、待ちくたびれているであろう彼女の元に帰ろう。そう思ったとき、隣の部屋のドアが勢いよく開いた。
「なんや、誤作動か」
備え付けのバスローブを着た男性が、険しい表情で顔を出していた。藤色の美しい束は水気を含んで、頬はほんのり上気している。僕より二十は若いだろうか。この階に部屋を取るとは、随分優秀と見えた。
「何事もなくてよかったね」
僕は気付けば声をかけていた。部屋では彼女が僕を手招いているかもしれないのに。
「あ、そうですね。びっくりしました」
丁寧な口調ではあるけれど、彼は訛りがある。なるほど、旅行でここへ訪れた彼は彼女にいいところを見せるために奮発した、というところだろうか。なんとも可愛く健気じゃないか。
「ねえ、君はどこからーー」
俄然興味が湧いて彼に質問を投げかけようとしたとき、彼の姿が部屋の中に消えてしまった。まだドアから手は離していないのか、少し開いた隙間から彼の声が聞こえる。
「おい! お前ちゃんと体拭けて! 床びしょびしょなってもうたあるやないか!」
どうやら僕はお邪魔みたいだ。彼のお相手はせっかちさんのようだし。それもそうだ。こんな素晴らしい景色が一望できるロマンティックな空間ならなおさら、一秒たりとも離れたくはないだろう。それでも律儀に彼はもう一度、僕のために姿を見せた。
「あ、すいません。なんか言いかけてらしたんじゃ
……
」
「ううん。いいんだ」
ぺこりと会釈してはにかむ彼に僕は名残惜しさを感じ、また口を開いてしまう。
「ひとつだけ」
「あ、はい」
「ローブはもう少し、下の位置で結ぶとセクシーだよ」
僕がそう言った直後、ついに彼は部屋の中へと引っ張り込まれてしまった。「あかん! 先髪乾かしてからや!」と妙に所帯染みた彼のセリフを最後に、僕たちはさよならをした。厚い壁のおかげでなにも聞こえはしないけれど、きっとこのあと彼が言ったように身支度をしてからーー今から生まれたての姿になるだろうに、身支度とは可笑しいーーお預けを食らわされた報いを受けるのだろう。積極的な相手を持って、羨ましい限りだ。
儚い出会いに後ろ髪を引かれる僕が、彼女のことを蔑ろにしてしまった罪は重い。
「すまない。待たせたね」
慌てて駆け寄るも彼女からの返事はなく、顔を覗き込むとぽかりと口を開けて眠っていた。手に握られたスマートフォンの画面を何気なしに見ると【コースケ】という男性との、明け透けな言葉を使った淫猥なやり取りが目に飛び込んできた。
僕は努めて平静に、彼女の髪を梳いてやる。手綱を握らされるのは、僕は、嫌いじゃないんだ。
「ウゥン」
払われた手が痛いけれど、これもまた愛撫の一つなんだ。僕は君を愛している。
行き場を無くした手で、フロントへ繋がる電話を取る。ワンコールですぐに応対してくれた。
「隣の部屋の二人へ、シャンパンを」
美しく輝く夜景は滲んで溢れた。
目を覚ますと、僕の傍らには香りだけが寄り添ってくれていた。窓際のテーブルには『ゴチ』と書かれたメモが、メロンの皮が乗った皿の下に挟まっている。
僕は彼女の好みに合わせて、思い切って挑戦したカジュアルな服装に着替えてロビーへ向かった。
髪を撫で付け清潔感のあるドアマンは、僕の服装に一切表情を変えることなく紳士的に振る舞う。僕は無性にありがたくなって、普段より大きな声ではっきりと礼を言った。それに周囲の人が振り返ったけれど、心がすっきりしたので構わない。
「あ! 聞いたことある声やあ!」
僕に注目した人たちの中で一人、僕を指差して駆け寄ってくる姿があった。よく見ると帰国時の飛行機の中で読んだ雑誌で見た顔だった。普段テレビは見ない僕でも、彼のことは知っている。
「昨日はごちそーさんでした!」
あどけなさを感じさせる仕草で大袈裟にお辞儀をしたかと思えば、彼はピュンとすぐに飛んでいってしまった。僕は彼と面識もなければ、なにか奢った覚えもなかった。
なにかヒントを探ろうと彼の背中を視線で追う。特に目ぼしい記憶は掘り起こせなかったが、彼が乗り込んだタクシーの後部座席に人影が見えた。朝日に透けるその髪の麗しさには見覚えがある。そう思った瞬間、つい数分前まで愛嬌のある笑顔を僕に向けていたあの有名人は、藤色の彼の頬を捕まえて窓越しに熱烈なキスを見せつけた。
僕はこの素晴らしいホテルに、二度と宿泊することはないだろう。
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