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racmon
2025-03-31 21:50:47
6638文字
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モブ視点ささろまとめ
だいぶ前に書いたモブ視点ささろのまとめです
それぞれタイトルは忘れました…
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私がこの世に生を受けた記念すべき日は、とうに三日も過ぎていた。しばらく確認を怠った郵便受けに届いていたのは歯科医からの年に一度の招待状。草木も眠る頃にそれを手に取り、ようやく気がついたのだ。
「おばんです!」
草木は眠れど、働く蟻たちは例外だ。屋敷へと引き返すこの私を呼び止めるのは、よほどの無知と見える。無知ほど恐怖を知らぬものはない。いかにも血中コレステロール値が高そうなその男は、しばしばこうして私を構う。
「在宅でお仕事されてるんでしたっけ? それもまた大変でしょ。曜日感覚とかなくなりますでしょ」
男の言うことも一理ある。ヒトの記憶など所詮そんなものだ。
もっとも、私はヒトではないが。
ーーあちらの島国に行くなら、キミは愛想笑いを覚えた方がいいね。
そう私に助言した彼は、自ら白い光の中に消えていった。一緒に渡った運河も、熱が残った石畳も、今となってはすべてが忌々しい。なにより、消えゆく彼の姿を咄嗟に追うことができなかった、私自身を思い出したくなかった。
隣は彼でなければと、常々思っていたはずだった。歌に乗せて伝えようとしたこともあった。もうそれも叶わないが、結局のところすべて嘘になってしまえば、もはや悔やむことも許されない。
冷蔵室で保存してある血液パックを手に取り、今夜も惰性で摂取する。元々この国にやってきたのは、ヒト一人分だけ新鮮な食事をするためだった。彼と共に。各国を旅し、その地の味を堪能するのが私たちの趣味だった。独りでは手頃な対象を探し回ることも億劫で、定期で届くよう設定した濃縮還元の味で日々を繋いでいる。
「おい、ほんまにここ廃墟なんか?」
瑞々しい男の声が響いた。いつか誰かが、私の退屈を紛らわすために迷い込めばいいと、日頃から鍵をかけずにおいた甲斐があった。少々無礼な発言だったが、それもよしとしよう。こんなことなら、適当に腹を満たす必要もなかったが、仕方あるまい。
「いやこんなんまで歴史的建造物やいうんか? ホコリも蜘蛛の巣エグいしーーうわ! ほらこれ、なんかの動物の糞やで!」
「この粒々したやつ?」
埃っぽくて、蜘蛛が間借りをしていて、私の友人の排泄物が散っているのは、ただ私が掃除が不得意なだけである。さらに無礼を重ねたもう一方を先に、はじめの方は捕らえて明日にでもゆっくりいただこう。好きなものはあとで、が私の信条なのだ。
「なあ、ほんまに入ってええんか? こないだみたいなことなったら俺
……
」
「あんときはロクに確認もせんと逃げてもうたからなあ。おかげさんでコンビ名は決まったけど」
「十分やないかぁ
……
」
「お前、ビビってーん?」
「ビビビ、ビビってへんわ
……
!」
コンビというのは、過去の私と彼のような関係だろうか。片方は怯えているものの、随分と楽しげである。この場所に足を踏み入れたばかりに、この私の手ーーいや、牙により、引き裂かれてしまうとも知らずに。
「なあ」
「なんやねん
……
」
「俺はこういう、肝試しとか、お前と来るんがはじめてやってんけどさ、そっちは?」
つい先程まで陽気に話していた男が、歯切れ悪く尋ねる。私は身体中に妙な痒みを感じた。
「俺かて、はじめてやわ」
「
……
そっか」
「その半笑いやめろて。気色の悪い」
「え、いま俺わろてた?」
「わろてたよ」
気安い会話から滲む親しげな様子に、私はいつのまにか羨望を抱いていた。少しの間だけ、あの頃の私たちの姿を重ねても構わないだろうか。
「なあなあ」
「なんやねんて」
「絶対、テッペン獲ろな」
「当たり前やろ」
2人には夢があるらしかった。それが何を指すか、私には皆目検討もつかないが、ひどく清くて、幼気に脆いもののように思える。彼らの先を案じ、願うことで、乾きが少しずつ癒えていく心地がした。
「ここは廃墟ではありませんよ」
踊り場に出た私を見て、息を呑む音が聞こえた。私は彼の言葉を思い出した。
ーーあちらの島国に行くなら、キミは愛想笑いを覚えた方がいいね。
安堵したように悲鳴を仕舞った2人は、私に頭を深く下げ、あれこれと言い訳を述べた。
「すんません
……
! 鍵開いてて、入ってしまって!」
「てっきり無人やとおもてました!」
最後にもう一度、綺麗に揃えて謝罪を口にすると、一目散に走り去っていった。
あと何度ほど朝をやり過ごせば、彼らの成功を目にすることができるだろう。これまで生きてきた時間を思えば、わずかな瞬間であろうその待ちぼうけが、私にはとてつもなく長く感じ始めていた。
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