nuka_boshi
2025-03-30 22:03:20
26748文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その4【シリアス死ネタ】

よーやくトロの部分です!!!
利吉さん捏造過去話!
つまり利吉さんが曇ります(ネタバレ)。
基本的には軍師映画見た時に勝手に想定してヒェッってなってた利吉さんの将来像を、殆どそのまま書いてます。
ちなみに前回滝夜叉丸が重い過去判明しましたが、あの設定は軍師映画見た直後のまだ滝夜叉丸のこと知らなかった頃に考えた設定そのまま流用してるだけなので決して趣味で曇らせたわけではありません、悪しからず。
……この先のシーンでの彼の言葉の重みを出す為に、どうしてもあの過去は必要になるなと思ったので。ちなみに原作勢は分かる通り、滝夜叉丸と母親の関係は梨花とその母親の関係性がモデルです。
山田親子が元ネタの賽殺しの親子関係とだいぶ違ってるので、伝子さんの行動や言動もかなり元ネタと変わってますね。
利吉さんの過去とその時の心情に関してはもうちょっとじっくり書こうと思ってたんですが、あんまりやるのも可哀想かなって思って少し表現和らげてます。



……本当は、分かっているんです。室町の世に私の居場所など無い。分かっていたんです。私が幸せになれる場所など世界の何処にもないと。私が消えてしまう以外に、他に幸せはあり得ないと。――私がいる限り、私は絶対に誰かを傷つけてしまう」
 こぶしを握りしめた時、私は自分の掌に爪が食い込む痛みを感じていた。けれど、その痛みよりも、己の醜悪さを認める事と、大切な人を傷付けている事実を認める事で生じる胸の痛みの方が――遥かに鋭く重かった。
「大切な人が一刻も早く私を見限り、忘れてくれればそれが一番幸せなのでしょう。私がいなくなれば、きっと彼らは悲しみつつも、そのうち私を忘れてくれる。分かっているのです。――けれど。それでも!」
 ぼろぼろと熱い涙がこぼれ落ちる。それが罪悪感という刃だという事はとうに分かっていた。――帰りたい、だなんて真っ赤な嘘だ。今更元の世界に帰った所で、私に幸せな未来などありはしない。大切な人々を苦しめるだけで、生きる価値などないのだ。――だというのに。
「それでもッ! この世界には私の子が居ないのです! 父上も母上も、お兄ちゃんもッ! ……どんなに軽蔑されても、合わせる顔がなくても、居場所が無くたって、同じ空の下にいるなら私は耐えられた!! 彼らが同じ空の下でいつか幸せになってくれると思えば、ただそれだけで良かった! そこに私が居なくとも、私は彼らが幸せになるのだと信じたかった! 同じ世界に居たかったッ! ――ですがそれも叶わない!! 会えなくとも、言葉が交わせなくとも、居場所がなくとも、ただどこかの片隅で、誰にも気に留める事さえされずに大切な人の存在を遠くで感じていられれば、ただそれだけで良かった……ッ! 私の望みは、本当にただそれだけだったのに……っ」
 この世界には、両親が居ない。世界を広げてくれた土井半助が居ない。愛してやりたかった、幸せにしたかった息子すら居ない。――会えなくとも良かった。言葉など必要なかった。愛情など要らなかった。ただ、彼らに幸せになってほしいと願って逃げ出した。その結末が――この袋小路の、大切な人を全て取り上げられた狂った世界。
 ――――本当は全て分かっていた。これは何もかもを投げ出して逃げ出してしまった愚かな自分への罰だ。父の名に泥を塗り、家族の好意と善意をただヨダレを垂らした野良犬のようにむさぼり続けた挙句にないがしろにして、そして我が子すら捨てた自分の犯した罪に、神が罰を与えただけの話だ。――けれど、それでも。
――なら、私はどうすれば良かったというのですか!? 大切な人の幸せを願う事が罪なのですか? そこに自分が居なくても、自分の居場所がなくても、それでも彼らの幸せを願う事がそんなにも悪い事なのですか?! ――私は、欲張りたかった訳じゃないっ! ただ本当にささやかな、愚かな今の私でも叶う筈のありふれた願いとして、同じ空の下で彼らの幸せを祈りたかった! どうすればいいかなどわからなくても! どう考えるべきなのか、どこへいけばいいのかもわからなくてもッ! 私は……ッ!!」
「利吉……
…………本当は、ずっと前から、分かっていたんです。全ては私の罪で、私がいるせいで皆を傷つけてしまっているのだと。私がいるせいで、元の世界の皆の心を踏みにじってしまったと。だから、……私さえ消えれば、それで皆が幸せになれるのだと。――けれど、それでも」
 伝子が何か言おうとするのを遮って、私は顔をあげる。泣き腫らした、誰にも見られたくないみっともない顔を、私は初めて自らの意思で他人に見せる。
……私は、息子に会いたい。あの子が幸せになる事を、ちゃんと生きて見届けたい。――例え傷つけるだけしかできなくても、故に直接会うことが許されずとも、親として、あの子の幸せをただ陰から願いたい。……それがどんなに罪深くとも、私は……
 私のその言葉に、伝子が動く。その目に涙を流しながら、無骨ブコツだけど暖かい手で、私をぎゅっと抱きしめた。――幼き日、私に触れてくれた父を思い出させる手で。
……罪なんかじゃないわ」
…………ぁ」
「罪な筈がないでしょう。ずっと誰かのために頑張って、傷付いて苦しんで、それでも尚誰かの幸せを願える貴方に、罪なんかあるはずがない」
 ――やめてくれ。父を思い起こさせるその腕で、父を思い起こさせるその声でそんな事を言われたら、まるで山田伝蔵に赦されたかのように、錯覚してしまう。違うと分かっているのに、間違いだと分かっていても、弱い私はすがってしまいなくなる。だからやめてくれ。
 そう言おうとした時、私は気がついた。伝子はあまりにも優しい、それでも凛とした瞳をしていた。涙を流しながらも、彼女は教え導く者の眼でこちらを見ていた。
「私は、貴方の口から聞く貴方の世界しか知らない。だから、貴方の気持ちが分かるだなんて軽々しくは言えないわ。――けれどそれでも一人の子を持つ母として絶対に確信を持って言えることがひとつだけある。あなたのご両親は、貴方の大切な人達は、全てを知っても絶対に貴方を見限ったりなんかしないわ」
 ――何故。何故そんなことが言える。私は弱くて、身勝手で、その癖プライドだけは馬鹿みたいに高くて、他人からの愛をむさぼり踏みにじることしかできない濁りきった汚濁おだくのような、そんな人間性の男だと、今し方説明したばかりではないか。なのにどうして、そんな真摯な目でこちらを見ることが出来る。そんな風に真っ直ぐに信じることが、できるのだ。
「もし、私が貴方の親の立場なら、貴方がプロの忍者になれなくても、貴方がどれほど間違えてしまったとしても、それでも私は貴方を誇りに思うわ。だって――貴方が苦しいって泣いてる理由は、全部貴方が優しい子だからだもの」
 ――やさしい、子?
 その言葉を脳が認識した瞬間、私の全身にわけのわからない衝動が走った。圧倒的なほどの衝撃、理不尽なほどの衝動が、私の全身を熱く焼け付くような感覚となって駆け巡る。
……ふざけないでください」
「え?」
「優しいはずがないでしょう!? 貴方は一体何を聞いていたんだッ!!」
 戸惑う伝子に、私は怨念染みた怒りをぶつける。
「貴方は何も分かっていない。私は――自分の事しか考えていなかった! 家族にみっともない所を見られたくない、息子に幻滅されたくない、それしか考えられなかった! 私が本当に優しい人間なら、そもそも息子を捨てたりなどしなかった! 大事な人たちの想いを踏みにじるような真似は断じてしなかったッ!」
 自分は間違っていないと主張したがる利己心が、誰かを傷付けている。そのことに気付いていても、私はずっとそこから目を背けていた。だから私は彼女を振り払う。
「そもそも、本当に優しいならば、自分の存在が誰かを傷つけているのだと分かった時点で自刃でもなんでもするべきだった! そうさ、私は我が身可愛さで為すべき事を放棄した卑怯者だ! その証拠に、この世界で目覚めてからも、貴方の想いを、貴方の本当の息子の想いを踏みにじり続けている! ――私は、憐れまれる価値すら無い男だ!」
「それは違うわ!」
「違わないッ! 何も――、貴方は何も分かっていない!」
「良いから聞きなさいッ! 何も分かっていないのは貴方のほうでしょう!!」
 反射的に荒げた声は、その上からより厳しい声で押さえつけられた。
……貴方の言い分はよく分かったわ。だから次は私が話す番。――ねえ、利吉。貴方、私が自分の息子に『利吉』という名前を付けた時の話を少しだけしたのは覚えてる?」
 予想外の言葉に、私は目を見開く。確かに、この時代では私の名前が古風なものだったとか、今は古風な名が増えたとか、そういう話をした覚えがある。
……覚えて、います」
「そう。……あの時、私の父はその名前に反対していたの。古風すぎて浮くからって。それに、名前の響きが少し冷たい印象を与えるからとも言われたわ。他の人にも同じ事を何度も言われた。けれど、私と亡き夫は、それでもたくさんの反対を押し切って、『利吉』と名付けたの」
 ……なんの話だろう。それは『私』ではなくその世界の『山田利吉』の話で、私には全く関係ないのに。
「ねえ利吉。『利吉』という漢字に込められた意味を知ってる?」
 ……質問の意図がわからない。けれども、忍者文字を当たり前に使ってきた私には、漢字の知識ならば当然ある。
……『吉』は瑞兆。良いとか、幸せとか、そういう意味でしょう。『利』は様々な意味がありますが――『利発』に代表されるような頭の良さ、『鋭利』のような鋭さ、それから『利益』ような物事をうまく運んで得た儲け、『便利』などの役立つ様などが代表では?」
……そうね、間違ってはいないわ。貴方は漢字に詳しいのね。なら、もしかしたら知っているかもしれないけれど、もう少し踏み込んだ意味を話しましょうか」
 穏やかな言葉に、私は内心で首を傾げる。利口な子、利発な子に育ってほしい。幸せになってほしい。ただそれだけではないのだろうか。
――利という漢字ののぎへんは穀物を表していて、つくりりっとうは刃物を表している。これはうちの学校でも教えてることだけど――この二つが組み合わさるとね、穀物を刈り取る様子になるの」
 それがなんだというのだ。収穫に便利な鎌、収穫後に入る儲け、刈り取る時に鋭利な刃物であればそれだけ役立つ。頭が良ければ、そうした道具を必ず使う。その当たり前の内容が、『利』という字の持つ様々な意味になっている。それ以上の意味などないだろうに。
「人が生きる為には食べ物は絶対に必要で、だからそれを収穫する時に使う鎌は、穀物を育てるならば誰もが必要とする、大切なものだわ。当たり前に、でも人の暮らしに絶対に必要なもの。だからこそ、私はこの字を選んだのよ。――息子が誰かに必要とされる人になるように。生きていく上で、大切に扱ってもらえるようにという願いを込めて。――そして、誰かに必要とされた息子に、他人から必要だと思ってもらえているからこそ大切に扱われるであろう息子に、巡り巡って幸運が訪れるように」
…………ぁ」
 小さく吐息が漏れる。考えたこともなかった。漢字の意味や成り立ちは知っていても、そこに両親がどんな願いを込めたかなんて。知ったつもりで、私は何も知ろうとしていなかった。
……貴方のご両親が貴方に何故私の息子と同じ名を付けたのかはわからない。けれど、貴方が室町という遠い時代から来たのなら、そこは今よりももっとずっと、農業や収穫の意味が重くて大きかった時代の筈よ。その時代に、他にたくさんの候補がある中から同じ名前を選んだなら――私は、貴方のご両親もきっと私と同じ願いを込めて名前を付けたんじゃないかと思うわ」
 ずっと涙を流し続けていた目頭が、さらに熱く熱を帯びる。――少しずつ、流れる涙の意味が、……変わっていく。
「貴方がそうと知らなくても、たとえ別の理由で付けられた名だとしても。――私は、私の大切な息子に付けた名の意味と同じように、誰かに必要とされる人になろうと努力し続けてきた貴方を、愚かだなんて思わない。貴方は優しいから誰かの為に努力し続けて、優しいからこそ傷付いてきたんですもの。もし、貴方が私の息子なら――、もし、私が貴方の本当の母親なら――、私は誰が何と言おうと、貴方を自慢の息子だってそう言い続けるわ」
 ――こんなに情けなくて、醜くて、頼りにならないところをさらけ出したのに。自分自身すら聞いていて反吐が出るような本音を口にしたというのに。それでも彼女は私を見限ってはくれなかった。残酷なまでに優しく、私を抱きしめてくれた。
――だから、利吉。ここからやり直しましょう。――いいえ、ここから始めましょう」
 私が自分自身に掛け続けた『山田伝蔵の息子』という呪いを、彼女は甘やかに溶かしていく。立ち上がることすらできない私の手を引き、優しく動かそうとしている。
「貴方は自分が愚かだなんて言うけど、そんなことは絶対無い。――それにね、間違ったって大丈夫なの。遠回りになっても良いの。誰だって、間違いはあるんだもの。立ち止まっても、辛くて挫けそうになっても、休んで、また歩き出せば良いのよ。」
 ――呪いが、祝福へと変わっていく。私がずっと怯えていた世界を、希望で照らしていく。
「ちゃんと、貴方自身が幸せになれる方法を探しましょう。――貴方の事を知らないこの世界で、ゼロから始めても良いの。大好きな人がいる世界へ戻る方法を探して、大切な人にもう一度向き合う事を選んでも良いの。今の貴方には、沢山の選択肢があるの。……貴方が室町の世界に帰らなきゃいけないって言うなら、私もできる限り協力するから。だから、貴方自身を大事にして、そして貴方自身が幸せになれる道を探しましょう?」
 ――すがっても、いいのだろうか。こんな私が、幸せになれると、そう思っても良いのだろうか。罪を犯し、皆の心を傷付けた私が、この地獄から解放されるだなんて、そんなことが赦されていいのだろうか。
……幸せを望んでしまって、いいのでしょうか……? 私はあんなにも、沢山の人の心を傷付けたのに……
 小さな声が思わず零れる。赦されたい、愛されたい。それは私のどこまでも利己的な甘えで、私はそんな事を望んで良い人間ではないと、分かっているのに。
 そう、自分を責めてまた俯きかけたその時だった。乾いた音が響いた。
 伝子の平手が、……私の頬を叩いた音が。
……利吉。貴方が本当にその答えを聞きたい相手は、きっと今貴方の側には居ないから。だから私が代わりに叱るわね」
 痛みなどなかった。けれど叩かれた頬に確かなねつがあった。
「おだまりッ、このお馬鹿! 望んで良いに決まっているでしょう!? 貴方を愛してくれるかけがえのない人たちが、貴方のような優しい子が支えたいと願う心優しい人たちが! 何があったって、貴方の不幸を望むわけがないじゃないのッ!」
……わ、私は……
「返事はハイでしょう、利吉」
………………はい」
 振り絞った答えに、彼女は泣きそうな笑みを浮かべた。
……教師であり親でもあるのに、人を叩くなんて失格よね。我ながら情け無いわ。……ね、利吉。貴方も失望したでしょう?」
「そんなわけがないでしょう。……貴方は何も、悪くないのに」
「そう。だったらそれが答えよ。……私は私のことをとても情け無い、教師としても人の親としても失格の人間だと思った。でも貴方は何も悪くないと言う。……きっと、貴方の大切な人たちも、貴方に対して同じ事を言うはずよ」
 喉の奥に、空気の塊を押し込められたようだった。何も言葉が出てこない。ただ、痛くない筈の頬が、熱を帯びていた。暖かく優しい、赦しの熱を。
……うっく……うぅ……
 止められなかった。気付けば、嗚咽が漏れていた。
 ……違う、私は山田伝蔵の息子で、プロの忍者だ。だからこんな事で取り乱して泣いたりなんてしない。だからこれはきっと、私の涙ではなくて、この身体の持ち主の、伝子の息子の『山田利吉』の涙だ。彼の想いに引っ張られて、それで泣いているだけで――
 …………そんなわけがない。だって、今目の前の山田伝子が言葉を向けているのは、まぎれもなく私自身に対してだ。それが狂人相手の戯言たわごととしてだとしても、彼女は私を『自らの息子の山田利吉』ではない別人として扱っていた。それが分からない訳がない。
 異なる世界、対岸の火事。そう思って傍観していた私の手を取って、彼女は今私の心の奥底にまで踏み込んできたのだ。こんなにも愚かな私を、ただ息子と似ているだけの他人を、息子と同じ顔で彼女の想いを踏みにじっていたはずの私を――――ただ救う為だけに。
…………ぅう……あぁ……あぁぁ………わああぁあああぁぁ…………ッ!!」
 それに気付いてしまった今、もう耐えられなかった。だから私は、『山田伝蔵の息子』の肩書きを手放す。『私』が、そしてきっとこの身体の持ち主の『山田利吉』が、引っ込むべきだと言うから。『山田伝蔵の息子』の肩書きは、もう必要ないと叫ぶから。
 ――辛かった。本当はずっと、苦しかった。
 どうしようもなく苦しくて、泣きたくて。どうしていいか分からなくて、けれど助けを求めることも出来なくて。気付けばこんな袋小路の、帰れない世界に迷い込んでしまった。
 それでも――それでも赦されるなら。この罪を赦してもらえるなら。
 ……私はただ、大切な人たちに会いたかった。会って、謝りたかった。たとえ忍者としてじゃなくても、愚かでどうしようもない男と成り下がってしまったとしても。それでもあの人たちのそばに居たかった。産まれた我が子を、愛してやりたかった。
 大声で泣きじゃくる私を、伝子は何も言わずにただ抱きしめ、宥めるように背をさすってくれた。『山田伝蔵の息子』は幼子なんかじゃないから、それはとても不快で振り払うべき物だった。……けれど私は、『山田伝蔵の息子』でなく『私』として、その手を受け入れる。私は泣きながら伝子の腕の中に顔を埋めた。そして伝子も、そんな私を抱きしめながら、泣いていた。――さながら、本当の親子のように。