nuka_boshi
2025-03-30 22:03:20
26748文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その4【シリアス死ネタ】

よーやくトロの部分です!!!
利吉さん捏造過去話!
つまり利吉さんが曇ります(ネタバレ)。
基本的には軍師映画見た時に勝手に想定してヒェッってなってた利吉さんの将来像を、殆どそのまま書いてます。
ちなみに前回滝夜叉丸が重い過去判明しましたが、あの設定は軍師映画見た直後のまだ滝夜叉丸のこと知らなかった頃に考えた設定そのまま流用してるだけなので決して趣味で曇らせたわけではありません、悪しからず。
……この先のシーンでの彼の言葉の重みを出す為に、どうしてもあの過去は必要になるなと思ったので。ちなみに原作勢は分かる通り、滝夜叉丸と母親の関係は梨花とその母親の関係性がモデルです。
山田親子が元ネタの賽殺しの親子関係とだいぶ違ってるので、伝子さんの行動や言動もかなり元ネタと変わってますね。
利吉さんの過去とその時の心情に関してはもうちょっとじっくり書こうと思ってたんですが、あんまりやるのも可哀想かなって思って少し表現和らげてます。



……ほんの一瞬、そう思ってしまっただけなんです……
 私はこぶしを握り締め、そう呟いた。絞り出した声は、涙の湿度を含み震えていた。
――他人が聞けば、怪我で弱っていたから魔が差しただけだとか、仕方がないだとか、言い訳することもできるでしょう。……けれど、私には到底そうは思えなかった。だって私は――『山田伝蔵の息子だから』。……あの人の息子であるためには、父の背中を越えるためには、あれだけは絶対に考えてはならないことだった……ッ!」
 今でも思い返すほどに身を焦がす、あまりにも巨大な後悔と絶望のうねりが、私の視界を涙で歪ませる。最早私の独白は、悲鳴となりつつあった。
……かつて私が戦った雑渡昆奈門は大火傷という大きな悪条件ハンデを背負っていましたが、私などよりよほど強い忍者でした。それに元忍術学園生の中在家長次は、顔に傷という、顔を覚えられてはいけない忍者にとって致命的とも言える怪我を負っていました。けれど、それでも彼らは優秀な忍者シノビとして戦っていた。私は、知っていたんです。――怪我だろうがなんだろうが、大きな悪条件ハンデを背負っていようが、人は努力によってくつがえせる。私はそれを、誰よりも知っていたんです」
 私の言葉を、伝子はただ静かに聞いていた。痛ましいものを見る目で、同情するような目で。けれど、私は立ち塞がる巨大な障害を努力で乗り越えてきた立派な忍者たちを知っている。だから怪我が言い訳にならない事も分かっていた。だから、目の前の彼女の同情を受け取る資格がない事を、――きっと誰よりもよく知っていた。
「だから――っ、私は、忍者として、父の息子として、『山田伝蔵の息子』として、あのような情けない事は絶対に思ってはいけなかったッッ!! あの瞬間、私は私自身の手で『山田伝蔵の息子』であることを否定してしまったんです! 私は私が何も特別でもない、ただ勘違いして思い上がった愚か者であることを自ら証明してしまったッ! なのにどうして――どうしてそのような愚か者が、誰からも尊敬されるべき人々に顔向けできましょうか!!」
「利吉……
 気付けば、頬を涙が伝っていた。誰にも見せるつもりのなかった、一番醜い自分自身の姿を、誰にも見せたくなかった忌まわしき部分を私は曝け出していた。――絶対に考えてはいけないことを考えてしまった自分への軽蔑、嫌悪感。あの日、我に返った自分を容赦なく襲った感情が今、鮮やかに蘇る。
……そして私は何よりも、大切な人達にこのような愚かな姿を知って、失望されたくなかった。――彼らは皆、私を愛し期待してくれていた。だからこそ、私がこんなにも弱く情け無い人間だと知って、失望の目を向ける彼らの目を想像するだけで、胸が裂かれそうな程に恐怖したのです」
 自分の、『プロ忍・山田利吉』としての悪評は、自分を愛してくれる家族への侮辱であり、あの遠くて大きな背中をけがすことだ。――それがどこかで他人から聞かされたなら。彼らはどれほどに傷付くか、容易に想像ができた。
「だから私は――逃げるしかなかった。恥ずべき愚かな自分を知られ、大切な人達を悲しませる前に、せめて彼らの方から見限ってもらわなければならなかった。――そうでなくては……私の愚かさのせいで、大切な人たちが心を痛めてしまうと私は誰よりも知っているから! その憐れみを自分に向けられるのが、何よりも恐ろしかったから!」
 ――分かっていた。会えば仕事の話や捻くれた言葉しか向けてこない山田伝蔵が、本当は忍者としての自分をどれだけ認め誇りに思ってくれていたか。母が自分を、どれほど愛してくれていたか。私はそんな彼らの期待を、愛情を、裏切ったのだ。それは到底許されない罪だった。――けれど、彼らの期待する『山田伝蔵の息子』は、『誰よりも立派な前途あるプロ忍の山田利吉』はもう居ない。他ならぬ私自身がそれを粉々に打ち砕いてしまったのだから。
――全ては、我が身可愛さに過ぎません。私はただ己の失態から目を背けたかった。けれど私の、山田利吉の世界は、ずっとしのびの背を追ってきたものだったのです。忍者として生きる限り、どこへ行っても、父の、母の、土井半助の面影を見てしまう。だから私は――忍者であることを辞めるしかなかった。彼らにとって自慢できる『山田伝蔵の息子』の幻想を守るには、それ以外に方法がなかった。けれど、彼らはそれでも私を心配し、諦めてくれなかった……
 ――苦しかった。逃げることもできず、自分を早く見限って欲しいと心で泣きながら、私は考えられる限りの醜態に手を染めようとした。それらはただむなしいだけの行いだったが、それでもこの優しすぎる絶望の魔手からのがれる為に、愛されることを必死で拒んだ。愛されたままではきっと彼らを傷付けてしまう。失望させてしまう。だから、どうせ傷付けてしまうのなら、一刻も早く見限ってもらわなければならなかった。過去の自分を、輝かしかったころの自分をどうにかして捨てなければと必死だった。忍者を続けられなくなったから仕方ない、そう思って、さっさと見限って欲しかった。興味のない愚か者が何をしようが、傷付くことは無いはずだから。大切な人を、自分の愚かさで傷付けたくなかったから。だからどうか、もう私を愛さないでくれとひたすら願うしかなかった。
 そうして思いついたのが、忍者シノビの世界とは全く関係ない行きずりの女を適当に引っ掛け、つまみ食う事だった。幸いにも私は顔立ちが端正な方だったし、閨事ねやごとの知識もある。『山田家』を知らない女達ならば、過去の私を知らない人間相手ならば、幾らかこの絶望を和らげられる事が分かった。そうやってストレスの捌け口をどうにか手に入れ、ホッとしたのも束の間。――一人の女が子を成した。
……ははっ、笑ってしまうでしょう? 男と女がまぐわえば、当然そのような事もある。……そんな事にも気が回らない程に、私は余裕が無かったんです……
 きっとここが地獄の底なのだと思った。彼女は迷惑そうに、「働くのに子供は邪魔だから育てられない」と言った。当たり前のように淡々と、間引くかどこかに捨てるか、どちらかしかあり得ないと。だから私は彼女にまとまったゼニを掴ませ説得し、出産させ、産まれた我が子を無理矢理に引き取った。――戦火で身寄りを亡くした土井半助やきり丸の事情を知っていれば、子を捨てるなどという選択は断じて許せるはずがなかった。間引くのだって論外だ。母に見限られた哀れな子を、見捨てられるはずもなかった。……この子は、私が絶対に幸せにしなければならない。私がかつて皆から愛されたように、今度は私がこの子を愛さねば。私はそう確信した。
「だというのに――産まれた我が子を引き取って数日後、私は気付いてしまったんです。その子の目元が、無垢な瞳が、――若い頃の自分にそっくりだということに」
 親子なら喜ぶべきことだ。子が親に似るのは当たり前の事だ。だが、実際に私を貫いたのは、底知れぬ恐怖でしかなかった。
「私は急に怖くなったんです。……親として、自分もこの子に同じ苦しみを与えてしまうのではと。いや、寧ろそれ以上に苦しませてしまうのではないかと。そもそもこうして逃げて醜態を晒す自分に、この子を幸せに出来るわけがないのではと」
 無垢な瞳が、かつての自分に似た眼差しが、私と同じ絶望を見る瞬間を想像してしまったその瞬間、私は膝から崩れ落ちた。地獄の底だなんてとんでもない、地獄に底などありはしないのだと思い知らされた。
「それでも、彼は私が守らねばならないと分かっていた。大切な我が子を幸せにするのは、私の責任だと。私がやらねばならない事だと。だから私は精一杯彼を愛そうとして――その為に息子を抱きしめようとして――……結局、耐えられず胃の中のものを全て吐いてしまったんです。笑ってしまうでしょう? ……愛おしいはずの我が子を抱いてやる事すら、私には出来なかったんです。……これでどうやってあの子を幸せに出来ると言うのです?」
 自嘲気味の笑みを浮かべながらそう告げた私に、伝子はただ黙って耳を傾けてくれた。何か言いたそうに口籠もりながらも、今の私に何を言っても傷付くだけだと感じているのか、ただ静かに聞いてくれていた。だから私は――言葉を続ける。
……私は殆ど押し付ける形で、お兄ちゃんの――土井半助の孤児院に息子を置いて逃げました。……逃げたんです。私はかつて、あれほどに皆から愛情を受け取っておきながら、あれほどに心を砕いてくれていたのを知っておきながら、恐怖に立ち向かう勇気がなかった。己の愚かしさから逃げ出してしまった。……だからこれまでただむさぼってきたありとあらゆる好意と愛情を無碍むげにして、蔑ろにした相手の善意に縋って、息子を押し付けた。――あの人なら、かつて教師として子供たちを教え導いた土井半助なら、お兄ちゃんならきっと、私の息子を幸せにしてくれるから。…………彼の想いを知っていてこのようなことをした自分を、きっと誰もが軽蔑したに違いないというこのは、私が一番よく分かっているんです」
 突然息子を押し付けられた土井半助も、自慢の息子がそのような愚かな行為をしたと知った両親も。きっとあまりにも醜悪な行為に、愕然がくぜんとしたに違いない。
「考えなくとも分かります! 息子である私がお兄ちゃんの想いを踏みにじれば、父上が息子のように可愛がっていた相手の願いを踏みにじれば、どれほど傷付くかなど容易に想像がつく! けれど私には――、あの日、当たり前にするべきだった努力を放棄した私には、息子を育てることなど、幸せにすることなど絶対に出来ない! きっと私と同じ、いやそれ以上の苦しみを味わわせてしまう! だから――ッ!」
 だから合わせる顔がない。
 私が彼らのそばにいてはいけない。
 ――逃げなくては。逃げて逃げて自分本位に全てを投げ出して耳を塞いで目を背けて逃げ続けて――
――そして私は、気が付いたらこの時代で目を覚ましてしまったんです」
 奇しくも、逃げ出したいと願う山田利吉の望みは叶った。――叶ってしまった。それも、望まぬ形で。