nuka_boshi
2025-03-30 22:03:20
26748文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その4【シリアス死ネタ】

よーやくトロの部分です!!!
利吉さん捏造過去話!
つまり利吉さんが曇ります(ネタバレ)。
基本的には軍師映画見た時に勝手に想定してヒェッってなってた利吉さんの将来像を、殆どそのまま書いてます。
ちなみに前回滝夜叉丸が重い過去判明しましたが、あの設定は軍師映画見た直後のまだ滝夜叉丸のこと知らなかった頃に考えた設定そのまま流用してるだけなので決して趣味で曇らせたわけではありません、悪しからず。
……この先のシーンでの彼の言葉の重みを出す為に、どうしてもあの過去は必要になるなと思ったので。ちなみに原作勢は分かる通り、滝夜叉丸と母親の関係は梨花とその母親の関係性がモデルです。
山田親子が元ネタの賽殺しの親子関係とだいぶ違ってるので、伝子さんの行動や言動もかなり元ネタと変わってますね。
利吉さんの過去とその時の心情に関してはもうちょっとじっくり書こうと思ってたんですが、あんまりやるのも可哀想かなって思って少し表現和らげてます。



 雪が降ればそれだけで全てが閉ざされてしまうような、山奥の秘境の地の一軒家。それが私、――室町の世を生きた山田利吉にとっての世界の全てだった。……と言いきってしまうのは大袈裟だろうか。いや、恐らくそんなことはない筈だ。物心ついた時から、私にとっての世界の全ては、父と母だけだった。
 優しくも厳しい母と、仕事でよく家を空ける無愛想な父。幼い私にとって、それしか世界がなかった。だから、忍者になるのは当たり前だった。両親が元・忍者だから。それ以外に、私が忍者を目指す理由など必要なかった。
 何度も仕事で家を空ける父を、大好きな母が怒りながらも「仕方ない人ね」と笑うから、だから父が誇りだった。この人を越えて両親をまるごと支えれるようになりたいと思った。私ならきっと、そうなれると思った。――何故なら、大好きな母の息子だから。自慢の父の息子だから。閉じた世界に複雑な方程式など要らない。たったひとつ、大好きだからという式さえあれば、答えは自ずと導き出されるのだ。だから――私にとって将来とは、生まれた時から既に定められた方程式のようなものだった。そこにある答えは当たり前のもので、不変のもの。疑わず受け取るべきもの。たったそれだけでよかった。
 だから母にせがんで忍者としての修行を積んだ。少しずつ成長していく私を見て、ある時火縄ひなわ銃の扱いをどんどん覚えていく私を見て、母は微笑み喜びながら小さく呟いた。『――やっぱり、あの人の子ね』と。勿論母も火縄銃の名手だった。けれどもそれ以上に、父は火縄銃の名手として名を馳せた凄腕の忍者だった。それを知った時、私の心は打ち震えた。
 ――『あの人の子』であること。山田伝蔵の子であること。それが、何よりの誇りで、自慢で。中々仕事で帰って来れない父との確かな繋がりがそこにあるのだと、中々帰れない程に有能な、誰もが認める凄腕の忍者が、山田伝蔵が自分の父親である事が、私に幼い優越感を抱かせた。
 ――だから、父のような忍者になりたい。いや、それ以上に、父を越える忍者になりたい。父に誇りに思ってもらえる忍者になりたい。
 幼い私が見ていたのは、父の帰りを待つ母と、そして偉大すぎる父の背中だけだった。だから、いつかその背を越えて、父の瞳が眺める景色を共に見たかった。父と母を支えたかった。大好きな両親の見ている景色を、私も共に見たかった。母を越え父を越え、二人に自慢に思ってもらえる良き息子になりたかった。
 父に教えを乞わなかったのは、多分父が忙しかったのもある。けれどもそれ以上に、父を驚かせたかった、認めて貰いたかったからだ。何も教えてもらわなくても、何も知らなくても、私と父は繋がっている。時間だけが絆じゃない。言葉だけが絆じゃない。それに、父を越える為には父に教わったのでは意味がない。……それは今にして思えば、共に居られない寂しさから目を背けるための言い訳だったかもしれない。或いは、ちっぽけな意地が目を背けさせたのかもしれない。幼いプライドが、素直に自分の心を認められなかったのかもしれない。けれども幼い私にとっては、その当時の私にとっては、それが真実だった。言い訳だろうとなんだろうと、それで構わなかった。
 ――ある日。抜け忍として追われていた土井半助が幼い私の世界に迷い込んできた。第一印象はもちろん最悪。何故って、たまにしか会えない父を含めた家族水入らずのピクニックを台無しにしたから。狭く閉ざされた世界のささやかな平穏を、たまにしか味わえない特別な時間を、突然ぐしゃぐしゃに掻き乱した見知らぬ男に、好感など持てる筈もない。そこにどんなのっぴきならない事情があっても、幼い自分から見れば知った事ではなかった。……そしてなにより、彼を助けるために両親がいつになく険しい『仕事をする忍者シノビ』としての顔をしていた事が、私には一番腹が立った。私の殆ど見せてもらえない両親の表情を、突然割り込んできた見知らぬ他人が勝手に見ている。私の知りたくてたまらない景色を、見知らぬ他人が勝手に覗いている。それは何よりも屈辱を感じる事だった。だからこの人は絶対好きになれないと、最初はそう思っていた。
 ……けれど。彼との出会いで、幼い山田利吉の世界は少し広がって、支えたい人が増えた。要はあっさりと、ほだされたのだ。
 利吉くん、と私の名を呼んでくれる声が優しかったからかもしれない。父と同じ景色を見ながら、それでも彼が不器用ながらに私に視線を合わせてくれたからかもしれない。忍者になりたい私に、少しの間とはいえさまざまなことを教えてくれたからかもしれない。多分、これという大きな理由は特になくて。雪がしんしんと降り積るように穏やかに、彼は私の中に新しい形の愛情を与えてくれた。――私に、ほんの少し世界を広げてみせてくれた。
 新しくひらけた世界を、私は眩く美しいものとして目に焼き付けた。プロの忍者は、きっと私の知らないもっと美しい景色を見ている。それはきっと、父と、母と、新しく私の世界に加わった土井半助の見ている景色だ。だから私はそれを絶対に見てみたいと思った。父の背を越え、見たことのない美しい景色をその目に焼き付けるために。大切な人の見る世界を、共に見る為に。プロの忍者として誇り高くあれるように。両親と半助が自慢できる家族となれるように。もし万が一大切な人が苦しむ時がきても、その苦しみを少しでも引き受けられるように。……それがたとえ雪に覆われて玄関すらもが埋まってしまう我が家で、雪下ろしに悪戦苦闘する母の手伝いをするような本当にささやかなものであっても、必ず彼らの助けになれるように。
 そうだ、きっと私は彼らを助けられる立派な忍者になるのだ。――だって、私は『山田伝蔵の子だから』。『山田家の子だから』。
 土井半助が忍術学園に勤めることが決まった時、利吉の胸を占めたのは、ほんの少しの寂しさと、揺るがぬ決意だった。――私も、彼に追いつこう。今は遠くても、走って走って。そしていつか、大切な人たちを助けられる忍者になろう。だって私は、『山田伝蔵の息子』だから。

 ――多分、私は人より少し小器用だったのだろう。要領が良かったと言い換えても良い。忍者としてのあらゆることが、人並み以上にできた。それは当然努力の末に得たものではあったが――逆を言えば、努力すれば大抵のことは叶った。だからプロの忍者としてあっさりと独り立ちをした。初めは楽しかった。ある種の幼さ故の全能感とでもいうべきか。当たり前のように賢く、当たり前のように強く、当たり前のように何もかもが要領よくこなせる。人が苦労してもなかなか出来ないことがあっさりと出来てしまうのを、逆に何故他の者は出来ないのか不思議に思うことも多かった。わかりきったことのように全てが上手くいった。そして、その理由を私はたった一言の言の葉に委ねた。
――流石は山田伝蔵の息子だな』。
 それは誰が言ったかなどいちいち覚えていない、覚える必要もない言葉。けれど、フリーの忍者として生きる上で、『優秀な忍者シノビ』である山田伝蔵と彼の所属する忍術学園の影は、どこへ行ってもチラついた。忍者として生きる世界には、いつだって父の影があった。
 それは山田利吉にとっては誇りだった。誰もが認める素晴らしく優秀な忍者である父は、私にとって自慢だった。父が、そして土井半助が所属する忍術学園が一目置かれているのを見るたびに、私は内心でいつだって胸を張っていた。――そうだ。そんな素晴らしい忍者である父が大切にしている家族の中に、自分が居る。そして何も言わなくても、私は彼の息子として誰よりも強い絆がある。――もちろん、私はそんなことを言って回るほど幼稚じゃないから絶対に口にはしなかったけれど。きっと越えてやると口にして、いつか自分自身の名を広めてやるとうそぶきながら、それでも。私にとって『山田家』は世界そのものであり、自分自身だった。
 だから私は山田伝蔵の子であることを誇れるように、ずっと努力を怠らなかった。――『だって山田伝蔵の息子だから』。『当たり前のことだから』。父の背を越え、父と同じ景色を見る為。私はずっと走り続けた。手を伸ばし続けた。
 私ではまだまだ敵わない強い忍者は父の他にもたくさん居たが、必ず追い越せると思っていた。幼さ故の万能感と、『山田伝蔵の息子』という肩書きが、自らを思い上がらせた。
 だから、何もできない、何の才能も取り柄もない普通の人間が、「利吉さんみたいに凄い忍者になりたい」とヘラヘラ笑う時、私には誇らしさの裏側に微かな怒りが湧いていた。――私が凄いのは、私が『特別』だからだ。『山田伝蔵の息子』という、誰もが持っていないものを持ち、それを大切に磨き、誰よりも努力してきたからだ。立派な忍者であろうと努力する者や幼い無垢な子供に言われるならともかく、とっくに成人し世間を知っているであろう人間からもそう言われるのは、私の努力と誇りをけがされているようで腹が立った。そのような甘い考えでいつ命を落とすかわからない世界に足を踏み入れば必ず死ぬと分かりきっているのに、そんなことにも気付かず忍者を目指しているような者がいたのを見た時は、本当にイライラした。――私は特別だから、頑張れる。特別だから、走り抜けられる。君は違うだろう、君は普通の人間だろうと。軽い気持ちで私の背を追って、自ら傷付きに行くような真似はするなよと。もっと他に幸せがあるじゃないかと。――勿論、気恥ずかしいから父を誇る気持ちだけは、絶対に誰にも知られないよう必死に隠し続けたけれど。

 ――『山田伝蔵の息子』。祝福であり輝かしい目標だったそれが呪いに変わっていったのは、いつからだろう。
 忍術学園はどんどん優秀な人材を出していった。当たり前に一番であったことが、当たり前に優秀だった事が、あとから少しずつ少しずつ抜かされていく。……追い抜かれていく。
 周囲の『流石忍術学園の卒業生だな』という言葉が他人に向けられるのを聞くたびに、少しずつ募る危機感。少しずつ減っていく、私に向けられる『流石は山田伝蔵の息子だな』『流石は山田利吉だな』という言葉。
 得体の知れない焦燥に突き動かされるままに、私はひた走る。――大丈夫、だって『私は山田伝蔵の息子だから』。――まだやれる、きっと努力が足りないだけだ。大事な人を支えれるくらいに強くなる。強くなれる。だって『私は、山田伝蔵の息子だから』。たまたま、努力が足りなかっただけだ。たまたま、私と得意分野が違っただけだ。誰にだって得手不得手がある、焦る事じゃない。だからもっと努力をしなければ。まだ足りない、全然足りない、もっと、もっと先へ。そう言い聞かせながら、胃を焼き切りそうな焦燥と戦っていたその矢先――、土井半助が忍術学園を辞めることを決めた。
 それは、誰から見ても祝福すべきことだった。自分と同じ境遇の子を少しでも救えるように孤児院を開くという彼の選択は素晴らしいもので、応援するべきものだった。元々本人の気質からしても忍者となるには優しすぎる人だったし、抜け忍として追われる危険性がなくなったなら、本当にやりたい事を優先するのは当然だ。だから私は笑顔で彼を送り出した。――それが当たり前だったから。だって私は『山田伝蔵の息子だから』。一時的にとはいえ同じ家で育った兄のような人の幸せを願うのは当たり前だし、喜ぶべきことだ。父も母も、皆が土井半助の選択を喜び、祝福している。それならば、私だって喜ぶべきだ。
 けれど、支えたかった相手の一人があずかり知らぬ所で手を離れていったという事実は、越えるべき父の背を越えた先で、彼と同じ景色を共に見れないという事実は、私の胸に確かな空洞を作った。ぽっかりと空いた空虚な穴が、私の中の焦燥感をより一層に煽っていく。
 寂しさをひた隠し、得体の知れない焦燥を握りしめてひた走る。
 ――土井半助の分も頑張らなければ。
 きっとまだまだ努力が足りない、それだけだ。だから努力しなければ。
 ――私はもっとやれる、もっとやれる。
 そうでなければ父に、母に、土井半助に、顔向けできない。
 ――――だって、『私は山田伝蔵の息子だから』。
 山田利吉の世界はたったそれだけだった。他の世界など知らなかった。父親の背中越しにしか世界を見ていなかった私にとって、『山田伝蔵の息子』という事実は、唯一のすがる希望であり、他に足の踏み場など存在しなかったからだ。――最愛の両親の息子であるという事実だけが、私の矜持プライドを支える唯一無二の、希望。それしかなかった。だからすがるしかなかった。
 溺れるように、足掻くように。むきになって手を伸ばす。けれど足掻けば足掻くほど、利吉の中の希望は遠のいていく。忍者としての過酷な世界を知れば知るほど、父の背が遠のいていく。そんな錯覚の中で、私は何度も耳にし始めた言葉があった。
――今年の忍術学園六年生はすごいらしいぞ、あの山田伝蔵の教え子たちだからな』
 落第忍者とまで言われ、落ちこぼれであった筈の嘗ての一年は組の生徒たちは、今や誰もが期待をする優秀な忍者になろうとしていた。中でも私から見てとりわけ脅威となったのが、摂津のきり丸。……私が兄のように慕った土井半助と共に暮らし、彼の教えを受け、そして父に教えられて育ったかつての劣等生。かつてあれほど問題児だった彼が、忍者になど向いてなさそうにしか見えなかった少年が、誰もが期待する忍者となりつつある。――それはまるで、父からの教えを受けなかった私の代わりに、素直に直接学んだからこそ優秀になったのだと突きつけられているようで。山田伝蔵の息子として本当にあるべき場所が、奪われていくような錯覚さえ覚えるほどで。
 だから私は躍起やっきになった。
 ――負けるわけにはいかない、山田伝蔵の息子として、母から教えを受けた身として、そして土井半助からも教えを受けた身として。彼らにだけは負けるわけにはいかない。
 絶対に譲るわけにはいかない。だって、『私は山田伝蔵の息子なのだから』。大切な人との絆を、私の唯一の世界を、他の誰かに譲るわけにはいかないのだ。
 ――思えばその頃からだろうか。誰も引き受けないような危険な任務を、明らかに命の危険がある無茶な任務を、進んで引き受けるようになったのは。
 最早形振なりふりなど構っていられない。ただ我武者羅がむしゃらに、憧れに手を伸ばす。そうでなければ、私は私ではなくなってしまう。私の居場所は、生きる意味は、山田家にしかないのだから。だって、山田利吉は、山田伝蔵の息子は、誰よりも強く賢く優秀な忍者でなくてはいけないのだ。誰もが憧れる立派なしのびとならなければ、父の背の向こうにある景色は見られないのだ。
 山田伝蔵は、母は、土井半助は、きっとこのような所であっさり折れるような人間を、誇りに思うことはできない。そうなってしまったら、私は私の生きる意味を失ってしまう。『山田伝蔵の息子』であることを失うわけにはいかない。誰もが憧れる立派な忍者であり続けなければ、それは最早私ではなくなるのだ。
 だから、――そんな無謀な駆け抜け方をした私が最後に行き着いた結果は、当然のものだった。羽虫が火に引き寄せられ、そして燃え尽きていくように。張り詰めて、無茶をして、それにも気付かず走り続けて。その先にあるのは、破滅だけだった。
 ――無茶な任務で右足を負傷。命だけは助かった、任務はなんとか遂行できた。しかし後遺症が残る、今までのようには動けないだろう。傷を診てくれた医師にそう言われ、他の忍者がその言葉の重みに絶句する中、私は、山田利吉はこう思った。…………思って、しまった。

 ――あぁ、もう頑張らなくても良いのだ、と。
 ――――これでやっと、解放されるのだと。