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nuka_boshi
2025-03-30 22:03:20
26748文字
Public
利吉さんで賽殺しパロ
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【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その4【シリアス死ネタ】
よーやくトロの部分です!!!
利吉さん捏造過去話!
つまり利吉さんが曇ります(ネタバレ)。
基本的には軍師映画見た時に勝手に想定してヒェッってなってた利吉さんの将来像を、殆どそのまま書いてます。
ちなみに前回滝夜叉丸が重い過去判明しましたが、あの設定は軍師映画見た直後のまだ滝夜叉丸のこと知らなかった頃に考えた設定そのまま流用してるだけなので決して趣味で曇らせたわけではありません、悪しからず。
……この先のシーンでの彼の言葉の重みを出す為に、どうしてもあの過去は必要になるなと思ったので。ちなみに原作勢は分かる通り、滝夜叉丸と母親の関係は梨花とその母親の関係性がモデルです。
山田親子が元ネタの賽殺しの親子関係とだいぶ違ってるので、伝子さんの行動や言動もかなり元ネタと変わってますね。
利吉さんの過去とその時の心情に関してはもうちょっとじっくり書こうと思ってたんですが、あんまりやるのも可哀想かなって思って少し表現和らげてます。
1
2
3
4
5
四章 親と子と
空が白み始めた事に気付き、私は目を細める。己の身体を
緩慢
かんまん
に
蝕
むしば
む疲労の内訳は、きっと精神的なものも含むのだろう。
――
六日目の、朝。
つまり、残された時間は、太陽があと二度昇るまでとなってしまったのだ。最早悠長にしている場合ではなかった。だからこそ私は、『山田利吉』の部屋に逃げ戻り、立てこもっていた。扉の前に重い机などを並べてやれば、女性一人の力ではどうにもなるまい。事実、部屋へ入って暫くの間は一定の間隔で聴こえていた振動音も、伝子の呼び声も、もう何も聴こえなくなっていた。
……
正直な所、己の気持ちだけを優先するのであれば、この部屋に戻らず野宿でもなんでもしたい所だった。取り繕ってきた『山田利吉』という嘘が剥がれ落ちた今、山田伝子は恐らく私をすぐにでも病院送りにしたいと考えているに違いない。あの白い病室で飼い殺され、押さえつけられ、己の大切な記憶を無理矢理に奪われるなど、耐えられるものか。
――
だからこそ、私は歯噛みせざるを得ない。何故なら、手掛かりが何もないのだ。
……
いや、正確にはあると言えばある。滝夜叉丸のあの言葉だ。
――
貴方がカケラを見つけられないのは、貴方が目を背けているからです。
あの時の彼の声には、確かな確信があった。
――
私にしてみればタチの笑い冗談のつもりだったが、あの時滝夜叉丸は本気の言葉として私に向き合っていた。つまりあれは、命と引き換えになる事すらをも前提とした、彼にとっての真実。
――
彼は恐らく、知っているのだ。私にとってのカケラが何なのか、何処にあるのか。そして彼の口振りを信じるのならば、
……
それは私のこれまで探したものの中にある筈なのだ。だからこそ私はこうして夜通しで山田利吉の部屋を
隈
くま
なく捜索していた。私がガラクタと断じたものの中に、何かが
紛
まぎ
れていないかと。押入れの奥深くに隠すように詰め込まれていた明らかに不要だろう荷物も、一つ一つ
検
あらた
めた。だというのに、それらしいものは一つたりとも見つからない。だいたい、その荷物の中身といったら、壊れかけの玩具だとか、擦り切れた幼児用の運動靴だとか、ぼろぼろの勉強ノートだとか、紙が
捻
よ
れてしまっている伝子と幼い『利吉』の精巧すぎる絵とか(写真と呼ぶらしい)、菓子の空箱だとか、とっとと捨ててしまってもよさそうなものばかりなのだ。何の手がかりにもなりはしなかった。
だいたい誰が目を背けている、というのか。私はこんなにも目を凝らして、室町の世への帰り方を探しているというのに。
探しても探しても見つからない焦燥に身を焼かれ、グルグルと悪夢に堕ちていくような錯覚すら覚え、私は額に浮かんだ汗を拭う。
想いに触れようとするならば、そこに想いが
――
愛がなければ絶対に見えない。
滝夜叉丸の言葉が脳裏を過ぎる。
……
要は、私が『山田利吉』という人物の想いが何処にあるか、未だ掴み損ねている事が影響しているのかもしれない。日記か何かでもあれば良かったのだが、生憎と彼は筆まめな方では無かったのか、それとも私には理解不能な電子機器の方に記録を残していたのか、それらしきものがないのも大きな痛手だった。
……
昨日、カケラを探す為とはいえ山田伝子に対して軽率に距離を縮めたのはつくづく失敗だったと今になって後悔する。恐らく夜中に伝子が私の不在に気付いたのは、日中に表面上とはいえ親子ごっこをしたせいで息子の寝顔でも確認しにきたのだろう。本当に、この偽りの親子関係が
鬱陶
うっとう
しく、邪魔臭い。
……
部屋の探索がまだ完了していないとはいえ、流石に体力の消耗が激しくなってきたようだ。室町の頃の私ならいざ知らず、一般人である『山田利吉』には、睡眠不足と疲労は
堪
こた
えるものらしい。初夏特有の湿気もまた、身体をじわじわと
蝕
むしば
んでいる。じっとりと汗が染み込んだ衣服が肌に張り付いて、気持ちが悪い。
――
早急に、仮眠を取った方が良さそうだ。頭が回らなくなる前に。
(
……
いや、その前に)
と私は身を起こす。
……
せめて、水分と塩分は摂った方が良いかもしれない。仮眠をとるつもりで気絶、などということになっては本末転倒だ。正直、眠る事もこの部屋を出る事も恐ろしい。部屋から出た瞬間、捕まりそのまま強制的に連行される可能性もあるのだから。しかし、何もしないという選択もまた愚策であることは明白だ。
私は慎重にバリケードを解き、扉を開けた。
――
奇襲が一番効くのは、明け方の、頭が回りきっていない時間帯だという事は常識だ。そして、伝子が私への呼びかけを断念してから数時間ほどが経過している。
――
これは奇襲などではないとはいえ、動くなら今しかないのは明白。先ほどなら聴こえるものといえば
蜩
ひぐらし
の鳴き声と己の呼吸音くらいのものだったし、疲労
困憊
こんぱい
の中で『山田利吉』の身体を使って二階からの出入りを何度もするのはリスクが高過ぎる。どうせ飲み水と塩でもちょろまかして終わりだ。伝子に見つかった時が厄介だが、彼女にだって自分の生活があるだからきっと大丈夫。既に眠っているに違いない。
――
そんな甘すぎる目論見は、扉を開けたその瞬間、崩れ去ることになった。
「
…………
利吉
……
」
すぐにでも扉を閉めるべきだった。私には、迅速にそうする必要があった。
――
しかし、私は一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇ってしまった。何故なら、一睡もしていないのか目にクマをつくりながらも目の前に立っていた山田伝子は、初めて見せる表情をしていたからだ。
その瞳に
憂
うれ
いや
哀切
あいせつ
の感情だけが宿っていたなら、私はきっとすぐにでも彼女を拒絶できた。何故ならそれは『山田利吉』が受け取るべきもので、見当違いのものでしかないから。
謂
い
わば対岸の火事。
――
川の向こう岸で起こった火事を、
躍起
やっき
になって消す者なんて相当のお人好しくらいなものだ。遠くの、自分とは関係ない出来事に本気になる
輩
ヤカラ
が何処にいるというのか。『私』と『山田利吉』は川を挟んで隔たれている。だから川の向こう側の、『私』とは全く関係ない世界の人間に何を言われたところで、私には全く関係のない話だ。『私』に話ができるのは
嘗
かつ
ての世界の同胞だけで、川の向こうの他人に何を言われようとも、住む世界がそもそも違うのだから本気で取り合う必要もない。
しかし、そう思っていたからこそ私は気圧された。彼女が見せたのは、
……
私が初めて見る表情だった。私の知る『愚かで弱い山田伝子』のそれとはとても思えない、鋭い眼光が私を射抜く。そこには、確かに私を心配する気持ちが宿っていた。ただしそれを覆い隠して余りあるほどに
――
冷たい刃のように研ぎ澄まされた鋭利な覚悟と、こちらに向き合おうとする真摯さがそこにあった。
――
私は知っている。この表情は。
……
私の知る元の世界の本当の父、山田伝蔵が
忍者
シノビ
としての任務に挑む時に見せる表情と、同じだと。
「
…………
ぁ」
だから、私は一瞬反応が遅れた。対岸にあった筈の火事が、突然目の前で起こったことによって。親が子に怖い形相をしたら竦み震え上がらねばならないという遺伝子レベルの刷り込みによって。或いは仕事仲間や依頼主が厳しい顔をしていれば真面目に話を聞かねばならないという職業病によって。
ほんの一瞬の硬直を見逃さず、伝子は私の手を強引に引く。無理矢理に手を取られ、無理に部屋から引き摺り出され、私はハッと我に返る。このままではまた、あの病室へ無理矢理戻されてしまう。何としてでも逃げなくては。
「わ、私は
――
!」
「利吉。怖がらないで。お母さんは、
――
いいえ、私は別に貴方を叱ろうとか、病院へ無理矢理連れて行こうとか、そういうつもりじゃないの」
私の警戒心を悟ったのか、伝子は声を和らげ、そう言った。
「
……
なら、何故この手を離さないのですか」
「勿論、話をする為よ。
――
強引だけど、こうでもしないと貴方、私と話をしてくれないでしょう?」
「
……
私には、何も話すことなど、」
「貴方に無くても私にはあるわ。
……
利吉。まずは座りなさい。酷い汗よ。
――
飲み物を用意してあるから、ちゃんと飲んで」
強引にリビングへと私を押し込んだ伝子は、未開封のペットボトルをこちらに差し出した。
……
睡眠薬や毒を警戒する可能性を視野に入れ、こちらが安心できるように要らぬ気を使ったらしい。
「
……
昨日も言ったはずです。私は貴方の息子ではない。私の本当の両親は、もっと遠い所に居ます。貴方に息子扱いされる
謂
い
われは、」
「そうね。今の貴方にとって、私は母じゃないのでしょうね。いいえ、それ以前からずっと、母親らしい事ができていなかったのかもしれない」
自嘲気味に僅かに視線を落とした伝子は、「でも」と静かに続ける。
「
――
それなら、私は教師として、人生に於ける先輩として、ただの『山田伝子』として貴方に向き合うわ。
……
貴方と私は、たまたま縁があっただけの他人で、親子じゃない。それでも貴方の口から、貴方の話を聞かせて欲しいの」
凪いだ視線はあまりに重い覚悟があった。だから私は余計に躊躇ってしまう。
「あ、貴方は
――
どうしてそこまで
……
。実の息子でもない相手に
……
」
「伝子さんとお呼びっ!
――
なんてね。これでも私は教師ですもの。悩んでいる子を
放
ほう
っては置けないわよ。それが息子と同じ顔をしているなら、尚更ね」
戸惑う私を少し茶化すように、彼女はそう微笑んだ。
「
……
色々と、聞きたい事があるの。けれど、まずは確認させてちょうだい。
――
貴方は、私の息子じゃなくて、別の時代の記憶を持っている、別の人。私の息子とたまたま顔と名前が同じなだけの、全くの別人。
――
それで合ってる?」
「
…………
はい」
「その記憶は室町の時代のもので、貴方はそこに大切な人達が居るのね? そしてそこは、貴方にとって、本当に素晴らしい場所なのね?」
荒唐無稽な話だというのに、彼女は馬鹿にした風ではない。あくまでも真剣に、私に先を促そうとしている。
……
なるほど、彼女は単なる教師であるだけではなく、多感な年頃の生徒たちの相談役も兼ねているつもりらしい。
――
風流で取り入る術だ。内心で、私の冷ややかな部分がそう告げる。同じ趣味趣向の相手には、人はどうしたって口が軽くなる。だからこそ、
荒唐無稽
こうとうむけい
な話を信じたフリをしてこちらを油断させ、情報を聞き出そうとか上手く病院へ誘導しようとかそういう事を企んでいるのだ。
……
そういう忍術を知っていなければ、私は先を促す彼女の言葉に感涙を浮かべる事さえあったかもしれない。しかし私は元・プロ忍であり、その手口は知り尽くしている。だから適当にはぐらかしてしまう事も考えた。
……
けれど。どうせこの女は、私の事など思春期を迎えたばかりの子供だと思っているのだし、
嘗
かつ
て忍者だった頃の私の事など知りもしない。
……
なら、
……
何も知らない彼女になら、かえって告げても良いかもしれない。どうせ彼女は私を頭がおかしくなったと思っているに違いないのだ。なら、
……
私がずっと誰にも言えずにいた己の愚かしさを
吐露
とろ
した所で、これ以上失うものもない。寧ろ、相手の愚かさに呆れ、手に負えないと思ってくれた方が動きやすいかもしれない。
……
だから私は、かつての世界を語っても良いという誘惑に打ち勝てず、
促
うなが
されるままに話を続けた。
「
……
素晴らしい人々ばかりでした。大切な人ばかりでした。
……
この世界と違って争いと血に塗れた、平和とは程遠い場所でしたが
……
それでもあの世界は、かけがえのない人達が暮らす、私にとって大切な人達が暮らす、大切な場所です。だから私は、帰らなくてはならない。帰らなければならないんです。たとえその為に誰かの大切なものを焼き払うことになっても、
――
誰かを殺すことになっても、必ず」
私の言葉に、伝子は少し目を見開く。そして、
……
寂しそうな目で私に問うた。
「そう。
……
でも、それだけじゃ私の一番聞きたい事が聞けてないわ。
……
利吉。貴方にとって、その世界は本当に幸せな場所なの? 貴方は、その世界に居てちゃんと幸せになれるの?」
ぎょっとする。
……
彼女は、『私』の過去を知らない。『元の世界』の私の事を理解できるわけがない。だというのに彼女の言葉は、私の胸に突き刺さった。
――
私が最も考えたくなかった、考える事を放棄していた質問だった。
「
……
利吉。私はね、人が幸せになる為に赦される努力に、限界なんてないとも思うの。だから、貴方が本当に幸せになれるなら
――
勿論人が人を殺すなんて赦される事ではないし、それは親としても教師としても一人の人間としても止めなくちゃいけない事だけど
――
だから幸せを掴むための努力のやり方を間違えないように、相談に乗るつもりだけど
――
それ以外の事なら何だって協力するつもりよ。私の知らない世界の記憶があった方が幸せだというなら、それで良いとも思うわ。室町の世界にしか貴方の幸せが無いと言うなら、例えもう二度と貴方に会えなくても、笑って送り出す覚悟はできてるの。
……
けれど、今の貴方を見ているととてもそれが最善だとは思えない」
言葉を返そうとするが、喉が張り付いてしまって上手く言葉が出てこない。
――
水分を摂っていないから? そんなわけがない。
……
図星だったからだ。
「その世界に、大切な人が居ることは分かったわ。その人達の為に帰りたいというのも。
――
けれど、貴方自身の幸せは本当にその世界にあるの? 人を殺してまで帰って、誰かの人生を奪ってまで帰って、人としての道理を失ってまで、それで貴方はちゃんと幸せになれるの? その世界に、本当に貴方の居場所はあるの? 貴方は、胸を張ってその人達に会いにいけるの?」
「わた、し
……
は.
……
」
辛うじて紡いだ言葉は、殆ど言葉にならなかった。
――
分かっている。あの世界に戻った所で、そもそも私は私の愛する人々に合わせる顔などない。幸せになど、
……
なれるわけがない。
「
――
利吉。貴方のことを、きちんと教えてちょうだい。貴方の過去と、貴方の本当の想いが何処にあるのかを。
……
私も、貴方の力になる為に真剣に考えるから。
……
貴方自身のことを、どうか隠さずに教えて」
こちらを案じる眼差しに、私は耐えられず俯いた。
……
隠し通せるわけがなかった。それに、心の何処かできっと、全てを吐き出してしまいたい誘惑があった。
――
だから、私は彼女に語り出した。かつて私が生きた、
忍者
シノビ
の世界を。私が歩んだ、失態と地獄の数々を。
「
――
私は
――――
」
それは、私にとって墓まで持っていくべきだった恥部。同じ時代を知る滝夜叉丸にさえ話せなかった、絶対に隠すべき醜悪な過去。けれども、この世界は私にとって白昼夢も同じだから。目が覚めれば消えてしまう夢の世界の住人でしかないのだから。
…………
だから
……
私は初めて、本当の想いを話せる気がした。
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