夜明 奈央
2025-03-30 10:30:18
7101文字
Public 中太SS
 

キモオタ×レイヤー中太

ナナサキさんの描いた後方彼氏面中也とデンジャラスビースト太宰のFA
2025年3月24日〜30日まで連載


 #TAKE3 特別な衣装


 私はダザイというHNで活動しているコスプレイヤーだ。最近は専らえっちなコスプレばかりしている。元々は推しの格好をしたくて始めたコスプレだったが、年数を重ねるにつれて注目を集めることに快感を覚えるようになり、いつの間かこうなっていた。応援してくれる人たちのほとんどは私の身体目的みたいなものだが、私はえっちそのものも大好きである。だから、ちょっと声を掛ければほいほいホテルに着いてくるファン層は私にとって大変都合が良かった。
 中原中也も私のコスプレを好きだと言ってくれるうちの1人だ。日頃私を取り囲む人たちの中ではダントツで顔が良く、スタイルもファッションセンスも悪くない。身長が低いのだけが玉に瑕だが、総合的に見ればかなりの上玉。わざわざ2次元に熱を上げなくても、十分3次元の彼女を作れるタイプだ。何故レイヤーの追っかけなんてしているのかはさっぱりわからない。そういえばあの人、前回のイベントの時にも来てたな、と気づいたその日には声を掛け、ベッドインまで持ち込んだ。
 これが大変に良かった。相性が良かったのか単純に上手かったのかはわからないが、体験したことがない気持ち良さだった。ハジメテではなさそうだったし、たぶん上手かったのだろうと思う。童貞の初々しさとめんどくささが好きでオタクばかり食い漁っていた私だったが、やはり上手い人に抱かれた方がいいのかと考えを改める程だった。その割には1度寝ただけで彼氏面するような童貞のめんどくささはしっかりと持ち合わせていて、私はすっかり虜になってしまった。
 声を掛けた時にはお付き合いするつもりなんて全くなかったのに、彼氏面を止める気にもならない。なんなら心地いいとさえ思っている。中也とのえっちの虜だから、愛想を尽かされたくなくて他の男を食うのもすっかりやめてしまった。一般的には、これを交際中と呼ぶわけだ。
 付き合い始めてすぐに気がついたのだが、ファンと付き合うのは随分とストレスが少ない。コスプレ活動に理解があるのはもちろん、イベント参加や衣装の製作、体型維持にも積極的だ。一般人と付き合うより楽なのは容易に想像ができたが、身体だけのドライな関係よりも楽だとは予想外だった。何より一緒にイベントに参加して、お互い興奮醒めやらぬままにえっちに励むのが最高だった。こちらだけが昂っていて相手はいつも通り、というのはどうにも虚しい。
 そんな楽しいオタクライフを満喫していたのだが、今日のイベントはいつも通りでは終えられないようだった。どうにも中也の様子がおかしいのだ。慌ただしく撤収し、重い荷物を抱えて移動している間はそれどころではなかったが、自宅に着いてひと息吐いたところでようやく気がついた。
 いつも通り荷解きもそこそこにベッドに誘うが、いまいち気乗りしないようだ。
「どうしたの? 気分じゃない?」
「なんつーか、今日、一緒に撮ってた人のことで……
「咖喱さんのこと?」
「ああ。その、撮影とはいえくっつきすぎじゃねぇかと……
「そう? いつもと大差ないと思うけど……
 撮影時に他のレイヤーとくっついたり抱きついたりするのはいつものことだ。咖喱さんとの撮影もその範疇は超えていないはずだ。日頃の中也は、他のレイヤーとの絡みをむしろ眼福だとありがたがっていたように思うので、はて、と首を傾げる。
「ヤキモチ妬いたってこと?」
「そう、なる、のか……?」
 どうにも歯切れが悪いので、少しばかり揶揄ってみることにする。
「今までは全然妬いてくれなかったのに?」
「は、え、あれ、もしかして妬いてほしくて……!?」
「そんなことはないけど」
 私にとって、イベントは生きがいだ。それにあれこれと口出しされたくはないので、中也の物分かりの良さは大変ありがたい。けれど一方で、全く何も言われないのも恋人としては些か不満である。何故なら私は童貞のめんどくさいところを愛しているので。人間とは何ともめんどくさい生き物なのだ。
 けれど中也は、今日の咖喱さんとのあれこれに、初めてヤキモチを妬いたらしい。せっかく楽しんでいたところに水を差されたような気持ちになっていたが、あっさりと気分が浮上する。
「そっか、ちゅーやくんはああいうので妬くんだ」
 口元がにやけてしまうのを止められない。中也が居心地悪そうに顔を背けるが、そんなことで追求の手を緩めてやるつもりはない。
「何が嫌だったの? 咖喱さんが中也の知らない私を知ってること? 私と仲良しなこと? それとも男の格好してたからかな?」
 今までの撮影と違うところを次々と挙げていく。毎回嫉妬されるのはめんどくさいが、こうやって時折見せられる分には気分がいい。咖喱さんの復帰はそれだけで喜ばしい出来事だったが、おまけとしてこんなに楽しいイベントも連れてきてくれるとは、嬉しい誤算だ。
 中也はしばらく悩んで、「たぶん全部」と苦々しく告げた。
「そっか」
「あー、でも、だからって会うなとか撮るなとか言うつもりはねぇし」
「言われてもやめないけどね」
 それだけは譲れないので言い切ると、困ったような呆れたような顔を向けられる。それがなんだか面白くてくすくすと笑ってしまう。
「でもね」
 中也の耳に顔を寄せ、囁くように続ける。
「“今”の私を抱けるのは、中也だけだよ」
 中也の機嫌が少しばかり浮上したのを感じ取る。もうひと押しだ。
「私、中也のために今日の衣装のもっとえっちな奴用意してるんだけど、見たくない?」
 中也が驚いてまじまじと顔を覗き込んでくる。その目に乗っているギラギラとした欲を見逃す私ではない。
「中也のご希望通り、はみ出るくらい小さくした奴も作ってたんだよね」
 試作で作ってみたものだが、あっちもこっちも隠しきれていなくて、とてもじゃないが公の場で着れるものではなかった。中也は絶対に喜んでくれると思って、捨てずに置いておいたのだ。
「見たい」
 食い気味に返事をする中也の頬に小さくキスを落とす。
「じゃあ、いい子で待ってて」
 中也はまるで童貞みたいに頬を真っ赤に染めた。私を虜にしておいて、もう逃がしてなんてあげられない。


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