ゑ/圓堂
2025-03-27 00:13:26
5946文字
Public 管理NO3250本丸
 

【刀剣乱舞】さにごぜTwitterログ03【創作男審神者×一文字則宗】

Twitterに文庫ページメーカーで上げた小話まとめさにごぜ編。2024年~直近に上げたものをまとめました。
則宗実装三周年記念小話『残香』
ポッキープリッツの日小話『管理NO3250本丸、11月11日の午後。』
則宗実装四周年記念小話『愛を尊ぶ声』
の四本立てです。

【残香】

ひとときの熱の引いた室内に冬の夜の空気が忍び込む、深更の刻。
行燈型の電気スタンドが申し訳程度に照らす鼈甲色の、その部屋の中を音もなく一筋の煙が立ち昇る。その行く末をぼんやりと焦点の合わない双眸で見送りながら、男は指先の煙草に再び口を付けた。

——主よ、寒くないのか」

背後からやにわに声を掛けられて、男——主はうっすらと目線を背後に向けた。畳の上に敷かれた布団の中から俯せた頭が覗いているのが、視界の端に辛うじて見える。薄暗い空間の中でもなおきらきらと目映い金色の髪が瞳に沁みて、主は小さく目を瞬かせた。

「今日は言う程寒くないだろ。あんたが寒がりなだけだ」
「可愛げのない奴め、ひとが心配してやっているというのに」

じとりとした小言に主の口角は上がる。声音は不服に満ちていても所詮は睦言なのだ。
そんなに寒いならさっさと服を着ればいい——そう言って主が今度こそ身体ごと向き直ると、白けた眼で見上げる一文字則宗と目が合った。

「お前さんなぁ、野暮が過ぎるぞ。やることやったら終いか」
「人肌恋しいってんならもっと素直に誘えよ。——これ一本吸ってからな」

主は半分ほど燃え尽きた煙草を掲げて一文字則宗へとゆるく笑ってみせる。新しい年が始まって十数日、今年も煙草をやめるような事はあるまいと主は確信している。現世は年々禁煙の意識が高まるばかりだが、ここでは多少煙たがるものもいるものの、主の喫煙を咎めるものは誰もいない。
刀剣男士というものらがどれほど喫煙者の健康リスクについて理解しているかは定かではないが、決して身体に良いものではないという事くらいは解っている筈だ。それでも止めぬ背景は、言っても無駄だと思われているのか、それともやめさせた事によって生じるストレスの方がより不健康だと思われているのか。或いは元々刀剣という無機物である刀剣男士達からすれば、人間である主の寿命が少々縮んだところで些末なものなのかもしれない。主の見解は今のところそのような形で収まっている。
一応のところ、最も主の身を案じているであろう一文字則宗はというと、主の喫煙について苦言を呈した事は只の一度もない。今も枕を抱くように腕を組み、事後の一服に身を浸す主にとろりとした眼差しを送っている。愛しい者の寿命は少しでも長い方がいいと思ってはいるのだろうが、それとこれとは別のようだ。

「そう言えばな」

おもむろに口を開いた一文字則宗の声に、再び茫と紫煙の道標を目で追っていた主の意識は無意識の彼方から引き戻された。視線を移した拍子にたなびく煙が顔にかかり、瞳を刺激して思わず主の瞼が上下する。

「この間加州の坊主から『煙草臭い』と文句を言われた」
「俺のせいかよ」

特段責めるような口調でもないのに、一文字則宗の申し立てに主は少しばかり噛み付いた。主とてそのリアクションは本心からのものではない。一文字則宗との付き合いももうかれこれ三年目となるが、主が彼の前で素直になれぬのは相変わらずである。ここまで来ればきっとこの先もこのままで続いてゆくのだろう、と主は近頃常々思っている。この先があと何年続くのか、もしかしたら明日にはもう終わってしまうかもしれぬ。そうだとしても、だ。

「当然。いやしかし、僕も以前はそれなりに匂いを気にしていたものだったんだがなぁ。すっかり馴染んでしまった」
一文字則宗が恥ずかしげもなく惚気て、嫋やかに瞼を伏せる。主の背筋がそわり、と波立ち、胸の奥底が炙られるように熱くなる。
普段ならばもう少し味わうであろうほどに残った煙草を灰皿へと押し付けると、主はまだ気怠さの残る身体で立ち上がり、一文字則宗が被っている掛け布団を大仰に捲った。寒い寒いと騒ぎ立てる一文字則宗を仰向けにして覆い被さり、ぎゅうぎゅうと無遠慮にその身体を抱き締め、首筋に顔を押し付ける。
「いつまで経っても質が悪ぃな、あんたは」
「うはは、やめんか。髭が刺さる」
口で主を制しながらも、一文字則宗はその腕で主の身体を押し退ける事はしない。反対に主の背へと掌を這わせ、主と同様に力を込める。

少しの間ふざけるように戯れてから、どちらからともなく唇を触れ合わせた。主が僅かに上体を引いて一文字則宗の顔を真正面から覗くと、澄んだ純水のような瞳が溶けた氷のように揺らいでいる。
……お前さんも、大概だぞ」
「はは、じゃあお互い様だな」
紫煙の余韻が残る中、彼らは擽るように笑いながらもう一度情欲の熱の中に身を沈めた。