ゑ/圓堂
2025-03-26 23:22:31
8531文字
Public 管理NO3250本丸
 

【刀剣乱舞】さにごぜTwitterログ02【創作男審神者×一文字則宗】

pixivから移植
Twitterに文庫ページメーカーで上げた小話まとめさにごぜ編。2023年に上げたものをまとめました。
則宗実装二周年記念小話『こひしたまもの』
審神者の日記念小話『INFORMAL』
眼鏡珈琲ネクタイの日小話『Heart is Sweet or Bitter?』
sirronさんへのうちよそ小話『Saliti!』
の四本立てです。
大好きなsirronさん(https://x.com/sirron0122)のお宅の創作男審神者・佐山先生と日本号のCPお貸しいただきありがとうございました!
sirronさんちの佐山先生が大好きで大好きで……今度はちゃんと主くんとがっつり絡む話が書きたいですね。


【Heart is Sweet or Bitter?】

その日畑当番であった一文字則宗が収穫物を厨へと運んでくると、その時間にしては珍しくがらんとしたそこに、この本丸の主である男が唯一人きりであった。調理台に凭れ掛かり、手には普段から愛用している私物のマグカップを握っている。

「お前さん、何だその恰好は」

一文字則宗は彼の姿を一目見るなり思わずそう口走った。開襟シャツにスラックスという出で立ちは普段着と相違ない風ではあるが、よくよく見ると全てに皺がなく、シャツもいつもに比べて白が際立っている気さえした。この主においてはそれさえもがイレギュラーなのである。更には首に織柄の入ったネクタイまで締めており、確実に普段着の装いではなかった。

「政府から呼び出しが入った。あー、行きたくねぇ」

一文字則宗の指摘を受けて改めて自身のこれからの予定を思い出させられたのか、主は天を仰いで愚痴を零した。一文字則宗が彼の傍へと遠慮なく近寄ると、ふわりと深く香ばしいような香りが鼻先に触れる。どうやら出かける前のコーヒーブレイクと洒落込んでいたらしい。

「その割には悠長にしているではないか。『先輩』とやらにどやされるんじゃないのか?」

『先輩』とは文字通り主の高校の先輩であり、同じ軽音部でバンドを組んでいた仲であり、そして今は主の直属の上司でもある女性である。一文字則宗は一度だけ時の政府の集会で見かけた彼女の、とても公務員とは思えない派手な容姿と男勝りな口調を瞼の裏にひっそりと思い出す。

「ああ、それは問題ねぇ。あの人だってクソめんどくせぇっつって、待たしときゃいいからゆっくり来いって言ってたからな」

だから久々に豆挽いてドリップで淹れてやった――主はシニカルな笑みを唇の端に浮かべて一文字則宗を見下ろした。その表情は一文字則宗の眼球から脳や心に到達すると同時に、どこかあの女上司を彷彿とさせるような心地にさせた。

(妬いている、とは、ちと違う)

一文字則宗は己以外存在する筈のない胸の内にそう語りかけた。一文字則宗と主が所謂恋仲であっても、主と旧知の仲の異性に対して嫉妬心を煽られるほど、彼の刃格は青臭いものではない。ただ、主と彼女には一文字則宗の知りえない過去が確かに存在する。また、主と同じ『人間』という立場に属する彼女だけが共有する権利を持つものも少なくはない。それは一文字則宗には決して手に入らないものであって、だからこそ、ほんの少しばかり彼は寂寞の思いに駆られずにはいられないのだ。



「コーヒー、余ってるけど飲むか?」

主の申し出に一文字則宗は束の間の現実逃避から引き戻された。

「牛乳と砂糖入れりゃ飲むだろあんた」
「それなら、もらうとするか」

主の微笑に些か子供扱いをされたような気分になり、一文字則宗は敢えて素っ気なく振る舞う。それこそが子供じみているのだ――ということは、彼自身が最も痛感している。
主が冷蔵庫から紙パックの牛乳を取り出して、せっせとカフェオレを作る後ろ姿を物珍しい気持ちで眺めながら――彼が厨で調理のような作業をする姿など年に一度でも珍しいのである――一文字則宗はふと自身の内番服のポケットに入れたままになっていたものの存在を思い出した。取り出して、壊したりなどしていないことを確認してから主の背後へとそろりと忍び寄る。

「主よ」
「ん?、ちょ、何……
……ほう」

作法の分からぬ一文字則宗に無理矢理に眼鏡をかけさせられた主は困惑した顔で、しかし手には砂糖の詰まった瓶を抱えていたため抵抗も出来ずにされるがままとなっている。一方、やった側の一文字則宗も初めて目にする主の眼鏡姿にただ腕を組み、何とも形容し難い表情を作ってその顔を眺めるばかりであった。

……何であんたがこんなもん持ってんだ」
「加州の坊主のおさがりだ。現世任務での変装用だと」
「使うことあんのかよ?あんたの見た目じゃ眼鏡かけたところで意味ねぇだろ」

主は呆れ顔で応酬しながら、それでもそのまま眼鏡を鼻の頭に乗せたまま牛乳と砂糖を混ぜたコーヒーのカップを電子レンジへと閉じ込めた。ピ、ピ、という電子音の後、低く唸る機械音が一文字則宗の鼓膜を震わせる。

「解っとらんなぁ。お前さん、変装というのは気の持ちようからが肝要なんだぞ」
「何だよそのもっともらしいような詭弁は」
「うはは、言ってみただけだ。——だが」

一文字則宗は乾いた笑いの後、自ら装備させた筈の主の顔の眼鏡を再びひょいと奪い取った。ピー、と無機質な音が響いて、カフェオレが温まったことを主張する。一文字則宗は回収した眼鏡を自身の顔へと装着しながら、電子レンジの扉を開けてカップを取り出した。やや熱いくらいであったが、好みの温度であった。

「お前さんには過ぎたるものだな」
「あ?どういう意味だよそれ」
「さあなぁ」

怪訝な顔でもの言いたげに一文字則宗を睥睨する主に背を向けて、一文字則宗はカフェオレを啜った。ふわ、と度のないレンズ越しの視界が白く滲む。文句のつけようがないほど好みの味に調えられたそれは、今の一文字則宗にとっては一層憎らしい。


(どのような格好をさせても男前が過ぎるなど、今は言ってやるものか)

(あのような姿、誰であっても見せてやるものか)


一文字則宗は胸中に甘い独占欲を抱えながら主に背を向け、目は大事にしろよ、とだけ声を掛けて厨を後にした。