ゑ/圓堂
2025-03-26 23:22:31
8531文字
Public 管理NO3250本丸
 

【刀剣乱舞】さにごぜTwitterログ02【創作男審神者×一文字則宗】

pixivから移植
Twitterに文庫ページメーカーで上げた小話まとめさにごぜ編。2023年に上げたものをまとめました。
則宗実装二周年記念小話『こひしたまもの』
審神者の日記念小話『INFORMAL』
眼鏡珈琲ネクタイの日小話『Heart is Sweet or Bitter?』
sirronさんへのうちよそ小話『Saliti!』
の四本立てです。
大好きなsirronさん(https://x.com/sirron0122)のお宅の創作男審神者・佐山先生と日本号のCPお貸しいただきありがとうございました!
sirronさんちの佐山先生が大好きで大好きで……今度はちゃんと主くんとがっつり絡む話が書きたいですね。


【INFORMAL】

「ほう、政府にか」
「ああ、今年は則宗殿に同行をお願いしたいんだ」
「あまり気は進まんがなぁ」
「そうだろうね。でも、面白いものが見れるから」
「面白いもの?」

そう、面白いよ、と言う蜂須賀虎徹の意味深な笑いを思い出す。そのように勿体ぶられると、好奇心の方が面倒さを上回ってしまうのが、この一文字則宗の性分であった。

それが数日前の出来事で、今日はその“同行”の当日である。
すっかりと身支度を終えた一文字則宗は、広大な本丸の敷地内を、自室から主の執務室のある母屋へと向かっていた。一文字則宗がこの本丸にやってきて、初めて迎える春。様々な鳥達の囀りが自由気ままに重なり合い、一層賑やかなほどである。抜けるような青空の果てが白く霞み、どこまでものどかな陽射しが、平和な空気を本丸中に振りまいている。

このような日和であるのならば、やはり断ればよかったかもしれぬ――一文字則宗は少しばかり後悔する。それというのも、今日の彼の任務は『時の政府による審神者全体集会へ参加する主の同伴』なのだ。先だって目を通した案内によると、政府内で年に一度、現在展開している本丸の全審神者を招集し、年初の挨拶や評議なんかを行った後、親睦会と称した食事会まで行われるらしい。
一文字則宗はこの本丸の刀剣男士となる前、政府直属の“監査官”という立場にあった。政府内で顕現してからそう経たないうちにこの本丸の所属となったため、特に語るほどの思い出もない。ただひと時も居心地の良くない場所であった――それが一文字則宗が得た、時の政府の印象だ。

そういった事情があるため、『面白いもの』への期待を胸に抱きながらも、無意識に零れる溜息を抑えることが出来ない。自身と主の関係を鑑みての、蜂須賀虎徹の計らいなのだという事は一文字則宗も察知していたが、今回ばかりは素直に喜ぶ訳にはいかぬ。

「おや、見慣れない顔だね。どちら様かな?」
「にっかり、お前それ毎年やる気か?」
「これはこれは。お客人ならば主を呼んで参らねば」
「おい数珠丸、にっかりに感化されてんじゃねぇ」

耳馴染んだ声に、一文字則宗が気付けば地に伏せていた視線を上げた。
既に母屋は眼前に迫っており、庭に面した廊下に声の主達はいた。
そして、蜂須賀虎徹が言っていた『面白いもの』の意味を、一文字則宗は理解する事となった。

「その声主か?」
「ッフフ、則宗殿は初めてだものねぇ」
「本気で驚かれるのも、それはそれで複雑だな

にっかり青江が機嫌のいい声音で反応する。その隣で、一文字則宗に朝の挨拶を投げかける数珠丸恒次も、目に見えて口角が上がっている。その向かいに立っている男は、声こそ耳馴染んだこの本丸の主のものであったが、一文字則宗の脳裏の記憶とはまるっきり別人の姿で渋面を作っていた。
この本丸の主といえば、よれよれの開襟シャツとスラックスという服装が目印だ。ところが、今目の前にいる男は一分の隙もなく、軍服のような洋装に身を包んでいる。普段は適当に襟足で纏められた伸ばしっぱなしの髪も、やや無造作ながらも後ろに撫でつけて整えられている。下顎に常駐している無精髭も見当たらない。とはいえ、もう既に見慣れた筈の顔である。いくら見慣れぬ装いだからといっても、こうも顔立ちさえ変わって見えるものか、と一文字則宗は、驚嘆の眼差しを主に向けながら胸の内で呟いた。

それから本丸を出るまで主は、出会う刀剣男士から口々ににっかり青江達と同じような台詞を吐かれては、同じような返答を繰り返していた。合間に、毎年これなんだ、とややうんざりしたような色を滲ませて、一文字則宗に零した。すっかり毎年恒例のネタにされているらしい。無理もない、と一文字則宗はあしらう。

「お前さん、そんな恰好が出来るなら、普段からちゃんとすればいいものを。折角の男振りが勿体ないぞ」
「毎日こんな事やってられっか、年一でも面倒臭ぇってのに」

早く帰りてぇ、と、本丸からまだ出てもいないうちから零す主に、一文字則宗は快活に笑ってみせた。

――

朝の割合早い時間から出たにもかかわらず、主と一文字則宗が本丸へと帰ってきたのは、すっかり夜の帳も下りきった時分であった。既に本丸内は夕食も済み、大浴場から賑やかな気配が漂っている。
近侍の蜂須賀虎徹が出迎えに現れたのをきっかけに、一文字則宗は主と別れて自室へと戻った。戦装束を解き、一旦内番着に着替える。そして風呂に入ろうかと思い立ち、すぐにやめた。今向かえば間違いなく今日の話で捕まってしまう。政府での主の一挙手一投足を、面白おかしく話す事は不可能ではない。しかし場所が場所であっただけに、一文字則宗も少々疲弊していた。
微かに聞こえる母屋の賑わいを鼓膜に感じながら、一文字則宗は畳の上に仰向けに転がる。顕現した時から着用していたとはいえ、戦装束は少々肩が凝る、と頭の中で愚痴る。ましてや今日は出陣ではなく、主の傍らに立ち、話しかけられれば適当な相槌を打ち、愛想のいい笑みを振りまかなければならぬ。それが一文字則宗にとっては窮屈な事この上なかった。
主の、普段からは想像もつかぬ余所行きの顔を見れたのは愉快であったが、この一度きりでもう充分だ、と一文字則宗は思った。同じ戦装束を着るのならば、出陣や演練や遠征の方が余程気が楽だ、と。更に言うと、まだ内番でもしている方がいい。

(結局、僕もあの男と同じ穴の狢という訳か)

そう思い至り、一文字則宗は小さく笑う。
それから少しして、自室の障子戸がこつこつと叩かれる音に、一文字則宗は重い身体をのんびりと起こした。

「おい、今いいか?」
「何だ、もう蜂須賀の報告は済んだか?」
「ああ」

開いた障子戸の先に立っていたのは、すっかり見慣れた怠惰な服装に切り替わった主であった。よれよれの開襟シャツに、同じく草臥れたスラックス。整えた髪もすっかり乱され、相変わらずのおざなりに束ねている。前髪に残る整髪料の残滓だけが、僅かに非日常を演出していた。早速一服点けたらしく、緩やかな夜風に乗って、紫煙の残り香が一文字則宗の鼻を擽る。流石に髭はまだないが、数日もしないうちに元通りになるのだろうという確信が、一文字則宗にはあった。

「今日の晩飯まだ残ってるってよ。あんたあんまり食ってなかっただろ」
「ああ、頂くとしよう。お前さんとて大して食う暇もなかったんじゃないか?」
「だから誘いに来た」

そう言いながら、しかし主は障子戸を後ろ手で閉めると、そのまま流れるように一文字則宗のもとへと足を運んだ。そして眼前で膝立ちになり、薙ぎ倒すように一文字則宗へと覆い被さる。

「あー疲れた」
「全くだ。もう僕は行かんぞ」
「畜生、俺だって行きたくねぇ」

一文字則宗は、幼子をあやすように主の背を撫でた。
まだ肌寒い春の夜の空気に、体温が心地好い。
初めて知った、香水を纏う彼の匂いが、疎ましくも甘美であった。

やはりお前さんは、少々小汚いくらいが性に合っているな」
「何だそれ、全然褒めてねぇじゃねぇか」

些か拗ねたような主の言葉に、一文字則宗は今度こそ心から快活に笑った。