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かいえ
2025-03-17 22:14:16
15913文字
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【灰武】続灰谷村
「灰谷村」
https://privatter.me/page/67d6d893ac3f4
の続編
人外灰谷兄弟×人間武道
15,902文字
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第七幕
「今度の新月も儀式はされないんだって」
離れから本館に向かう渡り廊下を歩いて来た竜胆は、女性の話し声が耳に入り足を止めた。それは、本館に入って中庭に差し掛かる手前のところで、女性二人の後ろ姿が目に入る。気にせずそのまま進むという選択をせず、二人から見えない位置で立ち止まったのは、聴こえてきた言葉の端々に、自分たちへの不満が滲み出ている気がしたからだ。
「聞いた、聞いた、そうなんだってね。さやちゃんが『次はうちかもって』って思っていたみたいで、それを聞いて酷くがっかりしててさ、なんか、見ていて可哀想になっちゃった」
もう一人の別の女が話す声が聞こえた。どうやら、中庭の掃除をしながら、女たちが無駄話をしているようだ。話している内容から、竜胆はますます姿を現しにくくなった。
「私たちは授けて貰えたから良いけれど、まだの家と顔を合すとさ、正直しんどいよね。物欲しそうに、じっとうちの子を見てきたりしてさ」
「分かる。視線が痛いよね。掛ける言葉も見つからないしさ。でも、子供のことは私たちではどうにもできないじゃない? ××さまのお気持ち次第なんだもの」
「本当にそうよね。こっちを妬むのはお門違いだよ」
「でも、以前の絶望的な感じの時よりいいよね。だって、今度の×××さまはちゃんと身籠られるし。今までの役立たずたちと比べたら、×××さまさまだよ」
「分かる。儀式の翌日の閨を見るのが、いつも怖かったもの。それがないだけでも、めちゃくちゃ助かる」
「苦痛に歪んでる死に顔を見るのキツイよね。役立たずが死んでるだけなんだけどさ」
「今度の×××さまは、健康そうだし、明るいから助かるよね」
「あとは、もう少し儀式を頻繁に行ってくれたら良いのにね。あんなにも仲睦まじいんだもの」
「それね。なんでこんなにもゆっくり儀式をされるのかしらね」
「仲が良過ぎて×××さまに遠慮しているって話よ。×××さまの身体の負担がどうとか」
「今の×××さまが駄目になったら、次の×××さまを見つけて来れば良いだけなのに」
「本当にそれ。仲が良過ぎっていうのも考えものだよ。身体の負担とか言いながら、無駄な種付けばっかりしてるのってどうなの? って、思うよね。村の存亡の危機だっていうのに××さまは何とも思わないのかしら」
「ほんと、ほんと」
好き勝手言い放つ女たちの会話を聞いた竜胆は、苦虫を潰したみたいな顔になっていた。兄の蘭に呼ばれて本館にやって来たのだけれど、女たちの言い草にほとほと嫌になり、竜胆は回れ右をして離れに戻る事にした。
つくづく人間とは欲深い生き物だと思いながら足早に渡り廊下を戻って行く。ちゃんとした×××を竜胆が見つけて連れ帰った事で、村人が竜胆を見る目が緩やかになったことは確かだったが、××の世界から戻ってからの年月のほとんどを憎悪に晒されていたことを、竜胆は簡単に忘れることが出来なかった。そして、今度はバカみたいに子を欲しがる村人たちに腹を立てていた。儀式の回数まで指図してこようとしていることが癪に触る。
しかも、武道が使い物にならなくになったら、次の×××を見つけてこれば良いとまで言ったのだ。使い物という表現には、鈍器で頭を殴られたような衝撃があった。
あの瞬間、竜胆は頭に血が上っていた。女たちにどうしようもなく殺意が沸いて、飛び出して行って、二人の首の骨を一度に折ってやろうかという衝動に駆られたほどだ。
我慢したのは、兄である蘭を想ってのことだった。蘭がこんなにも低俗な村人のことを、必死に守ろうとしているのを竜胆は知っていたからだ。
とはいえ、どうしてこんな村人の言葉に、蘭が耳を傾けているのか竜胆には理解できなかった。蘭も武道のことを竜胆と同じように愛でてはいたが、竜胆みたいに武道だけいればよいと思っていないのは、明白だった。それは×××に子を産ますのは年に一人という通例を破って、年に二人産まそうとしているところからも推察できる。武道の身の安全より、村の存続を蘭は優先しているように、竜胆の目には映った。
蘭と竜胆の父である先代が、一人も子を作らず亡くなってから二十年という月日が経ち、この村が消滅の危機に瀕しているからこその判断だとは分かっているが、正直、竜胆はこの村が存続しようが消滅しようがどうでも良かった。それよりも、武道が無茶な計画で体調を崩しはしないかと、そればかりを心配していた。竜胆にしてみれば、村人よりも武道の方が遥かに大切だったし、どちらか一方を取れというなら、竜胆は迷うことなく武道を選んだ。
蘭はいつも、自分たちは二人で××なんだと竜胆に言い聞かせてきたが、そういうところが、自分は××ではないのではないかと、竜胆が思ってしまうところだった。本物の××なら言われなくても××である筈だと分かるのではないかと思うのだ。そして、竜胆は蘭のように村人に対して愛情を持つことが出来なかった。
離れに戻ると、少しだけ気持ちが落ち着いた。この離れの中に武道がいるのだと思うだけで、竜胆は満ち足りた気持ちになるのだ。だから、この苛々とした気持ちを武道には見せたくなくて、竜胆は離れの入り口で立ち止まり、口角が自然と上がるようになるまで、深呼吸を何度かした。
ともかく武道の顔を見たくなって、竜胆は武道を探すことにした。武道は儀式の時以外は離れにいたし、屋敷の外には出ることがないので、探すと言っても、その場所は限られている。そういう次第で、武道は直ぐに見つかった。
武道は陽の当たる縁側に座って、庭に立っている男の子と何やら話しているところだった。その男の子は、武道が生んだ二人目の子で、もう5歳になっていた。いつの間にか、一人で武道のところに来れるくらいには成長したのだと竜胆は思った。
男の子は、蘭にも竜胆にも武道にも似ていない。不思議なことに、ちゃんと授かり先の、血の繋がらない両親の特徴が混ざった顔立ちをしている。仕組みは分からないが、この村ではそうなることが理だった。人間の世界で考えれば、蘭と竜胆は男の子の父であり、武道は母になる。人間である武道が、男の子に対してどのように感じているかは竜胆には分からないが、竜胆には自分が男の子の父だという感情はまるで無かった。それでも、武道が男の子の頭を撫で可愛がっている様子は、傍目から見ても幸福そうで、苛ついてむしゃくしゃしていた竜胆の心を温かいもので優しく満たしてくれた。武道が幸せそうにさえしていれば、それは竜胆にとっても幸せなことなのだ。
竜胆の視線の先で、武道は花が綻ぶ様にふっと微笑んだ。武道にそんな表情をさせるとは、男の子は一体何の話をしているのだろうかと気になり、竜胆は武道の背後からそっと二人に近寄った。
「ねぇ、×××さま、いつになったら、僕の弟か妹を下さるの? 僕ね、待ちきれないんだよ?」
男の子は屈託のない笑みを浮かべて、強請るように武道に言い、武道は困ったように「えっと
…
それは
…
」と口ごもりながらも笑っていた。
自分が幸福そうに見えた情景が、本館の中庭で聞いてしまった女たちの欲深い話と同じだったことに、竜胆は静かにショックを受けていた。しかも、あの女たちの会話よりも、こちらの方が何倍も質が悪い。この男の子の親は、二人目の子を授かりたくて、男の子を使ってせがみにきたのだから。それも、蘭や竜胆ではなく、武道のところに来させたという事実が、竜胆にはより罪深く感じられた。村にはまだ一人目の子を授かれていない夫婦がいるというのに、二人目を望むなんて、本当にどうにもならないくらい欲深いやつらだと、竜胆は怒りが沸々と込み上げてくる。
「帰れ」
突然現れた竜胆の冷たい声に、男の子はびっくりして固まった。恐る恐る竜胆を見上げて、その形相にみるみる蒼ざめていく。
「竜胆君? どうしたんですか、そんなに怖い顔をして」
「いいから帰れって言ってんだろ!」
男の子は「すみません××様!」と言って、脱兎の如く走り去った。
「竜胆君どうしたの? あの子、泣きそうになっていましたよ?」
武道は男の子が走り去った方向を心配そうに見ながらそう言った。
武道は優しい。
自分たちを受け入れていることもだけれど、あんな最低な村人たちに対しても優しいのだ。自分たちにだけ優しくすれば良いのにと思い、竜胆は余計に苛立った。
「イイんだよ。武道はあんな奴のことを心配しなくて、イイんだって」
竜胆は武道の腕を掴んだ。武道に立ち上がるように促して、すぐそばの自室に武道を連れ込む。
「竜胆君?」
武道の非難めいた声を聞きたくなくて、竜胆は武道の唇を強引に塞いだ。「んっ」と、武道の口から甘い声が零れると、竜胆はそれだけでぞくぞくとしていた。そして、与えられた柔らかな唇は竜胆を捉えて、直ぐに離す気も無くなる。
武道の唇を何度か優しく吸って、角度を変えては自分の唇を押し付ける。少し開いた隙間から舌を差し入れ、舌と舌をぬるりと絡ませると、息をする事も出来ないくらい深く武道の口内を貪った。武道が素直に竜胆に身を任せていたから、竜胆はキスしたまま、武道をベッドの上にそっと押し倒した。
「昨日も
…
しましたよ?」
唇が離れた途端、武道が恥ずかしそうに抗議したが、竜胆は「それが?」と返して、もう一度唇を塞いでしまった。
武道が抵抗することなく、自らの舌を竜胆の舌にすり合わせて来たから、ようやく殺気立った気持ちが治まってくるのを竜胆は感じていた。それくらい、武道は竜胆にはなくてはならない存在であり、大切なものだった。
糸を引きながら唇を離す頃には、武道は瞼を閉じ恍惚の表情を浮かべていた。酸欠になった肺に必死に空気を送り込んでいる武道が愛おしくて堪らなくなる。竜胆は武道の服を捲り上げて、その素肌を眼前に晒した。ほとんど室内で過ごしている武道の肌は青白いくらい白い。誘われるようにその肌へ舌を這わすと、「あっ
…
」と甘い吐息が漏れて、竜胆を益々昂らせていく。荒々しくスウェットの下履きと下着を脱がすと、後孔に既に勃っている性器を押し当てる。昨夜の余韻が残るそこは、性急な求めであるのに、すんなりと竜胆受け入れた。「んっ」と武道が声にならない声を発したが、そこに痛みなどは含まれていなくて、竜胆は武道の両腰を掴んでぐっと己を奥の方へ進める。武道の腰骨が手の平に当たり、元より太い方ではなかったが、より細くなった気がして心細くなった。先々月に生んだばかりなのだから、体形が元に戻っていないのも当たり前なのかもしれないが、それでも、瘦せ衰えているように思えてしまい、切なさと愛おしさが竜胆の内に溢れ出した。
「タケミチ、好き」
「オレも好きですよ」
武道は囁くように言った後、竜胆の首に腕を巻き付け、ぎゅっと抱き着いてきた。どうにも堪らない気持ちになって、竜胆も武道の背中に腕を回し、どこにも隙間が出来ないように抱き寄せた。
障子から漏れる陽の光の中で武道と交じり合いながら、蘭との約束をすっぽかしてしまったことを思い出した。後で蘭に知られたらかなり怒られるかもしれないと思ったが、武道を抱くのを止めることなど出来なかった。
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