Hizuki
2025-03-13 22:42:48
6910文字
Public あんスタ[零薫他]
 

Oblivion

【あんスタ】零薫。とある記憶がない薫の話。アイドルをしているものの、別世界観でのパロ話なので、P.1に簡単な説明あります。やや暗め。何でも大丈夫な方向けかも。覚えていたくても、忘れられたくなくても。




一糸纏わぬ姿のまま、ベッドの上で互いの熱を触れ合わせるのは、もう一度や二度のことではない。一度呼吸を落ち着かせた頃、隣にいる薫くんから腕が伸ばされた。

「どうしたんじゃ?」

横たわったまま背に腕を回し、顔を隠すように胸元に押し付けられる。空いている自分の手で、さらさらと触り心地の良い金色の髪を撫でた。ここにいるのは自分と薫くんの2人だけ。静かな部屋の中では声だけではなく、呼吸も聞こえる。すぅ、と息を吸う音が耳に届いた。

痛かったらさ、覚えていられるのかな」

小さな声だった。確認するような、問いかけるようなトーン。何を、と聞き返すまでもなかった。覚えているものなんて一つしかない。

「俺のこと噛んでよ、零くん。消えない傷になるくらい」

撫でていた手を思わず止める。薫くんが口にした願い事を頭の中で繰り返して、視線を彼の方に向けた。自身が生まれた一族に由来する行為を、薫くんは望んでいる。

「消えない傷になったら、ずっと痛かったら、覚えていられるかもしれないじゃん」
「薫くん

誰が何をしようとも、消える記憶に抗うことはできない。それがこの世界の理で、吸血鬼だろうが、戦果を挙げた軍人だろうが、例外はない。

「零くんのこと、絶対忘れたくないだから

薫くんの声は弱く、震えていた。今日の夕方の話と繋がって、その先が自分に向いたことだけは分かる。忘れたくない、という気持ちはもちろん自分にだってある。叶わないと分かっていても、願いたい心は。

「とはいえ、おぬしの綺麗な肌に傷を付けてしまうのは、のう

例え、傷を付けたところで人間の身体はいずれ治癒する。自分が噛んだ程度の痛みは一瞬のことで、傷もすぐに消えてしまう。それに、薫くんの肌に傷を付けること自体に抵抗があることも、首を縦に振れない理由の一つで。

散々これ付けといてどの口が言うの」

押し付けていた顔を少し離すと、灰がかった茶色の瞳は恨みがましそうに軽くこちらを睨んだ。薫くんの白い肌のあちこちには紅い跡が散っている。当然それを付けたのは自分自身で。表舞台に立つこともある以上、ちゃんと衣装で隠れる場所を選んでいるつもりだ。

「それはそれ、これはこれ、じゃ」
屁理屈」

聞こえたやや不満そうな声からは、さっきの切羽詰まった様子は薄れていた。はぁ、と息を吐く音が聞こえたかと思うと、もう一度額を胸元に押し付けてくる。

大丈夫じゃよ。我輩は薫くんの側におる」

こちらからも腕を回し、より肌を触れ合わせた。触れた場所から伝わってくる熱が薫くんがそこにいることを伝えてくる。

「もしもの時は一緒にじゃ。決して薫くんを独りにはせぬ」
うん、そうして」

更に足を絡めると、薫くんも頷いた。自分達とて常に安全な障壁の内側にいるわけではない。戦場への同行もある以上、不慮の事態だって十分に有り得る。『UNDEAD』不死の名を冠する自分達は、その名にあやかりたいと声がかかることも多い。
考えたくないことではあるが、残されるのは自分の方になるのかもしれない。
もし、そうなったら、この熱も、共に過ごした思い出も全て消えてしまう。薫くんだってさっきの自身の約束が絶対ではないことは理解しているだろう。そのうえで頷いてくれている。それでも今は、あの言葉を薫くんに誓いたかった。

愛しておるよ」

そう耳元で告げると、柔らかい首筋に緩く噛み付いた。痛みに耐えるような、息を吞む音が聞こえた。そのうちに消えてしまうけれど、今は薫くんの望むままに。